神託ログ06『知らないでは済まされない』
「何で、私たちを育て始めたの?」
少女の声は、決して大きくなかった。
それでも、その場にいた誰もが聞き逃さなかった。
吹き飛ばされた受付の机。床一面に散らばった書類。外れた扉の向こうから差し込む朝の光。その真ん中で、白い髪の少女は怯えた目を俺に向けていた。
右腕には、黒い線が何本も絡みついている。
血管のようにも見えるし、細い蔓のようにも見える。けれど、皮膚の上にあるわけではない。目を凝らすと腕の輪郭より少しだけ外側を這っていて、時折その一部が皮膚の中へ沈み込むように消えていく。
そして、さっき。
確かに見えた。
【育成――】
ほんの一瞬だった。
けれど、俺だけじゃない。
ノアも見ている。
「……ノア」
『はい』
「今の文字、何だった?」
『完全には読み取れませんでした』
「育成って見えた」
『私も同様です』
「じゃあ、あれって――」
『レン』
ノアが俺の言葉を遮った。
珍しい。
いつもなら俺がどれだけ要領の悪い質問をしても、最後まで聞いてから「質問の範囲を指定してください」と返してくるのに。
『推測を事実として扱わないでください』
その言葉で、口を閉じた。
そうだった。
俺が何度も神様たちに言ってきたことだ。
分からないものを、分かったことにしない。
似ているものを、同じものだと決めつけない。
ましてや今、目の前にいるのは、昨日までの俺たちが存在すら知らなかった女の子だ。
「ごめん」
俺が言うと、少女は不安そうに首を傾げた。
「何が……?」
「あ、いや。こっちの話」
少女からすれば、俺が突然黙って空中と会話しているようにしか見えない。
考えてみれば怖いな。
職業なし。
知らない男。
見えない相手と喋る。
完全に不審者だ。
「俺には神様の声が聞こえるんだ」
慌てて説明すると、少女の目が少しだけ大きくなった。
「神様……?」
「七人いる」
「七人?」
「うん」
「そんなに?」
「俺も多いと思う」
『聞こえてるわよ』
セレナの声が飛んできた。
「今、一人怒った」
「……神様が?」
「うん」
「怒るの?」
「めちゃくちゃ怒る」
『レン?』
「今もう一段階怒った」
少女の口元が、ほんの少し動いた。
笑った。
たぶん。
本当に僅かだったけど、さっきまで怯えることしかできなかった顔から、初めて別の感情が見えた。
それだけで少し安心する。
ただ。
レグルは笑っていなかった。
「レン」
「はい」
「神々と話しているのか」
「そうです」
「なら聞け」
俺を見る目が鋭くなる。
「今の質問を、そのまま」
少女がびくりとする。
レグルはそれに気づくと、すぐに少女へ向き直った。
「すまない。君を問い詰めるつもりはない」
声が少し柔らかくなった。
昨日のミアとのことを、こいつなりに引きずっているのかもしれない。
「確認したいだけだ。先ほどの言葉は、誰かに言われたものなのか?」
少女は迷いながら頷いた。
「昨日……目が覚めた時」
「どこで?」
「森」
「どこの森だ」
「分からない」
「その前の記憶は?」
少女の眉が寄った。
「……分からない」
「自分の名前は?」
「分からない」
「家族は?」
「分からない」
「住んでいた場所」
「分からない」
質問が重なるたびに、少女の顔から血の気が引いていく。
レグルも途中で気づいた。
「もういい」
そこで止めた。
「すまなかった」
少女は首を横に振った。
けれど、両腕を抱く指には力が入っている。
自分について何も分からない。
それがどれだけ怖いことなのか、俺には想像するしかない。
俺だってこの世界へ来た直後は混乱した。でも、少なくとも自分がレンだということは知っていた。どこから来たのかも、自分がどんな人生を送ってきたのかも覚えていた。
この子には。
それすらない。
