六
曰く。
このサンタモスカの街はクオリアル王国の領地にあり、街の周辺の土地はオリーン家が陛下からいただいたもの。だから、ここに国を築くことは認めない。
曰く。
領地の中に街を作るのはかまわない。しかし、もし作るのなら得た利益から税をとる必要があること。
曰く。
獣人が中心となる街は認められない。管理官として国から派遣される役人を配置すること。
曰く。
これらが認められなかった場合、武力行使による排除も辞さないこと。
ノルベルト・オリーンから届いた書状にはそのようなことが書いてあった。
僕は、それを読んですぐに、町のみんなを呼び集めた。
「……というわけなんだ。何か質問は?」
若者衆を目の前にして、僕は淡々と説明した。
みんなの表情を見ると、一様に険しい顔をしている。
しばらく押し黙っていたけど、口火を切ったのはドロフェイだ。
「エンド様。発言をよろしいでしょうか?」
「うん、もちろん」
「一応、隣にある街ですから色々と調べております。ノルベルト・オリーンについて」
僕は静かに頷くと、ドロフェイは目をつぶりぽつり、ぽつりと言葉を吐き出した。
「ノルベルト・オリーン。サンタモスカの街といくつかの村を治める貴族です。貴族位は伯爵。サンタモスカという大きな街を治めているだけあって、領地運営の手腕は評判がよく、王都での地位もそれなりだとか。港町があるため、諸外国との小競り合いもあるようですが、しっかりと国を守っているらしいのです。資金が潤沢なおかげか、軍備にもしっかりと予算を組み、大きな騎士団を編成しているとか。ちなみに、街の人口は五万人、騎士団は二千人。民兵も加えると、およそ一万もの戦力を持っているとのこと」
改めて聞くと、大きな街だと心底思う。
対して僕らの町はまだ移住者がいないから、六百五十人程度。そのうち戦えるものは数えたことないけど、二百人いないくらいだろうか。
うん。
この戦力差はなかなかだね。
「つまり、我らとの戦力さは五十倍……」
「そんなの、勝ち目ないにきまってるにゃー」
犬人族のモモが青ざめた顔で、猫人族のニコルは仰向けに寝転んで互いに絶望を口にする。
「安住の地が突然地獄に早変わりとは、さすがに展開が早すぎねぇか?」
「どうしようー」
鼠人族のチュータ、熊人族のブルカスタも同じように嘆いていた。
だが、ガルガは違っていた。
相変わらず鋭い視線を僕に向けて、じっくりと観察しているようだ。
おそらく奇妙なのだろう。
僕はとても落ち着いているし、焦ってもいない。
でも、それも当然だ。
僕は、国として認めさせると決めた。
この場所も公表した。
それならば、こなることは簡単に予想ができた。書状が来ただけでも大分緩い。
「おい、エンド」
「どうしたの、ガルガ」
「こいつらは諦めちまってる。俺だって。さすがに一万の兵と戦って勝てるわけがねぇと思ってる。だが、お前は違うのか? 手はあるのか?」
きっとガルガは僕に期待してくれているのだろう。
一対一でガルガに勝てるのはこの世界では僕だけだし、この世界の力、金の力、彼らがもっていなかった力を僕は持ってる。
けど、もちろん僕一人じゃ勝てない。
そんなのはわかり切っている。
だから。
そんな風に頼られても、何もしてあげられないんだ。
「正直、今のままじゃ無理だろうね。勝てない」
「お前が言ったんだぞ? 国として認めさせるって!!」
突然立ち上がったガルガは、今にも殴りかかってくるような勢いで僕に詰め寄ってきた。
後ろの面々をみるとやや非難めいた視線を向けてくる。
そんな彼らの様子を見ていたレイカは、不機嫌そう呟いた。
「すっかり負け犬根性が染みついているのですね」
「あぁ!? あんだとぉ!!」
ガルガがレイカに胸倉をつかんだ。
後ろに座っていた若者衆の面々も、馬鹿にされた怒りで立ち上がる。
だが、レイカはそんな彼らを冷たい視線で見下ろしているだけ。
そんなレイカの様子にガルガ達は怒りを膨らませていった。
「誰が負け犬だ、誰がぁ!」
「わかっているのでしょう? それはあなた達です」
「そのような侮辱。捨て置けはせんぞ!」
「そうだにゃ。さすがのニコルも怒ったにゃ!!」
「俺らだって必死にやってきたんだよ! そんなこと、やっぱり人間にわかるはずないんだなぁ!」
「ひどいよー」
一斉に避難の言葉を浴びたレイカだったが、やはり語ることは変わらない。
どんどんと温度が下がる彼女の様子には誰一人として気づかない。
「危機に陥るや否や、主人であるエンド様に批判的なことをいい、現状に嘆く。ほら。負け犬以外の何物でもないでしょう?」
「この――――」
今まさに、ガルガが拳を振り上げた。
レイカはその拳をじっと見つめている。
そんな二人の様子に、僕は一言だけ言葉を投げつけた。
「やめろ」
僕の言葉に、ガルガを含めた皆が視線を向けた。




