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シンセン部屋にようこそ

出張から戻った土方歳三は、玄関をくぐった瞬間、足を止めた。


いつもなら、すっと隊士が駆け寄って土方の荷物を下ろしたりしてくれるのだが、そういう気配がない。


かわりに――


どす、どす、と重たい足音が廊下の向こうから近づいてくる。


「……なんだ?」


最初に現れたのは山南敬助だった。


にこやかな笑みはいつも通り――なのだが。


「お帰りなさい、土方君」


顔が、まるい。


肩幅より先に腹が来ている。


羽織の紐が限界まで張っていた。


土方は固まった。

「……山南さん、その……」


「ええ。少々健康的になりまして」


少々どころではない。


後ろから、

ゆっくりと武田観柳斎も現れた

どっこいしょと言いながら、

歩くたびに揺れている。


さらに。


「おお、土方君、お帰りなさい」

現れた伊東甲子太郎とその一派まで、全員ふっくらしていた。


いや、ふっくらというより。

まるまる。

まるで冬支度の狸の集団である。


土方の目が据わった。


「……おい。

俺が江戸行ってる間に、屯所で何があった」


すると、奥からのそのそ現れた井上源三郎、困ったように

「いやあ、それがな歳。 近藤さんと総司が 筍を掘りに行ったんだ」


「筍?」


「たくさん採れたからな。身は皆で食べたんだが……皮が余ってしまって」


「普通捨てるだろ」


「もったいないというか 国家に 不要なものなど無いとか 難しいこと言い出す人がいてなあ」


「なんか それで、総司が痩せてしまってな。

みんなで 総司を元に戻そうとしたら …

ああなったらしい」


伊東が扇を広げる。

「なに、過激なことはしていませんよ。」

「普通の食事です。ただね」


後ろで隊士たちが次々言う。


「食べる時は一緒です」

「一人で食べるのは、気まずいでしょうから」


「連帯責任です」


「副長がいない間、団結しました!」


土方は静かに周囲を見渡した。


みんな、丸い。

恐ろしいほど丸い。


広間では巨大な卓を囲み、隊士たちがぎゅうぎゅうに座っている。


そして、元気に声を合わせる


「いただきます!」

もはや剣客集団ではない。


翌朝。


屯所の朝餉は、異様だった。

ずらりと並ぶ握り飯。

山盛りの芋。

まるい。

とにかく、まるい隊士たち。


山南敬助は穏やかな顔で三杯目の粥をよそい、

武田観柳斎は団子を十本まとめて持ち、

伊東甲子太郎一派など、座布団に収まりきっていない。


その光景を、土方歳三は無言で眺めていた。

ぴくり、とこめかみが引きつる。

そこへ。


「おお、歳! 朝飯うまそうだぞ!」

のんきに入ってきた近藤勇が、どかっと座る。


土方、ゆっくり振り向く。


「……近藤さん」


「なんだ?」


「気づかなかったのか」


「何をだ?」


土方は広間を指した。

丸い。

見渡す限り丸い。

まるで餅の群れである。


だが近藤は首を傾げた。

「皆元気でいいじゃないか」


「そういう話じゃねえ!!」

土方の怒号が響いた。


隊士たちがびくっとする。

「なんで誰も止めなかった!?」


「いやあ、皆楽しそうだったし」


「楽しそうで済むか!」


山南が上品に手を挙げる。


「土方君、私は最近、階段を上ると息が切れまして」


「当たり前だ!!」


武田も続く。

「袴の紐が三度切れました」


「痩せろ!!」


伊東が静かに言う。

「私は座ると立てなくなります」


危機感もなく 笑いながら言うその姿に


「隊士やめちまえ!!」と土方の大雷が落ちた。



その時。

沖田が申し訳なさそうに小さく言った。


「でも……皆、僕のために いっしょに食べてくれたんですよ」


途端に。

「沖田君が悪いわけではありません」


「そうです」

「我々が自主的に」

「友情です」

丸い集団が口々に言う。


土方は頭を押さえた。

「なんで全員道連れ方式なんだ……」


近藤だけが、なおもきょとんとしている。


「そういえば 歳、お前も、昔より少し痩せたんじゃないか?」


「話をそらすな!!」


大声でさけんでいたら 

ぐううう。

腹が鳴った。


一同、静止。


沖田の目が輝く。

「土方さん、お腹すいてる?」


「違っ」


「はいどうぞ!」


「待て総司!」


次の瞬間。

丸い隊士たちが、わあっと押し寄せた。


「副長も仲間に!」

「いっぱいあります!」

「太りましょう!」

「シンセン部屋にようこそ!」

「どすこい」


朝の屯所に、土方歳三の絶叫が響き渡った

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