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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
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8/71

神託ログ08 鍛冶神、静かにキレると思ったら大噴火

朝。


目を覚ますと。


神託が一つ。


浮かんでいた。


【鍛冶神ヴォルグ】


『起きろ』


「……起きた」


『来い』


「どこに?」


『鍛冶場』


「場所知らない」


『案内する』


「…………」


会話終了。


俺はしばらく。


何も表示されなくなった神託を見つめた。


「短っ」


今日の担当。


鍛冶神ヴォルグ。


七柱の中でも。


圧倒的に口数が少ない。


ガルドはうるさい。


セレナもよく喋る。


メルクは金の話になると長い。


フィリアは優しい。


ノアは真面目。


エリオスは――。


まだよく分からない。


そして。


ヴォルグ。


『来い』


以上。


「……楽でいいか」


少なくとも。


ガルドみたいに朝から走れとは言わない。


セレナみたいに魔力3を擦ってもこない。


メルクみたいに所持金と借金を並べて心を折ってもこない。


無口。


落ち着いている。


職人気質。


たぶん。


七柱の中では。


かなりまともな部類。


この時の俺は。


本気でそう思っていた。



◇ ◇ ◇



街の東側。


職人たちの工房が集まる区画へ入ると、空気が変わった。


金属を打つ音。


火の爆ぜる音。


鋸が木を削る音。


革を叩く音。


通りを歩くだけで。


いろんな音が聞こえる。


匂いも違う。


炭。


鉄。


油。


木。


熱された金属特有の。


少し鼻につく匂い。


『右』


「はい」


『次を左』


「はい」


『そこだ』


「本当に必要最低限しか喋らないな」


『問題か』


「いや」


むしろ。


昨日までの神様たちが濃すぎた。


今日は静かに過ごせそうだ。


案内された先には。


一軒の鍛冶場があった。


入口は開いている。


中では。


大柄な男が。


赤く熱した鉄へ槌を振り下ろしていた。


――カァン!


火花。


――カァン!


もう一度。


――カァン!


同じ場所を。


同じ力で。


ただ叩いているように見える。


でも。


少しずつ。


鉄の形が変わっていく。


「……すげえ」


思わず。


声が漏れた。


『入れ』


「勝手に?」


『許可を取れ』


「そこはちゃんとしてるんだ」


工房へ入り。


鍛冶師へ声をかける。


「すみません」


男が。


手を止める。


「何だ?」


「あの……仕事、見せてもらってもいいですか?」


「仕事を?」


「はい」


じっと。


見られる。


「弟子志望か?」


「いや、そこまでは」


「なら何で見たい」


「……興味があって」


嘘ではない。


鍛冶なんて。


日本にいた頃。


まともに見たことがない。


男は。


少し考えて。


「邪魔するなよ」


「ありがとうございます!」


工房の端へ移動する。


鍛冶師は。


すぐ仕事へ戻った。


――カァン!


また。


槌の音。


俺は。


その手元を眺める。


しばらくして。


ヴォルグから。


神託が届いた。


『何をしている』


「鉄を叩いてる」


『それだけか』


「……来たな、その質問」


最近。


神様たちは。


すぐ。


それだけか。


と言う。


「形を整えてる」


『他』


「熱してる」


『他』


「叩く場所を変えてる」


『他』


「……分からない」


少し。


沈黙。


『なら、それでいい』


「いいの?」


『分からんものを、分かったふりするな』


「…………」


『分からないなら見ろ』


『聞け』


『触れ』


『それでも分からんなら』


一拍。


『分からんと言え』


「ヴォルグって意外と先生っぽいな」


『意外は余計だ』


「ごめん」


――カァン!


