神託ログ42『二百年前の約束』
床が。
跳ねた。
「走れ!」
先輩。
叫ぶ。
考える。
前に。
リナ。
俺の。
腕。
掴む。
「出口!」
「分かってる!」
アリア。
記録。
抱える。
「それ置いて!」
「嫌です!」
「今!?」
「今だからです!」
大神官。
「議論は後だ!」
正論。
階段。
向かう。
その時。
後ろ。
音。
する。
ガン。
金属。
何か。
落ちる。
振り返る。
八つ目。
紋章。
床。
じゃない。
空中。
浮いてる。
黒い。
線。
一本。
そこから。
伸びる。
『――レン』
頭。
奥。
声。
「聞こえてる!」
リナ。
「返事しない!」
「今した!」
「しない!」
「はい!」
走る。
◇ ◇ ◇
階段。
遠い。
来た時より。
絶対。
遠い。
「こんな」
「長かった!?」
「走ってるから!」
「普通」
「短く感じない!?」
「知らない!」
後ろ。
先輩。
遅い。
「先輩!」
「行け!」
「無理!」
戻る。
腕。
肩。
回す。
「何してる!」
「運ぶ!」
「俺を?」
「歩けないでしょ!」
「歩ける!」
一歩。
転ぶ。
「歩けてない!」
リナ。
反対側。
肩。
持つ。
「二人で!」
「悪い」
「後で!」
大神官。
前。
アリア。
その後。
俺。
リナ。
先輩。
階段。
上がる。
後ろ。
声。
追ってくる。
『――戻れ』
『――管理者』
「違う」
『――壊す者』
足。
止まりそうに。
なる。
リナ。
引っ張る。
「聞かない!」
「うん!」
『――お前は』
ノイズ。
強い。
『――選ばれた』
「知らん!」
ガルド。
みたいな。
返事。
出た。
ちょっと。
笑いそう。
なる。
今。
笑うな。
◇ ◇ ◇
階段。
半分。
来た。
突然。
先輩。
身体。
固まる。
「どうした!?」
「待て」
「何?」
「声」
「また?」
「違う」
先輩。
後ろ。
見る。
「昔の」
「声だ」
「誰?」
答え。
ない。
代わり。
先輩。
呟く。
「……フィリア?」
「え?」
『――約束して』
俺にも。
聞こえた。
女。
声。
知らない。
でも。
どこか。
似てる。
今の。
フィリア。
声。
じゃない。
もっと。
弱い。
泣いてる。
『――もう』
『――誰かの人生を』
ノイズ。
『――代わりに決めないで』
先輩。
顔。
歪む。
「…………」
「先輩?」
「思い出した」
「何を?」
「約束」
床。
また。
揺れる。
「今!?」
「今だからだ!」
「それ俺の台詞!」
「行くよ!」
リナ。
引っ張る。
再び。
走る。
◇ ◇ ◇
階段。
上。
着く。
大神官。
扉。
押さえる。
「早く!」
アリア。
抜ける。
俺。
リナ。
先輩。
抜ける。
扉。
閉める。
直前。
暗闇。
奥。
八つ目。
紋章。
見る。
その。
中心。
人影。
みたいな。
もの。
立ってる。
顔。
ない。
形。
だけ。
『――レン』
扉。
閉まる。
ドン。
大神官。
鍵。
回す。
「離れろ!」
全員。
下がる。
一秒。
二秒。
三秒。
扉。
動かない。
揺れ。
止まる。
静か。
なる。
「…………」
俺。
床。
座る。
「疲れた」
リナ。
隣。
座る。
「私も」
アリア。
記録。
確認。
してる。
「今それ!?」
「持ってきた意味が」
「なくなるので」
強い。
大神官。
壁。
もたれる。
「老人には」
「厳しいな」
「さっき」
「老人扱いするなって」
「撤回する」
早い。
◇ ◇ ◇
「神様」
俺。
呼ぶ。
七柱。
接続。
完全には。
戻ってない。
でも。
エリオス。
声。
薄く。
聞こえる。
『レン』
「無事」
『そうか』
「そっちは?」
『問題ない』
「さっき」
「出ろって」
「言った?」
『言った』
「何で?」
長い。
間。
『こちら側から』
『お前ではない』
『接続を感じた』
「知らない声?」
『おそらく』
「エリオス」
「前にも」
「聞こえたよね」
『ああ』
「何て?」
『私の名を』
