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筍に愛された男

久しぶりに安全入浴講座へ顔を出した近藤勇と沖田総司


帰り際、顔なじみの奥様に呼び止められた。


「たけのこご飯、たくさん作ったのよ。食べていきなさい」


渡されたおにぎりから、ほんのり甘い香りが漂う。


近藤は思わず顔をほころばせた。


「これは素晴らしいですね。もう筍の季節なんですか?」


「そうよ。今年は豊作でねぇ。でも掘るのが大変で、もう放ったらかしなの」


奥様は困ったように笑う。


「よかったら、掘りに来なさいな」


その場にいた講座仲間たちが一斉に反応した。


「おっ、筍掘りか!」

「いいねぇ!」

「春の運動にちょうどいいわ!」


気づけば話はまとまり、数日後。


近藤勇は、ご長寿メンバーたちと共に竹林へ向かうことになった。


 


翌朝。


集合場所には、長靴に軍手、鍬まで持参したご長寿たちが並んでいた。


完全に本気である。


近藤は背筋を伸ばした。


「安全第一で参りましょう。私に任せてください!」


「やっぱり若い人がいると頼もしいねぇ」

「近藤さんがいると安心だわぁ」


頼られる声に、近藤も気合いが入る。


——しかし。


現実は厳しかった。


地面は固い。

しゃがみ姿勢はつらい。

しかも筍は意外と深い。


開始十分ほどで、近藤の腰は早くも悲鳴を上げ始めていた。


「うっ……これはなかなか……」


「筍は力任せじゃ駄目なのよ」


隣でご長寿の一人が笑う。


「ほら、こうやるの」


軽く鍬を入れる。


スポン。


見事な筍が姿を現した。


「おお……!」





「腰じゃなくて膝を使うのさ。

でないとギクッといくからねぇ」


「なるほど……合理的ですね」


感心したように声を漏らしたのは、少し離れた場所にいた沖田総司だった。


「沖田さん、見てなさい。筍はね、“気配”を読むのよ」


「気配、ですか」


「土がちょっとふわっとしてるでしょ? そこにいるの」


「なるほど」


沖田は真面目な顔でうなずいた。


ご長寿たちはすっかり先生気分である。


「あとね、掘る時は優しく」

「ガツンとやると筍がびっくりするから」

「気合いも大事!」


「気合い……」


沖田は静かに鍬を構えた。


スッ。


ほんの軽く刃を入れる。


すると、するりと筍が現れた。


「あらまぁ!」


「筋がいいわねぇ!」


沖田はぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます」


さらにもう一度。


スッ。


今度は二本同時に顔を出した。


ご長寿たちは一瞬だけ沈黙した。


「なんか びっくりするほど 簡単に出てきたわねえ。」

「筍も かわいいお兄さんに会いたかったんじゃないかしら」

「あらあら わかるわあ.なんか 自分から 現れた感じよねえ」


沖田は少し困ったように笑った。


「いいえ 麗しい お姉様がたに誘われたんですよ。きっと」


沖田はにこやかだった。


「やだもう、口がうまいんだから!」


ご長寿たちは楽しそうに笑う。


その横で、また一本。


するりと筍が顔を出した。


「……あら?」


「また出たわ」


「やっぱり好かれてるのねぇ」


 ーー


その頃。


近藤は腰を押さえながら、必死に地面と戦っていた。


「ぬっ……!」


鍬を入れる。

固い。

全然抜けない。



そこに


「先生、腰は大丈夫ですか?」


沖田が隣へ来る。


「いやー めんぼくない もう限界だ」


「ふふふ、膝をつかうんだそうですよ。

さっき 奥様方に教わりました。

やってみたら 簡単でした.ほら こうです」


近藤も真似してみるが ますます 腰にくる。


「うーん、先生、…そうじゃなくて こうですよ。

では、少しお手伝いしますね」


スッ。

スッ。

スッ。


沖田が軽く鍬を入れるたび、次々と筍が現れる。


しかも妙に綺麗だった。


土を崩さず、根も傷つけず、まるで竹林に許可を取って掘っているような自然さである。



その時 また別のご長寿さんたちが、


「まあ! 近藤さん、すごいわねぇ!」


「頼りになるわぁ!」


その場

ご長寿たちの称賛はなぜか全部近藤へ向いていた。



沖田は“身体の弱い華奢な若者”という認識なのである。


結果。


沖田が掘った筍は、全部近藤の成果になった。


「先生、そこです」とこっそりと教える沖田


「お、おお!」


近藤が恐る恐る鍬を入れる。


スポン。


「おおお! 本当に出た!」


近藤は思わず筍を抱え上げた。


「きゃー!」

「名人!」

「近藤さんすごーい!」


拍手喝采。



一方その後ろで、沖田は無言でさらに三本掘っている。


しかも掘った筍を、さりげなく近藤の足元へ置いていた。


気づけば近藤の周囲だけ、収穫の山になっている。


「いやぁ、近藤さんのおかげで大豊作だねぇ!」


「さすが勇さん!」


「うちの息子にも見習わせたいわぁ!」


近藤はとうとう観念した。


「……恐縮です」


小声で沖田に囁く。


「総司……あとで湿布たのむよ」


「ふふ〜ん」



沖田は涼しい顔で次の地面を見る。


「はい。ではその前に、あと十本ほど こっそり掘っておきますね」


サク。


当然——


「近藤さん、すごーーい!」


拍手は、最後まで全部近藤に送られた。


沖田は 奥様たちに囲まれて 


「疲れたでしょう 飴ちゃんよ。 はい お饅頭もあるわ 

無理しないでねえ 」


と労られている。



風光る初夏の竹林。


だいはち車には、山のような筍が積まれていた。


「いやぁ、近藤さんのおかげで大豊作だねぇ!」


「ほんとほんと、さすがだわぁ」


近藤は汗を拭いながら、満足そうに笑う。


「皆さんのお力ですよ」


その言葉に、ご長寿たちはますます嬉しそうに頷いた。


「謙虚な方だねぇ」


「ほんとほんと」


その少し後ろで。


沖田総司は、黙って手についた土を払っていた。


(まあ……いいか)


誰にも聞こえない小さな独り言。


そして軽く伸びをすると、にこやかにご長寿たちへ頭を下げる。


「お茶、ごちそうさまでした」


「まあまあ、もっと休んでいきなさいな」


「ありがとうございます」


そのやりとりの間にも、荷台の筍はまだ増えていた。


誰も、その正確な数には気づかないまま——


竹林はただ静かに、豊かさだけを残していた

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