三
「お兄さん。困ってるなら力になろうか?」
そう言ってくる少女は不敵な笑みを浮かべている。
怪しいことこの上ない。
だが、これから客商売をするうえであまりに邪険にするのはよくないのかもしれない。
「えっと、突然話しかけられても困るんですが」
「ははっ! そうだよね! ごめんね。なんだかすごい渋い顔を浮かべていたものだから放っておけなくて。私はオリアーナ。商人をやってるんだ」
「商人? 僕よりも年下だよね?」
「そ! まあ、正確には商人見習いってところかな。お父さんに色々教えてもらってるんだ」
「それで? その商人見習いが何の用でしょう?」
レイカが冷たい視線をオリアーナに向けた。
僕ならきっとたじろいでしまうだろう。
けど、オリアーナはむしろ一歩進み出ると笑顔で返す。
「実は……ちょっと、会話が聞こえてきちゃったんだ。お兄さん達、結構な大金が欲しいんでしょ? でも、珍しい果物を売ってもなかなかうまくいかなくて困っていた。違うかな?」
そう聞かれ、僕は口を噤む。
信用できない人に簡単に情報を与えるわけにはいかない。
「ふふ。急にそんな警戒されたら嫌でも図星だってわかるよ? まあいいや。それでね。実は私も困ってて。まだ見習いだからあまり大きな商材をもっていないんだ。扱えるお金もそこそこだし。でも、見習いといっても自信はあるんだよ。だから、お兄さんに声をかけた」
「つまり……あなたは私達の果物を取り扱いたいと?」
「そうできたらよかったんだけど……。そんなにお金持ってないっていったでしょ? 私が持ってるお金じゃ、大した商いができないんだ」
「じゃどういう……」
「私が、お兄さん達の代わりに果物を売ろうって話。みたところ商売は素人みたいだから。私なら、それだけの商品。もっと大きな商いにすることができる。それで、その利益の一部を私に報酬として支払ってほしいんだよね。お兄さん達は利益を得ることができるし、私も大きな商いをすることで経験になり糧になる。もちろん、報酬はたくさんほしいから精いっぱい頑張ろうとは思うけど」
少女が話した内容を僕は自分の中でかみ砕く。
つまり、僕らは売る術を少女に与えてもらい、少女は売ったことによる利益と経験を得る。
お互いにとって利益のある話だと。
話としては分かる。
それがうまくいけば、僕らとしてもありがたい。
だが、この話を全部信じるわけにはいかない。それこそ、僕はこの少女のことを何も知らないんだから。
レイカに視線を向けると静かに頷いてくれた。きっと同じ気持ちだろう。
「オリアーナ様といいましたね。ではお聞きしますが、その話に私達が応じるとでも?」
「ううん。とりあえず話をしてみたってだけ。突然やってきて儲けさせてあげるみたいなこといわれたら誰だって信用できないでしょ?」
「その通りです。それで……この話はなかったことにして大丈夫ですか?」
レイカが話は終わりとでもいう様に歩きはじめる。
僕も、その後ろを恐る恐るついていった。
オリアーナを横切ろうとしたその時、彼女はそっと、それでいてよく通る声で告げる。
「金貨十枚。私なら、あの果物を使えば一週間で稼ぐことができる」
それを聞いた僕とレイカは思わず立ち止まってしまった。
振り返った僕らをみて、オリアーナは嬉しそうにほほ笑んだ。
「果物の納入は後でいい。成功報酬でかまわない。とりあえず、品物を使わずに金貨十枚。それができたら、私と契約を結んでくれないかな?」
僕とレイカは、とりあえず後日連絡を入れる旨を伝え、その場を後にしたのだった。
◆
「私は反対です」
本の世界に戻った僕は、ひとまずこのことを村長さんに相談しにいった。
というのも、やはり年長者であり村をおさめていた人だ。僕よりも全然知識も経験もあるだろう。
なぜだか、ルルルとカターニャさんも同席してるけど、こっちにくるといつものことだ。
気にはしない。
「ふむ。そうじゃの。たしかに怪しいことこの上ないが……エンド様はどうお考えで?」
「僕? うーん。そうだね。正直、任せてみてもいいかなって思ってる」
「ほぉ」
「エンド様?」
村長さんの面白がるような視線と、レイカの冷たい視線が一斉に僕に向く。
っていうか、とりあえず思ったことを言っただけなのに。
「理由はありますか? あの少女はとても可愛らしかったですが」
「可愛らしい? そういうのじゃなくて、こっちにリスクがないかなって思っただけだから」
僕がそういうと、なぜだかレイカは安心したように息を吐いていた。
よくわからないけど、安心したのならよかったよ。
それよりも、今は商売の話だ。
僕は考えていることを少しずつ言葉にしていく。
どうしてか、最近よく頭がまわる気がするんだ。
なんだか、頭の中がすっきりしているっていうか。
「だってさ。もしだまされたとして、僕らは何を失うの?」
僕の言葉を聞いて二人は眉を顰める。
「僕らはこの世界から果物をとって外で売ってる。もしあの子が仮にだまそうとしたって、失うのは外に持っていった果物だけ。きっと、普通なら果物を育ててる場所とか、ほかにも色々なものをとられるんだろうけど、ここは僕のスキルの中の世界だから。僕が奪われなきゃそれでいいのかなって。まあ、騙されたならそれだけこっちで家を作るのが遅くなるけど……それはしょうがないかなって」
僕がそういうと、村長さんは唸りながら頷いてくれた。
「たしかにの。心配なのは、向こうで商売する権利じゃが、それについては気を付けていれば早々問題ないだろうしの」
「もし、この街で商売ができなくなれば移動すればいいのかもしれません。エンド様の世界はその土地に縛られませんからね」
ようやく柔らかくなった空気に、カターニャさんやルルルも声をあげた。
「この世界は本当に豊かです。果物だけをとっても数えきれないくらいの種類がありますから」
「ルルル、パイナップル大好き!!」
僕は皆の意見を聞きながら静かに頷いた。
「ならあの子に任せてみようか。明日、また市で会おうって話してあるから細かい話もその時にしようかな」
それに……。
「なんか気になるんだよね。あの子……」
そんなことをつぶやきながら、僕はカターニャさんが用意してくれた夕食を食べるのだった。




