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三条河原の真相



夜も更けたころ。


観察方・山崎烝が、土方歳三の部屋を訪れた。


今夜は、いつもとは違い、土方ひとりではない。


近藤勇、沖田総司、永倉新八、井上源三郎、斎藤一、原田左之助、山南敬助。


試衛館以来の仲間たちが、揃っている。


「戻ったか。報告を聞こう」


山崎は静かに口を開いた。


「伊東一派が、毎日のように町をうろついております」


「……続けろ」


「昨夜、三条河原付近にて、何者かと騒ぎになった模様です」


「相手は、わからないのか」


「暗く、判別できませんでした」


土方の眉が動く。


「それで」


「伊東甲子太郎以下、十名ほどが、その何者かを追跡しておりました」


「十名……」


「はい」


「相手は一人か」


「おそらく」


部屋の空気が変わった。


「怪我人が出た模様です」


「……何?」


山崎は淡々と続ける。


「鈴木三樹三郎が顔面に裂傷。篠原泰之進は首筋に深い傷を負っております」


土方が顔を上げる。


「首筋だと……? 急所ではないか」


「手当てをした小者の話では、通常の刀傷とは違っていたそうです」


「?」


「細く鋭い傷だった、と」


しばし沈黙。


斎藤がぽつりと呟いた。


「……鉤爪か」


部屋の空気が、さらに重くなる。


「忍び道具やもしれん」


永倉が腕を組む。


「あるいは異国の暗器か」


「……面妖だな」


土方は考え込んだ。


「伊東らは、抜刀しなかったのか」


「しておりません」


「なぜだ」


「生け捕りにしたかったのではないか、と」


近藤が静かに言った。


「それならば、相手は相当な手練れだな」


沖田が、少し楽しそうに口を挟む。


「ふーん。声かけてくれたら、手伝ったのになあ」


土方は地図を広げた。


「三条河原……川沿いなら、逃げ道はいくらでもあるな」


山崎が続ける。


「追跡は塀を越え、屋根の上にまで及んだようです」


「屋根まで?」


永倉が目を見張る。


「相手は、かなり身軽だったようで」


土方は地図から目を上げた。


「……ただ者じゃねえな」


その日から、土方は伊東一派の動きを、これまで以上に警戒するようになった。


そして数日後。


試衛館以来の仲間だけで、伊東一派の動きを探ることになった。


夜。


伊東一派が動き始める。


山崎が低い声で告げた。


「来ました」


「……よし」


一行は、少し離れた場所からその様子を見守る。


やがて――


「いた!」


誰かが叫んだ。


伊東一派が一斉に走り出す。


「囲め!」


「逃がすな!」


「そっちだ!」


「屋根へ上がったぞ!」


土方の目が鋭くなる。


「……やはり、始まったか」


十人ほどが、一斉に塀を越える。


屋根へ飛び乗る。


「くそっ!」


誰かが足を滑らせた。


どたん。


「うわっ!」


続いて別の者も転げ落ちる。


その間をすり抜けるように、影がひとつ、軽やかに走った。


あまりにも小さい。


土方は目を細めた。


「……あれは何だ」


月明かりの中。


影が、塀の上でぴたりと止まった。


細い尾が、ゆらりと揺れる。


「……」


誰も動かなかった。


影は、


「にゃあ」


と一声鳴いた。


そして、ひらりと屋根の向こうへ消えていった。


長い沈黙。


やがて永倉が、呟いた。


「……猫か」


誰も答えない。


土方はゆっくりと山崎を見る。


「……伊東たちは」


「はい」


「これを、十人がかりで追っていたのか」


「……そのようです」


土方は何も言わなかった。


沖田が、ぽつりと呟く。


「……猫、強いね。」


誰も否定しなかった。

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