「それだけ?」
『その時は』
「今は?」
沈黙。
「何て言われた?」
『…………』
「エリオス」
『思い出せ』
「誰に?」
『私に』
背中。
冷える。
「何を?」
『分からない』
また。
それ。
でも。
今回。
エリオス。
声。
明らかに。
おかしい。
「二百年前」
「知ってる?」
『記録上は』
「記録じゃなく」
一拍。
「エリオス自身が」
沈黙。
長い。
『知らない』
「本当に?」
『…………』
「分からない?」
『そうだ』
「なら」
「それでいい」
エリオス。
少し。
間。
『すまない』
「謝らなくていい」
今。
大事。
なのは。
知らないこと。
知ってるふり。
しない。
こと。
◇ ◇ ◇
先輩。
壁。
座る。
呼吸。
整える。
「約束」
俺。
言う。
先輩。
顔。
上げる。
「何を」
「思い出した?」
「フィリア」
「今の?」
「分からない」
「二百年前の?」
「ああ」
「何を約束した?」
先輩。
手。
見る。
「俺が」
「管理者を」
「やめる日」
ゆっくり。
話す。
「フィリアが」
「来た」
「どこに?」
「ここ」
「この神殿?」
「ああ」
「神様が」
「直接?」
「姿があった?」
「…………」
先輩。
眉。
寄せる。
「姿」
「見た気がする」
「でも」
「思い出せない」
「声だけ?」
「今は」
「それしか」
「何て言った?」
先輩。
目。
閉じる。
『ごめんなさい』
前。
言ってた。
覚えてる。
唯一の。
言葉。
「その後」
「さっきの」
『もう』
『誰かの人生を』
『代わりに決めないで』
「それが」
「約束?」
「ああ」
「何て答えた?」
先輩。
苦く。
笑う。
「分かった」
「守った?」
「…………」
答え。
遅い。
「分からない」
「どういう意味?」
「俺は」
「管理者を降りた」
「職業の固定も」
「止めようとした」
「記録も」
「消した」
アリア。
顔。
上げる。
「そこです」
「分かってる」
先輩。
「結局」
「最後まで」
「未来の奴らのためだって」
「勝手に決めた」
「だから」
俺。
言う。
「守れなかった?」
「たぶん」
「たぶん?」
「でも」
先輩。
俺。
見る。
「もう一つ」
「約束した」
「何?」
「次に」
「同じ奴が来たら」
一拍。
「選ばせろ」
「…………」
「答えを」
「与えるな」
「役割を」
「与えるな」
「名前を」
「与えるな」
「職を」
「与えるな」
日本語の。
紙。
思い出す。
『名前を与えるな』
『職を与えるな』
『神に繋ぐな』
「それ」
「フィリアが?」
「全部じゃない」
「じゃあ誰?」
先輩。
頭。
押さえる。
「混ざってる」
「声が?」
「ああ」
「フィリアの言葉」
「知らない声」
「俺自身が」
「後で決めたこと」
「もう」
「どれがどれか」
「分からない」
だから。
証拠。
見る。
必要。
ある。
◇ ◇ ◇
アリア。
抱えてた。
記録。
床。
並べる。
「持ち出せたのは」
「十二点です」
「そんなに?」
「少ないです」
「記録官怖い」
「褒め言葉として」
「受け取ります」
石板。
三枚。
紙。
五枚。
透明板。
四枚。
「最も古いものから」
「確認します」
大神官。
「ここで?」
「ここで」
「休まないのか」
「ユリウスなら」
「休めと言います」
「じゃあ」
アリア。
止まる。
「…………十分」
リナ。
「聞くんだ」
「規則ではなく」
「忠告なので」
「そこ分けるんだ」
少し。
笑う。
ユリウス。
いない。
でも。
こういう。
形で。
残る。
人。
死んでも。
全部。
消える。
わけじゃない。
◇ ◇ ◇
十分。
休む。
水。
飲む。
先輩。
パン。
渡される。
見る。
「何だこれ」
「パン」
リナ。
「知ってる」
「硬い」
「この世界のパン」
「だいたい硬い」
一口。
噛む。
先輩。
止まる。
「うまい」
「それ?」
「二百年ぶり」
「そりゃ」
「うまいか」
