16 とどめ→次の冒険
糸で防がれた後、しばらく俺は回避に徹し、スカイは矢を時々射つ形で、攻撃を見極めてみた。その結果わかったのは、背後からの遠距離攻撃は効かないということだ。
何回試してみても、スカイが背後から放った矢は網にかかって命中しない。スキルで射った矢も試したが同様だ。反面、正面か横からならある程度当たることはわかった。タイミング次第では脚で弾かれることもあるが。
回避するのは自信があるけど、それだって無限に続けられる訳じゃないし、絶対回避できる訳じゃない。こっちの攻撃が当たらなければ、間違いなくこっちが先に力尽きるだろう。俺の防御力は段ボール並だしな。
「スカイ、なんかこう……一撃であいつを倒せるような大技とか必殺技とか無いのか?」
そんな都合のいい技は無いと思うけど、ダメ元で聞いてみた。すると予想外の答えが返ってきた。
「あるにはあるけど……」
「えっ」
そんな技があるなら言ってくれれば、と思った。そうすればこんな苦労せずに済んだのにな。
「発動条件が厳しいの。状況的に使えないと思う」
「詳しい説明は今は無しだ。具体的に何が必要なんだ?」
「…………相手のすぐ近くで、一分くらい私が動かなければ何とか使えるかな」
「おぅ……」
思わずため息が出るくらいには、ハードな条件だった。だが不可能ではないと思う。
「スカイ、それって自分自身が動けないだけか?」
「多分そうかな。もしかして囮になろうとか考えてる?」
端的に言えばその通りだった。スカイが動けなくなっている間に俺が走り回れば、なんとかなるはず。蹴りスキルを使えば注意を引けるだろう。
「いやいや、それはボルスパが下に降りて来たらの話でしょ? もう一回天井の巣に戻られたらアウトじゃない?」
「むぅ……」
スカイの言うことは正しい。遠距離攻撃手段が無い以上どうしようもない。
「なら、このままなんとかするしか無いな」
「このままって……まさか背負われたまま切り札を使えって言うの!?」「その通り!」
断言すると呆れたような声で返してきた。
「いやいや、切り札を使う間は私は何も攻撃できないんだよ? もしヨミくんが危険になっても助けられないじゃない! どうするつもりなの?」
「スカイ……」
背中から焦りが伝わってくる。俺の肩を掴む力が一層強まった。安心させる為に殊更軽い声を意識して話す。
「心配するな、スカイ」
「するなって言われても……」
「俺にできることは一つだ。早く、速く、疾く走る……それだけだ」
「ヨミくん……」
会話が途切れる。背中でモゾモゾと動いて姿勢を正しているようだ。
「わかった。覚悟決めるよ」
「おう、頼むぞ」
俺も気合を入れ直し、タイミングを合わせて走り出す。
「3……2……1……スタート!!」
「【ストーミングチャージ】!」
背後は確認できないが、スキルを使ったのはわかった。依然として地上に堂々と構えるボルスパを見据える。八つの眼がこちらを捉えたのはわかった。
「……うぉい!」
次の瞬間、前方上から鋭く尖った脚が降ってきた。しかも一本ではなく二本……いや四本が矢継ぎ早に振り下ろされる。小回りを利かせてステップを踏まないと避けられない。一本躱しても次の脚が的確に狙ってくる。
「これ、振り、落と、されそう!?」
「落とさないように気をつける!」
急加速と急停止の影響で、走ってる俺でも振り回されている。自分で動いてないスカイは尚更慣性の影響を受けているだろう。動けないって言ってたから、俺がカバーしないと確実に落ちる。
「いけるよ、あと二十秒!」
「よし……いや待て!?」
上手くいくと思った矢先に大抵トラブルが起きる。ボルスパがスルスルと糸で天井へと登り始めたのだ。
「スカイ、切り札は天井まで届くのか!?」
「多分無理! まずいよこれ!?」
すぐ近くで、言ってたしやはり飛距離は低いのか。どうするどうするどうする!?
