神託ログ03『神様より先に』
「一人」
男が言った。
「神より先に」
トーマは椅子に座ったまま、男を睨んでいた。
手足は縛られていない。
扉にも鍵はない。
窓もある。
外へ出ようと思えば、たぶん出られる。
だからこそ。
気味が悪かった。
「何が一人だ」
「お前だよ」
「意味分かんねえ」
「そうだろうな」
男は壁に背を預けた。
年齢は三十前後。
黒髪。
細身。
武器らしいものは持っていない。
そして。
影がある。
月明かりを受けて、床に長く伸びている。
トーマは知らない。
レンが昨日会った男には、影がなかったことを。
だから。
目の前の男が何者なのか。
判断する材料は、ほとんどなかった。
「名前は?」
トーマが聞く。
男が少し笑った。
「聞くのか」
「普通聞くだろ」
「そうか」
妙な返事。
「シオン」
「職業は?」
「ない」
トーマの眉が動く。
「……お前も?」
「も?」
「今日、会った奴が」
言いかけて。
止まる。
男――シオンの口元が、わずかに上がった。
「レンか」
トーマが立った。
「何で知ってる」
「座れ」
「何で知ってる!」
「座らなくてもいい。ただ、大声を出しても誰も来ない」
「……ここどこだ」
「町の外れだ」
「何で俺を連れてきた」
「確認するため」
「だから何を!」
シオンは答えなかった。
代わりに。
机の上へ、小さな木箱を置いた。
「開けてみろ」
「……は?」
「開けろ」
「鍵は?」
「ない」
箱には蓋がある。
金具もある。
だが。
確かに鍵穴はない。
トーマは近づかない。
「嫌だ」
「なぜ?」
「怪しいから」
「正しい」
「…………」
「レンに教わったか?」
トーマの顔が歪む。
「何であいつのこと知ってる」
「今日、お前は何を教わった」
「答えろよ!」
「力を使う前に、何を考えろと言われた?」
トーマ。
黙る。
――何を外すのか。
――細かくしよう。
――怖いから。
昼間。
レンが言った。
シオンは箱を指す。
「開けてみろ」
「……触って?」
「どちらでもいい」
トーマは近づいた。
箱。
見る。
嫌な感じ。
しない。
でも。
レンなら。
たぶん。
すぐ使わない。
トーマは箱を手に取った。
普通に。
蓋。
引く。
開かない。
金具。
動かす。
開かない。
「壊れてんのか?」
「違う」
「じゃあ何だ」
「開かない箱だ」
「説明になってねえ」
「なら」
シオンが言う。
「外せ」
トーマの右手。
わずかに震えた。
◇ ◇ ◇
「追う」
そう言った。
でも。
走り出さなかった。
走りたい。
今すぐ。
町中。
探したい。
西へ。
向かいたい。
黒い紙を置いた奴を。
捕まえたい。
でも。
俺。
知ってる。
焦って。
選ぶと。
見えなくなる。
「アリア」
「はい」
「まず確認したい」
大神殿。
トーマが使っていた客室。
アリア。
リナ。
俺。
そして。
七柱。
「トーマが」
「自分で出ていった可能性」
リナが俺を見る。
「あると思う?」
「分からない」
「窓から?」
「それも分からない」
連れていかれた。
そう。
思った。
でも。
拘束された跡。
ない。
争った跡。
ない。
窓。
壊れてない。
血。
ない。
「だから」
俺。
言う。
「決めつけない」
アリア。
頷く。
「正しいと思います」
床。
黒い文字。
【神より先に】
そして。
俺の部屋。
置かれた紙。
【一〇七】
【二人目】
【次は、外す者】
気持ち悪い。
でも。
一番。
気になる。
「ノア」
『はい』
「一〇九から一〇八」
