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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
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神託ログ05 戦神曰く、とりあえず走れ

「走れ!!」


朝。


街の外。


俺は。


走っていた。


「はっ……はっ……!」


理由は。


説明するまでもない。


【戦神ガルド】


『遅いぞ、レン!』


「うる……さい……!」


『喋れるなら余裕だ!』


「この……脳筋……!」


『ガハハハハ! 元気じゃねえか!』


昨日。


七柱と話し合った結果。


一柱ずつ。


順番に教わることになった。


そして。


記念すべき最初の担当。


戦神ガルド。


嫌な予感はしていた。


していたけど。


まさか。


本当に。


「とりあえず走れ!」


から始まるとは思わなかった。


「何周……すれば……いいんだよ……!」


『限界までだ!』


「基準が雑!!」


『限界は分かりやすいぞ! 動けなくなったら限界だ!』


「それ倒れてるだけだろ!」


足が重い。


肺が痛い。


まだ朝なのに。


もう帰りたい。


俺が走っているのは。


街の外周に近い。


比較的安全だという草原。


遠くには。


昨日目覚めた森も見える。


あそこから。


歩いてきたんだよな。


昨日のことなのに。


もう。


随分前のことみたいだった。


『止まるな!』


「分かってる!」


走る。


ただ。


走る。


しばらくして。


本当に。


足が動かなくなった。


「……無理」


その場に。


座り込む。


いや。


ほぼ倒れ込んだ。


「死ぬ……」


『死なん!』


「戦神の大丈夫は信用できない……」


『大丈夫だ!』


「ほら!」


その時。



――ピコン。



【生命神フィリア】


『ガルド』


たった一言。


『…………』


ガルドが。


黙った。


「何その反応」


【生命神フィリア】


『レンさんの呼吸が乱れています。休ませてください』


【戦神ガルド】


『分かっている』


「絶対今まで分かってなかっただろ」


『分かっていた!』


【生命神フィリア】


『本当に?』


『…………』


戦神。


生命神に弱いらしい。


覚えておこう。



◇ ◇ ◇



しばらく休むと。


ようやく。


呼吸が落ち着いた。


草の上に座り。


水を飲む。


昨日。


メルクに言われて。


街の共同水場を教えてもらった。


食事についても。


神殿で簡単なものを分けてもらえた。


無職で。


金もなくて。


神様に育てられている。


改めて考えると。


だいぶ情けない。


「……早く働かないとな」


『焦るな』


意外な言葉だった。


「ガルドがそれ言う?」


『何だその言い方は』


「だって、ずっと走れって」


『走るのと焦るのは違う』


「…………」


少し。


驚いた。


『身体は急には強くならん』


「神様なら何かこう……一瞬で強くしてくれたりしないの?」


『できん』


即答。


「できないんだ」


『少なくとも、俺はやらん』


「できないのか、やらないのかどっち?」


『どっちでもいい!』


「良くないだろ」


ガルドは。


少し間を置いて。


続けた。


『急に強くなった身体は、自分の身体じゃねえ』


「……どういう意味?」


『自分がどこまで動けるか。どこで疲れるか。何を怖いと思うか。そういうもんを知らねえ奴は、力だけあっても死ぬ』


さっきまで。


限界まで走れと言っていた神と。


同一人物とは思えない。


「じゃあ、今走らせたのも?」


『お前が今、どの程度なのかを見るためだ』


「最初に言ってくれよ!」


『言ったら加減するだろ』


「するよ!」


『だから言わなかった!』


「やっぱり脳筋じゃねえか!」


『ガハハハハ!』


豪快に笑う。


でも。


少しだけ。


ガルドを見る目が変わった。


ただ。


無茶をさせたいわけじゃない。


たぶん。


「……戦神なんだよな?」


『そうだ』


「戦い方を教えるんじゃないの?」


『教えるぞ』


「剣とか?」


『そのうちな』


「今日は?」


『走る』


「結局それかよ」



◇ ◇ ◇



休憩が終わると。


次は。


走らなかった。


「……何これ」


俺の前。


地面に。


一本の木の棒が置かれている。


少し長め。


剣。


というより。


ただの棒。


『拾え』


「はい」


持つ。


軽い。


『構えろ』


「構え方分からない」


『好きに構えろ』


「教えてくれないの?」


『まずやれ』


「…………」


言われた通り。


両手で持つ。


なんとなく。


剣道っぽく。


正面へ。


『違う』


「やっぱりあるんじゃん!」


『今のは駄目だ』


「じゃあ教えてよ!」


『足が固い』


「足?」


『腕だけで構えてる』


言われて。