「日本の」
「白いパン」
「食いたい」
「分かる」
二人。
ちょっと。
笑う。
変な。
感じ。
日本。
知ってる。
人。
目の前。
いる。
聞きたい。
こと。
山ほど。
ある。
でも。
今。
世界。
違う。
問題。
でかすぎる。
「先輩」
「何だ」
「帰りたい?」
男。
パン。
持ったまま。
止まる。
「日本に?」
「はい」
長い。
沈黙。
「分からない」
「…………」
「昔は」
「帰りたかった」
「今は?」
「帰って」
「誰がいる?」
答え。
ない。
二百年。
こっち。
日本側。
時間。
同じ。
とは。
限らない。
でも。
怖い。
質問。
だった。
「ごめん」
「謝るな」
「でも」
「聞かれて」
「嫌じゃなかった」
「むしろ」
先輩。
少し。
笑う。
「久しぶりに」
「考えた」
◇ ◇ ◇
記録。
確認。
始める。
最初。
石板。
さっきの。
【性質】
アリア。
写す。
「職業制度以前」
「人間は」
「性質として」
「観測されていた」
「観測って」
「誰が?」
「不明です」
「神様?」
「記録には」
「ありません」
先輩。
「俺の時代には」
「もう古い仕組みだった」
「使えた?」
「一部」
「管理者権限で?」
「ああ」
「性質」
「見れた?」
「少しだけ」
「俺の?」
「今は無理だ」
「昔なら?」
「たぶん」
「性質って」
「変わる?」
「変わる」
即答。
「職業より?」
「ずっと」
「例えば」
先輩。
リナ。
見る。
「剣が好きな子どもが」
「毎日剣を振る」
「身体が育つ」
「目が育つ」
「怖くても」
「前を見るようになる」
ガルド。
思い出す。
「それが」
「性質に出る」
「じゃあ」
「剣をやめたら?」
「変わる」
「別のこと始めたら?」
「変わる」
「性格も?」
「影響する」
「願いも?」
「する」
「じゃあ」
リナ。
言う。
「職業より」
「その人そのもの?」
先輩。
少し。
考える。
「近い」
「でも」
「性質も」
「その人全部じゃない」
「何で?」
「観測できる部分だけだから」
「…………」
それ。
大事。
どんな。
表示。
出ても。
俺。
全部。
じゃない。
◇ ◇ ◇
二枚目。
透明板。
アリア。
魔力。
流す。
反応。
ない。
俺。
触らない。
先輩。
「裏」
「え?」
「光に」
「透かせ」
アリア。
松明。
前。
持つ。
文字。
浮く。
「読めます」
『性質観測機構』
『試験運用』
『目的』
一。
『個体差の理解』
二。
『成長支援』
三。
『神性付与時の負荷軽減』
「三つ目」
俺。
「神の力」
「渡す前提?」
「後から」
「追加された」
先輩。
言う。
「分かる?」
「書式が違う」
アリア。
見る。
「確かに」
三つ目。
文字。
少し。
新しい。
「最初は」
俺。
「人を理解するため」
「後から」
「神の力を効率よく」
「渡すため」
「さらに」
アリア。
「分類へ」
「職業?」
「おそらく」
変わった。
目的。
少しずつ。
人を。
見る。
仕組み。
から。
人を。
分ける。
仕組み。
へ。
「誰が変えた?」
「それを」
「探します」
◇ ◇ ◇
三枚目。
紙。
古い。
この世界の。
文字。
端。
日本語。
小さく。
ある。
「待って」
俺。
「これ」
「日本語」
「何と?」
『また変えやがった。』
「…………」
先輩。
「俺の字じゃない」
「また?」
「本当に?」
「俺の字」
「もっと汚い」
「そこ?」
「大事だ」
確かに。
紙。
日本語。
続き。
『観測だったはずだ。』
『いつから命令になった。』
「…………」
アリア。
「訳してください」
伝える。
顔。
固く。
なる。
「誰かが」
「制度変更に」
「反対していた?」
「たぶん」
続き。
『神は、人間より長く生きる。』
『だから忘れないと思っていた。』
次。
『違った。』
次。
『長く生きることと、覚えていることは別だ。』
俺。
止まる。
エリオス。
