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武田観柳斎、副長を描いたはずが―

ある夜、

屯所の書斎で筆を握る 武田観柳斎


「……次は副長を題材にしよう」


扇子で口元を隠しつつ、目はキラリ。

その狙いはもちろん――


“血色の薄い男・副長に紅をさす”


観柳斎の中では、これは学術的価値の高い実験でもある。


「ふふふ……科学的にも面白い。

さて、どう描くか」


筆を滑らせ、土方の顔に、ほんのり赤を加える。


すると――


鋭い眼光がさらに際立ち、

背景の赤と相まって迫力倍増。

なのに唇だけ微かに紅色で、妙に艶やか……。


観柳斎

「む……この……副長、危険すぎる」


その時。


「……おい、観柳ァ」


低い声が背後から落ちた。


観柳斎

「あっ、副長! これはその……学術的興味で!」


副長の眼光は、障子を割る勢いだ。

しかし絵を見るや、眉がぴくりと動く。


「……おい。俺に紅をさしてどうするつもりだ」


観柳斎

「あ、あの……こ、これは副長ではありません。

 ちょっと似たのは、その、偶然。

 たまたまで」


「……ふむ、なるほど」


副長の声は妙に冷静だった。

だが、その視線は絵の唇に止まる。


ほんのり赤いその色に、

副長の表情が――わずかに揺れた。


土方は黙って絵を手に取り、

一瞬、視線を外す。


………


「……お前、どこまでやる気だ」


その一言で、観柳斎の胸が凍りつく。


「 あ、あの、が、学問のためで……その、芸術です」


「……芸術か」


そのまま一瞬、じっと見つめる。


……唇の赤を指で軽くこすった。


消えない。


「……」


副長は無言のまま 絵をくるりと巻いて、


そして  絵を奪って去った


「………」


呆然と立ち尽くす観柳斎。


(俺、もしかして……まずい……)


(これから、どうなるんだ……!)


全身が、ぶるぶると震える。



その夜。


そっと沖田総司と井上源三郎が観柳斎の部屋に訪れた。



二人は観柳斎の顔を見るなり、ぎょっとする。


沖田

「アララ、ずいぶん 死にそうな顔だねえ。

なんかさ、あさっての心配してない?」


観柳斎

「その、副長を怒らせてしまい……」


沖田はふっと笑った。


「ふふ、それはね。大丈夫。大丈夫。

それよりさ、これ――ちょっと直してほしいんだ」


差し出されたのは、あの絵だった。


井上と沖田が

「あーでもない」「こうでもない」と口を出し、

次々と修正が入る。


そして――


土方の絵は、

なんと

一人のご婦人の肖像へと変身した。


井上はにこにこしながら言う。


「おお、よくできた。ありがとう。そっくりだ」


沖田も頷く。


「これ、土方さんの姉上の顔なんです」


「最初、武田さんの絵を見た時、びっくりしたんですよ」


「普段は、土方さんと姉上、

そんなに似てると思わなかったんですが――」


「武田さんの目はすごいですね。ありがとうございます」


そう言って

沖田総司は、観柳斎の手に


アンモナカを山盛り 渡し、爽やかにたちさっていった。

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