「一個ずつでいい」
俺はできるだけゆっくり言った。
「分からないものは、分からないままでいいから」
「……でも」
「俺たちも分からないことだらけだから」
少女が俺を見る。
「神様も?」
「特に神様」
『異議があります』
「ノア以外からどうぞ」
『なぜ私を除外するのですか』
「一番言いそうだから」
少女が今度こそ少し笑った。
レグルが俺を見る。
「それは安心させているのか?」
「俺にも分かりません」
「そこくらい分かれ」
……この人、ちょっと慣れてきたな。
でも。
今はそれでいい。
少なくとも、少女の肩からほんの少し力が抜けた。
俺はしゃがんだまま、彼女と目線を合わせる。
「もう一回だけ聞いていい?」
「……うん」
「頭の中で聞こえた声は、何て言った?」
少女は目を閉じた。
思い出そうとしている。
すぐには言葉が出てこない。
俺たちは待った。
レグルも、今度は急かさなかった。
「最初に……」
やがて少女が口を開く。
「起きて、って」
「起きて?」
「うん」
「それから?」
「見つけて」
「誰を?」
「レン」
自分の名前を言われると、やっぱり変な感じがする。
「その次は?」
「……聞いて」
「何を?」
少女は俺を見た。
「神様に」
そして。
「どうして、私たちを起こしたのって」
さっきと。
少し違う。
俺はすぐに気づいた。
「待って」
少女が身体を強張らせる。
「ごめん、怖がらせたいんじゃない」
俺は頭の中で言葉を整理した。
「さっきは『育て始めた』って言ったよね?」
「…………」
「今は『起こした』」
少女自身も気づいていなかったらしい。
目が揺れる。
「どっち?」
「分からない」
「声は何て?」
「……起こした」
「じゃあ『育て始めた』は?」
少女が右腕を見る。
黒い線。
「これを見たら」
指で触れようとして、止める。
「頭の中に……言葉が」
「どんな?」
「育てる、って」
俺の背中を、嫌なものが這った。
声が言ったのは。
起こした。
腕に浮かんだのは。
育成。
同じじゃない。
俺たちが勝手に一つへまとめようとしていた。
「ノア」
『記録しました』
「二つは分けて考える」
『同意します』
レグルがこちらを見ている。
「何が分かった」
「まだ何も」
「なら、その顔は何だ」
「分かってないことが一個増えた顔です」
「器用な顔だな」
「嬉しくないです」
でも。
大事だ。
この子の頭に声を送った何者かと、右腕の【育成】が同じものだとは限らない。
むしろ。
違う可能性がある。
「七柱」
俺は呼んだ。
「聞いてるよね」
最初に答えたのはエリオスだった。
『聞いている』
「この子を知ってる?」
『知らない』
「この子を起こした?」
『少なくとも、私はしていない』
次。
『俺も知らん』
ガルド。
『私もよ』
セレナ。
『知らないねえ。少なくとも取引した覚えはない』
メルク。
『俺ではない』
ヴォルグ。
『私も……この方とは、今日初めてお会いします』
フィリア。
最後。
『私の保有する記録にも、該当する行為は存在しません』
ノア。
七柱。
全員。
知らない。
「じゃあ」
俺は聞く。
「神様がやった可能性は?」
沈黙。
それ。
嫌。
答え。
でも。
今回は。
急かさない。
しばらくして、ノアが答えた。
『否定できません』
「七柱以外?」
『はい』
「神様って七人じゃないの?」
これは前にも何度か引っかかったところだ。
過去には、今の七柱とは違う名を持つ神々がいた。
そして俺たちは、今の七柱と過去の七柱が同一なのか、別なのか、それすら完全には証明できていない。
エリオスが続ける。
『レン。この世界において、“神”という言葉は一つの意味だけを持たない』
「どういうこと?」
『現在、人々が七柱として認識している我々。過去の記録に残る神々。神性を有した存在。そして――』
