七
皆の顔を見ると、同じように目が見開かれていて、同じようにおびえたような表情を浮かべている。
別に、怯えなくたっていいのに。
ただ単に、僕が怒っているだけなんだから。
「ガルガ、手を下せ」
「あ……あぁ」
彼をじっと見つめながら一言伝えると、彼は茫然としたままその手を下した。
「僕の前でもめ事は許さない。そんなこと、僕がいつ認めた?」
誰も何も発さない。
都合がいいとばかりに、僕は言葉を連ねていく。
「守ってもらうのはいいよ。約束したことだしね。でも、だれも無償でなんていってない。戦う前から諦めて、勝つための考えを放棄する。今の君たちはそうだよ。レイカが負け犬っていうのも分かる気がするよ」
エンドの言葉に俯く面々。
さすがのガルガも、ばつが悪そうに目を逸らした。
「僕がなんのために皆を集めたと思う? 死を宣告したかったわけじゃない。絶望を共有したかったわけじゃない。僕は、彼らに勝つ方法を話し合いたかったんだ。もしそれができないなら、この場から去ってほしい。もちろん、別に世界から出ていけなんていうつもりはないよ? ただ、戦う意志のない君らの代わりに戦う意志のある誰かを連れてきてくれれば、それでいい」
僕はそういうと、解放されたレイカにほほ笑みかけ話を続けた。
レイカは、今のやり取りを特に気にした様子はなく、服の乱れを正しながら僕のほうに歩いてきてくれる。
「レイカ。とりあえず僕は、オリーン伯爵に直接話してこようと思うんだ。戦いは受け入れるけど、避けられるならそれが一番いい。その時に、レイカに一緒に来てもらいたいんだけど、いいかな?」
「もちろんです、エンド様。それならば、一応果物や布など、名産品をすこし持っていきましょうか? 心証がよくなるかもしれません」
「そうだね、頼んだよ。まあ、それでもだめだった時のために対策を立てておこうと思うけど……冒険者ギルドはどっちに転ぶかな?」
僕がレイカに問いかけると、彼女はうつむいて考えるように小さく唸る。
しばらくすると、彼女なりの答えを僕にくれた。
「報酬があれば大丈夫ではないでしょうか? この国の開発は遅れるかもしれませんが、潰されては元も子もないですからね」
「なら、ギルドをこちら側に味方に付けよう……どうしようかな」
「それなら、俺達が報酬に見合う何かを作ってやるよ」
唐突に割り込んできたのは、鼠人族のチュータだ。
僕とレイカが彼を見ると、どこか気まずそうに鼻の下をかいている。
そんなチュータの様子を見て、僕はつい笑みをこぼしてしまった。
「何が作れる?」
「そうだなぁ……あの布は評判がよかったんだろ? なら、あの布をいくつか見繕ってだんぁ……そんなに大層なもんじゃないが、魔道具を作れるやつだっているな」
「へぇ! それはすごい! できたら見せてもらえるかな?」
「ああ、任せとけ!」
僕がお願いすると、チュータは嬉しそうに微笑んだ。
「このまま引き下がれねぇからな」とつぶやいていたのはあえて聞かないふりだ。そう思ってくれたら、僕も頑張ろうって思えるし。
そのやり取りを見ていた若者衆だったが、我先にと僕に提案を重ねていった。
「それでは、オリーン伯爵が何かお好きか、私達が調べてまいります。少しでも有利に交渉をすすめられるかもしれません」
「でも、それだとできなかったときにやられるにゃ。敵の戦力の詳細がわかると、うちらもやりやすいにゃ」
「我が犬人族は戦いの時のために、どのようにすれば有利になるか、作戦を考えてみましょう」
「僕らは、防壁のための囲いをつくるよー」
少しずつだが意見が出てくる。
一つずつは大したことはないかもしれないが、それらが合わさればきっと大きな力になるだろう。
がやがやと議論が煮詰まっていく中、どこか所在なさげにしていたのはガルガだ。
彼は、レイカに手をあげた手前、どこか気まずいのだろう。
こっちを気にしながら、割りやすく拗ねている。
僕とレイカは目を見合わせて肩を竦めた。
僕ら二人は、落ち込むガルガに近づいていく。
「ガルガ様」
レイカが呼びかけるも、無言だ。
無視しているというよりも、顔向けできないとかそんな心情なのかもしれない。
「ご自覚なさいませ」
「自覚だと?」
しゃがみ込むガルガをレイカが見下ろす形だ。
「ええ。あなたはここにいる者達んお中で一番強いのでしょう? その一番強い筆頭が、エンド様とぶつかり場を乱してどうするのですか」
ぎりっ、と歯をかみしめる音が聞こえた。
ガルガは悔しそうにレイカを睨みつけている。
「私はエンド様をお支えする従者です。ですが、私では彼を守れない。ならだれが守るか……そんなのは、わかり切っていることでしょう?」
ガルガはその言葉にはっとした表情を浮かべると、しばらくうつむき、そして再び顔を上げる。
その視線は、まっすぐエンドを見つめていた。
「エンド……もう一度聞くぞ。俺達は一万に勝てるのか?」
「君がそのつもりならね」
「俺が……鍵ってことか?」
「んー、大きな役割はになってると思うけど――」
ガルガは自信がないのかもしれない。
虎人族は強い。
だけど、ただ強いだけじゃ、生き残れないのがこの世界だ。
彼は知っているんだろう。
数に蹂躙される恐怖を。
手の届かないところで、誰かを失う無念さを。
だから、彼は恐れているんだろう。
自分以外が戦うことに。
自分じゃ庇いきれない、その戦力に。
「僕から言えるのは、ガルガ。僕が勝つんじゃない。ガルガが勝つわけでもない。皆で勝つんだ」
「皆で……」
「そのためには、腐っている暇も落ち込んでいる暇も下を向いている暇もないよ? 死に物狂いであがかないと」
僕はそれ以上言うことはないとばかりに、皆が議論しているところに歩いていく。
レイカもそれについてきた。彼女の肩越しにちらりと後ろを向くとガルガが立ち上がるのが見えた。
その視線の鋭さはそのままに、輝きが違っていた。
みんなをまとめるのってなかなか大変だなと思って小さく息を吐くと、レイカがそっと僕の肩に手をのせてくれる。
「やりましょう」
「そうだね。僕らの国はここからだ」
ここで勝てなきゃすべては始まらない。
すべてを守るために。
戦いを始めるのだ。




