四
方針が決まると、そこからは早かった。
やはり、各種族が集まったということもあるだろう。
それぞれの長所を活かしながら、すさまじい勢いで集落――いや、町が整備されていった。
この世界の入り口は、とりあえず今まで通り、森の中に設置した。
そして、その入り口が周囲から分かるよう、大きな門も作った。
遠くからみると、森の真ん中にぽつんと奇妙な建造物があるように見える。しかし、そこを通れば、たどり着くのは本の中の世界だ。
入り口からすぐ。
そこには関所のようなものを作った。
ここは犬人族が交代制で常に出入りする人々を監視する場所だ。これで、どのような人が本の中にいるのか大まかだが把握することができる。
これから、ここを公表するにあたって必要な場所だ。
「目ざとい人間達は、もう何人か来たようだ。敵対するような空気ではなかったから今のところは大丈夫だと思うが」
「それでも、きっとトラブルはあるだろうね」
「その時は我らに任せておけばいい。不審なものは何としてもここには入れん」
「うん、頼りにしてるよ」
僕がそういうと、モモはきりっとした表情を浮かべながらも尻尾をぶんぶんと振っている。
とてもまじめだけど、ついつい尻尾に感情が出てしまうあたり、とても可愛い。まあ、これをいうとモモは怒るからあえて言わないけどね。
その関所からまっすぐ伸ばすのは街道だ。
きっとこれから貿易が盛んになれば、大きな馬車も通るに違いない。
そうなれば、街道を整備することは無駄じゃないはずだ。
そのまま行くと、僕らが住んでいる町がある。
今までは各種族それぞれが自由に住んでいたが、多くの人がくるとあればそうはいかない。
僕の屋敷を中心として、およそ一キロ四方を町とすることを決めた。
そして、それを四分割して、適当な間隔で道を整備する。
道を整備するのは、全種族の手が空いている人がやってくれている。熊人族は建物を、鼠人族は家具や小物を作ってくれている。
残った人々によってすこしずつ整備されていく道を眺めながら、ついつい手伝いたくなってしまう。
「エンド様はここの長。皆から仕事を奪うのはどうかと思いますよ?」
「わかってるんだけどね……でも、ついつい」
「もっとやるべきことがあるのですから。ご辛抱くださいませ」
しょうがないなぁ、という苦笑いを浮かべたレイカ。
僕はそんなレイカを引き連れながら、毎日皆の仕事を確認して感謝の言葉を伝えていった。
この世界は疲れてもすぐに体力は回復するし、日に日に皆の技術や体力も向上していく。
普通じゃ考えられないくらいの速度で作られていく町に、僕もレイカも感嘆の声しかでなかった。
整備をしていくに当たって、建材や働く人々の食べ物、衣服なども必要になってくる。
それを補充しつつ、この世界を認知させてくれたのがオリアーナだった。
「な、なんと! このような森の中にこのような場所が!!」
「どうでしょうか? 我がガンドルフィ商会で扱っている果物も、ここで取れたもの。今は私が独占的に販売しておりますが、このようなこの世界独自のものがこの町から外の世界へ流れていくことでしょう」
「そ、それは……あのような珍しい果物や植物がほかにもあると?」
オリアーナは不敵な笑みを浮かべると、招き入れた商人達を案内していった。
「ここはエンド様を中心に作り上げた世界であり町です。この町を構成する人々は獣人族が主ですが、この世界から生み出される富は紛れもなく唯一無二のもの……。私達は差別や迫害を受けていた獣人族を保護し生きていく道を模索しています。もし、よろしければ、あなた方にもご助力を仰ぎたいのです。もちろん……獣人族への援助などお断り、というのなら無理には言いませんが」
「私達に何をやらせたいんだ?」
「普通の貿易です。私達はあなた方が望むものを。私達はこの世界に必要なものを。普通の商売をしようと言っているだけですよ。そこに、種族的な価値観を交えず、という条件が付きますが。まあ……きっとこれからは人間達の価値観を押し付けてくる輩も多くなるでしょう。そうなれば、私達はここから去らなければならなくなります。そうなれば、私達にもあなた方にもどちらも不幸になるかと」
オリアーナは小さい体で堂々と商人達を向き合っていた。
彼女が暗に伝えたのは、商売で得られる冨を得る代わりに、この世界の後ろ盾になってほしいということだった。
今回連れてきたのは大きな商会の面々。
彼らは、下級貴族程度ではいいようにできない力を持っている。
そんな彼らをこちら側に引き込むことができれば、世界の公表後に予想される弾圧からも守ってくれるに違いない。
というより、守ってくれたら金を生む木を差し出すとオリアーナは伝えたのだ。
歴戦の商人達は、瞬時に頭の中で計算をしていく。
獣人達を守るという今までの人間からしたらむしろ非人道的な選択をして富を得るか、それとも従来の価値観を守りながら今までと同じように暮らしていくか。
正直、彼らは大きな商会の人間達だ。
冒険しなくとも既に成功者である。
だとするならば、普通ならこの話には乗らない。オリアーナの撒いた餌に気づくことができなかったのならば。
「うむ。まずは店の者たちと相談してこよう」
「そうですな。すぐに即決はできますまい」
「すまないな、オリアーナ殿。果物はまた仕入れをさせていただこう」
「では失礼」
数人いた商人達は柔らかな断りの言葉をかけて去っていく。
ただ一人の除いては。
「おや。あなたは帰られないのですか?」
「ええ。オリアーナ殿。いくつか質問があるのです。答えていただけますかな?」
「はい。なんでしょうか?」
「あなたは、こういった。人間達の価値観を押し付けてくる輩が多いとここから去らなければならないと。これは妙なことですね」
「どこがでしょう?」
オリアーナはその質問に笑みを浮かべた。
その笑みは、何かを期待するような笑みだった。
「見る限り、あなた方はここを終の住処にしようとしておられる。現に、町は整備され始めており、これをこのまま放置することはありえない」
「さぁ。それでも、迫害を受ければここにはいられません」
残った商人は、オリアーナの視線を真っ向から受けながら言葉を返す。
「私は考えました。そもそもこの場所こそ、エンド様が持つスキルの力です。であるならば……この世界はここにはない。というよりも、この場所をこのままにしておきながら、あなた方だけ移動できる。そんな方法が可能ではないかと思いまして……」
「それで?」
「もしそれが可能なら……サンタモスカの街にいながら、遠く離れた大陸へも移動できるような方法があるのではないですか?」
そう。
オリアーナは確信していたのだ。
エンドの力を用いれば、商人としてならばすべてを牛耳れるくらいには強大な商会になれると。
その利点は、珍しい果物でもなく見たこともない布や工芸製品でもない。
それは、入り口が三つ作れるという利便性だった。
つまり、サンタモスカの街と交流をしながら、大陸をまたいだ向こうの街にも入り口が作れれば。
この街は非常に重要な貿易拠点となるはずだ。
もちろん、その力を制御するためには自分達も力を持たなければならないゆえ、今すぐには実現しない。
だが、わずかなヒントからそれを考え付いた目の前の商人に、オリアーナは感心しつつも警戒の度合いをあげた。
「どうでしょうね? しかし、協力していただけるのであれば、その見返りは必ず」
「そうですか。でしたら、私のこの妄想が現実になることを期待して」
そう言って二人は握手を交わした。
そこからの町の発展は、さらに速度を増していった。
そろそろ毎日更新が難しくなってまいりました。




