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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
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神託ログ06 魔力3に、魔法神がキレました

翌朝。


「今日は魔法よ!」


目を覚まして。


まだ完全に頭が動き出す前に。


セレナの声が飛んできた。


「……おはよう」


【魔法神セレナ】


『おはよう!』


「朝から元気だな」


『だって魔法よ?』


「昨日のガルドも同じくらい元気だったよ」


『一緒にしないで』


「似てるけど」


『全然違うわ』


即答だった。


神様同士にも。


譲れないものがあるらしい。


俺は身体を起こす。


昨日。


ガルドに散々走らされたせいで。


足が重い。


腕も。


少し筋肉痛だ。


「いてて……」


【生命神フィリア】


『痛みは強いですか?』


「うわっ」


突然入ってきた。


「フィリア?」


『はい』


「今日セレナの日じゃないの?」


『身体の状態だけ確認しています』


【魔法神セレナ】


『フィリア。今日は私の日』


『分かっています』


『なら』


『怪我をさせたら交代します』


『…………』


「強いな、フィリア」


セレナから。


返事がなくなった。



◇ ◇ ◇



街から少し離れた草原。


昨日。


ガルドに走らされた場所より。


さらに人通りが少ない。


俺は。


地面に座っていた。


「で」


目の前には。


何もない。


杖も。


魔法陣も。


本もない。


「魔法ってどうやるの?」


【魔法神セレナ】


『まず、魔力を感じるところから』


「魔力を?」


『そう』


「どうやって?」


『目を閉じて』


言われた通り。


目を閉じる。


『力を抜いて』


肩の力を抜く。


『自分の中にあるものを感じて』


「…………」


『…………』


「…………」


何も分からない。


「ある?」


『あるわよ』


「本当に?」


『魔力3だけど』


「数字を付けるな」


『事実でしょう?』


「昨日からみんな事実で殴ってくるな」


セレナが。


楽しそうに笑った。


『大丈夫。量が少なくても、感じることはできるから』


「自分の中……」


もう一度。


集中する。


心臓。


呼吸。


風。


服が肌に触れる感覚。


草の匂い。


鳥の声。


「…………」


分からない。


何が魔力なのか。


そもそも。


魔力を感じた経験なんてない。


「セレナ」


『何?』


「ヒント」


『ヒント?』


「魔力って、どんな感じ?」


少し。


間があった。


『人による』


「一番困る答え!」


『仕方ないでしょう。温かいと言う人もいるし、冷たいと言う人もいる。流れとして感じる人もいれば、光みたいに感じる人もいる』


「統一してくれよ」


『魔力に言って』


「魔法神でも無理なの?」


『無理』


潔い。


「じゃあ……どうすれば」


『探そうとしすぎないこと』


「探してるのに?」


『そう』


意味が分からない。


『自分の中に、普段は意識していない何かがあると思って』


「普段意識してない……」


呼吸。


心臓。


血。


体温。


その中に。


もう一つ。


何か。


「…………」


静かに。


息をする。


その時。


ほんの一瞬。


何かを感じた。


「……あ」


『どうしたの?』


「今……」


消えた。


「何かあった」


『どこ?』


「どこって……」


考える。


身体の中。


ではない。


「……外?」


『え?』


セレナの声が。


変わった。


「なんか……周りに」


目は閉じたまま。


でも。


さっきまでとは違う。


風とも。


音とも。


匂いとも違う。


薄い。


何か。


自分の周りを。


流れている。


「これ?」


返事がない。


「セレナ?」


『……もう一度』


「何を?」


『今感じたものを、もう一度探して』


言われた通り。


集中する。


今度は。


少し早かった。


ある。


確かに。


ある。


身体の外。


空気の中。


草の間。


地面。


周囲。


何かが。


流れている。


「……ある」


『どこに?』


「周り」


『自分の中は?』


「待って」


今度は。


意識を内側へ向ける。


外側にあるものと。


似ている。


でも。


ずっと小さい。


胸の奥。


腹の辺り。


そこに。


僅かに。


何かがある。


「……あった」


『どっちが先だった?』


「え?」


『自分の魔力と、外の魔力』


「外」


即答した。


セレナが。


黙った。


「……何?」


『普通は逆なの』


「逆?」


『最初に自分の魔力を感じる。それを基準にして、周囲にある魔力を認識する』


「でも俺は」


『外が先』


「……珍しい?」


『かなり』


「悪いこと?」


『分からない』


「魔法神なのに?」


『魔法神だからって、全部知ってるわけじゃないの』


「昨日ノアも似たようなこと言ってた」


『ノアは特に言いそうね』


少しだけ。


セレナの声が戻った。


でも。


さっきまでの軽さとは違う。


何かを。


考えている。


「続けて大丈夫?」


『ええ』


少し間を置いて。


『ただし、今日は無理に外の魔力へ触れないで』


「何で?」


『まだ自分の魔力すら、まともに扱えないから』


「なるほど」