鍛冶師が。


鉄を打つ。


見る。


さっきより。


少し注意して。


鉄だけじゃない。


腕。


足。


槌。


火。


水。


道具の置き場所。


同じように見えた動きにも。


一つ一つ。


意味があるように見えてくる。


「……面白いな」


『そうか』


「うん」


『なら見ろ』


「はい、先生」


『先生ではない』


「じゃあ師匠?」


『違う』


「ヴォルグ先生」


『やめろ』


ちょっと。


面白くなってきた。



◇ ◇ ◇



しばらくすると。


鍛冶師が。


こちらを振り返った。


「兄ちゃん」


「はい?」


「暇なら、そこの薪を奥へ運んでくれ」


「分かりました」


昨日に続いて。


今日も荷運び。


異世界に来てから。


やけに物を運んでいる気がする。


薪を抱える。


「あれ?」


昨日より。


少し軽い。


筋力が。


8から9になった。


その影響なのか。


それとも。


ガルドに教わった持ち方が。


身についてきたのか。


分からない。


でも。


悪くない。


何度か往復する。


最後の薪を置いた時。


工房の奥に。


一本の剣があることに気づいた。


壁に。


立て掛けられている。


古い。


かなり。


古い。


刃は。


赤茶色に錆びている。


ところどころ。


欠けている。


柄も。


傷だらけ。


「これ……」


近づく。


『触るな』


ヴォルグの声。


低い。


「見るだけ」


『ならいい』


しゃがんで。


観察する。


「ボロボロだな」


返事がない。


「もう使えなさそう」


『なぜそう思う』


「錆びてるし」


『他』


「刃も欠けてる」


『他』


「柄も古い」


『他』


「……分からん」


『なら、それでいい』


また。


同じ言葉。


「これ、捨てるやつ?」


『知らん』


「鍛冶神でも?」


『俺は持ち主ではない』


「…………」


ヴォルグは。


何でも知っているふりをしない。


状態は見られる。


でも。


持ち主の気持ちまでは。


勝手に決めない。


「この剣、どんな使われ方してたかは分かる?」


『推測ならな』


「推測」


『傷を見れば、ある程度は分かる』


「じゃあ教えて」


『自分で見ろ』


「そこは教えてくれよ」


『先に見ろ』


俺は。


剣を見る。


傷。


刃。


柄。


欠け。


「……かなり使われてる」


『なぜ』


「柄」


『続けろ』


「握るところだけ色が違う」


『ああ』


「刃の傷も多い」


『そうだ』


少し。


楽しくなってきた。


謎解きみたいだ。


「大事に使われてた?」


『それは分からん』


「え?」


『使われていたことは分かる』


『大事にされていたかは、傷だけでは断定できん』


「……なるほど」


確かに。


傷が多いから。


大事にしていた。


とは限らない。


雑に使って。


傷だらけになった可能性もある。


「分かったふりするな、か」


『そうだ』


少しだけ。


ヴォルグの言っていることが。


分かってきた。



◇ ◇ ◇



「兄ちゃん」


鍛冶師が。


こちらへ来た。


「その剣、気になるか?」


「はい」


「客から預かったもんだ」


「修理?」


「ああ」


「直せるんですか?」


鍛冶師は。


剣を持ち上げる。


「直すだけならな」


「だけ?」


「どこまで直すかが面倒なんだ」


「どういうことですか?」


男は。


剣を台の上へ置いた。


「刃を替える」


剣の刃を指す。


「柄を替える」


次に。


柄。


「中まで傷んでるなら、そこも替える」


「はい」


「全部新しくしたら?」


「……新品になる?」


「そうだ」


「いいんじゃないですか?」


男が。


俺を見る。


「それを持ち主が望んでるならな」


「…………」


鍛冶師は。


古い剣を。


軽く撫でた。


「親父の形見なんだとよ」


「あ……」


そこで。