一度。
言葉が止まる。
『神として認識された何か』
「最後怖いんだけど」
『事実だ』
「神様じゃなくても、みんなが神様だと思ったら神様?」
『極端に単純化すれば、そうなる』
レグルにも説明する。
すると。
「我々の記録とも一致する」
「何が?」
「神託だ」
レグルは床へ置いていた徽章を拾い上げ、掌の上で眺めた。
「職業管理院には、各地の神殿から神託に関する報告が届く。通常は神官を通じ、どの神から下されたものかも併記される」
「普通は?」
「ああ」
「普通じゃないのもある?」
レグルが頷いた。
「ここ半年で十一件」
「十一?」
「神名のない神託が確認されている」
ぞくりとした。
「内容は?」
「統一されていない。豊作を告げるもの。街道の崩落を警告するもの。個人へ向けられたと思われる言葉」
「当たった?」
「七件は、結果として事実と一致した」
ただの悪戯。
では。
説明できない。
「残り四件は?」
「一件は外れた。三件は、まだ意味が分かっていない」
「その三件」
嫌な予感がする。
「見せてもらえます?」
レグルは迷った。
当然だ。
俺は部外者。
しかも。
さっきまで疑われていた側。
「全部は無理だ」
「一個でも」
「……後で確認する」
「ありがとうございます」
「まだ許可していない」
「でも確認してくれる」
「本当に面倒だな」
「四人目です」
「増やすな」
少しだけ。
空気が緩む。
でも。
俺の中では。
何か。
繋がり始めている。
知らない神託。
八つ目の声。
西の影のない人たち。
黒い札。
性質。
百九。
育成。
全部が同じものとは限らない。
むしろ。
同じだと思う方が危険。
でも。
どこか。
重なってる。
「レン」
リナが小声で呼んだ。
「何?」
「その子」
見る。
少女の顔が苦しそうだった。
話。
長すぎた。
完全に置いていってた。
「あ、ごめん!」
「……大丈夫」
「大丈夫じゃない顔してる」
「ちょっと……疲れた」
当たり前だ。
「レグルさん」
「ああ。まず休ませる」
レグルが職員を呼ぼうとする。
その瞬間。
少女の身体がびくっと震えた。
「待って!」
レグルが止まる。
少女は周囲を見る。
制服。
職員。
武器。
壊れた入口。
自分がやった。
たぶん。
それ。
思い出す。
「……閉じ込める?」
声が震えている。
レグルの顔から、表情が消えた。
昨日。
ミア。
今日。
トーマ。
そして。
記録の中のエナ。
たぶん。
全部。
頭。
よぎった。
「閉じ込めない」
「本当に?」
「ああ」
「でも、私……壊した」
倒れた扉を見る。
「それは後で考える」
「怒らない?」
「怒ってはいる」
「レグルさん!」
「嘘をついてどうする」
いや。
そうだけど!
少女。
固まってる!
でも。
レグルは続けた。
「扉は壊れた。職員も三名が軽傷を負った。それを、なかったことにはできない」
少女の顔が下がる。
「だが」
レグルが膝をつく。
「君が怯えていたことも、なかったことにはしない」
少女。
顔。
上げる。
「両方調べる」
「…………」
「それが私の仕事だ」
俺。
ちょっと。
驚く。
この人。
昨日。
シオンに。
会って。
変わった?
いや。
たぶん。
もともと。
こういう人。
制度。
信じてる。
規則。
守る。
でも。
間違い。
分かったら。
直す。
「だから」
レグルが言う。
「今は休んでほしい」
少女は迷った。
「扉は?」
「内側から開く」
「帰りたいって言ったら?」
「現時点では止めない」
「……現時点?」
「君の力が他人の命を明確に脅かすと判明した場合、私は止める」
はっきり。
言う。
「その時は、君が嫌だと言ってもだ」
少女。
黙る。
俺も。
黙る。
本人の選択。
大事。
でも。
本人が選んだら。
何でも。
許される?