知らない。
フィリア。
二百年前。
同じ名前。
他。
五柱。
先輩。
知らない。
「神様も」
「忘れる?」
先輩。
「俺は」
「そう思う」
「根拠」
「目の前で」
「忘れられた」
「何を?」
「約束」
空気。
重い。
「フィリア?」
「…………」
先輩。
首。
振る。
「違う」
「じゃあ」
「別の神」
「名前は?」
「思い出せない」
「何を約束した?」
先輩。
目。
閉じる。
「人の性質を」
「職業に」
「固定しない」
「…………」
「その約束を」
「した神がいた」
「でも」
「後で」
「職業制度の」
「固定に賛成した」
「同じ神?」
「同じだった」
「何で?」
「聞いた」
「答えは?」
男。
ゆっくり。
言う。
『そんな約束は』
一拍。
『していない』
◇ ◇ ◇
「記憶」
「消された?」
リナ。
聞く。
先輩。
「分からない」
「嘘?」
「分からない」
「別人?」
「分からない」
「同じ名前の神?」
「分からない」
「何も分からないね」
「二百年」
「それで苦しんだ」
「ごめん」
「いや」
先輩。
笑う。
「正しい」
「分からない」
「だから」
「俺は」
一拍。
「勝手に」
「答えを作った」
「八つ目が」
「神の記憶を」
「消してるんだって」
「証拠は?」
「なかった」
「でも信じた?」
「ああ」
「それで?」
「八つ目を」
「壊そうとした」
俺。
止まる。
「壊せた?」
「無理だった」
「何で?」
「俺には」
「壊す力が」
「なかった」
先輩。
俺。
見る。
意味。
分かる。
「だから」
「次は壊す者を選ぶ」
「その声」
「ああ」
「俺に」
「壊させたい?」
「可能性はある」
「何を?」
「分からない」
「八つ目?」
「決めるな」
先輩。
強く。
言う。
「俺は」
「それで失敗した」
「八つ目が悪い」
「そう決めた」
「だから」
「壊せば終わると思った」
「違った?」
「少なくとも」
「終わらなかった」
「じゃあ」
「何が悪い?」
「知らない」
その。
答え。
今は。
信用。
できる。
◇ ◇ ◇
次。
透明板。
アリア。
読む。
途中。
顔。
止まる。
「何?」
「管理記録です」
「いつ?」
「二百年前」
先輩。
身体。
固まる。
「読んで」
『職業固定試験』
『対象数――百八』
俺。
止まる。
「百八?」
「はい」
第108代。
頭。
よぎる。
でも。
違う。
番号。
仕組み。
違う。
結びつけるな。
「続き」
『試験完了――百七』
『不適合――一』
「一人」
『不適合対象』
文字。
欠けてる。
『表示名称――なし』
先輩。
「俺だ」
「本当に?」
「ああ」
「根拠」
「百八人」
「覚えてる」
「あなた」
「〇〇一じゃ?」
「それは」
「別の試験番号だ」
やっぱり。
番号。
違う。
「職業固定試験では?」
「最後の一人」
「番号は?」
「覚えてない」
「じゃあ」
「〇〇一と」
「百八の不適合が」
「同じ人って証拠は?」
先輩。
止まる。
「…………ない」
アリア。
俺。
見る。
「重要です」
「うん」
同じ。
ように。
見える。
でも。
まだ。
同じ。
とは。
限らない。
◇ ◇ ◇
記録。
続き。
『不適合対象について』
『再試験を実施』
『分類失敗』
『神性接続――失敗』
『管理権限への接続――』
文字。
削れてる。
その下。
別。
筆跡。
『成功』
「…………」
先輩。
顔。
青く。
なる。
「これ」
「俺だ」
「今度は?」
「覚えてる」
「管理者に」
「なった時?」
「ああ」
「職業には」
「入れなかった」
「神にも」
「繋がらなかった」
「なのに」
「管理者には」
「なれた」
俺。
同じ。
管理者。
候補。
出た。
職業。
なし。
「条件」
俺。
呟く。
「職業がない人?」
アリア。
「まだ」
「二例だけです」
「そうだね」
先輩。
「二例?」
「俺も」
「管理者候補に」
「なった」
男。
目。
