一
ガルガがやってきてから数十日後。
本の世界では、中にいる住人による会議が行われようとしていた。
といっても、いつも集まる広場の真ん中で顔を突き合わせるだけだ。
その中心には僕がいて、円状に他の人も広がっていた。
「では、これより会議を始めるとするかのぉ。よろしいか? エンド様」
「うん、お願いします」
その指揮をとるのは、狐人族の長だ。
元々、狐人族は魔法に長け戦闘において一目を置かれる種族だったが、今はその中心にいた人物達がいないため、とりあえずは他種族の手伝いと、最も年齢を重ねている村長さんをこの集落をまとめる長とした。
「この度はエンド様の作り上げられた世界の一つの集落をまとめるものとして、このググガを選んでくださった。できるだけ皆と手を取り合ってやっていければと思っているので、よろしく頼むのじゃ」
集められた面々は静かに頷いた。
それを見たググガ――実は名前を今知ったけど――は、まずはこの会議の議題を提示する。
「それでは、まずはエンド様の考えを伝えしよう……。まず、エンド様はこの世界を一つの国として作り上げていくことを決意された――」
そう。
僕は村長さんと何度か話し合い、今後の方針を考えたのだ。
というのも、この前のオリアーナのことや、ガルガのことなどもあり、僕が守りたいというものをより守れる体制を作らなければと考えた。
足りないものを考えると、気づいたのはすべてを揃えたらそこは国になってしまうかもしれない、という突拍子もないことだった。
まずこの国に足りないもの。
それはルールだ。
今は、各種族それぞれの決まりを独自に守っており、この前のように不測の事態が起こるようなことがあれば指示を出す人間が必要になる。正直、僕はそんな役目はとてもじゃないけど担えないと思って村長さんに頼むことにしたのだ。
最低限のルール作りはここにいる人たちに決めてもらう。その責任者には、人生経験が一番長い村長さんがふさわしいと思ったのだ。
次に足りないもの。
というか、ここにはすべてが足りないが、人が生きる上で必要なのは食料であり住む場所であり衣服だ。衣食住というように、この三つがかけるとなかなかに人間らしい暮らしは営めなくなる。
そこで、僕は彼女にすべての物資についてやり取りを任せることにした。
「では、貿易については、オリアーナ殿」
「うん。エンドからはこの世界と外とのつなぐ窓口になってくれって言われたから全力で頑張るわ!」
オリアーナが皆と会った時の反応はそれほど悪くなかった。
彼女は獣人に物怖じしなかったし、獣人の存在を下にみることもない。なにより、商人としてこの世界そのものが魅力的すぎて、自分の商いを大きくすることと比べたら些細な事らしい。
「この場所で足りないものや必要なものがあったら教えてね! 私がなんでも買ってきてあげるから」
なお、僕が持っているお金は殆んどを彼女に預けた。
それを自由に使って、より大きく稼ぐことができたらと思ったからだ。
そう言うと彼女は「絶対に期待に応えて見せるから」と真剣な表情で語っていたのが印象的だった。
「なら俺らはその商品づくりだな! 材料さえあれば、なんでも作ってやっからよ! いつでも言ってくれよな!」
「僕も家を作ることとか協力できると思うからー。いつでも言ってねー」
そういって笑顔を浮かべるのは、鼠人族のチュータと熊人族のブルカスタだ。
各種族からは長ではなく、これからの種族の中心となるだろう若い人達を集めてもらった。そうすることで、新しい国を作っていけると考えたからだ。
チュータは様々な発明品を作っており、ブルカスタはその穏やかな性格と力の強さが自慢らしい。
「なら、俺はこの国を守ってやる。どんな奴らが来ても返り討ちだ」
「そうだな。だが、ガルガ。我らはエンド様の忠臣とならなければならない。勝手な真似は許さんぞ」
「私は自由にやりたいかなー。余計な口出ししたらひどいからね」
そう言ったのは、順番に虎人族のガルガ、犬人族のモモ、猫人族のニコルだ。
ガルガは言わずもがな。
この世界にたてついた張本人であるが、僕が戦いに勝ってからというもの、何かとかまってくるようになった。
戦闘能力ではこの世界一であるため、期待はしている。
虎人族にかんしては、こちらに移住してきたのは数十人だった。
皆、戦うことはできるようだが、それよりも彼らは安寧の場所を求めていた。
戦い続けてきたからだろうか。
料理や家事、洗濯など毎日しなければならなことを好んでいる。この国と守りながら、きっとそちら方面にも尽力してくれるんだろう、か?
モモは犬人族の女の子だ。
きりっとした視線はその正確を表しているのか、真面目なのがこれでもかと伝わってくる。
正直、猫人族とガルガに統率された動きなど期待できないらしいので、犬人族が忠臣となってこの世界の防衛を行ってくれるらしい。
これから、この世界と外とのつながりを公表する予定でいるため、入り口には検問が作られ彼らが駐在することになるだろう。
猫人族は興味関心が多岐にわたるらしく、戦いたいものもいたりものづくりに興味があるものもいたりと色々だ。
その選定は彼らに任せているため、正直、誰が何をやっているか猫人族に限って言えばよくわからない。
「ではエンド様。我らは今までと同様、諜報活動を主にさせていただきます」
「当面は、犬人族と同様に周辺の警戒をしててもらえればいいけどね」
そして、蝙蝠族の代表はドロフェイだ。
彼は、非常に理知的で色々と頼りになる存在だ。
彼らの情報収集能力があれば、これからすることの助けになってくれることは間違いない。
「この世界に足りないものを我らが作っていかなければならぬ。皆で協力しやっていこう。して、エンド様。この後のことはエンド様が?」
「うん。そのほうがいいよね。じゃあ、みんな、細かいところを話し合う前にちょっと聞いてほしんだけど……」
僕は皆の視線が集まるのを確認して、当面の目標を決めた。
それは、これから先、この世界を存続、発展させていく上で重要なものになる。
レイカや村長さんと十分に話し合ったから、ある程度は達成可能だと思うんだけど。
「とりあえず、この本の中の世界を外に公表しようと思うんだ」
「おぉ? そんなのさっさとやればいいんじゃねぇか?」
口をはさむガルガに苦笑いで返すと、僕は今言ったことの次にある目標を伝える。
「もちろんそれで終わりじゃないよ。この世界を公表して、それで――」
――この世界を国として独立させ、外の世界に認めてもらおうと思うんだ。
僕がそういうと、代表の面々の表情が凍り付いたのだった。