ようやく。


分かった。


「全部新しくしたら」


「使える剣にはなる」


男が言う。


「でも、親父の剣じゃなくなるかもしれん」


「…………」


難しい。


直す。


ただそれだけなら。


簡単に聞こえる。


壊れたところを。


新しくすればいい。


でも。


何を残して。


何を替えるか。


そこには。


持ち主の気持ちまで。


関わってくる。


『覚えておけ』


ヴォルグ。


『直すことと』


一拍。


『新しくすることは違う』


「……うん」


昨日。


メルクに。


価値について教わった。


この剣。


商品として見れば。


大した価値はないのかもしれない。


でも。


持ち主にとっては。


違う。


価値は。


一つじゃない。


昨日の話と。


少しだけ。


繋がった気がした。



◇ ◇ ◇



昼を過ぎた頃。


鍛冶場に。


一人の若い男が入ってきた。


腰に。


剣を下げている。


冒険者。


だろうか。


「親父!」


「何だ」


「これ見てくれ」


男が。


腰の剣を抜く。


鞘ごと。


鍛冶台の上へ。


雑に置いた。


――ガンッ。


金属が。


ぶつかる音。


俺は。


少し驚いた。


鍛冶師も。


眉をひそめる。


「お前……」


「刃こぼれした」


若い男は。


気にしていない。


「昨日、森でゴブリン斬ったらさ」


剣を抜く。


確かに。


刃が。


欠けている。


「直る?」


鍛冶師が。


剣を見る。


「……何を斬った」


「だからゴブリン」


「それだけか?」


「たぶん」


「たぶん?」


「あー……」


男が。


少し考える。


「途中で枝が邪魔だったから、それも斬った」


「どんな枝だ」


「知らねえよ」


「他は」


「覚えてねえ」


男は。


笑った。


「剣なんだから、斬れりゃいいだろ」


その瞬間。



――ピコン。



【鍛冶神ヴォルグ】


『…………』


何も言っていない。


なのに。


怖い。


「ヴォルグ?」


返事がない。


若い男は。


さらに続ける。


「駄目なら新しいの買えばいいし」


鍛冶師の眉間に。


皺が寄る。


「お前な」


「何だよ」


「手入れはしたのか」


「してねえ」


「いつから」


「買ってから一回も?」


笑う。


その瞬間。



【鍛冶神ヴォルグ】


『おい』



低い。


めちゃくちゃ。


低い。


「……はい?」


俺が。


反射的に返事をする。


もちろん。


若い男には。


聞こえていない。


『レン』


「何?」


『そいつに聞け』


「何を?」


『その剣を買って何日だ』


「自分で聞けないの?」


『聞け』


圧がすごい。


仕方なく。


「その剣、買ってどれくらいですか?」


若い男が。


俺を見る。


「ん?」


「買ってから」


「あー……半年くらい?」


『半年』


「半年だって」


『半年』


「聞こえてたよね?」


『半年』


「怖い怖い怖い」


嫌な予感がする。


鍛冶師が。


剣を確認している。


「油も差してねえな」


「あー、面倒で」


『面倒』


ヴォルグが。


復唱する。


「ヴォルグ?」


『面倒』


「落ち着いて」


『俺は落ち着いている』


絶対。


落ち着いていない。


若い男は。


気にせず。


笑っている。


「剣なんて消耗品だろ?」


――ピコン。



【鍛冶神ヴォルグ】


『…………は?』



「うわ」


来た。


何か。


来た。


『消耗品?』


「ヴォルグ」


『消耗品と言ったか?』


「俺じゃない」


『分かっている』


「なら俺に圧かけないで!」


次の瞬間。



【鍛冶神ヴォルグ】


『ふざけるなァァァァァァァァァァァァ!!』



「うわああああ!?」


思わず。


声が出た。


鍛冶師と若い男が。


同時に俺を見る。


「どうした!?」


「す、すみません!」


俺の頭の中では。


