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淡い橙色の光

西の空が淡い茜色に染まるころ、壬生寺の境内には、ひとつ、またひとつと灯籠の明かりがともり始めていた。


 昼間の賑わいが少しずつ遠のき、夜の気配が忍び寄る。


 風が吹くたび、灯籠の紙面がかすかに揺れ、その向こうの小さな灯火まで一緒に揺らめいた。


「……綺麗だねえ」


 沖田総司は足を止め、灯籠を見上げた。


「暑さ寒さも彼岸までっていうしさ。秋が来るんだねえ」


「ああ。今年の夏は、きびしかった」


 隣で斎藤一が淡々と言う。


 沖田総司はこの夏、暑気あたりで、しばらく寝込んだ。


「秋はさ、涼しくて、虫が鳴いて、空も綺麗で、いい季節だよね」


 二人はゆっくりと境内を歩いていく。


 石畳の上には、灯籠の明かりが細長く伸びていた。


 橙色の光が二人の影を照らし、その影は歩くたびに長くなったり、短くなったりする。


 沖田がふと、灯籠のひとつに近づいた。


「斎藤くん、見て」


「何だ」


「花の絵が描いてある」


 灯籠には、細い筆で秋草が描かれていた。


 すすきに、萩。


 その脇には小さな月。


 風に揺れるたび、月の絵が本物の灯火を受けて淡く浮かび上がる。


「……いいな」


 斎藤が短く呟いた。


 少し先では、彼岸のために訪れた人々が静かに手を合わせていた。


 境内に響くのは、虫の声と、時折聞こえる足音。


 沖田はしばらく黙って灯籠を眺めていた。


「……こういう夜、いいよね」


「ああ」


夜空を見上げる。


 いつの間にか、空には細い月が浮かんでいる。


 灯籠の明かりと月明かり。


 静かな秋の夜だった。


「斎藤くん」


「何だ」


「おはぎでも買っていこうよ」


「……おはぎ?」


「秋彼岸だしさ」


「そうだな」


 斎藤が頷く。


 二人はそのまま、境内を出ていった。


 しばらくして。


「おはぎ、二つでいいかな」


「……二つ? それでいいのか?」


「やっぱ、近藤先生の分も買おうか……」


「……三つだな」


「うん」


 沖田は少し考えた。


「土方さんの分もいるかな」


「……いるだろう」


「そうだね」


 また少し歩く。


「そしたらさ、井上さんもいるね」


「山南さんも」


「六つか?」


「待って……」


 沖田は少し考えた。


「うーん、永倉さんも。原田さんも、おはぎ好きだしなあ」



「全員分買う気か」


「……まさか、ごく親しい人だけさ。

 でも、まあ、秋彼岸だからねえ」


 斎藤はしばらく黙っていた。


「……重くなるぞ」


「鍛えているし、平気さ」


「そうか?」


「財布は、軽くなるなあ。まっ、いいかー」


秋の夜道に、沖田の笑い声が響いた。


 二人の足音が、静かな境内を遠ざかっていく。


 その後ろで、灯籠がひとつ、風に揺れた。


 淡い橙色の光が、ふわりと揺らめく。


 まるで二人の姿を見送るように。


 秋の夜は、少しずつ深くなっていった。

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