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誠の武士と筍料理

春の柔らかな日差しが、屯所の土間に差し込んでいた。

その真ん中には――筍の山。

「……多いな」

斎藤は 思わず引いた。

「豊作だったんだとよ」

永倉新八が笑いながら筍を持ち上げる。

「賄いでも使いきれねぇから、こっちに回ってきたんだ」

「つまり今日は筍尽くし!」

沖田がにっこり笑うよこで、原田左之助はもう勝手に皮を剥き始めていた。

「焼いて食おうぜ!」

「左之 まだ下処理前だ」

土間の隅では、斎藤一が淡々と包丁を動かしている。

その落ち着いた空気を壊したのは、静かな声だった。

「まず、筍には作法があります」

来た。

沖田はそっと目を閉じた。

現れたのは山南敬助。

袖をきっちり襷掛けにし、筍を手に取る。

「穂先を斜めに落とし、縦に切れ目を入れる。皮は二、三枚残す。急がず丁寧に下茹ですることが大切です」

山南は穏やかに微笑んだ。

「料理も剣も、基本は同じですよ」

「あー……はい」

沖田は適当に頷いた。

すると今度は、勢いよく障子が開く。

「その通りです!」

嫌な予感しかしなかった。

伊藤甲子太郎が、ずかずかと土間へ入ってくる。

「食とは国家そのもの! えぐみある筍を食した隊士は不平を抱く! 不平は士気を乱し、士気の乱れは治安悪化を招き――」

「筍で?」

沖田は思わず聞き返した。

伊藤は真顔だった。

「やがて幕府の威信に関わります」

「筍ってそんな重要でしたっけ」

「重要です!」

伊藤はびしりと筍を指差した。

「花鳥風月を解する心! 四季を慈しむ精神! それこそ大和魂――」

「先生」

斎藤が静かに口を挟む。

「米ぬか入れてください」

「え?」

「鍋、吹きこぼれてます」

「あっ」

伊藤は慌てて鍋へ走った。

その横で、原田はすでに焼き筍を始めている。

「だから早いですって!」

「細けぇこと言うな!」

「いや言いますよ!」

さらにそこへ、ぬっと顔を出した男がいた。

武田観柳斎である。

「そもそも“えぐみ”とは何か。そこを定義せねば議論は成立しない」

「増えた……」

沖田は遠い目になった。

武田は気にせず続ける。

「人が苦いと感じるのは脳の解釈に過ぎん。つまり筍のえぐみとは観念――」

「先生」

斎藤が言う。

「手を動かしてください」

「む……」

しかし誰も止まらない。

「作法が大事です」「精神性の問題です!」「まず定義を――」「左之さん火が強い!」

土間は完全に戦場だった。

その様子を見ていた近藤勇が豪快に笑う。

「いやあ、にぎやかでいいな!」

よくない。

ぜんぜんよくない。

沖田は箸を持ったまま、ぼそりと呟いた。

「……最初は、筍を食べるだけの話だったんですけどね」

誰も聞いていなかった。

「総司、食うか?」

永倉が焼き筍を差し出してくる。

沖田はそれを見た。

半分焦げていた。

「……食べる前にアレ終わります?」

「終わらねぇな」

即答だった。


沖田は小さく笑う。

「じゃあ先にいただきますね」

「おう」

すっと筍を口に運ぶ。

天下国家はわからないが


春の香りが口いっぱいに広がっていった

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