十三
全く持って忌々しい。
俺は、不機嫌さをぶつけるようにそばにあったグラスを壁に叩きつけた。
「おいおい。そう安くないものだ。簡単に壊してくれるな」
「うるせぇよ。色々とうまくいかなくて苛々してんだ」
ノルベルトが俺に小言を言ってくる。
まあ、確かに今のグラス一つで金貨一枚――元々いた世界で百万円くらいの価値だが――もするんだから文句も理解できるが、今の俺がそれどころじゃない。
思えば、この世界に転移してからうまくいかないことなんてなかったんだ。
冴えない大学生だった俺は、突然この世界に転移した。
そしたら、神とやらが出てきてわけのわからないことを言ってたんだ。
『あなたはスキルメイカー。条件さえ整えばあらゆるスキルを作り出すことができます。そんなあなたにやってほしいことは一つ。他のメイカーを殺しなさい。さすれば願いが叶うでしょう』
『は? メイカーってなんだよ』
『メイカーとは、罪を背負った罪人。ですから、あなたがその罪を裁きなさい。七つの罪を背負った罪人をさばいたその時あなたの望みは――』
そう言って消えてしまった。
わけがわからない。
最初は、メイカーとやらを必死になって探したが、そんな奴らは見つかりゃしない。
だから俺はスキルメイカーを使って、この世界で無双することにしたのだ。
そうなると、俺はあっという間に勇者だなんて呼ばれて。
ちょろいもんだった。
金も、権力も、女も。
前の世界でできなかったことは大概やった。
だからだろうか。
ふざけんなって思ったんだ。
俺は、この世界でひどいくらい順調な人生を送っている。
だが、なぜ前世ではそれができなかった?
そんなこと許せない。
俺が知っている奴が、俺がいないところで好き放題やってるのがむかついた。
だから、俺は今のまま、元の世界に帰りたいと思ったんだ。
そうなれば、きっと人生余裕綽々だろ?
だから、メイカーを探した。
そもそも、メイカーっていうんだから何かを作り出すんだろう。それも、簡単なものじゃない。俺のスキルみたいな、普通じゃ作れない、何かを。
つまり、よくわからないが、すごいことをやってるやつや強い奴がメイカーの可能性がたかいってことだ。
それも我慢ならない。
どんなスキルを作れる俺よりも、すごいだって? 強いだって?
そんなの許されるものじゃないだろう。
文字通り、ふざけんな、だ。
そんなことを思いながら、変わったスキルを持っているやつを探した。
まあ、スキル『強直感』を使ってサンタモスカの街に来たから、いるだろうとは思ったが。
そして、案の定、メイカーが見つかった。
スラムにいた孤児に話を聞いたらすぐにわかった。
だが、本を生み出す?
糞の役にも立たないそんなスキルを持っているらしい。
なら、そんな奴さっさと殺せば、元の世界に帰ることに一歩近づくってもんだ。
やっぱり、人生ちょろいな、って思っていた――。
だが、それは違っていた。
メイカーの野郎は、よくわからないスキルの力を持っていた。
開拓村で獣人を従えて国とやらを立ち上げるらしい。
しかも、この俺を殴りつけるんだからな。
まじにふざけてやがる。
「くそぉっ!! いい加減、あの野郎はみつからねぇのか!? 町の近くに門があんだろ!? そこにいけば一発じゃねぇか!」
「門はあるんだが……商人の話だと入り口がなくなっているらしくてな。中を出入りする人間はいるにはいるらしいが……すぐに雲隠れしてしまい見つからない」
「ちっ……まあいい。見つかれば、あのガキは俺が殺る」
「ああ、そのあたりは安心しているよ……」
「そのために、こっちには人質がいるんだしな。それに――」
俺は、地下に閉じ込めているレイカとかいう女と、ほか二人を思い出す。
そして、これから俺の策略にはまるあのガキを思うと、ついついにやけてしまった。
「あの女は強情だが、それなりにいい仕事すんだろ。ノルベルト。お前ができるだけ穏便にって言ってたから待ったがよ。そろそろいいのか?」
俺がそう聞くと、ノルベルトは、普段から顰めている表情をさらに歪ませて声を絞り出した。
「まあ、な。本当なら、エンドという少年が持っている利権を回収してからにしたかったが……。もう一か月だ。それが、お前との約束だったからな」
「ははっ! これでようやく面白くなってきやがった! さぁ! っと……。始めるのは明日にするか」
「ん?」
ノルベルトの視線が俺を貫く。
どうせ、俺がすることに感づいているんだろう。
まあ、見られたって俺がやめることはない。
いつも通りのことだ。
「今日は、あいつが壊れるまで嬲って、明日にしよう。あの女も、いい加減死にたいって思うだろうしな」
「いい加減にしておけよ。一応、あの娘は他国の王女なんだぞ?」
「没落した、だろ? いいんだよ。身分の高い傲慢な女が泣いてよがり狂うのがいいんだ。人質には手出ししないって約束は守ってるよ。安心しろ」
「ああ……ほどほどにな」
そう言って、俺は、ノルベルトが用意してくれている部屋へと向かった。
そこにいる、下らない女を辱めにいくために。
◆
私は、下品な笑みを浮かべたシュンの背中を見送ると、小さくため息を吐いた。
「どうにも……あの手の輩は品性にかける。だが……今回ばかりは使えるか」
あの男は勇者だ。
だからこそ、きっとエンドという少年を殺せるだろうし、私は彼の利権を手に入れられる。
だが、あの男がしていることは単なる虐殺。
もちろん、そこに私が加担しているのは確かだが……。
「まあ、得た利権を使えば、あいつに罪をかぶせるのも簡単だろう……。うまく踊ってくれるといいが」
私は、ついつい口元に笑みを浮かべてしまう。
本当に馬鹿な男だ。
あの男のような短絡的な人間をみていると、愚かだという感想しか生まれない。
ふだんはこの笑みを堪えるためについつい顔を顰めてしまうが。
あいつが絶望にひれ伏すとき、存分に心をさらけ出してやろう。
嘲りと、侮蔑を。




