新選組 それぞれの全力
近藤勇の一番弟子、新選組の看板剣士といえば沖田総司である。
色素の薄い顔立ちに 童顔。
背は高いが細身で、見た目だけなら、とても京に名を轟かせる剣豪には見えない。
だが 見た目はどうあれ、 沖田はしっかりと 鍛え、修羅場を潜り抜けてきた、剣士である。
服部に対し、思うところはある。
それでも、自分が服部よりずいぶん若いことも分かっている。
だから今日も、するりと受け流す。
しかし。
永倉新八、原田左之助、斎藤一たちは違った。
彼らには、この光景がどうにも不穏に思えてならなかった。
島田魁が、ぼそりとつぶやく。
「……沖田さんを、伊東先生が狙っているのか。」
「さすがに無理だろう。沖田さんは近藤先生の直弟子だ。」
「いや、でも毎日ああだぞ。」
「毎日だ。」
谷三十郎まで首をひねる。
「気味が悪い……。」
誰一人として、本当の理由を知らない。
近藤勇は、自分にはない学識を持つ伊東甲子太郎を高く評価し、大切にしていた。
その伊東派に属する服部が、自分の愛弟子・沖田総司を気遣ってくれることも、素直にありがたいと思っている。
だが、土方歳三は違う。
新選組へ加わった伊東甲子太郎は、決して油断できない男だった。
その一派に属する服部が、なぜここまで沖田を気遣うのか。
理由が分からない以上、警戒せざるを得ない。
土方のもとには、服部の奇行について毎日のように報告が届いていた。
そして――
伊東派が連日開いている秘密会議についても、山崎烝ら観察方がしっかり動いていた。
山崎が報告に現れる。
「新しい言葉が出ました。」
「何だ。」
「……『白姫丸』です。」
土方は腕を組んだ。
「船か。」
「詳細は、まだ分かっておりません。」
「軍資金を運ぶ船かもしれねえ。」
「あるいは武器。」
二人は神妙な顔でうなずき合う。
そのころ。
そんな騒ぎなど 何一つ知らない男がいた。
服部武雄である。
「沖田君。」
「はい?」
「今日は少し目が赤いが。」
「えっ? さっき眠くてこすったからかなあ。」
「寝た方がよい。疲労がたまっているのだろう。」
「昼ですよ。」
「俺が布団を敷いてやる。」
そう言うや否や、もう布団を運び始めている。
「えっ? なんで、そんな……。」
「遠慮する必要はない。休むのは大事だ。」
「えーっと……今、すごく目が覚めてて。
しかも元気いっぱいでーす。」
原田は顔を覆う。
永倉は笑いをこらえきれない。
斎藤は静かに目を閉じた。
「……なむさん。」
京では、
猫を探すため秘密会議を重ねる一派と、
その動きを国家規模の陰謀と疑う副長と、
何も知らず沖田を姫君のように世話する愚直な剣士が、
それぞれ今日も、全力で生きていた。




