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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第二章 神なき力の目覚め
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神託ログ19『神様たち、無職を開業させる』

 レンが自分の人生における最大の失敗を悟ったのは、朝食のパンを半分ほど食べ終えた時だった。


 失敗というのは、昨日の魔法訓練でガルドの挑発に乗ったことでも、椅子から転げ落ちたことでもない。ましてや、魔力が三しかないことを今さら嘆いているわけでもなかった。


 もっと根本的な問題だ。


 昨日、メルクの商売に関する助言を、ほんの少しだけ褒めてしまったのである。


『さて、レン。今日はいよいよ開業の日だね』


「……何の?」


『君の店に決まっているじゃないか』


 レンはパンを噛むのをやめた。


 向かいの席ではリナが温かいスープを飲んでいる。窓際にはソラが座り、昨日の訓練で拾った木の実を転がしていた。大神殿の食堂には焼きたてのパンの香りが漂い、神官たちが朝の仕事について穏やかに話している。


 その平和な空気を、頭の中にいる商売の神様が一瞬で破壊した。


「……俺、店なんて持ってないよ?」


『だから、今日から始めるんだよ』


「会話が成立してない!!」


 リナが顔を上げた。


「今度は何?」


「メルクが俺を開業させようとしてる」


「……開業?」


「俺にも分からない!」


『分からないことはないだろう。君は昨日、商売には価値を伝えることが大切だと学んだ。素晴らしい学習成果だったよ。だから次は実践だ』


「小学校の授業でも、習った翌日に起業させたりしないから!」


『ショウガッコウ?』


「俺のいた世界の学校!」


『なるほど。ずいぶん慎重な教育機関なんだね』


「お前が急ぎすぎなんだよ!」


 レンが頭を抱えると、ソラが楽しそうに笑った。


「レン、お店やるの?」


「やらないよ!」


「何売るの?」


「やらないって!」


「お菓子?」


「だから!」


 ソラは少し考え、真剣な表情で言った。


「……空飛ぶお菓子屋さん?」


「それはちょっと楽しそうだな!?」


『ほら、もう事業案が出た』


「メルク、黙ってて!!」


 そこへ、別の声が割り込んだ。


『商売を始めるなら、まず売り物を作れ』


 ヴォルグだった。


『昨日の木箱は悪くなかったが、接合が甘い。道具を売るなら品質を保証できるものにしろ』


「だから、売らないって!」


『売らないなら、何のために作る?』


「そもそも作るとも言ってない!」


『作らずに売るのか? それはもっと駄目だ』


「神様たち、俺の話聞いてる!?」


『聞いているとも』


 メルクが即答した。


『つまり、君は初期投資を抑えたいわけだね』


「違う!!」


 レンの叫び声が食堂に響き、近くにいた神官が驚いて振り向いた。


 リナは笑いを堪えながら、そっと水の入った杯を差し出してきた。


「……とりあえず飲んだら?」


「ありがとう……」


 レンは水を一口飲んだ。


 まだ朝だ。


 今日という日は、始まったばかりなのだ。


 それなのに、もう疲れている。


『レン』


 エリオスが静かに呼びかけた。


『一つ確認したい』


「……何?」


『店を開く場合、営業の許可は必要なのか?』


「お前まで乗るなああああ!!」


     ◇


 結局、レンが町へ出ることになったのは、開業に同意したからではなかった。


 大神殿のアリアから、商店街の広場にある共同作業所へ届け物を頼まれたのである。


 昨日から相談者が増えているため、神殿では布や紙、簡単な日用品が不足していた。作業所では町の職人たちが余った材料を持ち寄り、必要な人へ安く提供しているらしい。


「買い物をお願いしたいんです。もちろん、代金はこちらで用意します」


 アリアは小さな革袋を差し出した。


「それから、もし余裕があれば、作業所の様子も見てきてもらえませんか? 最近、人手が足りないそうなので」


「分かった。買い物と様子を見るだけだね」