足を見る。


『押されたら倒れるぞ』


「なるほど」


少し。


膝を曲げる。


『曲げすぎだ』


戻す。


『戻しすぎだ』


「細かいな!」


『戦いで一歩遅れたら死ぬぞ』


その言葉だけ。


笑っていなかった。


俺は。


黙って。


構え直す。


『そうだ』


「これ?」


『さっきよりマシだ』


「褒め方下手だな」


『褒めてない』


「知ってる」


木の棒を。


何度か振る。


最初は。


ただ重かった。


十回。


二十回。


腕が疲れる。


「これ、何回?」


『百』


「多い!」


『じゃあ五十』


「急に半分になるの?」


『お前の身体を見て決めた』


「…………」


意外と。


ちゃんと見ている。


「ガルド」


『何だ』


「俺、弱い?」


少し。


間があった。


『弱い』


即答。


「もうちょっと悩めよ」


『今のお前は弱い』


「……そっか」


分かっていた。


数値だって。


平均以下。


戦った経験なんてない。


『だが』


「ん?」


『弱いことと、弱いままでいることは別だ』


俺は。


木の棒を見る。


『今のお前に必要なのは、自分が弱いと知ることだ』


「……嫌な授業だな」


『大事だぞ』


「なんで?」


『弱い奴が、自分を強いと思うと死ぬ』


少し間を置いて。


ガルドが続けた。


『怖いものを、怖くないと思う奴も死ぬ』


「怖くてもいいの?」


『当たり前だ』


意外だった。


戦神なら。


恐怖なんて捨てろ。


そう言うと思っていた。


『怖いなら怖いでいい』


『その代わり』


文字が。


一つずつ。


浮かぶ。


『目を逸らすな』


「…………」


『怖くても見ろ』


『見て』


『考えて』


『それから動け』


俺は。


木の棒を握り直した。


「……それが戦い?」


『それが、生き残るってことだ』


戦神の言葉にしては。


妙に。


静かだった。



◇ ◇ ◇



午後。


俺は。


再び走っていた。


「結局……走るのかよ……!」


『身体が基本だからな!』


「さっきの良い話返せ!」


『ガハハハハ!』


「笑うな!」


朝より。


足は重い。


身体も疲れている。


でも。


不思議と。


少しだけ。


走り方が分かってきた。


腕。


足。


呼吸。


無駄に力を入れない。


前を見る。


一歩。


もう一歩。


『そこまで!』


「え?」


止まる。


「まだ……動けるけど」


『今日は終わりだ』


「限界までじゃないの?」


『朝のお前と今のお前は違う』


「……数時間しか経ってないぞ?」


『数時間でも変わる』


ガルドが。


そう言った直後。



――ピコン。



目の前に。


見慣れた表示が出た。


【筋力:9】


「…………」


俺は。


瞬きをした。


昨日。


神殿で見た時は。


【筋力:8】


だった。


「上がってる」


『おう!』


「一日で?」


『おう!』


「普通なの?」


ガルドから。


返事が来ない。


「……ガルド?」


『待て』


さっきまで。


あれだけ騒がしかった声が。


急に。


消えた。


「何?」


数秒。


沈黙。


そして。


【戦神ガルド】


『レン』


「うん」


『今日はもう休め』


「……何で?」


『いいから』


「いや、気になるんだけど」


『明日になれば分かる』


「そういう言い方、一番気になるやつ!」


でも。


ガルドは。


それ以上。


何も言わなかった。



◇ ◇ ◇



レンとの接続が切れた後。


戦神ガルドは。


表示された数値を。


もう一度確認した。


【対象:レン・アルヴェイン】


【筋力:9】


『……ノア』


【知識神ノア】


『確認しています』


『これ、普通か?』


少し。


間があった。


【知識神ノア】


『いいえ』


昨日。


算出された成長予測。


【筋力:8 → 9】


そこに。


必要期間が表示される。


【予測期間:12~18日】


実際。


【1日】


ガルドが。


黙る。


『……俺の指導が良かったか?』


【知識神ノア】


『その可能性を考慮しても、説明できません』


『だよな』


珍しく。


ガルドが笑わなかった。


ノアは。


別の記録を開く。


【世界律接続:失敗】


【成長補助:接続確認不能】


それでも。


レンの数値は。


上がった。


『補助がないのに』


ガルドが呟く。


『何で、こんなに早い?』


ノアは。


答えなかった。


答えられなかった。


代わりに。


一つの記録へ。


アクセスを試みる。


【第108代育成記録】


【アクセス権限を確認】


【――拒否】


『…………』


また。


開けない。


ノアは。


しばらく。


その表示を見つめていた。


そして。


静かに閉じた。


レンには。


まだ。


伝えなかった。

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