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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
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神託ログ04 育成方針、本人不在で決まりそうです

翌朝。


目を覚ました瞬間。


身体が痛かった。


「……いてぇ」


背中。


腰。


首。


全部。


昨日とは違う意味で。


知らない身体になった気分だった。


理由は単純。


宿代がない。


つまり。


野宿した。


街の端にある広場。


屋根のある休憩所を見つけて、そこで一晩を過ごした。


身体は若い。


でも。


石の上で寝れば普通に痛いらしい。


「そこは異世界補正ないのかよ……」


身体を起こして。


大きく伸びをする。


昨日。


森で目を覚ました。


異世界だと知った。


街へ入った。


神殿で天職を調べた。


無職だった。


そして。


七柱の神様に育成対象だと言われた。


「…………」


改めて並べると。


一日で起きていい量じゃない。


「夢じゃないよな」


空を見る。


朝だから。


二つの月はもう見えない。


でも。


周囲には。


石造りの街並み。


行き交う人々。


荷車。


見慣れない服。


現実だった。


その時。



――ピコン。



「……朝から来た」


目の前に。


神託が開く。


【知識神ノア】


『起床を確認しました』


「監視されてるみたいで嫌なんだけど」


『監視ではありません』


「じゃあ何?」


少し間があった。


『観測です』


「言い方変えただけじゃねえか」


返事はない。


昨日から思っていたけど。


知識神。


真面目そうに見えて。


ちょっとズレている。


「他のみんなは?」


『会議中です』


「会議?」


『はい』


「何の?」


『あなたの育成方針について』


「…………」


俺は。


ゆっくり立ち上がった。


「俺抜きで?」


『はい』


「昨日の話、もう忘れた?」


『私は覚えています』


「じゃあ止めてよ」


『私は会議に参加しています』


「お前もか!!」


朝から。


頭が痛くなってきた。


「ちょっと待って。俺も入れて」


『現在、七柱のみで協議しています』


「俺の育成方針を?」


『はい』


「俺抜きで?」


『はい』


「おかしいだろ!」


『その点については、昨夜も議題になりました』


「議題にはなったんだ」


『結論は出ていません』


「なんで!?」


七人も神様がいて。


育てられる本人を会議に入れるかどうかで。


一晩。


結論が出ていない。


「……もういい。繋いで」


『権限がありません』


「じゃあエリオス呼んで」


数秒後。



――ピコン。



【創世神エリオス】


『どうした』


「どうしたじゃない」


『?』


「俺の育成方針、決めてるんだろ?」


『ああ』


「俺抜きで?」


『…………』


「その沈黙、昨日もやったぞ」


『すまない』


「謝るの二回目だからな?」


『……そうだな』


神様が。


少し反省している。


たぶん。


「俺も参加する」


『しかし』


「俺の話だろ?」


『そうだ』


「じゃあ参加する」


少し。


沈黙。


やがて。


『分かった』


「最初からそうして」


次の瞬間。


目の前に。


文字が一気に増えた。



【育成会議への参加が許可されました】



「本当に会議あるんだ……」



◇ ◇ ◇



【戦神ガルド】


『まず身体だ!!』


参加した瞬間。


これだった。


「おはようくらい言えよ」


『おお! 起きたか!』


「今気づいたの?」


『ちょうどいい! 走れ!』


「まだ何も食ってない」


【生命神フィリア】


『駄目です』


『空腹状態で急激な運動をさせないでください』


【戦神ガルド】


『腹が減ったら食えばいい!』


【生命神フィリア】


『食べるものがないんです』


『レンさんは現在、所持金がありません』


「そこ改めて言われると悲しいな」


【商神メルク】


『だから先に金だと言っている』


『今日中に最低限の収入源を確保する』


【魔法神セレナ】


『でも魔法を使えた方が仕事の幅も広がるでしょ?』


【鍛冶神ヴォルグ】


『その前に道具だ』


【戦神ガルド】


『身体だ!』


【知識神ノア】


『基礎知識です』


一斉に。


意見が飛んでくる。


「待って待って待って!」


昨日も見た。


この光景。


「お前ら本当に会議できてた?」


沈黙。


「できてなかったんだな」


【創世神エリオス】


『……意見が割れている』


「見れば分かるよ」


どうやら。


神様だからといって。


話し合いが上手いわけではないらしい。


「一回整理しよう」


俺は近くのベンチへ座った。


「それぞれ、俺に何を教えたい?」


最初に。


ガルド。


『戦い方だ』


即答。


「理由は?」


『死なないためだ』


「……なるほど」


意外と。


まともだった。


『だから走れ!』


前言撤回。


「次」


セレナ。


『魔法』


「理由は?」


『便利だから』


「軽いな」


『便利って大事よ? 火を起こせる。水を出せる。身を守れる。仕事にも使える』


「それは確かに」


『それに』


一拍。


『魔力3が、どこまで使えるのか気になる』


「最後が本音だろ」


『ちょっとだけ』


「絶対ちょっとじゃない」


次。


メルク。


『金の稼ぎ方』


