しもべ券 沖田総司 多忙な日
梅雨時の屯所
咳とくしゃみの合唱が響いている。
「くっそ……風邪うつったか……」
原田左之助が鼻を押さえ呻く。
「最悪だ……頭が割れる……」
永倉新八も額を押さえる。
そして二人の手の中に 同じ券がにぎられていた。
沖田は固まった。
えっ 斎藤くんもまだ寝込んでいるのに …
斎藤、原田、永倉。
自分の仕事もある。
「えーっと……」
朝の稽古指導、書類整理、見回り、雑務。
ため息が漏れるが
「……ふふ。やるかー。」
道場で
竹刀を肩に乗せ、沖田は隊士たちを見渡す。
「今日は特別訓練です」
ぴし、と一本振る。空気が裂ける音がした。隊士たち、ぞくり。
「――今のを真似して!各自百回」
「えっ」
隊士たちは途方に暮れる。沖田総司の剣の動き――見えん、まねれん!
「形は覚えたね。簡単だよ」
簡単か? だが武士たるもの、弱音は吐けない。
「ではそのまま自主練。風邪が流行っているし、サッと終わらせよう」
天才の指導はゆるく見えて、的確すぎる。
隊士たちの動きをじっと見ながら、たまに一言。
「そこ、肘」
誰もサボれない。いつもより質が上がる気がする。不思議だが、隊士たちの緊張が沖田をさらに冴えさせる。
巡察。
「総司、頼むぞ」
沖田は頭の中で今日の担当を組み立てた。
「ええと……新八さんと左之さんはもともと非番。
島原方面の昼は斎藤くんの担当で、夜は僕の一番隊……」
指を折りながら確認し、小さくうなずく。
「ここさえ きちんと済ませればだよなあ。
あとは何とでも」
「メリハリ、メリハリさー」
鼻歌まじりに、沖田は仕事を片づけていく。
整理されている仕事を一つひとつこなしていくうちに、不思議と焦りは消えていった。
稽古の質は上がり、雑務もすっきり片付く。
「あれ? 意外と……何とかなっちゃったねえ。」
沖田は首をかしげ、それから笑った。
「なんか僕、有能だったかなあ?」
有能かどうかは、わからない。
だが、あいつはいつも何とかする。
斎藤はそう思いながら、静かに布団へ横になっていた
しっかり休んで、ちゃんと治そう。
それが 今の自分の仕事だ。




