名前ヲ正しく呼びましょう
本日、新撰組に新たな運動が発足した。
壬生屯所の朝は、妙な空気に包まれていた。
縁側に立った山南敬助が、静かに咳払いをする。
「皆さん。少々よろしいですか」
隊士たちがなんとなく集まる。
だがすでに嫌な予感がしていた。
山南の横には武田観柳斎。
その隣には伊東甲子太郎。
三人とも、やけに真剣な顔である。
「本日は――」
山南は穏やかに微笑みながら言った。
「犬の名前についてです」
隊士たちの顔が一斉に曇った。
「局長の犬の名は」
武田が胸を張る。
「誠金福善導守護丸」
沈黙。
「しかし!」
伊東が扇子をぱんと閉じた。
「諸君はこれを“シロ”などと呼んでいる!」
視線が、庭の縁側へ集まる。
井上源三郎。
膝の上には、例の白い犬。
井上は犬の耳をかきながら、のんびり言った。
「だってよー、白いじゃないかい?」
山南は優しく諭す。
「名には意味があります。敬意を払うべきです」
伊東も頷く。
「よって我々は、本日より」
三人そろって宣言した。
「名前を正しく呼びましょう運動を始めます」
隊士たち、露骨にうんざりする。
「まずは局長からお言葉を」
呼ばれて前に出たのは近藤勇。
腕を組み、うんうんと頷く。
「うむ。よい心がけだ」
隊士たち
(ああ、長くなる)
近藤は真面目な顔で言った。
「名というものは大事だ」
「人も犬も同じだ」
「この犬の名――」
近藤、少し止まる。
「……誠」
沈黙。
「誠……金……」
武田が焦る。
「局長!」
近藤は額を押さえた。。
「誠金福……」
「善……」
「……守護……」
犬が尻尾を振る。
近藤、つい言った。
「シロ」
決まってしまった!
井上源三郎がのんびり笑う。
「ほらな」
犬は 自分の名前の意味は知らない。シロとよばれても
「誠金福善導守護丸!」とよばれても、
そこに愛があれば 喜んで尻尾を振っている。