違う。
他人。
いる。
社会。
ある。
ここ。
難しい。
「でも」
レグル。
続ける。
「理由は説明する」
「…………」
「君にも」
「分かるまで?」
少女。
聞く。
レグル。
少し。
困る。
「努力する」
少女。
ほんの少し。
笑った。
「じゃあ……休む」
「分かった」
今度こそ。
職員。
呼ぶ。
でも。
少女。
動かない。
「どうした?」
「その前に」
俺。
見る。
「名前」
「え?」
「あなた」
「レン」
「うん」
「私は?」
止まる。
「分からない」
「じゃあ」
少女。
言う。
「何て呼ぶの?」
これ。
難しい。
俺。
過去。
思い出す。
カイル。
言葉。
『名前は、神様が与えるものじゃない』
『呼んでくれる人が、守るものなんだ』
そして。
俺。
アルヴェイン。
名前。
違った。
意味。
持ってた。
勝手。
名前。
つける。
怖い。
「自分で」
俺。
言う。
「決めたら?」
「私が?」
「うん」
「名前って」
「自分で決めていいの?」
俺。
答えよう。
する。
でも。
止まる。
知らない。
この世界。
普通。
名前。
親。
つける。
神殿。
記録。
する。
自分。
決める。
珍しい。
かもしれない。
でも。
「少なくとも」
俺。
言う。
「俺は」
「いいと思う」
少女。
考える。
長い。
時間。
壊れた。
入口。
外。
空。
見る。
朝。
青い。
白い。
雲。
一つ。
流れてる。
「……ソラ」
言った。
「ソラ?」
「今」
「最初に」
「見えたから」
空。
「変?」
「全然」
俺。
笑う。
「いい名前」
「じゃあ」
少女。
自分。
胸。
触る。
「ソラ」
一度。
確かめる。
みたい。
「私」
「ソラ」
その瞬間。
右腕。
黒い線。
光る。
「え?」
レグル。
動く。
「下がれ!」
「待って!」
俺。
止める。
黒い線。
暴れてない。
むしろ。
整う。
腕。
周り。
絡んでた。
何本。
線。
一つ。
一つ。
並ぶ。
文字。
浮かぶ。
今度。
消えない。
【名称:ソラ】
全員。
見る。
俺。
息。
止まる。
「名前……」
ソラ。
自分。
腕。
見る。
「これ」
「私?」
答えられない。
でも。
次。
文字。
【職業:なし】
俺。
「仲間」
「レン」
「ごめん」
反射。
だった。
ソラ。
ちょっと。
笑う。
でも。
まだ。
続く。
【性質:――】
そこ。
文字。
乱れる。
【育成状態:覚醒】
「……育成状態?」
レグル。
声。
低く。
なる。
俺。
頭。
冷える。
育成。
やっぱり。
ある。
でも。
誰が。
育ててる。
何を。
育てる。
次。
文字。
浮かぶ。
【育成者:未接続】
七柱。
一斉。
反応。
する。
『レン』
エリオス。
声。
「うん」
『触れるな』
「分かってる」
今。
何も。
しない。
ソラ。
腕。
見てる。
そして。
最後。
一行。
浮かぶ。
【接続先を選択してください】
「…………」
ソラ。
俺。
見る。
「これ」
「どうしたらいい?」
知らない。
分からない。
選択。
でも。
選択肢。
見えない。
「何も」
俺。
言う。
「今は」
「何も選ばなくていい」
「でも」
「選べって」
「書いてある」
「書いてあるだけ」
俺。
自分。
でも。
びっくり。
する。
昔。
俺。
表示。
出たら。
従う。
もの。
思ってた。
今。
違う。
「ソラが」
「何なのか」
「これが」
「何なのか」
「誰と繋がるのか」
「分かってから」
「選べばいい」
ソラ。
俺。
見る。
ゆっくり。
頷く。
文字。
しばらく。
残る。
そして。
消える。
何も。
起きない。
「……消えた」
「うん」
「選ばなかったから?」
「たぶん」
「怒られない?」
「誰に?」
「分からない」
「じゃあ」
俺。
言う。
「怒られてから考えよう」
「レン」
リナ。
笑う。
「雑」
「だって相手分からんもん」
ソラも。
少し。
笑う。
その時。
俺の頭の奥。
何か。
音。
した。
通知。
みたい。
嫌な。
感覚。
視界。
端。
文字。
浮かぶ。
【第109代育成対象】
久しぶり。
表示。
【第二段階】
心臓。
鳴る。
【育成者候補を検出】
「……は?」
俺。
だけ?
いや。
ノア。
『確認しています』
七柱。
見えてる。
【候補:ソラ】
「待って」
何で。
ソラ。
育成。
される。
側。
じゃ。
ないの?
表示。
続く。
【育成対象は】
【育成者になり得る】
言葉。
消える。
俺。
何も。
言えない。
第一章。
最後。
見た。
七つ。
枠。
その先。
八つ。
九つ。
十。
増えていった。
育成者。
神だけではない。
あの声。
言った。
『次は』
『神だけではない』
意味。
もしかして。
俺。
神様。
育てられる。
だけ。
じゃない。
人。
性質。
持つ。
人。
出会う。
そいつら。
俺。
育てる?