「一〇八から一〇七」
「減ってる」
『はい』
「同じ数字だと思う?」
ノアはすぐに答えなかった。
『現時点では』
『断定できません』
「うん」
『しかし』
声。
少し。
硬い。
『無関係と判断することも危険です』
俺。
頷く。
一〇九。
性質保有個体。
その後。
一〇八。
そして。
黒い紙。
一〇八。
今日。
一〇七。
偶然。
かもしれない。
偶然じゃない。
かもしれない。
「アリア」
「観測数」
「確認できる?」
「……確認します」
アリアが古い観測端末へ向かう。
俺。
待つ。
数秒。
長い。
表示。
浮かぶ。
【性質保有個体】
【観測数:109】
一瞬。
安心。
する。
でも。
次。
【現在応答数:107】
「…………」
一致。
した。
リナが息を呑む。
「減ってる」
「うん」
昨日。
一〇八。
今。
一〇七。
黒い紙。
同じ。
「トーマが」
リナ。
言う。
「一人?」
「かもしれない」
「じゃあ」
「もう一人は?」
分からない。
俺たちが。
トーマ。
見つける前。
一〇八。
だった。
つまり。
すでに。
一人。
応答。
消えていた。
そして。
今日。
トーマが。
消えた。
直後。
一〇七。
もし。
同じなら。
「誰かが」
俺。
言う。
「性質持ちを」
「観測できない状態にしてる」
【創世神エリオス】
『……可能性はある』
「どうやって?」
『分からない』
「神様でも?」
『分からない』
エリオス。
隠さない。
それ。
少し。
嬉しい。
でも。
今は。
嬉しがってる場合。
じゃない。
「トーマ」
「生きてる?」
フィリア。
聞く。
長い。
沈黙。
『分かりません』
胸。
締まる。
フィリアが続ける。
『私は』
『トーマさんと生命接続を結んでいません』
「だから?」
『離れた場所から生命状態を確認することはできません』
そうか。
神様。
何でも。
分かる。
わけじゃない。
知ってた。
でも。
こういう時。
それが。
怖い。
「レン」
リナ。
俺の腕。
軽く。
叩く。
「まだ死んだって決まってない」
「うん」
危ない。
また。
先。
行った。
悪い方。
勝手に。
決めた。
「ごめん」
「誰に?」
「自分」
「変なの」
リナ。
言う。
でも。
少し。
笑った。
◇ ◇ ◇
「外せ」
シオンが言う。
トーマは箱を見る。
「何を」
「自分で考えろ」
「知らねえよ」
「なら使うな」
トーマ。
顔。
上げる。
「は?」
「分からないものに力を使うな」
「お前が使えって言ったんだろ!」
「言われたから使うのか?」
「…………」
シオンは笑わない。
「神に言われたら?」
トーマの顔から。
少し。
怒りが消える。
「レンに言われたら?」
「……あいつは」
「何だ」
「無理に使えって言わなかった」
「そうか」
シオン。
箱。
取る。
「なら」
「一つ目は合格だ」
「何の試験だよ」
「人間でいられるか」
トーマ。
眉。
寄る。
「さっきから」
「それ何なんだ」
「性質」
シオン。
初めて。
その言葉。
口にした。
「職業ではない」
「神から与えられた力でもない」
「だが」
「力を得た人間は」
「すぐに間違える」
「何を」
「自分が」
一歩。
近づく。
「特別な存在になったと」
トーマ。
黙る。
「神も同じだ」
シオン。
言う。
「力がある」
「知識がある」
「長く生きる」
「だから」
「選んでいいと思う」
トーマの頭。
レン。
浮かぶ。
変な奴。
神様七人。
連れてる。
なのに。