「これは分かりやすいな」


『金がなければ、食えない。泊まれない。道具も買えない。借金も返せない』


「最後が刺さる」


門番への。


銅貨三枚。


忘れてはいない。


『まず、この世界で自分の価値を金に換える方法を覚えろ』


「自分の価値……」


その言葉だけ。


少し引っかかった。


でも。


今は。


深く考えない。


次。


ヴォルグ。


『道具の扱い』


「剣とか?」


『剣だけではない』


『服。靴。鍋。刃物。道具を雑に扱う奴は、長く生きられん』


「……生活全般ってこと?」


『そうだ』


短い。


でも。


分かりやすい。


次。


フィリア。


『身体と命について』


「治療?」


『それも含みます』


柔らかな返事。


『怪我をした時。病気になった時。誰かが倒れた時。何をすべきかを知っていてほしいんです』


「なるほど」


『そして』


少し間があった。


『無理をしないことも』


「……はい」


なぜか。


そこだけ。


強かった。


次。


ノア。


『知識です』


「広すぎる」


『この世界の歴史、地理、制度、魔物、植物、文字、職業、神々』


「待って。量おかしくない?」


『必要です』


「全部?」


『可能な限り』


「学校始まる?」


『学校という制度についても説明可能です』


「そういう意味じゃない」


最後。


エリオス。


「で、創世神は?」


少し。


間があった。


『……全体を見る』


「ふわっとしてるな」


『否定はしない』


「創世神なのに?」


『創世神だからといって、すべてを作ったわけではない』


「…………」


俺は。


少し黙った。


昨日。


ノアも似たようなことを言っていた。


神だから。


何でも知っているわけじゃない。


創世神だから。


何もかも作ったわけじゃない。


「神様って、思ってたより万能じゃないんだな」


誰も。


すぐには答えなかった。


やがて。


ノアから文字が届く。


『神であることと、すべてを知ることは同義ではありません』


「……そっか」


妙な話だ。


異世界に来て。


神様と話しているのに。


神様への幻想だけは。


どんどん壊れていく。



◇ ◇ ◇



「で」


俺は。


七柱の意見を頭の中で整理した。


戦い。


魔法。


金。


道具。


命。


知識。


全体。


「全部必要じゃない?」


【戦神ガルド】


『だから最初からそう言っている!』


「お前の全部は筋トレだろ」


『筋肉は裏切らん!』


【魔法神セレナ】


『魔力も裏切らないわよ』


【商神メルク】


『金は裏切る』


「商神がそれ言う?」


『扱うのが人間だからな』


妙に深いことを言う。


「……じゃあさ」


俺は。


少し考えた。


「順番にやれば?」


七柱が。


静かになった。


「一日ずつとか」


『一日ずつ?』


「うん」


指を折りながら考える。


「今日はガルド。次はセレナ。その次はメルク……みたいに」


『なるほど』


ノアが反応する。


『各柱の専門領域を順番に学習する方式ですね』


「そう」


「やってみて、俺に必要そうなら続ける。合わなかったら変える」


【戦神ガルド】


『全部やればいい!』


「だから、その全部を順番にやるんだよ」


『なるほど!』


「今理解したのかよ」


セレナが笑う。


フィリアも。


賛成してくれた。


メルクは。


『効率は悪くない』


ヴォルグ。


『構わん』


ノア。


『合理的です』


エリオスも。


『それでいこう』


あっさり。


決まった。


「…………」


俺は。


少しだけ。


嫌な予感がした。


「ちなみに」


『何だ?』


「最初は誰?」


一秒。


間が空いた。


【戦神ガルド】


『俺だ!!』


「ですよね」


嫌な予感。


的中。


『まず走れ!』


「だから飯!」


【生命神フィリア】


『ガルド』


『……食ってから走れ!』


「そこは学習するんだな」


俺は。


思わず笑った。


異世界。


無職。


所持金ゼロ。


借金あり。


七柱の神様つき。


普通なのか。


異常なのか。


もう。


よく分からない。


ただ。


一つだけ。


昨日とは違う。


昨日は。


何も分からないまま。


全部を与えられた。


今日は。


少なくとも。


自分で。


一つ決めた。


「……じゃあ、やってみるか」


明日。


いや。


今日から。


俺の。


よく分からない育成生活が始まる。



◇ ◇ ◇



その頃。


知識神ノアは。


一つの数値を見つめていた。


【対象:レン・アルヴェイン】


【筋力:8】


【耐久:7】


【敏捷:9】


【魔力:3】


その横。


通常の育成対象に使用される。


成長予測。


【初期成長予測を算出】


数秒。


表示が揺れる。


【算出完了】


ノアは。


その結果を確認した。


そして。


もう一度。


計算を実行する。


【再算出】


【結果:同一】


『…………』


予測値そのものは。


異常ではない。


問題は。


別の場所にあった。


【世界律接続:失敗】


【成長補助:接続確認不能】


本来。


育成対象の成長は。


世界律を通して観測される。


だが。


レンには。


その接続がない。


それでも。


成長予測だけは。


算出されている。


ノアは。


しばらく表示を見つめた。


『……なぜ』


答えは。


表示されなかった。

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