違う。
それ。
また。
俺が。
決める。
こと。
じゃない。
もっと。
別。
「レン?」
ソラ。
俺。
見る。
「どうしたの?」
「……分からん」
「また?」
「また」
ソラ。
少し。
笑う。
「レンって」
「何も知らないんだね」
「今日会ったばっかの子に言われた!」
「でも」
ソラ。
言う。
「よかった」
「何が?」
「神様と話せる人が」
「何でも知ってる人じゃなくて」
俺。
止まる。
「何で?」
「だって」
ソラ。
自分。
右腕。
見る。
「何でも知ってたら」
「私が何なのかも」
「もう決められてそうだから」
胸。
何か。
刺さる。
レグル。
黙って。
聞いてる。
七柱。
誰も。
言わない。
俺。
笑う。
「じゃあ」
「しばらく」
「一緒に」
「分からないでいよう」
「うん」
ソラ。
初めて。
ちゃんと。
笑った。
◇ ◇ ◇
ソラを休ませたあと、俺たちは管理院の一室を借りた。
俺。
リナ。
レグル。
そして。
七柱。
姿。
見えない。
でも。
いる。
「さて」
レグル。
机。
両手。
置く。
「聞かせてもらおう」
「何を?」
「今」
「君に」
「何が見えた」
俺。
迷う。
全部。
言う?
レグル。
まだ。
信用。
してない。
でも。
俺。
さっき。
言った。
話さない。
と。
信用しない。
同じじゃない。
「第109代育成対象」
レグル。
顔。
変わらない。
知ってる。
「第二段階」
「それから?」
「育成者候補」
「誰だ」
「ソラ」
初めて。
レグル。
完全。
止まる。
「……彼女が?」
「はい」
「君を育てると?」
「分かりません」
「表示は」
「候補」
「それと」
俺。
息。
吐く。
「育成対象は」
「育成者になり得る」
レグル。
椅子。
背。
預ける。
「意味が分からんな」
「俺もです」
「安心した」
「何で!?」
「君だけ理解していたら」
「説明が長くなる」
「そこ!?」
でも。
レグル。
すぐ。
真顔。
戻る。
「一つ」
「心当たりがある」
「何?」
「昨日」
「シオンといた」
「ミア」
「はい」
「彼女を」
「旧観測器で」
「調べた」
俺。
嫌。
予感。
「結果は?」
「職業」
「歌唱師」
「性質」
「未分類」
「そして」
レグル。
書類。
一枚。
出す。
「本来」
「存在しない」
「項目が」
「一瞬」
「表示された」
俺。
紙。
見る。
【育成状態:覚醒】
同じ。
「ミアも……」
「ああ」
「じゃあ」
「トーマは?」
「未確認だ」
「調べる?」
言って。
止まる。
違う。
「いや」
「本人に」
「聞いてから」
レグル。
少し。
笑う。
「学習したな」
「昨日からそればっかりなので」
「私もだ」
不思議。
敵。
味方。
まだ。
分からない。
でも。
同じ。
もの。
追ってる。
「レグルさん」
「何だ」
「神名のない神託」
「三つ」
「見せられる?」
「一つだけ」
「十分」
レグル。
封筒。
出す。
「三ヶ月前」
「北東部」
「小さな神殿」
「夜中」
「神官全員が」
「同時に」
「聞いた」
「同じ言葉」
紙。
開く。
短い。
文章。
一行。
【育てられた者が、育てる時代が来る】
「…………」
俺。
何も。
言えない。
レグル。
次。
説明。
「神官たちは」
「当初」
「新しい教育制度への」
「神託だと」
「解釈した」
「だいぶ平和」
「我々もそう思った」
「でも」
今。
意味。
変わる。
育成対象。
育成者。
神。
人。
「残り二つは?」
「許可が必要だ」
「そこを」
「駄目だ」
「一個!」
「駄目だ」
「半分!」
「神託を半分とは何だ」
「前半だけ!」
「余計危険だ」
正論。
強い。
「じゃあ」
「許可取って」
「申請する」
「誰に?」
「私の上司」
「レグルさんより上いるの?」
「当たり前だ」
「何か嫌だな」
「なぜだ」
「もっと堅そう」
「否定はしない」
嫌。
確定。
でも。
進んだ。