『外にあるものを感じるのと、使えるのは別』


「分かった」


ここは。


素直に従う。


昨日。


ガルドにも言われた。


自分が。


何をできるのか。


知らないまま動くな。


たぶん。


魔法も同じなんだろう。



◇ ◇ ◇



「じゃあ、次」


少し休憩した後。


俺は。


再び座っていた。


【魔法神セレナ】


『今度は、自分の魔力だけを見る』


「見る?」


『感じる』


「言い直した」


『細かい』


目を閉じる。


さっき。


一度感じたからか。


今度は。


見つけやすい。


胸の奥。


小さな。


何か。


「……これか」


『たぶん』


「たぶん?」


『私はレンの感覚を直接感じられないもの』


「そうなの?」


『神託で状態は確認できる。でも、あなたが何をどう感じているかまで、そのまま分かるわけじゃない』


「……へえ」


意外だった。


神様なら。


俺の中まで。


全部見えている。


そんなイメージがあった。


でも。


違う。


神様にも。


見えないものがある。


「じゃあ、俺が嘘ついたら?」


『困る』


「見抜けない?」


『内容による』


「意外と不便だな、神様」


『人間に言われたくない』


「それはそう」


少し。


笑った。


『じゃあ、その魔力を動かしてみて』


「動かす?」


『指先まで運ぶイメージ』


「……こう?」


胸の奥にあるものを。


右手へ。


意識する。


動け。


動け。


「…………」


何も起きない。


「無理」


『早い!』


「だって動かない」


『最初から動く人の方が少ないわよ』


「魔法ってもっとこう……」


『こう?』


「手を出して、ファイア! みたいな」


『やってみる?』


「できるの?」


『今は無理』


「じゃあ言うなよ!」


セレナが笑う。


『まずは魔力を動かすところから』


「地味だな」


『魔法は地味よ』


「嘘だ」


『完成したところしか見てないから派手に見えるの』


その言葉に。


少し納得した。


何でも。


そうなのかもしれない。


完成したものだけ見れば。


簡単に見える。


でも。


そこまでには。


見えない練習がある。


「……もう一回やる」


『ええ』


目を閉じる。


胸の奥。


小さな魔力。


それを。


指先へ。


「…………」


動かない。


もう一度。


「…………」


やっぱり。


動かない。


何度も。


繰り返す。


やがて。


ほんの少し。


右腕が。


温かくなった。


「……来た?」


『そのまま』


集中する。


肘。


手首。


手のひら。


そして。


指先。


「…………!」


何かが。


集まった。


気がした。


目を開ける。


何も見えない。


火も。


光も。


出ていない。


「……地味」


『だから言ったでしょ』


でも。


少し。


嬉しかった。


自分の中に。


確かに。


今まで知らなかったものがある。


「これが魔力か」


『そう』


「俺にもあるんだな」


『3だけど』


「今日それ何回言うの?」


『大事だから』


「絶対楽しんでるだろ」


『少し』


「認めた!」



◇ ◇ ◇



夕方。


今日の練習は。


そこで終わった。


結局。


魔法らしい魔法は。


一つも使えなかった。


でも。


魔力を感じた。


自分の中。


そして。


外。


「明日は魔法使える?」


【魔法神セレナ】


『無理』


「即答!」


『焦らない』


「ガルドと同じこと言ってる」


『……それは嫌ね』


「そこまで?」


『そこまで』


俺は。


笑いながら。


街へ戻る。


魔法。


まだ。


何もできない。


でも。


昨日より。


この世界のことを。


一つ知った。


そして。


自分のことも。


少しだけ。



◇ ◇ ◇



レンとの接続が切れた後。


魔法神セレナは。


一人。


記録を見ていた。


【対象:レン・アルヴェイン】


【魔力:3】


【自己魔力認識:確認】


【外界魔力認識:確認】


問題は。


順番。


【外界魔力認識】


【自己魔力認識】


『……やっぱり逆』


普通。


人間は。


自分の魔力を基準に。


外の魔力を知る。


自分の中にあるものを。


先に知る。


それから。


世界にあるものを知る。


だが。


レンは。


世界の側を。


先に感じた。


【世界律接続:失敗】


セレナは。


その表示を見る。


『接続してないのに』


それでも。


レンは。


外界魔力を認識した。


『……ノア』


【知識神ノア】


『確認しています』


『過去に例は?』


少し。


沈黙。


【知識神ノア】


『現行記録では確認できません』


『現行記録では?』


また。


沈黙。


そして。


一つの表示。


【過去育成記録を検索】


【該当候補:1件】


セレナが。


目を細める。


『開ける?』


【知識神ノア】


『試みます』


【第108代育成記録】


【アクセス権限を確認】


【――拒否】


『またそれ?』


【知識神ノア】


『はい』


『エリオスなら?』


返事が。


少し遅れた。


【知識神ノア】


『不明です』


セレナは。


しばらく。


表示を見つめる。


そして。


小さく呟いた。


『……何なのよ、レン』


答えは。


どこからも。


返ってこなかった。

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