表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

没収リップ。 井上源三郎 桜色の惨劇

「……これは没収だ」


土方歳三は、机の上に置かれた一本のリップクリームを無言で睨んだ。


「えー!土方さん横暴ですー!」

「横暴じゃねぇ。屯所にこんなピンク色はいらん」


沖田の抗議も虚しく、リップは土方の引き出しへ直行した。


——数刻後。

廊下を歩いていた井上源三郎が、ふと土方の部屋の戸口で足を止める。


「ん?土方さん、これ何だ?」

引き出しから半分はみ出た可愛らしいピンク色が目に入ったのだ。


ちょうどそこへ、近侍の市村鉄之助。

「あ、それですか?なんか、口が荒れた時に塗るものみたいですよ」


「ほう……」


井上は感心したように頷き、何の疑いもなく手に取った。


「冬場はなぁ、どうにも唇が切れて困る」

そう言って、ためらいゼロで塗り塗り。

「……おお」

一拍置いて、目を丸くする。

「これは……しっとりするな」


「そうなんですよ!便利ですよね! さっき 沖田さんや斎藤さんもつかっていましたよ。」

鉄之助は完全に無邪気だ。


「よし、ありがたい」

井上は上機嫌のまま、そのリップを懐にしまい、

「では、見回りに行ってくる!」

颯爽と去っていった。


――その後。


道場の稽古場。


すれ違った永倉が小声で囁く。


「……なあ、あれって」


「言うな」斎藤が即座に遮ぎる。


「何も見てない 何も見てない。」そう言って

斎藤は目を閉じた。


「いやあ、あれは実に良かった」

井上源三郎は、縁側でしみじみと頷いていた。


「唇がしっとりしてな。仕事中も切れんし、気分もいい」


「は、はあ……」市村鉄之助は曖昧に笑う。


「鉄之助、同じものを買ってきてくれんか?」

「えっ」

「近藤さんにも一つ渡したい。日頃世話になっているからな」

「…………」

鉄之助は一瞬、**“あの色”**を思い出したが、

(みんな 使ってたしなあ)とおもい、

「わ、わかりました!」

と 素直に返事をした。


——翌日。


「井上先生、これです」


「うむ、ご苦労」


袋から出てきたのは、例のピンク色リップ。

井上は満足そうに頷き、それをそのまま近藤勇の元へ持っていった。


「近藤さん」


「おお、源さん。どうした?」


「唇が荒れた時に塗ると良い品だ。私も使っている」


「ほう?」


近藤は受け取り、首を傾げる。


「色がついているようだが……?」


「そうか?あまり気にならんが」


「ははは、そういうものか!」


——気にしなかった。二人とも。


「では、ちょっと塗ってみるか」


近藤勇、豪快に繰り出す。


塗り塗り塗り塗り塗り!! 井上とは比べ物にならないほど 豪快に厚く ぬりたくる。


「……おお!しっとりするな!」


「でしょう!」


しかし。


通りかかった沖田が、ぴたりと足を止めた。

「…………」

「………………」


「……あああああ!!!」

屯所に響く、悲鳴。


先生 !それ!それ以上はダメですって!!」


「ん?どうした沖田?」


近藤が振り向いた瞬間——


そこには、全力でピンクを纏った局長がいた。


「うわあああ!!」「なんでそんなことに!!」


永倉が頭を抱え、原田は腹を押さえて笑い転げる


「局長、力強すぎ、」


「え?力?」


斎藤は静かに一言。

「……桜が満開だな」


土方歳三は、そっと頭を抱えた。


ピンク色の惨劇は、まだまだ終わりそうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