敬老節――ぼた餅を二つ
「ねえ、左之助さん」
「ん?」
「敬老節って、知ってる?」
ある日の午後。
沖田総司が、突然そんなことを言い出した。
原田左之助は、食べていた団子を止めた。
「敬老節?」
「そう」
「なんだ、それ」
「年長者を敬う日なんだって」
「そんなのあったか?」
「わからないけど、観柳斎さんが何やら言っていたんだよ」
「……お前、また何か企んでるだろ」
「ふふ〜ん」
沖田は楽しそうに笑った。
「やっぱ、ぼた餅だよねえ」
「なるほど」
原田もにやりと笑った。
「そりゃ、やるしかねえな」
そこへ永倉新八が通りかかった。
「何の話だ?」
「敬老節をやるんです」
「敬老節?」
永倉が首を傾げる。
「そんなの聞いたことねえぞ」
「ぼた餅を配るんです。あんこと、きな粉で」
「……」
永倉は二人の顔を見た。
「ぼた餅か」
「俺に買ってこいってことか?」
「お願いします」
「お前らなあ……」
そう言いながらも、永倉は笑った。
「まあ、餅なら任せろ。お祭りだ。隊士全員の分だな」
「さすが永倉さん!」
「任せろって言っただけだぞ。勘定方との交渉は、総司がやれよ」
こうして――
新選組に、新しい行事が誕生した。
その名も、
敬老節。
そして当日。
「……何だ、これは」
土方が屯所の広間を見回した。
盆の上には、丸々としたぼた餅。
隊士たちも集まっている。
「何をしているんだ?」
「敬老節ですよ」
沖田が笑顔で答えた。
「……敬老節?」
「はい」
「何だ、それは」
「年長者を敬う日です」
「おお、素晴らしいですな」
現れたのは、武田観柳斎。
「古来より、年長者を敬うことは、組織の安寧と秩序を保つうえで、極めて重要です」
「観柳斎さん、ぼた餅食べます?」
「もちろんいただきますとも。敬老の儀礼において甘味を供することは、古くから――」
「はい、一つ」
原田が皿にぼた餅を置いた。
観柳斎は、それを見た。
「……一つですか」
「ふふふ、観柳斎さん、少しふっくらしてきたからさー」
「いや、しかし、敬老の精神というものは、心が重要でありましてな。あんこときな粉、どちらにも良さがあり」
「欲しいなら、そう言えよ」
土方が言った。
「……もう一つ、いただけますかな」
「運動もしろよ、観柳斎の旦那」
その隣では、沖田が近藤の前にぼた餅を置いていた。
一つ。
二つ。
三つ。
そして――四つ。
近藤は、嬉しそうに笑った。
「総司、四つもあるぞ」
「はい」
「先生には特別です」
「食べるでしょう?」
「……食べる」
近藤は素直に頷いた。
土方が横からぼそりと言う。
「よかったな、爺さん」
「歳三!」
「その言い方が腹立つ!」
観柳斎が、ぼた餅を頬張りながら口を挟んだ。
「いやいや、土方副長。近藤局長を敬うことは、すなわち組織の秩序を敬うことでもありましてな。副長たる者がそのような言葉遣いをするのは、敬老の精神に反するのでは――」
「お前に説教される筋合いはねえ」
「しかし、私は敬老節の意義を――」
「お前はぼた餅を食ってろ」
「……はい」
原田が笑いながら、土方にも皿を差し出した。
「副長もどうぞ」
「俺はいらねえ」
「敬老節ですよ」
「俺は三十だ」
「……」
土方が黙った。
永倉が横から笑う。
「まあまあ。一つくらい食ったっていいじゃねえか」
「俺は敬老される側じゃねえ」
「これは隊士全員の分、あるんですよ。平助の分も鉄之助の分もある。みんなでお祝いするんです」
永倉は自分のぼた餅を頬張った。
「うめえな、これ」
「ねえねえ、やっぱり来年は、ごまも食べたいなあ」
「私の故郷は、ずんだですよ。とても美味しいんです」
山南まで、ぼた餅の話に加わった。
隊士たちに敬老の心が芽生えたかは、
最後まで謎であった。




