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15 糸→猛攻

「よし、まずはどうする?」


 俺はボス戦の経験なんてないし、作戦はスカイに頼るしかない。


「こういう時は敵の攻撃パターンを見極めないといけないんだけど……」


 タンクと呼ばれる前線に立つ役目がいるらしい。攻撃を受け止めながら仲間に攻撃してもらうと。


「俺の防御力はめちゃくちゃ低いんだが……?」

「もちろん知ってるよ。だから避けタンクをやって欲しいの」


 避けタンクとはタンクの一種で、普通のタンクは敵の攻撃を引き付けて受け止めるのに対し、避けタンクは引き付けた攻撃をギリギリで躱す役らしい。


「いや待て、引き付けるって何をすれば?」

「そっか、普通タンクならモンスターを引き付ける挑発系のスキルを持ってるんだけど……ヨミくんある?」

「ある訳無いだろ」


 モンスターが避けてくれるならわかるが、逆に引き付けるとか走りの邪魔にしかならない。


「困ったね……それだと私が攻撃したらボルスパは反撃で狙って来るだろうから、ヨミくんの意味が無くなっちゃう」


 なんとかスカイの攻撃力と俺のスピードを同時に活かす方法は……そうだ!


「スカイ……」

「……なんか今、嫌な予感がしたんだけど」

「いや大丈夫、もう一度合体するだけだ」

「予感通りだよ!? そ、それに合体って言葉の響きがあんまり……」


 なんか急に挙動不審になっていた。今の話におかしな点とかあったか?


「どうしたスカイ、そんなに俺と合体するの嫌か」

「えっ、ちょ、そういう訳じゃ、って顔、近っ!? ……もう! デリカシー!」

「ぐはっ!?」


 つい気合が入って近づき過ぎたのは認めるが、脳天にチョップを喰らうのは納得いかない……。


「あたた……でも他に方法ないだろ」

「うーん……さっきはガタガタだったじゃん。今度は上手くいくかなぁ……?」


 さっきの失敗を引きずっているようだった。だがやるしかない。


「なぁに、ダメ元だし、とりあえずやってみようぜ」

「しょーがないか……」


 渋々ながらスカイは了承してくれた。先ほどと同じくスカイを背負って立ち上がる。


「準備はいいか?」

「なんとかやってみるね!」

「じゃあ……スタート!」


 掛け声と同時に俺は……いや俺達は岩の陰から飛び出した。見上げるとボルスパの赤い眼ははっきりこちらを捉えており、目が合った。そして口をピクピク動かしたかと思うと、糸が発射される。


「ふっ!」


 次の瞬間には反射的に軽くジャンプしていた。一瞬前に俺の足があった場所に的確に糸が撃ち込まれる。


「ヨミくん大丈夫!?」

「この程度なら問題無い!」


 実際強がりではなく、このくらいの速さなら見てから避けられる。普段から走り込んでいるおかげか、俺は動体視力が人より少しいいらしい。飛んでくるのもはっきり見えている。


「俺のことは気にするな! 攻撃に専念してくれ!」

「わかった! ……【ウインドショット】!」


 そう言ってる間にも糸は撃ち込まれる。スカイがお返しとばかりに矢を放つ。緑色に光る矢が真っ直ぐ飛び、ボルスパの腹辺りに刺さるのが見えた。


「よっ、とっ、いいぞスカイ!」

「まだだよ、あの程度じゃダメージは1%か2%くらいかな」

「マジか……ん?」


 こりゃ相当苦しい戦いになりそうだ。と思っているとボルスパに動きがあった。というか、文字通り動き出した。空中の蜘蛛の巣に陣取り、その場を動かず攻撃していたが移動し始めた。


「ちっ、タダでさえ上にいる敵とか見づらいのになぁ!」

「ヨミくん、真上に来たよ!」


 スカイが焦ったように叫ぶ。次の瞬間、俺達の周りが暗くなり、周囲に影が差す。


「やばっ!? 【アクセル】!」


 どっちに動くか考える暇はなかった。とにかく影の差している範囲から逃げるべく必死に走った。だがなかなか出られない。……影が大きくなっている?