閉じる。
「やっぱり」
「やっぱり?」
「管理機構は」
「職業の外にいる奴を」
「選ぶ」
「何で?」
「分からない」
◇ ◇ ◇
最後。
持ち出した。
紙。
一枚。
日本語。
ない。
この世界。
文字。
アリア。
読む。
「……これは」
「何?」
「誓約書」
「誰の?」
「署名が」
「七つあります」
「七柱?」
「神名です」
心臓。
鳴る。
「読める名前」
アリア。
一つ。
指す。
「フィリア」
先輩。
顔。
上げる。
「他は?」
アリア。
順番。
読む。
知らない。
名前。
六つ。
今の。
六柱。
じゃない。
エリオス。
いない。
ノア。
いない。
ガルド。
いない。
セレナ。
いない。
メルク。
いない。
ヴォルグ。
いない。
「二百年前の」
「七柱?」
先輩。
「たぶん」
「フィリアだけ」
「同じ?」
「名前は」
「内容」
アリア。
読む。
『我ら七柱は』
『人の生を』
『職により決定しない』
次。
『性質を観測し』
『可能性を示すことはあっても』
『選択を奪わない』
リナ。
息。
吐く。
「それ」
「今と」
「違う?」
完全に。
違う。
とは。
言えない。
今の。
職業。
強制。
だけじゃない。
ダリオ。
仕事。
選べた。
リナも。
職業。
好き。
でも。
制度。
人の。
見方。
変えた。
「続き」
アリア。
声。
少し。
震える。
『もし我らが』
『この誓いを忘れた時』
一拍。
『人が』
『我らを止めることを認める』
「…………」
神が。
人に。
止めろ。
って。
残した。
「最後」
アリア。
言う。
『そのため』
『管理者は』
『神に属さぬ者とする』
部屋。
静か。
なる。
「だから」
俺。
「なし?」
先輩。
首。
振る。
「分からない」
「でも」
「職業の外」
「神性接続の外」
「神に属さない」
条件。
似てる。
「署名の日付」
アリア。
確認。
「二百年前」
「具体的には?」
「職業固定試験の」
「十一日前です」
「…………」
たった。
十一日。
後。
職業。
固定。
始まった。
「約束」
「破るの早くない?」
リナ。
言う。
誰も。
笑えない。
◇ ◇ ◇
先輩。
紙。
見る。
手。
震える。
「思い出した」
「何を?」
「これ」
「見たことある?」
「ああ」
「その場に?」
「ああ」
「誰が」
「書いた?」
先輩。
目。
閉じる。
「人間」
「誰?」
「俺じゃない」
「日本人?」
「分からない」
「七柱は?」
「いた」
「フィリアも?」
「ああ」
「何て?」
先輩。
唇。
震える。
「俺に」
『あなたは』
『神様にならないで』
「…………」
「それが」
「最初の約束だった」
「神様の代役」
「する前?」
「ああ」
「なのに」
「受けた?」
先輩。
目。
開く。
「助けたかった」
「誰を?」
「みんな」
一言。
それ。
だけ。
フィリア。
同じ。
俺も。
たぶん。
同じ。
「職業制度が」
「壊れかけた」
「祝福が」
「届かない」
「神託が」
「止まる」
「人が」
「困る」
「だから」
「一時的に」
「代わりを」
「やるだけだって」
男。
笑う。
苦い。
「お前と」
「同じだ」
胸。
冷える。
「俺も」
「さっき」
「代行した」
「ああ」
「生命維持のため」
「ああ」
「でも」
「終わらせた」
「ああ」
「違い」
「ある?」
先輩。
俺。
見る。
「ある」
「何?」
「お前は」
「終わった」
「…………」
「俺は」
「終われなかった」
◇ ◇ ◇
「何で?」
「必要と」
「されたから」
「誰に?」
「人に」
「神殿に」
「神に」
「声に」
「自分に」
一つ。
ずつ。
重い。
「俺がいないと」
「困る」
「俺なら」
「直せる」
「俺だけが」
「分かる」
「俺しか」
「できない」
先輩。
拳。
握る。
「それが」
「気持ちよかった」
誰も。
何も。
言わない。
「必要と」
「されるのが」
「役割が」
「あるのが」