ずっと。
分からない。
言ってた。
「……レンは」
「違った」
シオン。
止まる。
「何が」
「あいつ」
「全然」
「分かってなかった」
「…………」
「神様も」
「全然」
「分かってなかった」
「…………」
「役に立たねえなって言ったら」
「七人キレた」
シオンの眉が。
ほんの少し。
動く。
「……七人?」
「らしい」
「お前には聞こえないのか」
「聞こえねえよ」
「そうか」
シオン。
考える。
何か。
予定と。
違ったような。
顔。
「レンは」
「神を信じているか?」
「知らん」
「見ていてどう思った」
トーマ。
考える。
今日。
一日。
だけ。
それでも。
「……聞いてた」
「神の言うことを?」
「違う」
トーマ。
首。
振る。
「神様にも聞いて」
「女にも聞いて」
「俺にも聞いて」
「最後」
「自分で決めてた」
シオン。
黙った。
「そうか」
「何だよ」
「いや」
「面倒な奴だと思っただけだ」
「それは俺も思う」
初めて。
意見。
合った。
◇ ◇ ◇
捜索。
始める。
まず。
トーマの部屋。
ヴォルグ。
床。
窓。
確認。
『破壊痕はない』
「窓から出た?」
『可能性はある』
ノア。
『窓枠に微量の土』
「外?」
『この神殿周辺の土とは成分が異なる可能性があります』
「場所まで分かる?」
『試料が不足しています』
アリア。
地図。
持ってくる。
町。
周辺。
土。
違い。
西。
乾いてる。
北。
石。
多い。
南。
畑。
東。
川。
「セレナ」
「魔法の跡は?」
『ない』
「ガルド」
「人が運ばれた跡」
『見えん』
「メルク」
『市場で聞き込みます』
俺。
止まる。
「え?」
『人が動けば、お金も物も動きます』
声。
落ち着いてる。
『宿』
『馬車』
『食料』
『外套』
『部屋』
『何かを準備すれば』
『誰かに金が渡る』
なるほど。
「メルク」
『はい』
「めちゃくちゃ神様っぽい」
『商神です』
ちょっと。
かっこいい。
「フィリア」
『私は診療所へ』
「何で?」
『もし性質が突然発現している方が他にもいるなら』
フィリア。
言う。
『体調不良だと思って』
『診療所へ来ている可能性があります』
なるほど。
俺。
七柱。
見る。
声。
しか。
聞こえないけど。
一人。
一人。
違う。
昔。
俺。
神様。
聞けば。
答え。
出る。
思ってた。
違う。
七柱。
いるから。
七つ。
見方。
ある。
答え。
七個。
あるんじゃない。
見えるもの。
増える。
「俺たちは?」
リナ。
聞く。
「人」
「人?」
「聞く」
「誰に?」
俺。
床。
見る。
黒い。
文字。
【神より先に】
神様。
見えないもの。
人間なら。
見てる。
かもしれない。
◇ ◇ ◇
聞き込み。
最初。
成果。
なし。
二人目。
なし。
三人目。
「知らないねえ」
四人目。
「夜は寝てた」
五人目。
「若い男?」
六人目。
「見てない」
七人目。
「パン買う?」
「買います」
「レン」
「腹減った」
「捜索中」
「食べながら探せる」
買った。
うまい。
八人目。
なし。
九人目。
「ああ」
止まる。
老人。
西門。
近く。
露店。
「見たよ」
「誰を?」
「若い兄ちゃん」
「どんな?」
「茶色い髪」
トーマ。
「一人?」
「いや」
俺とリナ。
顔。
見る。
「誰と?」
「黒髪の男」
「どっちが」
「無理やり?」
「いや」
老人。
首。
傾げる。
「普通に」
「歩いてたがね」
「…………」
連れ去り。
じゃない?
