一
狐人族のみんなが僕の本の世界に移り住んで一週間ほどがたった。
僕も知らなかったけど、中の天気は基本的には穏やかでとても過ごしやすいらしい。
今のところ雨は降っていないけど、豊富な水源があるって喜んでくれている。
出入りの時に毎回、僕が本を開けてそこに飛び込んでもらわないといけないって思ってたけど、そうではなかった。
出入口はいくつか設置することができるみたいだ。
その出入口はぼんやりとした靄みたいになっており、自由に中と外を行き来することができた。
どうやって隠そうかと困っていたけど、たまたま通りかかった冒険者にはその入り口は見えなかったみたいだ。僕とレイカの真横にあった入り口に対して全く気付いた様子はない。
ならばと、やや人通りが少ないだろう街の近くの森に出入口を設置する。
ここなら、狐人族も人目につきづらいし、危険な魔物もいないから危なくもない。
まあ、僕は持っている本から出入りは自由なんだけど。
もう少しスキルのことを知らないとな、なんて思って彼らの村に行くと、色々な問題が山積みだった。
僕の目からみても圧倒的に足りない。
何が足りないかって、生活必需品がだ。
「えっと、みんなはどこに寝てるの?」
「ああ、エンド様。儂らはそのあたりの木の下で寝ておるよ。ここはいいですな。身を守るという心配がなくて」
「家は建てないの?」
「家ですか……。確かにあってもいいんですが、なにぶん男手がいなくての。木を切るにも、女達だけではなかなか難しいんじゃよ」
そう語るのは村長さん。
お互いに、過剰な丁寧語はやめようということで自然に話してもらっている。
「本当にエンド様には感謝しているんじゃよ。時々、顔を見せてくれると、皆喜ぶとおもうがな」
「わかりました。またお願いすることがあれば声かけますね」
「おぉ、待っとるよ」
こんな感じでいろいろと聞いて回ったけど、色々な人と話した結果やっぱり家を作るのは難しいようだ。
「この世界には、獣や植物はありますが、鉱物や塩などの資源はないようですね。食事の面は問題ないですが、塩は困りますね。どこかから調達してくるしかないのでしょう」
「えっと、狐人族の人たちは全部で何人いるんだっけ……」
「男性が二十一人、女性が四十二人ですね。そのうち、高齢の方は十人ほど。子供が二十人弱といったくらいでしょうか。よくよく聞いてみると、戦えない若い男の人も残っていたらしいのですが、色々とあってふさぎ込んでいるみたいです」
「そっか。全部で六十人……。もしかして、これ以上に増えることって……」
「外敵がおらず飢えることがないんです。すぐにではないですが、当然増えていくかと」
「そっかぁ……どうにかしないとなぁ」
一応、僕に仕えてくれていることになっている狐人族。
まずは、みんなの住む環境を整えないといけないんだな。
「お金もすぐには手に入らなそうですからね」
「うん……オークションっていつ終わるんだろう」
そう。
たくさんのオークとオークキングの死体は、いちど本の中に入れて持ち帰りそして買取をお願いした。
オルカさんが応対してくれたのだが、その時の反応は今までで一番すごかったと思う。
――――
「え? オークキング? 単なるオークではなくて? キング? ですか?」
「だと思うんですけど、違ったらあれなので見てくれますか?」
「それはいいんですけど……え? キング? え?」
理解が追いついていないんだろう。
首をかしげながら僕の顔を見ながらと忙しいオルカさんは、その足で解体場に連れてきてくれた。
やや血なまぐささが残るその場所で僕はオークキングを取り出した。
「え!? 空間魔法!? っていうかこれ! 本当にオークキングじゃないですか!! ど、どういう! いや、その前に! ギルドマスター! マスター!!!!」
オルカさんはそういうと、僕とレイカを放ってどこかに行ってしまった。
「いっちゃったね」
「そうですね。ギルドの責任者を呼びに行ったみたいですよ」
「僕、そういうの緊張するなぁ。何を話せば?」
「聞かれたことに応えればいいですよ。もしなにかあればお助けしますから」
「うん、よろしくね」
そんな会話をしていると、まもなくオルカさんが小走りでやってきた。
その後ろには、何やら大柄のオークみたいな男がやってくる。
「んなっ! 本当にオークキングじゃねぇか! こんなんどこにいたんだぁ!」
「私にもわかりません! ですが、私だけで応対するには荷が勝ちすぎてて」
「ああ、助かった。っと、すまんな挨拶もせず。俺がここのギルドマスターをやらせてもらってるダンだ。噂は聞いている。最速でCランクになった新人っていうのはお前だな?」
大柄で髭がすごくて髪がない。
なにやらすごい人がきたけど、言葉を話している。人間のようだ――。
って、なに失礼なことを考えてるんだろう。
僕は、すぐに頭を下げて挨拶をした。
「あ、僕はエンドっていいます。こっちはレイカ。オークキングを倒したので買取をお願いしたいのですが――」
「それだ! そのオークキングについて詳しく聞かせてくれ!」
すごい剣幕で迫ってくるギルドマスターの迫力にびびりつつ、僕はなんとか事の顛末を説明することができた。当然、ルルル達のことは言わずに。
「そうかぁ。あのあたりだな。一応打ち漏らしがいねぇか確認しないとだな。エンド、助かった! お前が早々に倒してくれたおかげで被害が最小限にすんだ」
「いえ、僕もたまたま見つけただけですから」
「ああ! 報酬は期待しててくれよ! って言いてぇところだが……」
「え? 報酬はもらえないんですか?」
「いや。当然報酬はあるに決まってる! だがな、Aランクから上の魔物は、王都のオークションに出すって決まりがあってな? そのあとまとめて報酬を渡す決まりになってるんだ。もちろん、今回の功績があるから色もつけるが、手続きがめんどうでなぁ」
「そういうことなんですね」
「ああ。細かい査定が決まったら、また連絡すらぁ!」
そういって、ギルドマスターはどこかにいってしまった。
僕らの横では、ギルドの職員の人たちが大急ぎでオークキングの死体に保存魔法をかけている。
「ちゃんと評価してくれるならよかったよ、さぁ行こうか、レイカ」
――――
そんな風に一部金さえもらわずに帰ってきてしまった。
あの時は急にお金が必要になるなんて思ってもみなかったから。
「今からでも、少しだけ前借りみたいにさせてもらえるかな?」
「もしエンド様が狐人族の支援をするというのなら、必要かもしれませんね」
どうにかしてお金を稼がないとなぁ、なんて思いながら、僕は街のギルドへ向かった。