「嬉しかった」
「日本じゃ?」
俺。
聞く。
先輩。
笑う。
「たぶん」
「何者でも」
「なかった」
「記憶ないのに?」
「その感覚だけ」
「残ってる」
「だから」
「こっちで」
「神の代わりを」
「任された時」
一拍。
「初めて」
「自分に」
「価値がある気がした」
無職。
俺。
胸。
痛い。
異世界。
来て。
職業。
無職。
なし。
何者。
俺。
同じ。
道。
あった。
かも。
しれない。
◇ ◇ ◇
「先輩」
「何だ」
「名前」
「思い出せない?」
「まだ」
「何者だったかも?」
「ああ」
「じゃあ」
少し。
考える。
「今」
「何者?」
男。
俺。
見る。
「…………」
「二百年前の」
「失敗した管理者?」
「それ」
「記録の名前」
「日本人?」
「それ」
「出身」
「〇〇一?」
「番号」
「じゃあ」
男。
長く。
黙る。
「無職」
「それ」
「職業」
「なし」
「それ」
「表示」
男。
少し。
笑う。
「厳しいな」
「最近」
「鍛えられました」
「じゃあ」
先輩。
パン。
残り。
一口。
食べる。
「今は」
飲み込む。
「生き残った奴」
「…………」
「それでいい?」
「ああ」
「今はな」
それ。
少し。
いい。
と思った。
◇ ◇ ◇
アリア。
誓約書。
裏。
見る。
「まだあります」
「何?」
「追記」
「いつ?」
「年代が」
「違います」
「後?」
「はい」
「どれくらい?」
「約十年後」
先輩。
「知らない」
「内容」
アリア。
読む。
『誓約は破られた』
次。
『神々は忘れた』
次。
『管理者は壊れた』
先輩。
目。
伏せる。
次。
『だから』
『約束を』
『人間側に残す』
「人間側?」
次。
『次の神々が』
『同じ名を名乗っても』
『同じ存在とは限らない』
「…………」
エリオス。
今の。
七柱。
先輩。
知らない。
フィリア。
名前。
同じ。
でも。
同じ。
か。
分からない。
次。
『神を疑え』
次。
『だが』
『疑うことを』
『答えにするな』
俺。
止まる。
それ。
今。
必要。
だった。
神。
怪しい。
だから。
敵。
違う。
八つ目。
怪しい。
だから。
悪。
違う。
先輩。
失敗。
した。
だから。
嘘。
違う。
「続き」
アリア。
最後。
読む。
『二百年後』
全員。
止まる。
「二百年後?」
「はい」
『再接続が起きる』
胸。
鳴る。
『その時』
『次の対象が現れる』
俺。
見る。
『対象に』
『役割を与えるな』
次。
『選ばせろ』
先輩。
手。
震える。
「これだ」
「約束?」
「ああ」
「誰が書いた?」
「思い出した?」
先輩。
首。
振る。
「でも」
「知ってる」
「何を?」
「この言葉を」
「俺は」
「聞いた」
「誰から?」
「フィリア?」
「違う」
「知らない声?」
「違う」
「じゃあ」
先輩。
俺。
見る。
「人間だ」
「誰?」
「顔」
「思い出せない」
「名前も?」
「でも」
先輩。
胸。
押さえる。
「大事な奴だった」
◇ ◇ ◇
その瞬間。
紙。
淡く。
光る。
神性。
じゃない。
魔力。
でも。
ない。
「何?」
アリア。
紙。
置く。
文字。
浮かぶ。
古い。
記録。
じゃない。
新しい。
【誓約記録】
【再接続を確認】
次。
【対象】
【第109代育成対象】
「…………」
俺。
息。
止まる。
先輩。
「百九?」
「俺」
「お前が?」
「はい」
「育成対象って」
「何だ」
「知らない?」
「知らない」
また。
番号。
違う。
二百年前。
職業固定試験。
百八人。
俺。
第109代育成対象。
似てる。
でも。
同じ。
仕組み。
証拠。
ない。
紙。
次。
【誓約継承】
【実行しますか】
【YES/NO】
「また」
リナ。
「選択肢」
俺。
見る。
誓約。
神に。
属さない。
管理者。
人の。
選択。
守る。
悪い。
こと。
書いてない。
でも。
だから。
押す?