「トーマ」
「嫌がってました?」
「さあ」
「でも」
老人。
言う。
「途中で」
「何度か」
「後ろ」
「振り返ってたな」
「何時?」
「鐘が十回」
夜。
遅い。
「どっちへ?」
老人。
指。
西。
境界。
方向。
心臓。
鳴る。
また。
西。
「行く?」
リナ。
聞く。
「行く」
即答。
でも。
「境界までは」
「うん」
「越えない?」
「今は」
「うん」
昨日。
決めた。
状況。
変わった。
でも。
焦りだけで。
全部。
変える。
それも。
違う。
◇ ◇ ◇
箱。
まだ。
机。
上。
「で」
トーマ。
言う。
「俺」
「いつ帰れる」
「いつでも」
シオン。
答える。
「じゃあ帰る」
立つ。
扉。
向かう。
開ける。
普通に。
開く。
廊下。
誰も。
いない。
出口。
見える。
「…………」
本当に。
帰れる。
「何なんだよ」
振り返る。
シオン。
椅子。
座る。
「何で」
「俺を」
「ここに連れてきた」
「言った」
「確認だ」
「俺の力?」
「それもある」
「他は?」
シオン。
トーマ。
見る。
「レン」
「は?」
「レンが」
「お前をどう扱うか」
トーマ。
顔。
険しくなる。
「俺を」
「餌にした?」
「そうだ」
即答。
トーマ。
拳。
握る。
「ふざけんな」
「怒るか」
「当たり前だろ!」
「なら」
シオン。
静か。
「帰れ」
「…………」
「俺は止めない」
トーマ。
扉。
立つ。
出る。
その前。
止まる。
「お前」
「レンを」
「殺す気か」
「ない」
「じゃあ何だ」
「見る」
「何を」
「どこまで」
シオン。
言う。
「神から離れられるか」
トーマ。
昼。
思い出す。
レン。
神様。
七人。
いる。
でも。
あいつ。
神。
言うこと。
全部。
聞いてない。
「お前」
「勘違いしてねえ?」
シオン。
眉。
上げる。
「何を」
「レン」
「あいつ」
「神様から」
「離れたいんじゃ」
「ないと思うぞ」
初めて。
シオンの顔。
少し。
変わる。
「何?」
「知らんけど」
トーマ。
肩。
すくめる。
「一人で立つ」
「とか」
「そういう顔」
「してなかった」
昨日。
知らない。
境界。
会話。
トーマ。
知らない。
なのに。
同じ。
言葉。
近く。
行く。
「じゃあ」
「何だ」
「知らん」
「知らないのか」
「今日会ったばっかだぞ!」
もっとも。
「でも」
トーマ。
言う。
「あいつ」
「神様」
「いらないって」
「言われたら」
「たぶん」
「怒るぞ」
シオン。
長く。
黙る。
そして。
「面白い」
「気持ち悪いな」
「よく言われる」
トーマ。
扉。
出る。
「トーマ」
呼ばれる。
振り返る。
シオン。
黒い。
小さな札。
投げる。
トーマ。
受け取る。
「何だこれ」
【一〇七】
「お前は」
シオン。
言う。
「百七番目じゃない」
「は?」
「残っている数だ」
トーマ。
目。
見開く。
「何が」
「神に」
シオン。
笑う。
「見つかっている数」
◇ ◇ ◇
西門。
越える。
夜道。
俺。
リナ。
走る。
七柱。
ついてる。
メルク。
情報。
来る。
『レン』
「何?」
『黒髪の男が』
『昨日』
『保存食を購入しています』
「量は?」
『二人分』
「どこで?」
『西門付近です』
一致。
フィリア。
『レン』
「うん」
『診療所で』
声。
いつもより。
硬い。
『奇妙な患者の記録を』
『見つけました』
「どんな?」
『三日前』
『自分の周囲だけ』
『音が消えると』
足。
少し。
遅くなる。
「性質?」
『分かりません』
「名前は?」
フィリア。
答える。
『ミア』
「今は?」
『行方が』
間。
『分かりません』
一人目。
頭。
浮かぶ。
一〇九。
一〇八。
そして。
一〇七。
「アリア!」
声。
飛ばす。
「一〇八になったの」
「いつ!?」
少し。
して。
ノア。
代わり。
答える。
『記録を照合しました』
『三日前です』
「…………」
ミア。
三日前。
行方。
不明。
観測。
一〇八。
今日。
トーマ。
消える。
一〇七。
繋がった。
まだ。
確定。
じゃない。
でも。
偶然。
で。
済ませるには。
