14 ボス→特殊個体
お説教を受けた後、いくつかのモンスターを蹴散らしてようやくたどり着いた扉。ここまでの道のりには扉なんかなかったが、目の前には明らかに金属製の大きな両開きの扉が存在している。
「……これは?」
一瞬呆けたが、気を取り直してスカイに聞いてみた。
「ここがボス部屋だよ。だいたいダンジョンの一番奥にある、大きな扉の先にボスがいるの」
「そうか……ここまで長かったな……」
「まだ一時間と少ししか経ってないけど」
感慨深く感じていると余計な突っ込みが入った気がする。が、気にしない。
「自由に走れない時間……狭くて通り辛い道……すぐ止めてくる幼なじみ……大変な道のりだった」
「どれも原因は同じ……っていうか今、余計なの一個混ぜなかった?」
「そんなことより早速行くぞ!」
「誤魔化した……ってちょっと待って」
「えっ?」
取っ手に手をかけガチャリと回したところで、ストップをかけられた。
「あ、開いてるなら大丈夫だね」
「どういう意味だ? 鍵がかかっている場合があると?」
どこかに鍵が落ちてるとか、そういうトラップかな?
「ううん、そうじゃなくて他のプレイヤーがボスに挑戦してる時は、入れないように自動で鍵がかかるんだよ」
開いてるなら誰もいないよ、と続けるスカイ。なるほど、確かに挑戦中に入って来られると面倒だな。
二人で並んで中に入りながら確認していく。周りには俺の背丈よりも大きな岩がゴロゴロ転がっていた。
「この中にスパイラルスパイダーがいるんだな?」
「そうそう、天井に張り付いてるでっかい黒い蜘蛛でね。上から糸で攻撃してくるの……え?」
急にスカイの話が途切れた。見るとスカイは天井を見上げてポカンと口を開けている。つられて俺も天井を見上げる。
「どうした、スパイラルスパイダーがいるんだ……ろ?」
確かにスカイの言った通り、天井には大きな蜘蛛が張り付いていた。若干デフォルメされたデザインなので、リアルな蜘蛛には見えない。かと言って、かわいいとも言い難いが問題はそこじゃない。
「なぁ、スカイ」
「……うん」
「さっき、スパイラルスパイダーは黒い蜘蛛って言わなかったか?」
「うん、言ったね。今まで黒いのしか見たことないよ」
「……俺にはどう見ても白い蜘蛛にしか見えないんだが?」
「……私にもそう見えるね。真っ白だね」
そう、俺達の前方斜め上に陣取っていたのは白というか、純白の蜘蛛だった。胴体から八本の足の先端まで真っ白、唯一顔に付いている八個の複眼だけが血のような暗い赤色だった。
「おいおいスカイ、騙したのか?」
「だ、騙してないよ! こんなの見たことないし……!?」
幼なじみの経験から言うと、この反応は嘘ついてないな。本気で戸惑っている時の反応だ。しかしあれは一体……。
「そうだ、スカイは鑑定できるんだろ?」
「あっ、そっか、えっと……」
俺より先に思いついてもおかしくないのに……相当テンパってるなこれは。多分鑑定らしきスキルを使ったと思う動きで蜘蛛を見る。
「えっ!?」
ほんの数秒ほど蜘蛛を見つめていたが、更に驚いた顔をしていた。
「どうした、なんて出た?」
「【特殊個体・ボルテクススパイダー LV40】って……ど、どうしよう!?」
「落ち着け、一体あの蜘蛛がなんだと……」
スカイを宥めつつ、そのボルテクススパイダーとやらをもう一度見上げた。すると、さっきまで人形のようにじっとしてピクリとも動かなかったボルテクススパイダーが、口のあたりを開けたり閉じたりしているのが見えた。……もしや?
「スカイ!」
「ふえっ!?」
咄嗟にタックルするような形で突撃した。振り返りはしなかったが背後から風を感じ、何か硬い物が刺さったような鈍い音がした。
「えっ、これ……」
なんとか体勢を整え、後ろを見た。スカイも同じ方向を見ている。さっきまでいた場所に白くて細い棒のような物が突き立っていた。深さはわからないが地面に突き刺さっているところから見ると、そこそこの深さまで刺さったのだろう。
「なんだこりゃ……槍か?」
ボルテクススパイダーが飛ばしたのは間違いない、だがなんで槍を……? そう思っているとスカイが口を開いた。
「これってもしかして糸じゃない……?」
「糸……?」
相手は蜘蛛だし、糸を吐くというのは理屈でわからなくもない。だがどう考えても目の前のこれは糸には見えない。
「なんかやけに硬い棒にしか見えないが」
「糸を固めた物とか……っ!?」
ぼんやり考察してる暇は無かった。ボルテクススパイダーは再度糸を発射してきた。それも複数を次々と。慌てて走り出す。
「スカイこっち!」
「!」
咄嗟に近くの岩に回り込んだ。ガガガと連続した衝撃音が部屋に響く。岩に向かって打ち込まれているだろう音だ。少しだけ岩を盾にしていれば時間は稼げるだろう。
「で、あれはなんなんだ? ボスじゃないのか?」
ひとまず状況を確認しようとしたが、スカイは浮かない顔で話し出した。
「うん……あれは特殊個体みたい」
「特殊個体? なんだそれ?」
「簡単に言うとレアなモンスターのことなの」
スカイの話によると特殊個体はごくまれに遭遇するモンスターのことで、外見は他のモンスターと色違いになっているのが特徴らしい。名前も通常個体とは変わり、強さも数段階上になるとのことだ。
「つまり本来はスパイラルスパイダーが出るところが、ボルテクススパイダーが出てしまったと?」
「多分そうかなぁ……」
多分とか、なんか曖昧な発言だな。
「仕方ないんだよ。特殊個体ってまだよくわかってないことが多いんだもん」
検証班とかいうプレイヤー達がこぞって調べ回っているらしいが、出現条件ははっきりしないそうだ。
「運悪くボルテクススパイダー……長いな、ボルスパでいいや」
「ボルスパ……」
よりにもよって俺が入った時に当たるとは、運がないな。それは仕方ないとして、問題はこの先だ。
「スカイ……あれ、勝てそうか?」
「難しいかも……流石に私とヨミくんの二人だけだと人数が足りなすぎるし……」
スカイは少々弱気だった。スパイラルスパイダーなら俺と二人で勝てる見込みだったのに、今は弱気ってことはボルスパはなかなかの強さだと見ていいだろう。
「脱出方法は?」
「ない。ボス部屋に入ったら、ボスを倒すかプレイヤーが全滅するかしないと扉は開かないの。ログアウトもできない」
となると、死ぬしかないってことになる。しかし……。
「スカイ」
「ん?」
「せっかくだからさ、戦っていかないか?」
「ふぇ?」
俺の提案にスカイは目を丸くしていた。
「ヨミくん……勝ち目は薄いんだよ?」
「わかってる。だけどここまで来て死ぬしかないってのも癪じゃないか」
わざわざ走りづらいダンジョンまでやって来て、辿り着いたと思ったら一からやり直しだなんて、虚し過ぎる。
「スカイは死ぬしかないと思ってるんだろ? ならどんな攻撃してくるか調べてみてもいいんじゃないか?」
「それは……確かにそうかも……」
この反応は少し乗り気になってきたようだ。もうひと押しか?
「スカイの仲間にも情報を伝えてあげれば、喜ぶんじゃないか?」
「うーん……なんかヨミくんに乗せられてる気がしなくもないけど……やってみよっか」
そう言って矢を背中の矢筒から取り出す。上手くやる気になってくれたようだ。
遅くなりすみません。