それどころではない。


『半年だと!?』


『半年一度も手入れせず!?』


『枝を斬った!?』


『何の木かも確認せず!?』


『刃こぼれして!?』


『それで消耗品だァ!?』


「待って待って!」


『剣はなァ!!』


「ヴォルグ!」


『鉄を打って終わりじゃねえ!!』


「めっちゃ喋るじゃん!!」


『火を見て!』


『温度を見て!』


『癖を見て!』


『何度も打って!』


『削って!』


『研いで!』


『握る奴の手まで考えて作ってんだ!!』


「情報量!!」


『それを!!』


『手入れが面倒!?』


『駄目なら買い替える!?』


『半年放置!?』


「落ち着けって!」


『これが落ち着いていられるかァァァァ!!』


「さっき落ち着いてるって言っただろ!」


突然。



――ピコン。


【戦神ガルド】


『どうした!? 敵か!?』


「ガルド!?」


【魔法神セレナ】


『何!? 何があったの!?』


「何でみんな来た!?」


【商神メルク】


『神託がうるさい』


【生命神フィリア】


『ヴォルグ?』


【知識神ノア】


『音量相当の出力値が通常時の約十四倍です』


「測るな!」


【創世神エリオス】


『……何があった』


俺は。


頭を抱えた。


「剣の手入れしてない人がいた」


沈黙。



【戦神ガルド】


『あー』



【魔法神セレナ】


『ああ……』



【商神メルク】


『なるほど』



【生命神フィリア】


『……それは』



【知識神ノア】


『原因を理解しました』



「全員納得するの!?」


『レン!!』


「はい!」


また。


ヴォルグ。


『そいつに言え!』


「嫌だよ!」


『道具を何だと思っていると聞け!』


「絶対嫌だ!」


『聞け!!』


「俺が変な人になるだろ!」


すでに。


鍛冶師と若い男から。


かなり変な目で見られている。


「兄ちゃん……大丈夫か?」


「大丈夫です」


「本当に?」


「たぶん」


『たぶんではない!!』


「お前のせいだよ!!」


若い男が。


一歩。


後ずさった。


まずい。


完全に。


危ない人になっている。



◇ ◇ ◇



数分後。


ようやく。


ヴォルグの大噴火は。


収まった。


『…………』


静か。


「ヴォルグ?」


『何だ』


「落ち着いた?」


『最初から落ち着いている』


「嘘つけ!!」


さっき。


神託越しに。


火山噴火してたぞ。


【魔法神セレナ】


『すごかったわね』


【戦神ガルド】


『久しぶりに聞いたな!』


「久しぶり?」


【生命神フィリア】


『ヴォルグは、道具のことになると少し……』


「少し?」


【商神メルク】


『面倒だ』


『黙れ』


「戻るの早っ!」


さっきまで。


あんなに喋っていたのに。


もう。


いつものヴォルグだ。


「……お前、普段からそれくらい喋れるんじゃん」


『必要がない』


「さっきは必要だった?」


『ああ』


「俺には必要性が分からなかった」


『いつか分かる』


「怖い予言やめて」


その間に。


鍛冶師は。


若い男へ。


手入れの方法を説明していた。


油。


布。


保管。


使った後の確認。


若い男も。


さすがに。


少し反省している。


「……そんなに駄目だったのか」


「当たり前だ」


鍛冶師が。


剣を持ち上げる。


「お前の命預けるもんだぞ」


その言葉に。


俺は。


少しだけ。


ヴォルグを見る。


姿は。


見えない。


でも。


さっきまでの怒鳴り声が。


頭に残っている。


『レン』


「何?」


『笑うな』


「笑ってない」


『笑っている』


「ちょっとだけ」


『…………』


「ごめんって」


でも。


分かった。


ヴォルグが。


なぜ。


あれほど怒ったのか。


道具が好きだから。


それだけじゃない。


「自分の命を預けるものだから?」


少し。


間。


『そうだ』


ヴォルグが。