「落ちてきてる!」


 端的な叫び声だったが、スカイの言ってることは瞬時に理解した。力を振り絞って駆ける。


「うおおぉぉ!」


 影から抜けたと思った瞬間、ズンと響く重たい音と衝撃が体に伝わってきた。助かったけど、安心してる暇は無い。振り向くと地面に降りていたボルスパがこちらを見つめていた。追撃してくるかと思ったが、スルスルと宙に浮かんでいく……いや、ぶら下がっていた糸で天井に登って行ってるのか。


「チャンス!」


 スカイはすぐさま行動していた。上がっていくボルスパに向かってガンガン矢を降らせる。巨体だけあって当たりやすいようで、次々刺さっては消えていく。それでも頭上のHPゲージはジワジワ減っているようにしか見えない。相当硬いなこれは。


 天井に辿り着く間際、スカイに確認を取った。


「なぁ、今の攻撃見えたか?」

「うん、私は後ろ向いてたから。降りながら足で突き刺そうとしてたよ。降りるって言うより落ちる感じだったかも」


 よく見ると八本の足は全て先端が鋭く尖っている。人間を貫くには充分だろうな。


「このまま行けそうか?」

「このままだったら、なんとか……。落下して上がる時は反撃して来なかったから……そのタイミングで攻撃しまくればいけると思う。HPも今ので三割くらい削れたし」


 希望が見えてきたな。基本は糸を躱しつつ余裕があれば反撃。メインとなるのは落下攻撃に対する回避と、その後の隙を狙うことか。


「よし、じゃあそんな感じで頼むぞ」

「わかった! ヨミくんも気をつけてね」


 ボルスパは巣に戻ると、再び糸による射撃を繰り返してくる。だがそこまで脅威では無い。回避し切れないスピードじゃないし、後は繰り返せばいけるはず。スカイも少しずつだが命中精度を上げ、ボルスパのHPは五割を切った。


「【アクセル】!」


 そう思っていると再び落下攻撃が来る。同じように加速スキルを使い全力で範囲から逃げた。よし、後はスカイが反撃を……。


「あっ!? 右行って!」

「はっ? ……があああぁぁ!?」


 スカイが何か叫んだと思ったが、意味を理解する前に脇腹に衝撃が走る。バランスを崩し倒れそうになるが、なんとか辛うじて立て直した。


「ヨミくん大丈夫!?」

「ギリギリな……」


 おそらく攻撃を受けたことはわかった。視界に写る自身のHPは大幅に削られている。何が起きたかわかってないが、もう一度同じことをされたら死ぬな、多分。


 振り返るとボルスパはまだ地面の上にいた。天井に戻っておらず、しっかり大地の上に立った状態だった。無感情な眼でこちらを見ながら規則的なリズムで口を開閉している。


「スカイ……今何が起きた?」

「うん……。落下してきた後、上っていくと思ったんだけど戻らなかったの。降りたまま足を振り回して私達を狙ってきた」


 てっきり降りたらすぐ戻るものだと考えていたが、違ったのか。


「もしかしたらだけど……」

「ん?」

「HPが半分切ったから攻撃パターンが変わったのかも」

「そういう場合もあるのか……」


 スカイは自分が迂闊だった、なんて申し訳無さそうにしているが、知識不足の俺には責められない。


 そうこうしているうちにボルスパが動き出した。一番前の二本の足を振り回しながら接近してくる。……思ったより動きが速い!


「ナメるな!」


 この程度の速さでは俺には追いつけない。ましてや相手の巨体では向きを変えるのも一苦労。すぐさま後ろへと回り込む。


「よし、頼む!」

「【スパイラルショット】!」


 背後からスカイが高そうな威力の攻撃を繰り出す。これは当たったと思ったが、予想外のことが起きた。ボルスパの尻からまさに蜘蛛の巣模様の網状の糸にが放たれたのだ。矢は糸に絡まり勢いを失って地面に落ちる。振り向くこともなく背後からの攻撃に対処してみせた。


「どうしようヨミくん……やっぱり無理かも」

「スカイ……」


 まずい、弱気になり始めている。このままでは全滅も時間の問題か……。

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