「はい。無理に手伝わなくても大丈夫です」


 レンは安心して頷いた。


 だが、その瞬間。


『人手が足りない』


 メルクが意味深に繰り返した。


「……何?」


『需要があるということだね』


「お願いだから黙って!」


 アリアが不思議そうに首を傾げた。


「どうかしました?」


「……神様が、また余計なことを考えてます」


「ああ」


 アリアは妙に納得したようだった。


「いつものことですね」


「神殿の人にまで認識されてる!?」


 リナが吹き出した。


 ソラも一緒に行きたいと言い出したため、結局三人で町へ向かうことになった。


 広場へ続く道は、昨日の市の名残で賑わっていた。屋台の数は減っていたが、商人たちは店先に商品を並べ、子どもたちは石畳の隙間を跳び越えながら走っている。


 ただ、通りの一角には職業管理院の通達が貼られていた。


 安全確認を受けるよう求める、あの命令だ。


 紙の前には数人の住民が立ち、難しい顔で内容を読んでいる。近くの店では、店主が客と何やら話し込んでいた。


 レンは足を止めかけた。


 だが、リナが静かに言った。


「今日は、まず頼まれたことを済ませよう」


「……うん」


 レンは頷いた。


 問題から目を背けるわけではない。


 ただ、町のすべての問題を自分一人で解決できるわけでもない。


 それは、最近ようやく理解し始めたことだった。


     ◇


 共同作業所は、広場の南側にある大きな木造の建物だった。


 入口には「修理・製作・材料交換」と書かれた看板が掛かっている。中へ入ると、木を削る音や金属を叩く音が響き、独特の油の匂いが鼻をくすぐった。


 壁際には壊れた椅子や棚、農具が並んでいる。


 その奥では、数人の職人が忙しそうに作業していた。


「すみませーん!」


 レンが声をかけると、作業台の向こうから大柄な男が顔を上げた。


「おう、何だ?」


「大神殿から頼まれた材料を受け取りに来ました!」


「ああ、アリアさんのところか。ちょっと待ってくれ」


 男は手を拭きながら近づいてきた。


 年齢は四十代半ばほどだろうか。太い腕には細かな傷があり、作業着の袖には木屑が付着している。


「俺はドラン。ここをまとめてる」


「レンです。こっちはリナとソラ」


「よろしくな」


 ドランは三人へ笑いかけた。


 だが、すぐに困ったような表情を浮かべた。


「悪いが、少し時間がかかる。昨日から修理の依頼が増えててな」


「修理?」


「ああ。管理院の確認を受けるために仕事を休む奴が増えただろ。店を閉める前に壊れた道具を直しておきたいって依頼が集中してるんだ」


 レンは周囲を見回した。


 確かに、作業所には大量の品物が積まれていた。


 壊れた椅子。


 外れた扉の蝶番。


 欠けた農具。


 ひびの入った木箱。


 どれも生活に必要なものばかりだ。


「……大変そうですね」


「まあな。直せるものは直したいんだが、手が足りん」


 ドランは苦笑した。


「特に、細かい修理をできる奴が少なくてな」


 レンは何気なく、作業台の上に置かれた小さな木箱へ目を向けた。


 蓋の金具が外れ、蝶番の片側が浮いている。


 昨日、ヴォルグが話していた接合部分の問題によく似ていた。


「……これなら、俺でも手伝えるかな」


 その言葉を口にした瞬間、頭の中が騒がしくなった。


『来たね!』


 メルクが歓声を上げる。


『ついに初仕事だ!』


「違う! ただの手伝い!」


『対価を受け取らなければ、利益率はゼロだよ』


「利益を求めてない!」


『無償労働か。悪くないが、継続性に問題があるね』


「今だけだって!」


『まずは工具の状態を確認しろ』


 ヴォルグが割り込んだ。


『その箱は蝶番だけでなく、蓋の端が少し歪んでいる。金具だけ直しても、また外れるぞ』


「……なるほど」


『金具を外す前に、木材の反りを確かめろ』


 レンは箱を手に取った。


 確かに、蓋の端が少し浮いている。


 金具を固定するだけでは、力が偏って再び壊れるかもしれない。


「……ドランさん」


「ん?」


「これ、ちょっと見てもいいですか?」


「直せるのか?」


「分からないですけど、試してみてもいいなら」