静かに答える。


『道具を雑に扱う奴は』


『自分の命を雑に扱っていることに気づいていない』


「…………」


『剣が折れる』


『刃が滑る』


『柄が抜ける』


『必要な時に使えない』


『その一度で死ぬこともある』


さっきとは。


違う。


静かな声。


だからこそ。


言葉が残る。


『道具は』


『お前の代わりに、自分の状態を説明してはくれん』


「…………」


『使う側が見ろ』


『触れ』


『覚えろ』


『違和感を無視するな』


俺は。


若い男の剣を見る。


ただの。


刃こぼれ。


そう思っていた。


でも。


もし。


戦っている最中に。


それが原因で。


剣が折れたら。


「……死ぬかもしれない」


『そういうことだ』


ヴォルグは。


道具のためだけに。


怒ったんじゃない。


道具を使う。


人間のためにも。


怒っていた。



◇ ◇ ◇



午後。


鍛冶師から。


いくつか。


古い道具を借りた。


ヴォルグの。


実習。


一本目。


刃が欠けた。


小さなナイフ。


『使えるか』


「分からない」


『見ろ』


刃。


柄。


錆。


少し。


欠けている。


でも。


握ってみる。


枝へ。


刃を当てる。


切れた。


「使える」


『そうだ』


「欠けてても?」


『欠けていることと、使えないことは同じではない』


次。


小さな槌。


持つ。


「あ」


柄。


少し。


ぐらつく。


『使え』


「嫌だ」


『なぜ』


「頭が飛びそう」


『正解だ』


「試したな?」


『ああ』


「性格悪いな」


『死ぬよりいい』


「それ言われると何も返せない」


次。


古い。


小刀。


見る。


触る。


刃は。


綺麗。


柄も。


問題なさそう。


「これは使える」


『本当に?』


「え?」


嫌な言い方。


もう一度。


見る。


刃。


問題ない。


柄。


問題ない。


「……分からない」


『貸せ』


「どうやって?」


『店主に聞け』


「ああ」


鍛冶師へ。


小刀を渡す。


男は。


刃を。


光へ向けた。


「ああ。こいつは駄目だ」


「何で?」


「ここ」


指を差す。


刃の根元。


細い。


線。


「……傷?」


「亀裂だ」


「全然分からなかった」


「慣れだ」


鍛冶師が言う。


「知らなきゃ見落とす」


その言葉に。


ヴォルグが。


反応する。


『覚えたか』


「うん」


『知らないことは、恥ではない』


意外な言葉。


『知らないまま使うことを、恥じろ』


「…………」


「それ、覚えとく」


『そうしろ』



◇ ◇ ◇



夕方。


鍛冶場を出る前に。


俺は。


もう一度。


朝の古い剣を見た。


父親の。


形見。


錆びて。


傷だらけで。


刃も欠けている。


それでも。


持ち主は。


捨てなかった。


「ヴォルグ」


『何だ』


「この剣って、直ったら強くなる?」


『知らん』


「そこも分からない?」


『強さの意味による』


「意味?」


『よく切れることか』


『折れないことか』


『軽いことか』


『持ち主が迷わず握れることか』


「…………」


また。


価値の話に。


少し似ている。


一つじゃない。


『いい武器という言葉は簡単だ』


ヴォルグが言う。


『だが』


『誰にとって』


『何のための』


『どういう武器なのか』


『そこを見ずに、いいも悪いもない』


「……鍛冶って難しいな」


『当たり前だ』


「もうちょっと初心者向けに教えてくれない?」


『十分簡単に話している』


「これで!?」


本気らしい。


ヴォルグ。


たぶん。


教えるのは。


あまり上手くない。


「ヴォルグってさ」


『何だ』


「職人としてはすごいけど、先生としては下手だよな」


沈黙。


「…………」


まずい。


また。


噴火する?


