三
僕の言葉に会議の参加者達はひどく驚いていた。
ガルガに至っては、怒りすら感じるほどだ。
「てめぇ……なめてんのか?」
「ガルガの強さはよく知ってるよ。でも、狐人族だって戦う種族なんでしょ? 僕はそう聞いてるけど」
「だからって、こんなガキ――」
ガルガはルルルを下に見た発言をしようとしていた。
だが、ルルルはそんなガルガの言葉を遮るように口を開く。
「ルルルは強くなったよ? ガルガはルルルと戦うのが怖い?」
その言葉に、ガルガの額に浮き出ていた血管がこれでもかと怒張する。
「ガキが。後悔すんじゃねぇぞ」
そう言って、ガルガは立ち上がった。
そして、何をいうでもなく集落の外側にある草原へと歩いていった。
僕らやルルルも、その後を追った。
広い草原の真ん中。
そこで、二人は向かい合っている。
身長さは倍以上……力でも速度でもルルルは敵わない。
だからこそ、僕はルルルにアドバイスをした。僕は知ってるからだ。ガルガよりもルルルがすぐれている部分を。
「じゃあ、行くぞ」
「うん。ルルルも遠慮しないからね!」
「よく言うぜ」
ルルルの無邪気な態度にやや毒気が抜かれたのだろうか。
先ほど挑発されたときよりも殺気は抑えられている。
だが、本気を出すつもりなのだろう。
集中しているのが外からみていてもわかった。
二人とも、武器は持っていない。
徒手空拳で戦うつもりなのだろう。
静かに見合っている二人。
その静寂を打ち破ったのはルルルだ。
彼女は地面を蹴ると、一瞬でガルガの顔の前に躍り出た。そして、そのままの勢いで蹴りを繰り出す。
が、当然のようにガルガは躱すと、ゆっくりとルルルに向かって腕を振り下ろした。
「確かにガキにしては早い……が、まだ甘ぇ」
ガルガは疑っていなかった。
この一撃で終わるということに。
そして、予想通りその腕はルルルにぶち当たる。が、その腕はルルルの身体をすり抜けた。
実態のないルルルはすぐにその場に雲散した。
「っ――!?」
ルルルを殴りつけるという衝撃がなく、ややバランスを崩したガルガ。
警戒するように、瞬時に周囲を見回した。
しかし、彼の視界にはきっとルルルはいない。
なぜなら、彼女はすでにガルガの死角に回り込んでいたからだ。
彼の頭の後ろにいたルルルは、力いっぱい後頭部を蹴り飛ばす。
有効なダメージにはならないだろうが、バランスを崩したガルガがたたらを踏む程度の威力はあった。
「この! くそがっ――ぁっ――!!!」
数歩。
よろけたガルガが勢いよく振り向いた瞬間。
彼の足元が消失する。
突然現れた体が全て入り込んでしまうような落とし穴に、当然のように落ちていくガルガ。
そこに間髪いれずに、ルルルは現れる。
なぜだか、さっきまでは持っていなかった大きな剣をもった姿で。
まだ地面に到達しておらずどうにもできないガルガの顔面に、ルルルはその剣を一直線に突き刺した。
きっと勝負はついただろう。
僕は、落とし穴から出てこない二人の元に急いだ。
すると、そこには、剣を突き立てるルルルと、その剣を辛うじて躱した寝そべったガルガが動かずにそこにいた。
ガルガの頬には一筋の線が引かれており、本当にぎりぎりだったのが窺える。
だが、あの一瞬ですべてを絞り出したのだろう。
短時間、そして優勢に戦いを運んでいたルルルの消耗もひどいものだった。
汗だらけであり、荒く息をしている。
ルルルは、もう、持っていた剣を持ち上げることはできなそうだ。
「んっと……この勝負、まだ続ける? それとも引き分けかな?」
僕が話しかけると、ルルルは小さく首を横に振った。
ガルガと目が合うが、やはり戦いを続ける気はないようだ。
そして、同時に口を開く。
「俺の負けだ」
「ルルルの負けだ」
二人同時に自分の負けを宣言した。
すると、ガルガもルルルもその目線を鋭くさせながら声を張り上げる。
「なに言ってんだ! てめぇみたいなガキにいいようにされたんだぞ!? ましてや傷つけられて、こんなの負け以外のなにものでもねぇ!」
「ルルルは全部出し切って倒せなかった! ここが実戦ならルルルは死んでる。だからルルルの負けだ!」
「うるせぇ! ガキは素直に勝ちを譲ってもらってりゃあいんだよ!」
「そんな同情いらない! ルルルを侮辱するな!」
「あんだとぉ!?」
「なんだよ!!」
互いに顔を近づけ威嚇しあっている。
まあ二人の言い分にはうなずける部分はあるけど、これは勝敗をつけるための戦いじゃない。
僕は言い争ってるガルガの肩に手を置くと、彼はばつが悪そうに顔をそむけた。
「どうかな? ついこの間までただの子供だったルルルだよ? 僕の力があれば、皆がここまで――いや、もっともっと強くなれる。僕は皆を守りたい。でも僕一人じゃ無理だ。皆にも強くなって、自分を守れるようになってほしい。それで……ガルガは無理だとおもう? 僕がやろうとしていることが」
僕はじっと彼を見つめていた。
彼だって、虎人族を代表する若者の一人。
であるのなら――。
「しょうがねぇな……」
「しょうがないっていうのは?」
「わかったっていってんだよ!! こんなガキがこんなに強いなんて思わねぇじゃねぇか! だがな……次はねぇぞ。こんな最悪な負け方、してやらねぇ」
「ルルルだってもっともっと強くなるんだから! ガルガなんてすぐにぼこぼこだよ!」
「言ったな、このガキ!」
「へへっ」
とりあえず、会議の面々――若者衆とでも名付けようかな?
彼ら全員の了承は得られたみたいだ。
本格的にこの国を強くするために。
色々と頑張らないとね。
僕はそんなことを考えながら、集落へ戻る道を歩き始めた。