 ドランは少し考えた。


「壊すなよ?」


「……努力します!」


『自信を持て!』


 ガルドが叫んだ。


『失敗したら、次に生かせばいい!』


「お前、修理でその精神論やめて!?」


 ドランが不思議そうに首を傾げた。


 リナはすでに笑っていた。


     ◇


 修理は、想像していたよりも難しかった。


 金具を外し、木材の歪みを確かめ、削る部分を決める。


 ヴォルグの指示は細かく、少しでも手順を間違えるとすぐに止められた。


『そこは削りすぎだ』


「……え?」


『刃を寝かせろ。力で押すな』


「こう?」


『違う。もっと浅く』


「……これ?」


『まだ深い』


「神様、要求が細かすぎる!!」


『雑に作れば、雑に壊れる』


 ヴォルグの声は厳しかった。


 だが、レンも途中から文句を言わなくなった。


 作業を進めるうちに、少しずつ分かってきたからだ。


 木材は、見た目ほど単純ではない。


 同じ方向へ削っても、木目によって刃の入り方が変わる。ほんの少しの角度の違いで、表面の滑らかさも変わってくる。


 力任せに削れば早い。


 だが、その分だけ失敗しやすい。


 レンは以前、ブレイカーを使う時にも似たようなことを学んだ。


 何でも切ればいいわけではない。


 必要な部分を見極め、余計なものを傷つけない。


 その考え方は、修理にも通じるのだろう。


「……なるほどな」


 レンは小さく呟いた。


 ヴォルグが満足そうに言った。


『ようやく分かってきたか』


「……うん」


『なら、次は金具だ』


「まだあるの!?」


『当然だ。修理は終わっていない』


 レンは深く息を吐いた。


 ……職人って大変だ。


 その横では、リナが壊れた椅子の部品を整理していた。


 ソラは小さな木片を集め、作業台の上へ並べている。


 最初は見学のつもりだった三人が、いつの間にか作業所の一角を任されていた。


「……何か、普通に働いてない?」


 レンが呟くと、リナが笑った。


「うん。働いてるね」


「俺、無職なのに」


「無職でも、手伝いはできるでしょ?」


「……確かに」


 レンは少し考えた。


 職業がない。


 それは、この世界では珍しいことなのかもしれない。


 でも、職業がないからといって、何もできないわけではない。


 そんな当たり前のことを、最近は忘れかけていた。


     ◇


 昼を過ぎた頃、作業所で小さな騒ぎが起きた。


 奥の倉庫から、ドランの怒鳴り声が聞こえてきたのだ。


「おい! 誰か手を貸してくれ!」


 レンたちは顔を見合わせた。


 慌てて倉庫へ向かうと、入口の前に大きな木箱が倒れていた。


 箱の中には金属製の部品が詰まっているらしく、かなり重そうだった。


 しかも、箱の下敷きになった扉が歪み、倉庫の入口を塞いでいる。


「……何があったんですか!?」


 レンが尋ねると、ドランが額の汗を拭った。


「棚の脚が折れたんだ! 箱が落ちて、扉を押し潰しちまった!」


 レンは周囲を確認した。


 幸い、怪我人はいない。


 ただ、倉庫の中には他にも重い荷物が積まれており、無理に箱を動かすと崩れる可能性があった。


『よし! 俺の出番だな!』


 ガルドが勢いよく叫んだ。


『レン! 箱を持ち上げろ!』


「いや、無理だって!」


『筋力を信じろ!』


「俺の筋力、そんなに高くないから!」


『気合いだ!』


「気合いで重量は変わらない!!」


『なら、ブレイカーで――』


「それも駄目!」


 レンは即座に遮った。


 以前、荷車の事故で、力の使い方を誤ったことがある。


 何を支えているのか分からないまま接続を切れば、取り返しのつかないことになるかもしれない。


 レンは倉庫の中を見回した。


「……まず、どこが危ないのか確認しよう」


『いい判断だ』


 ヴォルグが頷いた。


『箱の下にある扉は、今の状態では支えになっている。無理に動かせば、奥の荷物が崩れる可能性がある』


「……じゃあ、どうする?」


『支えを作れ』


「支え?」


『木材を使って、箱が動かないように固定する。その後、少しずつ荷物を移すんだ』


 レンは頷いた。


「分かった!」