【鍛冶神ヴォルグ】


『……そうかもしれん』


「認めるんだ!?」


『俺には、分かるからな』


「何が?」


『見れば分かる』


『触れば分かる』


『だから』


少し。


間。


『分からない奴が、どこで分からないのかが分からん』


「…………」


思わず。


笑ってしまった。


「それ、めちゃくちゃ先生向いてないじゃん」


『うるさい』


「でも」


少し。


嬉しかった。


神様なのに。


苦手なことがある。


全部できるわけじゃない。


全部知っているわけでもない。


「じゃあ俺が、分からないって言うわ」


『何?』


「ヴォルグが説明して、俺が分からなかったら言う」


『…………』


「そしたら別の説明考えて」


『面倒だ』


「先生!」


『先生ではない』


「師匠!」


『違う』


「ヴォルグ先生!」


『やめろ』


「じゃあヴォルグ師匠!」


『帰れ』


「授業終わった!?」


少しだけ。


笑った。



◇ ◇ ◇



工房を出る直前。


古い剣の前を。


もう一度。


通る。


朝は。


ボロボロの剣。


そうとしか。


思わなかった。


でも。


今は。


少し違って見える。


傷。


錆。


欠け。


使い込まれた柄。


そこに。


誰かが使った時間がある。


俺は。


無意識に。


手を伸ばしかけた。


触るつもりはない。


ただ。


もう少し。


近くで見ようとした。


その瞬間。


「……ん?」


何か。


変な感覚がした。


ほんの。


一瞬。


指先。


いや。


剣の方から?


「今……」


『どうした』


「分からない」


手を止める。


「何か……」


もう一度。


剣を見る。


何もない。


「気のせいかな」


『…………』


「ヴォルグ?」


『触るな』


声が。


少しだけ。


低くなった。


「分かってる」


手を引く。


「じゃあ、また」


鍛冶師へ。


頭を下げる。


工房を出る。


夕方の街。


赤い光。


鉄を打つ音が。


背後から。


まだ聞こえていた。


今日。


覚えたこと。


道具は。


壊れているか。


壊れていないか。


それだけじゃない。


傷があっても。


使えるものはある。


綺麗でも。


危ないものがある。


直せばいいとも。


限らない。


そして。


知らないことを。


知ったふりしない。


「……結構あったな」


思ったより。


ちゃんとした授業だった。


途中。


神様が。


大噴火したけど。


「しかし……」


思い出す。


『ふざけるなァァァァァァァァァァァァ!!』


「…………」


笑いが。


込み上げる。


【鍛冶神ヴォルグ】


『レン』


「はい」


『笑うな』


「聞こえてるの!?」


『聞こえている』


「ごめんごめん」


『…………』


「でもさ」


『何だ』


「ヴォルグ、今日だけで一週間分くらい喋ったんじゃない?」


『…………』


「ヴォルグ?」


返事は。


来なかった。


「逃げたな」


その日の授業は。


それで終わった。



◇ ◇ ◇



レンとの接続が切れた後。


鍛冶神ヴォルグは。


一つの記録を開いていた。


【対象:レン・アルヴェイン】


【道具理解:初期】


【危険判断:正常】


【観察傾向:あり】


そこまでは。


問題ない。


ヴォルグが見ているのは。


別の記録。


【対象物:長剣】


【所有者:登録あり】


【状態:劣化】


【魔力残留:微弱】


そして。


その下。


【外部干渉反応:検出】


『…………』


レンが。


手を伸ばした瞬間。


ほんの僅かに。


剣に残っていた魔力が。


揺れた。


触れていない。


魔力を流してもいない。


そもそも。


レンの魔力は。


3。


昨日。


ようやく。


自分の魔力を認識したばかり。


『偶然か』


記録を見る。


【反応時間:0.3秒】


【原因:不明】


ヴォルグは。


その表示を閉じなかった。


朝。


レンに言った言葉。


分からんものを。


分かったふりするな。


なら。


これも。


同じだ。


『……分からんな』


だから。


決めつけない。


ただ。


覚えておく。


その時。



――ピコン。



【戦神ガルド】


『ヴォルグ!』


『何だ』


『今日すげえ怒ってたな!!』


『…………』


【魔法神セレナ】


『私、あんなに喋るヴォルグ初めて見たかも』


『…………』


【商神メルク】


『通常時の何日分だ』


【知識神ノア】


『発話量のみで比較した場合、およそ――』


『計算するな』


【生命神フィリア】


『ふふ』


『笑うな』


【創世神エリオス】


『……元気そうで何よりだ』


『お前まで言うな』


沈黙。


数秒後。



【鍛冶神ヴォルグ】


『全員黙れ!!』



その日。


鍛冶神は。


二度目の噴火を起こした。

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