二
僕がギルドに行くと、簡単にお金は前借りできた。
まあ、もらう見込み金額の一割だが、それでも今はかなり助かる。
大体金貨一枚くらいだ。
そして、その足で僕らは大工を訪ねた。
本の世界に入れることはないと思うが、材料の見積もりはできると思ったのだ。
「あぁ? 六十人分の住居だぁ? んなもん……えっとなぁ。一つ作んのに大体金貨二枚だからよぉ……そうだな。金貨百二十枚ってとこだな」
「ひゃ、ひゃ、百二十……」
「まあ、工賃込みでな? 材料だけならもっと安いと思うぞ」
この世界の一般的な平民の月収が大体銀貨五枚程度。
つまり、年収は銀貨五十枚前後だ。
家を一つ買うのに四年間分の収入が必要であり、金貨百二十枚というとに二百四十年分の年収だ。
無理だ。
その二文字が、僕の頭の中を支配した。
「はい……。ありがとうございました」
オークキングの落札見込み金額は金貨十枚以上。オークは銀貨十枚程度のため、到底届かない。
それを百二十枚。
金貨百二十枚だと!
一体どうやって稼げばいい?
果物を売ろうにも、百個売って金貨一枚。
一万二千個の果物を売らないと、家さえ作ってあげられない。
ひたすらランクAの魔物を刈るか? いや、そんなの身体が持つはずがない。
一匹でもぎりぎりだったんだ。
勝負はすぐについたけど、一歩間違えば死んでいた。
紙一重の勝負だったのだ。
それをあと十回以上もやるだと?
いや、それしか方法なないのか。
命を削り家を建てる。
なんとも割に合わない。
「――様?」
そしたらどうすればいい?
どうすれば――。
「エンド様!!」
気づくと、頬をパチンとされていた。視線を向けると、それはレイカの仕業だった。
レイカはなにやらむっとした表情であり、ちょっとだけ怖い。
「エンド様。そんな顔しないでください」
「え?」
「全部、一人で抱えなくていいんです。私も金策を考えますし、狐人族の人たちだってただ施されるだけを望んでいると思いますか? 恩を返すために、負担をかけていると知ったらどう思うでしょう?」
「あ……」
そうだ。
彼らは僕への感謝の意を込めて仕えてくれている。
今の僕をみたら、きっと彼らは悲しい気持ちになるんだろう。
「気づきましたね。全く……。エンド様は自分に優しくないです。もっと、自分に優しくなって下さい」
「自分に……優しく?」
「そうです。自分を責めなくていいんです。もう、そんな必要ないんですから」
「そう、だね。そうだったね」
「はい、そうです」
「できることを一つずつやればいいんだ」
「はい」
そういうと、ようやくレイカは手を放してくれ、そして微笑んでくれた。
僕の心を癒してくれるその笑顔を見ると、なぜだか元気が湧いてくる。
「なら……みんなに果物を取ってきてもらえるように頼もうか」
「はい!」
僕は、本の世界に行って狐人族の人たちに頼むことにした。
今、僕ができるお金儲けは冒険者として依頼を受けることと果物を売ることだ。
とりあえず、僕の冒険者のランクで受けることができる依頼じゃせいぜい一つで銀貨十枚くらい。
仮にうまくいって一日でできたとしても、それなら果物を売ったほうがきっと早く稼げるだろう。
僕はそう思って再び蚤の市に繰り出した。
そうしてその日売り上げた果物は、定期売買も含めて全部で三十二個だった。
「レイカ! たくさん売れたね! これならすぐにみんなの家を建てられるかな!?」
この間よりもたくさん売れた!
もしかしたら、すぐに家を立てるお金がたまってしまうかもしれない。
だって、銀貨三十二枚だよ?
これならきっとあっという間だ。
だが、レイカをみると、その表情は曇っている。
「エンド様」
「うん!」
「このペースですと……増減はありますが、三日で金貨一枚ほどです。つまり、皆の家を建てるための金貨百二十枚を得るためには……」
「うん!」
「およそ一年かかります」
「なっ――」
僕はその言葉を聞いて固まってしまった。
お金を稼ぐのって大変なんだなぁ、とつくづく思いながら。
そして、蚤の市の一角で茫然とたたずむ僕は異様だったのだろう。
あからさまに絶望を体現した表情は、ある程度の注目を集めたに違いない。
だからこそ、近づいてきたのだ。
一人の少女が。
年下に見えるにもかかわらず、どこか風格すら感じるその佇まいで。
肩くらいに降りた髪をかき上げながら、その少女は、僕らに近づきこういった。
「お兄さん。困ってるなら力になろうか?」