 だが、ここで新たな問題が起きた。


 倉庫の奥は暗く、荷物の位置がよく見えない。


 窓も小さく、昼間でもほとんど光が入らない。


「……明かりが欲しいな」


 レンが呟いた瞬間。


『あら』


 セレナが楽しそうに声を上げた。


『ちょうどいいじゃない』


「……何が?」


『昨日、覚えたでしょう?』


 レンは自分の手を見た。


 小さな光。


 魔力3の自分が、ようやく生み出せるようになった魔法。


「……あれ?」


『そうよ』


 セレナが少し得意そうに言った。


『大きな魔法だけが役に立つわけじゃないの』


 レンは頷いた。


「……やってみる!」


 右手を前へ出し、ゆっくり意識を集中させる。


 身体の奥にある、わずかな魔力。


 それを一気に放出するのではなく、少しずつ指先へ集める。


 すると。


 小さな光が生まれた。


「……おお!」


 レンは思わず声を上げた。


 光は米粒ほどの大きさだった。


 だが、暗い倉庫の中では、その小さな光でも十分に役立った。


 箱の下にある木材。


 歪んだ扉。


 奥に積まれた荷物。


 少しずつ、周囲の様子が見えてくる。


「……これなら!」


 レンは光を保ちながら、慎重に中を確認した。


 リナが外から木材を運び、ドランが支えを作る。


 ソラは小さな部品を集め、作業の邪魔にならない場所へ移していった。


 七柱の神々も、珍しく協力していた。


『右側の棚を先に支えろ!』


 ヴォルグ。


『人が入る前に、安全を確認してください!』


 フィリア。


『作業時間を短くするなら、荷物の移動順を決めた方がいいですね』


 ノア。


『壊れた部品も、修理できれば価値が残るよ』


 メルク。


『よし! 最後は力仕事だな!』


 ガルド。


『魔力の消費に気をつけなさい!』


 セレナ。


『全員、指示を一度に出すな!』


 エリオス。


「最後の意見が一番大事!!」


 レンは思わず叫んだ。


 だが、七柱の助言は確かに役立っていた。


 支えを作り、荷物を移し、少しずつ箱を動かす。


 時間はかかったが、危険な場所を確認しながら作業を進めたことで、誰も怪我をせずに倉庫を片づけることができた。


「……よし!」


 ドランが大きく息を吐いた。


「助かったぞ、レン!」


「いえ、みんなのおかげです!」


 レンは笑った。


 その時、セレナが静かに言った。


『……どう?』


「……何が?」


『魔力3でも、役に立ったでしょう?』


 レンは手のひらを見つめた。


 光はすでに消えていた。


 だが、その小さな魔法のおかげで、暗い場所を確認できた。


 誰かを傷つけることもなく。


 何かを壊すこともなく。


 ただ、必要な場所を照らした。


「……うん」


 レンは笑った。


「すごく役に立った」


『そうでしょう』


 セレナの声は、少しだけ嬉しそうだった。


『魔法は、戦うためだけのものじゃないのよ』


 レンは静かに頷いた。


 その言葉を、忘れないようにしようと思った。


     ◇


 夕方。


 作業所の仕事が一段落すると、ドランが三人へ声をかけた。


「今日は本当に助かった。礼をさせてくれ」


「いや、そんな!」


 レンは慌てて首を振った。


「ちょっと手伝っただけですから!」


「ちょっとじゃねえよ。あの倉庫を片づけるだけでも、相当な時間がかかったはずだ」


 ドランは笑った。


 そして、小さな革袋を差し出した。


「大した額じゃないが、受け取ってくれ」


 レンは袋を見つめた。


 中には、数枚の銅貨が入っていた。


「……お金?」


「ああ。働いた分の礼だ」


 レンは少し考えた。


 受け取っていいのだろうか。


 自分は無職だ。


 正式な仕事として依頼されたわけでもない。


 それに、今日はただ買い物に来ただけだった。


『受け取りなさい』


 メルクが言った。


 いつもの軽い調子ではなかった。


「……メルク?」


『君が働いたことに対して、相手が価値を認めたんだ』


 レンは黙って聞いた。


『それを受け取ることは、恥ずかしいことじゃない』


「……うん」


『ただし、金額に納得できないなら交渉してもいい』