違う。
「内容」
「全部分かってない」
アリア。
「はい」
「継承したら」
「何が起きる?」
「不明です」
「先輩」
「知らない」
「神様」
切ってる。
聞けない。
でも。
聞けても。
たぶん。
知らない。
「じゃあ」
NO。
触れる。
【拒否を確認】
先輩。
俺。
見る。
「拒否するのか」
「今は」
「いい内容かも」
「しれないぞ」
「かも」
「だから」
「分かってから」
「決める」
男。
少し。
笑う。
「そうか」
「何?」
「いや」
目。
細く。
する。
「約束」
「守れそうだと思って」
◇ ◇ ◇
【誓約継承】
【保留】
文字。
消える。
代わり。
別の。
一行。
出る。
【二百年前の誓約】
【未完了】
次。
【署名者】
七つ。
神名。
出る。
古い。
六つ。
知らない。
一つ。
フィリア。
そして。
その下。
八つ目。
空欄。
「…………」
「八人目?」
リナ。
「署名欄?」
アリア。
近づく。
「神名欄では」
「ありません」
「じゃあ」
「人間側」
文字。
出る。
【人間代表署名】
空欄。
先輩。
顔。
変わる。
「俺」
「え?」
「思い出した」
「何を?」
「ここ」
空欄。
指す。
「俺が」
「署名するはずだった」
「しなかった?」
「ああ」
「何で?」
男。
長く。
黙る。
「神様に」
「なりたかったから」
「…………」
「人間側に」
「残るより」
「神の側へ」
「行きたかった」
だから。
誓約。
未完了。
二百年。
ずっと。
空欄。
「じゃあ」
俺。
言う。
「これ」
「俺が」
「署名する?」
先輩。
強く。
首。
振る。
「するな」
「何で?」
「それを」
「俺が決めたら」
一拍。
「また」
「同じだ」
俺。
見る。
「お前が」
「決めろ」
空欄。
見る。
署名。
したら。
何が。
起きる。
分からない。
でも。
二百年前。
誰か。
神。
七柱。
人。
約束。
しようと。
した。
完成。
しなかった。
そして。
今。
俺。
前。
ある。
「今日は」
「しない」
「うん」
「逃げ?」
「違う」
先輩。
首。
振る。
「保留だ」
「それ」
「最近覚えた」
「いい言葉だ」
◇ ◇ ◇
紙。
光。
消える。
その瞬間。
先輩。
急に。
頭。
押さえる。
「っ……!」
「先輩!」
「思い出した」
「何を!?」
「名前?」
「違う」
「じゃあ」
男。
顔。
上げる。
涙。
出てる。
本人。
気づいてない。
「約束した」
「相手」
「誰?」
「人間?」
「ああ」
「名前は?」
口。
震える。
「…………カイル」
「カイル?」
「ああ」
「誰?」
「俺の」
一拍。
「友達だった」
頭。
中。
何か。
引っかかる。
カイル。
知らない。
はず。
でも。
どこか。
聞いた。
ような。
「どんな人?」
「神官」
「神官?」
「ああ」
「神を」
「誰より」
「信じてた」
先輩。
笑う。
泣きながら。
「だから」
「最後に」
「神様に」
「逆らった」
「何があった?」
先輩。
答えようと。
する。
その時。
扉。
向こう。
足音。
走って。
来る。
「大神官様!」
神官。
声。
「何だ!」
「緊急です!」
「神殿東棟で」
息。
切れてる。
「生命神フィリア様の」
「神像が」
一拍。
「割れました」
全員。
止まる。
「何で」
俺。
立つ。
神官。
続ける。
「同時に」
「北東部から」
「神託が」
「内容は?」
「それが」
神官。
顔。
真っ青。
「フィリア様の」
「神託では」
「ありません」
胸。
冷える。
「誰の?」
「名乗っていません」
「何て?」
神官。
震える。
声。
言う。
「一言だけ」
『約束を、返せ』
先輩。
顔。
青く。
なる。
「カイル」
小さく。
呟く。
俺。
見る。
「何?」
先輩。
立とうと。
する。
「北東」
「北東が何?」
「二百年前」
声。
震える。
「カイルが」
「最後に向かった場所だ」
「どこ?」
男。
俺。
見る。
「母なる根」
その。
言葉。
聞いた。
こと。
ない。
はず。
なのに。
白い。
根。
紫の。
花。
村。
地下。
全部。
一瞬。
頭。
繋がる。
先輩。
続ける。
「二百年前」
「俺たちは」
「そこで」
一拍。
「神様と」
「約束した」