重なりすぎる。
「レン」
リナ。
前。
指す。
人影。
一人。
歩いてくる。
茶色い。
髪。
「トーマ!」
走る。
トーマ。
顔。
上げる。
「……レン?」
生きてる。
身体。
傷。
ない。
俺。
止まる。
息。
切れる。
安心。
した。
腹。
立った。
両方。
一緒。
「お前!」
「何だよ」
「勝手にいなくなるな!」
「俺も好きで――」
トーマ。
止まる。
「……いや」
「何?」
「ごめん」
素直。
言われる。
怒り。
行き場。
失う。
「無事?」
リナ。
聞く。
「うん」
「怪我は?」
「ない」
「何された?」
トーマ。
黒い札。
出す。
【一〇七】
俺。
見る。
「同じ」
「お前も?」
「紙」
出す。
一〇七。
二枚。
トーマ。
息。
吐く。
「俺」
「たぶん」
「誘拐されたわけじゃない」
「どういうこと?」
「話す」
「長い?」
「長い」
「じゃあ歩きながら」
「どこへ?」
俺。
西。
見る。
境界。
まだ。
先。
「神殿」
トーマ。
意外そう。
「追わないのか?」
「誰を?」
「シオン」
初めて。
名前。
出る。
「そいつ」
「どこ?」
トーマ。
後ろ。
指す。
「さっきまで」
「いた」
「なら」
「追える」
「うん」
「でも」
俺。
黒い札。
見る。
「先に」
「お前の話」
「聞く」
トーマ。
黙る。
「いいのか?」
「何が?」
「逃げるぞ」
「逃げるかも」
「じゃあ」
「でも」
俺。
言う。
「今」
「知らない奴を追うより」
「知ってる奴の話」
「聞く」
トーマ。
変な顔。
する。
「何?」
「いや」
「シオンが」
「お前のこと」
「面倒な奴って」
「会ってないのに!?」
リナ。
吹く。
「合ってる」
「お前は味方しろ!」
◇ ◇ ◇
帰り道。
全部。
聞く。
シオン。
名前。
職業。
なし。
性質。
知ってる。
トーマ。
試した。
人間。
か。
確認。
した。
そして。
レン。
見てる。
「俺を?」
「うん」
「何で?」
「知らん」
「そこ聞けよ!」
「聞いたわ!」
トーマ。
怒る。
そして。
最後。
札。
意味。
「残っている数」
俺。
言う。
「神に見つかってる」
「らしい」
「……変だな」
「何が?」
俺。
足。
止める。
神に。
見つかっている。
数。
でも。
観測。
してるの。
誰?
古い。
観測機構。
神様。
なのか?
神性。
使ってる?
それとも。
神。
という。
言葉。
別。
意味?
「ノア」
『はい』
「性質持ち一〇九人」
「七柱」
「知ってた?」
『いいえ』
「観測機構」
「見つけるまで?」
『はい』
「じゃあ」
「神に見つかってる数」
「って」
ノア。
黙る。
エリオス。
代わる。
『我々七柱を』
『指していない可能性がある』
また。
知らない。
何か。
増えた。
◇ ◇ ◇
大神殿。
深夜。
会議。
俺。
リナ。
トーマ。
アリア。
七柱。
机。
二枚。
黒い。
一〇七。
そして。
診療記録。
ミア。
二十二歳。
職業。
歌唱師。
症状。
【本人周囲における音響消失】
三日前。
来院。
その後。
所在不明。
「最初の一人」
俺。
言う。
「ミアの可能性」
アリア。
頷く。
「高いと思います」
「でも」
「確定じゃない」
「はい」
トーマ。
腕。
組む。
「シオンは」
「性質持ちを集めてるのか?」
「分からない」
「西の奴ら?」
「分からない」
「昨日の影ない男と仲間?」
「分からない」
トーマ。
俺。
見る。
「お前」
「分からない多くない?」
「俺も困ってる」
リナ。
笑う。
「通常運転」
ひどい。
でも。
一つ。
違う。
今日。
朝。
俺たち。
性質持ち。
百七人。
どこか。
いる。
思ってた。
今。
違う。
誰か。
その人たち。
知ってる。
誰か。
動いてる。
しかも。
少なくとも。
二種類。
いる。
影のない男。
シオン。
そして。
俺に。
戻れ。
来るな。
死ぬぞ。
言った。
知らない声。
同じ。
とは。
限らない。
「一個」
俺。
言う。
「決めたい」
みんな。
見る。
「性質持ちを」
「俺たちから」
「探さない」
トーマ。
驚く。
「何で?」