「最後に商売を入れないで!」


 メルクが笑った。


 レンも笑った。


 そして、ドランから革袋を受け取った。


「……ありがとうございます」


「こちらこそ。また手が空いたら寄ってくれ」


「はい!」


 レンは笑顔で答えた。


 だが、その瞬間。


『素晴らしい!』


 メルクが歓声を上げた。


『これで初売上だね!』


「……え?」


『無職レン、ついに事業開始!』


「違う違う違う!!」


『次は屋号を決めようか』


「何で!?」


『七柱工房なんてどうだい?』


『勝手に俺の名前を使うな』


 ヴォルグが即座に反論した。


『工房なら品質管理が必要だ。レンにはまだ早い』


『なら、七柱便利屋だ!』


 ガルドが叫んだ。


『困ってる奴を助けて回ればいい!』


『怪我人が増えそうですね』


 フィリアが心配そうに言った。


『安全管理の規定を作るべきでしょう』


 ノア。


『魔法を扱うなら、私の許可も必要よ!』


 セレナ。


『そもそも、本人が開業に同意していない』


 エリオス。


「そう!! それ!!」


 レンは勢いよく頷いた。


「エリオス、もっと言って!」


『本人の意思を尊重しなければならない』


「そうだそうだ!」


『ただし、事業計画を作るだけなら問題ないだろう』


「お前もかああああ!!」


 リナが腹を抱えて笑った。


 ソラも楽しそうに笑っている。


 ドランは何が起きているのか分からず、ただ不思議そうに三人を見つめていた。


     ◇


 大神殿へ戻る頃には、すっかり日が暮れていた。


 レンは今日の出来事を思い返しながら、廊下を歩いていた。


 最初は、ただの買い物だった。


 それが、いつの間にか修理を手伝うことになり、倉庫の片づけまでしていた。


 結局、今日も休めなかった。


 だが、不思議と嫌な気分ではなかった。


 誰かの役に立てた。


 自分の力で、できることがあった。


 それが嬉しかった。


「……リナ」


「ん?」


「俺さ」


 レンは少し考えた。


「無職でも、結構いろんなことできるんだな」


 リナは笑った。


「今さら?」


「……今さらって!」


「だって、レンはずっと色々やってるじゃん」


 レンは黙った。


 確かに、そうかもしれない。


 戦った。


 助けた。


 失敗した。


 誰かを傷つけてしまったこともある。


 それでも、少しずつ前へ進んできた。


 職業がないことと、何もできないことは違う。


 そんな当たり前のことを、今日も教えてもらった気がした。


「……そっか」


 レンは笑った。


 その時、ソラが嬉しそうに言った。


「レンのお店、できたら私も働きたい!」


「だから開かないって!」


「私、空飛ぶお菓子屋さんがいい!」


「まだ覚えてたの!?」


 リナが笑った。


「でも、ちょっと楽しそう」


「リナまで!?」


『よし、決まりだね』


 メルクが満足そうに言った。


『明日は事業計画を立てよう』


「立てません!!」


『なら、明後日?』


「日程の問題じゃない!!」


 レンは頭を抱えた。


 すると、ガルドが豪快に笑った。


『はっはっは! 忙しいな、レン!』


「だから誰のせいだよ!!」


 七柱の笑い声が、頭の中いっぱいに響いた。


 レンは深く息を吐いた。


 そして、ふと気づいた。


 昨日まで、神様たちの言葉はどこか重かった。


 育成管理機構。


 育成者。


 接続。


 命令。


 難しい話ばかりで、七柱も慎重になっていた。


 でも、今日は違った。


 みんな、いつもどおりだった。


 勝手で。


 騒がしくて。


 面倒くさくて。


 それでも、困っている人がいれば、自然と手を貸してくれる。


 レンは小さく笑った。


 やっぱり、俺はこの神様たちが好きなんだと思う。


 ただし。


『レン。店の看板は、どんなデザインがいい?』


「開業しないって言ってるだろおおおお!!」


 その一点だけは、どうしても譲れなかった。

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