二
「そ、それは無理なんじゃねぇか?」
「どうして?」
体の大きなガルガが困惑した表情で問いかけてくる。
僕は当然そんな質問がくるのをわかっていた。だから堂々と問い返すことができる。
「だってよ……。さすがにこの街の領主が許さねぇだろうし、そしたらこの領地や国と全面戦争もいいとこだぞ」
「うん。だから、どうしてそれが問題なんだろう?」
僕の質問に、ガルガはむかついたのだろう。
すぐさま立ち上がると、僕に食って掛かりそうになった。が、それを熊人族のブルカスタが止めてくれた。
「ガ、ガルガ! やめるんだ!」
「うるせぇ! こいつはわかってねぇんだよ! 皆が皆、お前みたいに強いわけじゃねぇんだ! 戦えねぇやつだっているし、弱ぇやつだっている! だから、俺達はお前の庇護下に入ったんだろうが! 忘れたのか!?」
牙向きだしで噛みついてくるガルガの様子をみて、僕は少し申し訳なくなった。
というのも、僕はあえて言っていなかったことがあったのだ。
それを聞いていなければ、もちろん無謀なことを言ってるのはわかっている。
しかし今わかってほしいのは、僕の世界に住人には、それが可能になる可能性があるということ。
それを知ってほしかったのだ。
「まあガルガの言うことももっともだと思うよ。けど、思い出してほしい。君たちがここに住み始めた時と今との違いを。特別なことは何もやっていないはずだよ? けど、本当に同じままかな? 何か変わったことはないかな? 今までどうしてもできなかったことがここにきてできるようになったとか……そんなことない?」
僕がそういうと、皆それぞれが考えてくれたみたいだ。
しばらく沈黙がその場を支配する。
それを打ち破ったのは、村長であるググドだ。
「関係ないかもしれないが……儂の腰痛が治った」
ググドはそういうと、背筋を伸ばして見せてくれた。
出会ったときはあんなにも猫背だったにもかかわらず。
「えっと……ググドだけじゃなく、ほかの人も些細な変化ですがあったんじゃないかな?」
ガルガも何か思うところがあったんだろう。
顔を顰めながら言葉を吐き出す。
「てめぇの仕業か?」
「つい最近分かったことなんだけどね」
そう。
すべてはガルガと戦ったあの日の夜から始まったのだ
――――
ガルガとの戦いの後。
僕のスキルのレベルが上がっていた。
淡く光る本を開くと、そこには、
『レベル一:ブックメイカー(本を生み出す力)
レベル二:ウィッシュフォーム(強い想いを描き形にする力)
レベル三:オールクラスプ(世界の全てを把握する力)』
と書いてあった。
「世界のすべてを把握する力?」
そう呟くと、僕の視界が見たこともない光景を映し出した。
傍にいたレイカの顔の横に、なにやら数字の羅列が出てきたのだ。
じっとそれを見つめる僕に、レイカが首をかしげて問いかけてきた。
「どうしたのですか? エンド様」
「いや、なんか、スキルのレベルがあがったっぽい」
「レベルが……」
「えっと、レイカのステータスが見えるんだ。それに――」
意識を集中させると、頭の中にリストのようなものが浮かび上がる。
それぞれに注目すると、それは本の世界にいるものたちの名前や年齢やステータスなどだった。
あまりの情報量にめまいがするも、見たい情報すらコントロールできるらしくすぐに慣れてくる。
「この世界のみんなのも……」
「それは素晴らしい力だと思います。それに、それでですか」
「他にもなにか?」
僕がレイカを見つめると、彼女は静かに頷いた。
「この世界も変わりました。この世界の主として感じるのです。この世界に充満し始めた、力に」
「充満する力?」
「具体的に言うと、例えば人が元々持っている力――筋力や自己治癒力を高めたり、成長を促したり。そんな世界が持つ理が変わったと言いますか……。うまく表現しきれませんが、ここにいれば人は強く丈夫になり、さらには外にいるよりも成長していくということです。もちろん、以前からあったようですが、それが全面的に強くなったように思います」
「それって結構すごいことじゃ――」
「この世界にいる利益は計り知れません」
そのあと、レイカが色々検証してくれたとの聞いたところ、外の世界にいるときよりもおよそ十倍から数十倍ほど全ての力が向上するみたいだ。もちろん、外にでたら一時的な強化はなくなってしまうが、成長率も十倍から数十倍のため、あっという間に強くなっていくと……。
――――
それを聞いた皆の様子はとても面白いものだった。
話すことは違うが、誰もが目を見開きまん丸な瞳を僕に向けてくる。
「それが本当なら、すさまじいことじゃ!」
「俺らの技術も向上してるみたいだしよ! すげぇことじゃねぇか!」
「確かに最近、力が強くなった気がするよー。前までだったらガルガのことを、止められなかったとおもうしー」
「最近体の動きが調子いいと思っていたら、エンド様のおかけだったのですね!」
それぞれが、それぞれなりに称賛してくれる。
そんな中、ガルガだけは渋い表情のまま頷かなかった。
「どうしたの? ガルガ」
「こんな些細な変化で戦争に勝てるほど甘くねぇ。夢物語に命かけれるほど、俺はお前を信じてねぇ」
「ガルガ! エンド様になんてことを――」
「いいんですよ、ググド」
それはそうだ。
彼に気持ちもわかる。
それは、仲間を思う気持ちだ。
仲間を思うからこそ、自分が信じたことしか信じない。
その姿勢は僕にはとても好ましく思えた。
「直ぐにそれを信じれもらうことになりそうですから。ねぇ、ルルル」
僕が後ろを振り向くと、そこには狐人族の娘、ルルルが立っていた。
その表情は桃色に染まっている。急に視線が集まったから照れているんだろう。
「ねぇ、ガルガ。ルルルと戦ってみてよ。きっと、それでわかるから」




