色が薄い沖田総司、血色を足す
「ちょっと買い物行ってきますね」
そう言って、沖田総司はいつも通り、にこにこしながら京の町へ出た。
——目的地は、化粧道具屋。
(あれは土方さんに没収されちゃったけど、やっぱり男の唇にも色は必要だよなあ)
鉄之助が、いろんな色があったって言ってたなあ。
前回はピンクでバタバタおかしなことになったけど、今回は自然なヘルシー色を選べば、なんとかなるだろう。
暖簾をくぐり、沖田は店の中央へ。
「いらっしゃいませ。お母上様用ですか?」
にっこり笑って、沖田は言った。
「いや、自分用、選んでほしいんです」
「はい?」
「僕に合うやつ、欲しいんですけど」
店員が一瞬、固まる。
「……」
「健康に見えるやつで」
「…………」
シーン。
店内の空気が、ぴたりと止まった。
店員は沖田の顔をじっと見つめる。
唇にも頬にも、色がない。
「……」
「……?」
沖田は首を傾げた。
次の瞬間。
店員はそっと沖田の手を取り、椅子へ導いた。
「大丈夫ですか? 少し、お掛けください」
「え、あの、僕そんな——」
「少しお寒うございますねえ」
いつの間にか、膝かけにカイロ。
「え、あ、ありがとうございます……?」
沖田総司、無自覚に人を心配させる男である
さらに。
「今日はお客様に甘酒をお出ししているんですよ。いかがですか?」
「えっ、はい……?」
湯気の立つ甘酒が差し出される。
「甘酒は、とても栄養があるんですよ」
「は、はあ……」
沖田は素直に一口。
「……おいしい」
「でしょう?」
店員は真剣な顔で頷いた。
「お侍様。唇にお色を足すことは簡単ですが、一番大事なのは、よく休まれることでございますよ」
「……え?」
店員はさらに身を乗り出した。
「当店では滋養のあるお品も扱っております。体を整えるのが先でございます」
「は、はあ……」
「お薬など、何かお飲みでは?」
「いえ、別に……」
「お薬手帳などは……?」
「え?」
沖田はきょとんとした。
(なんか面倒くさそうだなあ)
そう思っていると、奥から年配の手代が現れた
「こちら、色はつきませんが、血色がよく見える油です」
「おお」
「自然が一番ですからね」
「なるほど……」
沖田は感心して頷いた。
「じゃあ、それください」
会計を終え、店を出るとき。
先ほどの店員と目が合う。
「無理なさらず、暖かくしてくださいね、お侍様」
なんだか、目に涙を浮かべている。
「はい! ありがとうございます!」
にこにこ手を振る沖田。
「申し訳ありません、あの者は先日、弟を病で亡くしまして……同じ年頃の方を見ると、つい重ねてしまうのです」
——その後。
屯所に戻り、沖田はさっそく使ってみた。
「……」
「……あれ?」
永倉が目を細める。
「なんか……今日の総司」
原田が首を傾げる。
「いつもより……」
斎藤が一言。
「……健康そうだ」
「でしょう?」
沖田は満足げに笑った。
(この油をつけて、またあの店に行こうかな)
(今度は、あの店員さんから何か美味しいものも買ってみようかな)
たまには、姉さんに手紙でも出してみようかな。




