壬生村・住民大競争会
秋晴れの京都、壬生村。
澄みきった青空の下、壬生寺の境内には、いつになく大勢の村人が集まっていた。
今日は年に一度の「壬生村住民大競争会」。
もちろん、新選組も参加する。
「では、皆さん。こちらの阿弥陀くじを引いてください!」
世話役の声に、隊士たちも村人たちも一斉に紙を引く。
「白組!」
近藤勇が紙を高々と掲げた。
「土方、お前は?」
「……白だ」
「よし! 白組の勝利は決まったも同然だな!」
「競技も始まってねえのに、勝手に決めるな」
その向かいでは、
「私は赤ですね」
伊東甲子太郎が笑った。
「私も赤です」
山南敬助も頷く。
こうして、近藤・土方は白組。
伊東・山南は赤組。
村人たちも赤白に分かれた。
「はーい、みんな。昼のおにぎりですよ」
沖田総司と島田が、ネコグルマを押してやってきた。
「賄い方のみなさん、早朝から頑張ってくれました」
「おお、ありがてえ!」
原田が駆け寄る。
沖田が胸を張った。
「もちろん、具は勝つ武士でーす」
「腹が減っては戦はできませんからね」
山南が笑った。
「戦じゃねえ」
土方が即座に突っ込む。
そんな中――
「第一種目! 赤ちゃんハイハイ競争!」
「…………」
新選組一同が固まった。
ござの上には、赤組・白組の赤ちゃんたち。
その先には、お母さんたちが待っている。
「先生、赤ちゃんを泣かせないようにしてくださいね!」
沖田が、近藤にそっと耳打ちした。
「任せろ。俺は子供に好かれる男だ」
近藤が自信満々に答え、母親たちの真後ろの応援席にしゃがみこんだ。
「ほらほら、こちらへおいで。怖くないぞ」
「……うぇ」
「あっ」
近藤の顔が凍った。
「泣くな、泣くな。ほら、べろべろばあ!」
「やめろ」
土方が横から言った。
「局長、顔がこわい。少し隠せ」
「何だと? 俺ほど親しみやすい顔はないぞ!」
近藤が眉を下げ、口元をぎこちなく緩める。
「うええええん!」
「悪化した!」
「すまん!」
近藤は本気で落ち込んだ。
その隣では、土方が紙風船を取り出していた。
ぽん。
赤ちゃんの目が紙風船を追う。
「ほら。焦らなくていい」
土方がゆっくり転がす。
赤ちゃんが少しずつ前へ進む。
「そうだ。その調子だ」
ところが、土方の顔が近づいた瞬間。
「うわあああん!」
「……しまった」
「歳、おまえの顔も怖いんだろうな」
「局長にだけは言われたくねえ!」
一方、伊東も近藤同様、母親の真後ろで、
「お嬢さん、頑張って」
と声を張り上げる。
志士を虜にする伊東のカリスマ笑顔だが、やはり赤ん坊には通じない。
「伊東先生、ここはお母さんの邪魔をしないことです」
山南にたしなめられていた。
母親の優しい声に誘われ、赤ちゃんがゆっくり前へ進む。
「おお!」
「赤組、進んだ!」
伊東も感心したように頷いた。
やがて――
赤組と白組の赤ちゃんが、ほとんど同時にゴールした。
「同着!」
大きな拍手が起こる。
そして――
「第二種目! ご長寿かけっこ!」
「ご長寿……?」
「近藤先生も、どうですか?」
山南が言った。
「おい」
土方がすぐに振り向いた。
「局長はまだ三十一だぞ」
「俺を老人扱いするな!」
前へ出てきたのは、壬生村のお年寄りたち。
みな六十を超えているが、背筋はぴんとしている。
「……局長より若々しいんじゃねえか」
土方がぼそりと言った。
「歳!」
競技が始まる。
六十代。
七十代。
そして、だんだんと年齢が上がっていく。
八十を越えた為介さんと重吉さんの勝負になると、会場は大盛り上がり。
「為介さん、いけー!」
「重吉さん、負けるなー!」
二人とも全力で、ゆったりと走っている。
その一歩一歩に、気迫がこもっている。
やがて、ほとんど同時にゴール。
「同着!」
大きな拍手が起こった。
そして女性ご長寿の部。
九十三歳のおつねさんと、九十五歳のすえさん。
二人は顔を見合わせ、
そろり。
そろり。
ゆっくりとゴールを目指す。
「がんばれー!」
「おつねさん!」
「すえさん!」
境内が温かな声援に包まれる。
途中で、おつねさんの足がふらりと揺れた。
「あっ」
原田左之助が、さっと駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
「まあ……」
原田はおつねさんを支えた。
「ゆっくり行きましょう。俺がついてますから」
少し先では、すえさんも心配そうに足を止めていた。
永倉新八が、さっと、すえさんに駆け寄る。
若い男に支えられながら、二人はゆっくり進む。
「まあ……壬生浪のお兄さん、イケメンだねえ」
「おねえさんも綺麗ですよ」
原田が笑い、おつねさんを極楽へ連れていく。
近藤は二人を見つめた。
「俺たちも、ああいうふうに元気に年を取りたいものだな」
「……まだ三十一だ」
沖田が笑った。
「近藤先生なら、九十になっても元気に走っていますよ。きっと」
「おお! そうだな!」
近藤は嬉しそうに頷く。
「九十になったら、今度こそご長寿かけっこに出るぞ!」
「では、私は百歳を目指しましょう」
伊東が、しれっと加わる。
その後も競技は続いた。
ちびっこ玉入れでは、新選組隊士が籠を背負わされ、
「もっと低く!」
と子どもたちに言われ、
「これ以上か!」
と、近藤も土方も沖田も地面すれすれまで腰を落とした。
ムカデ競争では、
「右!」
「左!」
「違う、そっちじゃねえ!」
と大騒ぎ。
だんご食い競争では、原田がだんごを一人で三つもくわえて、
土方に怒鳴られていた。
壬生寺での鐘が賑やかになっていた。




