五
自然と、僕らの町は噂になり、人が集まってくるようになった。
そうなると、物もお金も、今までとは比べ物にならないほど行き来するようになる。
命が注ぎ込まれるように、人が注ぎ込まれたこの町は、ようやく始まったようだ。
僕は、発展していく町を、にぎわう町を自分の家から見下ろしていた。
僕の住んでいる場所は町の中心。
かなり大きめに作られた屋敷は、僕とレイカが住むには広すぎた。
だけど、日々、オリアーナから受け取る上納金のお陰でお金には困っていない。
レイカのすすめで獣人の中から使用人を雇って、家を維持してもらっている。
今日も、美味しい料理を作ってくれた使用人の人に感謝の言葉を述べるところだ。
「ありがとう。いつも美味しいご飯を作ってくれて」
「いいんですよ、エンド様。むしろ、私はこうやってお役目がもらえてうれしいんですから。でもよかったんですか? ルルルもここに一緒に住み込みさせてもらえるなんて」
「もちろん。カターニャさんもここを自分の家だとおもってくれれば、僕もうれしいです」
そう。
雇ったのはカターニャさんとルルルだ。
まあ、ルルルはおまけみたいなものだけど、夫もおらず仕事もなかったカターニャさんにとって悪い話ではなかったのだろう。
僕が頼んだらすぐに了承してくれた。
そんな同居人であるルルルは、あの戦いからガルガと一緒にいることが多くなったようだ。
二人は、いつも町から遠く離れた場所で訓練をしているらしい。
いつも二人で僕の屋敷に泥だらけで帰ってくる。一体何をやってるか。
まあ、訓練の内容は謎だけど、二人が強くなってるのは確かだった。
僕はこの世界の人々の力を見ることができる。
参考までに、二人のステータスを比較してみる。
ガルガ
19歳
レベル:46
スキル:傲岸不遜(自分より能力の高い相手だと能力があがり、低い相手だと能力が下がる)
力 :5262
素早さ:6845
知力 ;86
魔力 :22
幸運 :8
ルルル
10歳
レベル:22
スキル:幻惑(実体のある幻を作ることができる)
力 :242
素早さ:867
知力 ;20
魔力 :926
幸運 :12
とのことだ。
前の僕よりもガルガは力が強かったし、速度も速かった。
だが、ほかの要素があったから僕はなんとか勝てたんだろう。
ルルルもこの歳の子からするととても強い。ガルガとの訓練が彼女の力を伸ばしているんだろう。
彼女は魔力においては、ガルガよりも優れていた。
もともと、魔法に長けている狐人族だ。そこを利用してガルガとの勝負を引き分けに持ち込むことができたわけだ。
こうして能力を数値にすると、それなりに役に立つことも多い。
僕は、気づいたことはその都度アドバイスをしていった。もっと項目を多くすることも可能だけど、それは必要な時にしか使わなかった。
疲れるからね。
そうやって長所を伸ばしていけば、その人なりに強くなっていく。
一人が強くなれば町が、そしてこの世界が強くなっていくことにつながる。僕は、僕の手に入れたこの世界を守るために、妥協は許さないのだ。
そのために必要な強さ。
それを得るための土壌は手に入れたのだ。だけど、まだ始まったばかり。
僕は気を緩めちゃいけない。
「あぁ? 何みてやがんだよ。そんなとこにいねぇで、俺と戦え」
「エンド! ガルガ! 今日もルルルに倒されてるんだよ! すごいでしょ!」
「うるせぇな。てめぇはいっつも卑怯な手ばっかり使いやがって」
「それはガルガが考えないだからだと思うけど?」
「調子にのんな!」
僕が食堂で二人のステータスをぼんやり眺めていると、いつの間にかガルガがルルルの頭に拳骨を落とし喧嘩が始まっていた。
「おやめくださいませ。屋敷が壊れます」
「そうなったらこのガキが悪いんだよ!」
「壊すのはガルガだから、ルルル悪くない!」
レイカが注意を促すも、二人は聞く耳を持たない。
僕は小さくため息を吐いて、二人の首根っこを掴んで屋敷の外へと放り投げた。
「んなぁぁ!!?」
「うきゃぁ!!!」
地面に転がる二人に向かって僕は口を開く。
「喧嘩するなら外で! その約束が守れないなら、二人とも……昼食抜きだよ」
そんな宣言をすると、二人は途端に動きを止めた。
そして、ぎこちない笑みで見つめあうと、やはりぎこちなく言葉を交わす。
「い、いやぁ。ルルルよ。今日のお前の動きはよかった。なぁ」
「ガルガさんも、やっぱり強いよね。うん、もうお腹がすいちゃうくらいに」
二人は訓練後、僕の屋敷で食事をとるのが通例になっていた。
きっと死ぬほどお腹がすいているんだろう。
ご飯抜きという言葉は、思いのほか二人には効くようだ。
「なら、水浴びをして中に入っておいでよ。カターニャさんがご飯作ってくれてるよ」
「おぅ!」
「うん!」
二人は競うように川に走っていく。
仲がいいのはいいことだ。
「本当に。ルルル様はまだしも、ガルガ様はこの町の護衛団の団長ですのに。あれではルルル様と同じではありませんか」
「きっと、この世界にきて楽しんでくれてるんだよ。好きなことをしててもここにいればだれにも何も言われないからね」
「そうですが……」
納得がいってなさそうなレイカに、僕は静かに言葉を重ねた。
「ガルガは虎人族の村のまとめ役の一人だったんだ。何かあれば、役に立ってくれるよ。あれだけ強いしね」
「何を言いますか。今はエンド様のほうが圧倒的に強いじゃないですか」
僕は明言をさけたかったから苦笑いを浮かべる。
僕のほうが強いとレイカが言ったことをガルガが聞いたらひどいのだ。
前は、一日中勝負を挑まれて大変だった。
言う必要のないことは言わない。とても大事なことだと僕は学んだ。
とりあえず窓を閉めて二人を待とうと思ったその時。
遠くから、モモの声が聞こえてきた。
遠目で見る限り、彼女はひどく焦っているように見えた。
すぐに屋敷に着くと、彼女は肩で息をしながら一枚の書状を僕に差し出してきたのだ。
「はっ、はっ、はっ……エンド様。先ほど関所にいた門番が受け取った書状にございます。送り先は当然エンド様ですが、差出人は――」
――ノルベルト・オリーン。
サンタモスカの街と、このあたりの領地を治める貴族からだった。
とうとうやってきたのだ。
この世界を国と認めさせる、戦いの序章が。




