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12 ダンジョン→試走

「あっ、見えた! あれがダンジョンだよ」


 南の村、俺のゲーム開始した村を通過して少し歩く。すると間もなくしてスカイが前方を指さした。


「ほう……」


 草原の真ん中にポツンとあるのは大きな洞窟だった。穴は横にも縦にもかなり大きく、車のトンネルくらいはありそうな大きさだ。奥の方になるに連れて暗くなっており、どこまで長さがあるか見えない。


「……この中か?」

「そうだよ。暗く見えるけど、中に入れば一応明るく感じるから大丈夫だよ」


 恐る恐る入って行くが、入口に入った瞬間切り替わったかのように明るくなった。と言っても外ほどの明るさはなく、薄暗いといったところだろう。広さは……横幅も高さも充分あるし、動き回るのに支障はなさそうだ。


「よし、走るか……がっ!?」


 走り出そうとした瞬間、首に締まる感触が走った。一瞬遅れて、服の背中を引っ張られたのだと気付く。


「ごほっ、ごほっ……いきなり引っ張るなよ、危ないだろ? 息が止まるかと思ったぞ」

「いきなり走り出そうとするからでしょ!」


 そうだった。スカイも居たんだった。一瞬だけ、一人で来た気分になっていた。


「私を置いていかないでよ……。次、勝手に走り出そうとしたら射抜くからね?」

「怖っ!? えっ、パーティ組んでるってことは仲間なんだよな? 狙うことってできるのか?」


 よく知らないけど、仲間への攻撃ってできないものなんじゃ? 辺りを警戒しつつも、歩きながらの会話は続く。


「まずパーティ脱退して、その後撃つから大丈夫」


 執念深くて怖いんだけど。


「プレイヤー殺したら犯罪になるんじゃ……」

「うん、そうなっちゃうけど……ヨミくんを止める為には仕方ないよ」

「全然仕方なくないが?」


 普段から走り出すと、物を投げて止められているとはいえ、流石に弓で狙われるのは勘弁して欲しい。そして少し進むが、今のところモンスターの気配はない。広々した道を歩いていると、ウズウズしてきた。


「なぁスカイ、やっぱりちょっとだけ走ったらダメか?」

「うーん……」


 ダメ元で頼んでみたが、即座に却下はされなかった。口元に指を当てて考え込んでいる。


「まだ入口付近だから、そんなにモンスターも出ないし……いいよ。じゃあ、あそこの行き止まりまでね」

「よっし!」


 スカイが奥の方を指差すと、思わずガッツポーズが出てしまった。距離はだいたい百メートルくらいか? 少々短いが、それでもスピード出すには充分だろう。


 足を曲げ伸ばししながらふと考える。そう言えば蹴り技系のスキルを修得したものの、まだ走りに活かしたことなかったな。基本戦闘に使うだけで、目的の為に使ってなかった。まぁ戦闘に使うのが本来の使い方なんだろうけど。せっかく思いついたんだ、いい機会だから練習しとくかな。


「すぅ……!」


 いつも通り息を吸い込んでから走り出す。今回はなるべく早く最高速になるよう気をつける。距離が短いし、出し惜しんでたらすぐゴールしてしまう。最初から全力だ。


「あははは……!」


 ほんの数秒でスピードが乗ってきた。同時に俺の心も高揚感で満たされていく。このまま行けば次の瞬間にはゴールできるだろう。だが今回は敢えてスピードを緩め……そのまま体を右に倒しながら跳躍する!


「【フライングキック】!」


 壁に向かって蹴りを繰り出す。壁を蹴った瞬間、当然衝撃が返ってくるので、その勢いのまま方向転換。跳んできた方とは違う方にまた跳ぶ。更に勢いをつけ、今度は地面をそのまま蹴り加速。その繰り返しだ。


「おっとっと……もう壁か。楽しかったぁ……!」


 時間にすればほんの十数秒だが、ひたすらに走ることに没頭できてよかった。走る時にぶっつけ本番で蹴撃スキル使ったが、なんとかなるもんだ。


「ヨミくん、速いね……!?」


 余韻に浸っていて気が付かなかったが、いつの間にかスカイが追いついてきていた。


「いやいや、加速スキルは使ってないからこんなもんだろう」

「それにしても速いよ! やっぱり、私じゃヨミくんのスピードにはついてけないかもね……」


 それはそうだ。俺は一人で走ることしか想定してなかった。小学生の頃、サイクリングに誘われたこともあった。試しに参加してみてそれはそれで楽しかったが、一番の目的である速さを体感することはできなかった。どうしても友達にペースを合わせる必要があったからだ。だから一緒に速さを感じることなんて考えなかった。


 一番長い付き合いの天日も、あんまり興味を示さなかったからな。仲はいいけど。


「うーん、やっぱり私がついて行けないのはちょっとまずくない?」

「え、なぜだ?」


 首を傾げて聞き返す。俺が走れればいいんだから、最悪パーティ組まずにソロプレイでもダメではないと思うが。


「だってヨミくんは戦わないんでしょ?」

「まぁできなくは無いけど、あんまり戦闘に興味無いな」

「この先ゲーム続けるならいろんな国に行くよね?」

「そうだな。どうせならいろんな景色を見てみたいな」

「他の所に行くほどモンスターも強くなるけど、そこはどうするの?」

「! 確かにそうだな……」


 現実世界なら外をうろついても別に平気だろう。だがこの世界はモンスターが外を普通に徘徊している。対処法が無ければうろつくのは無理だろう。


「うーん……例えばスカイが敏捷を上げて俺についてくるとか」

「流石に無茶かな……。私走るの苦手だし」


 駄目元で提案してみたが苦笑いで返された。


「やっぱりヨミくんが最低限戦えないとダメじゃない?」

「しかし、速さに関係ないスキルとかステータス上げるのはどうも抵抗があるな……」


 蹴撃スキルの習得も、実は俺の中ではグレーゾーンに近かった。なんとかしようと、そこから考えること五分。一個だけアイディアを思いついた。


「ヨミくん……」

「ん? これダメか?」

「流石にこれはどうかな……!? なんで私がヨミくんに()()()()()()の?」


 俺が考えたアイディアはこうだ。俺自身が戦えない。そして他の人は俺のスピードについてこれない。なら、戦える人が俺と離れないようにすればいいと言う発想だ。


「俺が走るから、スカイが上から矢を射つ。そう、流鏑馬スタイルだ」

「それだとヨミくんは馬になるんだけど」

「そこは仕方無い」

「仕方無くないからね?」


 まぁ見かけは悪いかもしれないが、やってやれないことはないはず。


「ていうか……私なんだけど……その……」

「ん、どうかしたか?」


 後ろにいるので顔は見えないが、声のトーンでおそらく言い淀んでいるのはわかる。体をもぞもぞ揺らしているのも伝わるし。


「私、その、お、重くない、かな?」

「ああ、それなら大丈夫。むしろ軽くなってるぞ」

「ホント!?」

「いつもより胸が無いからな」

「デリカシー!」

「ぐはぁ!?」


 本日二回目の脳天への攻撃だった。頭の芯に響く。

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