「探せる方法」
「あるかもしれない」
「でも」
「勝手に」
「見つけるの」
「嫌だから」
ミア。
助け。
必要。
かもしれない。
でも。
だから。
百七人。
全部。
覗く。
違う。
「ただ」
続ける。
「困ってる人が」
「自分から来られる場所」
「作れないかな」
アリア。
目。
少し。
見開く。
「場所?」
「うん」
「力」
「急に」
「出た」
「神様」
「分からない」
「職業院」
「分からない」
「誰に聞けばいいか」
「分からない」
昨日。
トーマ。
そうだった。
俺も。
ずっと。
そうだった。
「だったら」
「ここに来れば」
「少なくとも」
「一緒に」
「分からないって言える」
沈黙。
最初。
笑った。
リナ。
「それ」
「相談所?」
「たぶん」
トーマ。
「無職が?」
「うん」
「神殿で?」
「うん」
「神様七人と?」
「うん」
「怪しすぎるだろ」
「俺も今思った」
メルク。
声。
『名称が必要ですね』
「そこ?」
『重要です』
セレナ。
『変なのはやめてよ』
ガルド。
『性質道場!』
「却下」
フィリア。
笑う。
ヴォルグ。
『工房』
「違う」
ノア。
『未分類性質相談窓口』
「役所!」
リナ。
「無職相談所」
「俺の相談になるだろ!」
トーマ。
初めて。
大きく。
笑う。
アリア。
口元。
押さえる。
そして。
エリオス。
静かに。
言う。
『レン』
「何?」
『それは』
『我々が』
『育てるのか』
少し。
考える。
「違う」
俺。
答える。
「一緒に」
「考える」
「それだけ」
『そうか』
「うん」
『なら』
エリオス。
言う。
『私も』
『そこで』
『学びたい』
少し。
驚く。
創世神。
学ぶ。
言った。
「いいよ」
俺。
笑う。
「育成対象」
「増えたな」
『……私も対象なのか?』
「今さら?」
七柱。
ざわつく。
第二章。
やっぱり。
こういうの。
必要。
◇ ◇ ◇
同じ夜。
町。
離れた。
古い。
倉庫。
シオン。
一人。
戻る。
奥。
女。
座ってる。
若い。
二十代。
口。
動く。
でも。
音。
しない。
シオン。
見る。
「ミア」
女。
顔。
上げる。
指。
動かす。
文字。
机。
なぞる。
――どうだった。
「外す者は」
シオン。
外套。
脱ぐ。
「神殿へ戻した」
ミア。
眉。
寄せる。
――なぜ。
「本人が」
「戻ったからだ」
――止めなかった?
「止める理由がない」
ミア。
指。
止まる。
――レンは。
シオン。
少し。
笑う。
「追ってこなかった」
――怖がった?
「違う」
椅子。
座る。
「トーマを」
「先に選んだ」
ミア。
しばらく。
動かない。
そして。
机。
指。
滑らせる。
――西の人たちは?
シオン。
笑み。
消える。
「まだ知らない」
――伝える?
「いや」
即答。
「俺たちは」
「俺たちで動く」
ミア。
頷く。
シオン。
窓。
見る。
西。
遠い。
境界。
「神を捨てろと言う奴らも」
「神に戻せと言う奴らも」
「同じだ」
ミア。
見る。
「どっちも」
シオン。
言う。
「本人より先に」
「答えを決める」
机。
上。
黒い札。
一枚。
【107】
シオン。
裏返す。
裏。
別の。
数字。
【2】
「二人」
小さく。
言う。
「これで」
「二人」
その時。
倉庫。
外。
足音。
シオン。
振り返る。
一人。
じゃない。
二人。
三人。
もっと。
囲まれてる。
ミア。
立つ。
シオン。
目。
細める。
扉。
向こう。
声。
「開けろ」
静かな。
声。
「未登録性質保有者」
「二名を確認した」
シオンの顔から。
完全に。
笑み。
消える。
「……早いな」
扉。
向こう。
金属。
擦れる。
音。
「職業管理院」
「特別査定部だ」
「神託および職業秩序に基づき」
「両名を」
一拍。
「保護する」
シオン。
その言葉。
聞いて。
小さく。
笑った。
「保護」
ミア。
見る。
そして。
扉。
向こう。
言う。
「本人に」
「聞いたのか?」
返事。
ない。
シオン。
立つ。
「ほらな」
机。
黒い札。
掴む。
「また」
「本人より先に」
扉が。
叩き破られた。