その時、状況を打ち破るアイデアが浮かんだ。失敗したら間違いなく死ぬだろう。いけるか検討してる時間はない。
「うおおおお!」
「ヨミくんどしたの!?」
「お前は攻撃準備しとけ!」
俺は近くの壁に向かって走り出した。ぶつかるかもしれないがお構い無しだ。
「ふん!」
「え!?」
そして壁にぶつかる瞬間、百八十度方向転換し壁へ蹴りつけ思いっきり跳んだ。ある程度の高さまで上がったが、残念ながらボルスパはその間にも上がり続けており、これだけでは届かない。
「【フライングキック】!」
スキルの効果で、体が流されるようにして反対側の壁へと飛んでいく。そして壁に当たったというか蹴り砕いた瞬間、スキル効果が切れて自由に動ける。
「【ターニングキック】!」
再び向きを変えて斜め上に跳ぶ。ボルスパとほぼ同じ高さまで追いついた。だがこのままでは墜落する。
「うおお………【サマーソルトキック】ぅぅ!!」
「ええええ!?」
最後のスキルを発動させながら、意図的に腕の力を緩めた。サマーソルトキックはバク転しながら蹴りを繰り出すスキル。つまり縦回転の動きを行う。
回転しながら腕を離すとどうなるか。持っていた物が遠心力で吹っ飛ぶ。……つまり背中に居たスカイが。
空中で自由になった俺は、体勢を仰向けに変えた。視界に入ったのは天井へ上るボルスパ、そしてそれより更に上にいるスカイの姿だった。
弓を構えたまま下を向き、驚愕の表情を隠せていない。
「スカイ、射て!!」
俺が叫ぶと状況を把握したのか、ハッとした反応を取りボルスパへ視線を向ける。
「【ラスト・テンペスト・ショット】!!」
落ちながら見えたのは、スカイの弓がまばゆい緑色の光を放つところだった。光はすぐに収束し太いレーザーのようになってボルスパへと放たれた。
その光景を最後に視界が真っ暗になった。全身に衝撃を受けた気がするが、よくわからなかった。
★★★
「……はっ!?」
気がついたら知らない天井を見上げていた。横になっていた体を起こし辺りを見回すが、どこかの小部屋にいるようだ。部屋の中心にベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だ。窓も無く木製のドアが一つあるだけだ。
とりあえず部屋の外に出てみよう。ここはダンジョンの中なのか……?
ドアを開けると外から光が入ってきて眩しい。
外は街中だった。建物が並び、多くのプレイヤーが行き交っている。もしかして王都か?
「あっ、ヨミくん!」
声の方を見るとそこにはもちろんスカイがいた。慌てた様子でこっちに走ってくる。
「良かった……合流できたね!」
「スカイ……状況がよくわからないんだけど」
「えっと、ヨミくんはどこまで覚えてる?」
「スカイが切り札を射った瞬間かな。その後なんか意識途切れたから」
心なしかスカイがテンション高いというか、興奮しているように見える。
「そう! その最後の一撃でボルスパを倒したんだよ!」
「おお……マジか」
それは本当に良かった。あそこまで頑張って結局負けたとかなったら、疲労感も半端じゃなかっただろうな。
「ん? じゃあ俺はどうなったんだ?」
「あー……そのー……私を投げて変わりに転落死したかな……」
なんとも言い難い気分だ。スカイも一転して気まずそうな顔している。
「でもほら、念願の素材は手に入ったよ!」
「お、そうだったそうだった」
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【螺旋蜘蛛の粘糸】
分類:素材
効果:希少な種類の蜘蛛が吐く糸。柔軟かつ頑丈で織物に最適
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「おお……これで念願の速度強化が!」
「ヨミくんは本当に走るのが好きだねぇ」
思わずガッツポーズしたのを見て、スカイは苦笑を浮かべていた。
「よし、素材も手に入ったことだし……」
「どこか狩りにでも行く?」
「いや走ってくる」
「ほんとブレないね!?」
仕方ないだろう。これが俺だし、これからも変わらない。とにかく早く、速く、疾く。それが俺のポリシーなんだからな。
ひとまずここで完結とさせて頂きます。
しばらく書いていなかったリハビリとして始めた本作ですが、少しずつ書いていた頃を思い出しました。
仕事の都合等で執筆時間が取れず、連載開始から三ヶ月ほどでやっとここまで来れました。
短い連載となりましたが、お読み頂きありがとうございました。




