十二
それから一月。
僕は起き上がることさえできなかった。
皆のお陰ですぐに傷は治った。
治らなかったのは、左足だけだ。
切られた左足はどうしても元に戻すことはできなかった。
とりあえずくっついてはいる。だが、前と同じように動かすことはできない。
片足を引きずりながら歩く僕は、きっと役になんてたたない。
毎日、ただ寝ころびながら過ごしていた。
それでも、皆はなにも言わなかった。
ただ、毎日顔は見せてくれる。
若者衆の人たちや村長さん。
ガルガやルルル。そしてカターニャさんも。
オリアーナも顔は見せてくれた。
弟さんが無事なことを何度も教えてくれたけど、今の僕にはそんなこと、どうでもいい。
レイカがいないんだ。
レイカは、僕が作り上げた僕の従者だ。
だけど、決して人間味がないわけじゃない。
僕が勝手に思ってることだけど、しっかりとした人格があって、いつも助けられた。
支えられた。
頼りにしていた。
彼女がいれば、僕はなんだってできる気がしていたんだ。
そう。
この世界の王に。
すべてを守る王に。
なれる気がしていたんだ。
だが、レイカがいなくなれば、僕は何もできない。
ほら、みてみなよ。
あの孤児院の時と一緒で、僕は一人じゃ何もできないんだ。
走ることも。
戦うことも。
レイカを助けることも…………。
スメラギ・シュンの足元にも及ばない僕は、彼には勝てない。
だから、もう、どうしていいかわからない。
なら、もう終わらせてもいいかもしれない。
僕の命は、あの孤児院と一緒に燃え尽きるはずだったんだ。
だから。
そうだ。
もう……。
「だめっ!!」
僕が、自分の剣で自分の喉を貫こうとしたその瞬間。
唐突に突き飛ばされ、それは叶わなかった。
声も出せず倒れた僕は、突飛ばした犯人を見る。それは、オリアーナだった。
彼女は息を切らしながら、僕を見下ろしていた。
その後ろには、ルルルとガルガも茫然と立っていた。
「エンド!! 何やってるのよ!! 死んでどうするの!?」
「もう僕にできることなんてない。だから終わりにしたいんだ」
「そんなことない! この世界を国にするんでしょ!? みんなを守るっていったじゃない! 私の弟だって、元気になったらエンドに仕えるんだって張り切ってるんだよ!? もっと――もっとちゃんとしてよ!!!」
ちゃんとして欲しいのは、オリアーナの理屈だ。
僕が望んだことじゃない。
「エンド……死ぬなんて言わないで。ルルル。エンドに死んでほしくないよ?」
「それはルルルの気持ちだろう? 僕は別に死んだっていいんだ」
「エンド…………」
悲しそうにみるルルルの視線。
僕は、その視線から逃れるように逸らすことしかできない。
「おい。エンド」
こんな時でも凄んでくるガルガ。
相変わらずだな。
でも、僕はもう君と戦うことはできないんだ。
「おめぇは言ったよな。全部守るって。だから、俺はお前に任せたんだ。仲間達も、これからの未来も。だが、なんだ今の様は。すっかり腑抜けやがって。好きな女を守れなかったことが、そんなに悔しいか。あぁ?」
好きな女……レイカのことを言ってるのかな?
レイカのこと。
僕は好きだったのかな?
でも、こんなに落ち込んでいるんだ。だから、好きだったかもしれない。
けど、そんなの僕にはどうでもいいんだ。
だって。
レイカはもういないから。
「ガルガに僕の気持ちなんてわかるわけないだろ」
「あぁ、わからねぇな。好きな女奪われて、一か月も寝ころんでだらけてやがるやつの気持ちなんて全然わかんねぇよ!」
ガルガはそういうと、僕の胸倉をつかんで放り投げた。
「ほら、立て! 右足は残ってんだろうが! 守るんじゃねぇのか! 全部を! レイカのことだって、お前は守るんじゃなかったのかよぉ!!」
「……うるさい」
「いいから聞け! さんざん皆に心配かけやがって! だがな! いい加減限界なんだよ! そんなしけた面してんじゃねぇよ!」
ガルガは叫びながら、僕を殴りつけた。
痛い。
だけど、心のほうがもっと痛いんだ。
こんな痛み、取るに足らないんだ。
「俺は! てめぇに助けられたんだ! 俺一人じゃなくていい! もう、仲間達をたった一人で守り続けなくていいって思ったあの時! 俺は、てめぇに救われたんだよ! わかるか!? この気持ちが! 俺はてめぇに助けられたんだ!」
ガルガが泣いている。
なんで、お前が泣くんだよ。
いたいのは僕なのに。
どうして、お前が……。
「私だってエンドに助けられたんだよ!? 弟が人質に取られて! それでも助けてくれるっていったエンドに、私は助けられたんだ! 今じゃ、弟と一緒に、やりがいのある仕事も任せてもらえて! エンドがいなかったら私! きっと今も腐った仕事しかしてなかったもん!」
オリアーナも泣いていた。
喜んでればいいんじゃないのか?
どうして、君が泣くんだ。
その涙をみる僕の心が痛いんだ。やめてくれよ。
「ルルルも! エンドにみんなを助けてもらった! 難しいことはよくわかんないけど、今、ルルル、楽しいよ!? だから、エンドも、一緒に――」
一緒に何をするんだよ。
やめてくれよ。
もうつらいんだよ。
何もしたくないんだ。もう、何も。
だから、もうやめてくれよ!!
「一緒に――レイカを助けようよ!!」
「え……」
レイカを助ける?
僕でも助けられないのに?
そんなの不可能に決まってる。
そんなの――。
「てめぇは本当に馬鹿だ。あの女を助けるために協力しろっていったら、すぐに助けてやんのによ」
「そうだよ、エンド。レイカさん、本当に大事なんだよね? だから、一緒に助けよう? 私だってできることがあれば頑張るんだから」
「ルルル、レイカとまたあそびたいもん! だから、エンド! 一緒にたすけようよ!!」
「でも……レイカはきっとスメラギ・シュンに捕まってて……」
そうだ。
あいつにはかなわない。
今の僕じゃ勝てない。
そう思っていた僕の脳天に、ガルガの拳骨が降り注ぐ。
「いっ――」
「だから馬鹿だって言ってんだよ! たしかに、てめぇはここにいる連中の中で一番強い。だけどな、強さだけじゃねぇんだよ。別にそのスメラギってやつを倒さなくてもレイカを助けられるかもしれないじゃねぇか」
「そうだよ! そういう搦め手が得意な人だっているよ! わ、私もそういうの、少しなら考えられるしね」
「ルルル! そのスメラギっていうの、やっつけちゃうからエンドは安心してレイカを助ければいいよ!」
「みんな……」
泣きながら、笑うみんなの笑顔をみていて。
僕の中で何かがつながった。
そう。
はじめてかちりと、何かがつながったのだ。
僕は力を手に入れた。
世界を手に入れた。
仲間を手に入れた。
そのすべてを守ろうとおもった。
けど、それを全部ひとりでやることなんてなかったんだ。
頼もしい仲間がいる。
なら、それを頼ればいい。
一人じゃない。
みんなで、レイカを助ければよかったんだ。
今も無事かわからない。
けど、それを確かめもせずに諦めるのは……嫌だ。
僕は、欲張りなんだ。
全部守るんだ。
「あ、ありがとう……」
僕は、それ以外にも伝えたいことがいっぱいあった。
だけど、嗚咽がそれの邪魔をする。
必死で涙を拭う僕を優しく受け入れてくれた仲間達。
こんなところで折れてちゃいけない。
反撃、開始だ。