少し。
分かった。
育成。
俺。
だけ。
じゃない。
ソラ。
ミア。
たぶん。
トーマ。
そして。
もっと。
いる。
でも。
誰が。
始めた。
何のため。
分からない。
その時。
扉。
叩く。
「主任」
「入れ」
職員。
入る。
顔。
険しい。
「トーマ・ベルクから」
「連絡です」
「トーマ?」
俺。
立つ。
「何かあった?」
「本人ではありません」
「え?」
「父親からです」
嫌。
感じ。
「トーマは?」
職員。
言いづらそう。
俺。
見る。
「先ほど」
「工房から」
「姿を消したそうです」
「…………は?」
今朝。
帰した。
工房。
戻った。
はず。
「いつ?」
「およそ」
「三十分前」
「誰かと?」
「不明です」
「争った跡は?」
「ありません」
シオン。
頭。
浮かぶ。
でも。
決めるな。
前。
トーマ。
自分。
シオン。
行った。
今回。
同じ。
とは。
限らない。
「他には?」
レグル。
聞く。
「工房内に」
「これが」
職員。
布。
包まれた。
もの。
机。
置く。
開く。
黒い。
札。
俺。
息。
止まる。
表。
【106】
「また……減った」
裏。
返す。
そこ。
今まで。
数字。
あった。
でも。
今回は。
文字。
【育成者 一名確保】
「…………」
俺。
理解。
できない。
「育成者?」
リナ。
声。
出す。
レグル。
札。
触れない。
見る。
「誰を指している」
分からない。
トーマ?
シオン?
別?
その時。
俺の。
視界。
端。
また。
文字。
【育成者候補】
一つ。
枠。
明滅。
名前。
ない。
そして。
【候補一名】
【接続圏外】
「……接続圏外?」
俺。
声。
出る。
「レン?」
リナ。
「今」
「表示」
「何て?」
「育成者候補」
「一人」
「接続圏外」
レグル。
黒い札。
見る。
俺。
同じ。
見る。
神に。
見つかってる。
数。
減る。
観測。
消える。
そして。
接続圏外。
今まで。
似てる。
言葉。
いっぱい。
出た。
でも。
初めて。
思う。
これ。
もしかして。
全部。
同じ。
意味。
じゃない。
観測から。
消える。
神から。
消える。
育成から。
消える。
別。
なのか。
「レグルさん」
「何だ」
「トーマ」
「探します」
「我々もだ」
「でも」
「一個」
俺。
言う。
「約束」
「何だ」
「見つけても」
「最初に」
「連れ戻さない」
レグル。
俺。
見る。
「まず」
「本人に」
「聞く」
長い。
間。
「ああ」
レグル。
頷く。
「同意する」
俺。
黒い札。
見る。
【106】
昨日。
百九。
今日。
百六。
三人。
消えた。
いや。
消えた。
じゃない。
見えなくなった。
それを。
同じ。
扱うな。
そして。
もう一つ。
もっと。
気になる。
【育成者 一名確保】
もし。
トーマ。
指す。
なら。
誰か。
性質持ち。
集めてる。
だけ。
じゃない。
育成者。
集めてる。
俺。
第一章。
最後。
表示。
思い出す。
七柱。
その先。
増えた。
空欄。
育成者。
神だけではない。
あの時。
少し。
意味。
分かった。
気。
してた。
でも。
違った。
神以外も。
俺を。
育てる。
それだけ。
じゃない。
もしかしたら。
誰かが。
その席そのものを。
奪おうとしている。
黒い札を握らず、俺はただその数字を見つめた。
百六。
減っているのは、人の数なのか。
神から見える数なのか。
それとも。
俺のところへ辿り着ける人間の数なのか。
まだ、何も分からない。
ただ一つだけ。
昨日までとは違うことがある。
今度は、向こうが俺たちより先に動いている。
そして。
その向こう側もまた。
俺たちと同じ言葉を使い始めた。
――育成者。
俺は黒い札から目を上げた。
「トーマを探そう」
今度は。
誰かに決められる前に。
トーマ自身が何を選んだのか。
それを聞くために。




