神託ログ41『神様の知らない声』
「…………日本人?」
日本語。
だった。
聞き間違い。
じゃない。
発音も。
意味も。
分かる。
俺が。
ずっと。
使ってた。
言葉。
「…………」
声。
出ない。
男。
台。
上。
俺。
見る。
もう一度。
口。
開く。
「日本人」
「だよな?」
「…………はい」
やっと。
出た。
「俺」
「日本人です」
男。
目。
閉じる。
長く。
息。
吐く。
「そっか」
それだけ。
なのに。
声。
震えてる。
「本当に」
「来たんだな」
「……俺を」
「知ってるんですか」
男。
目。
開く。
「知らない」
即答。
「え」
「名前も」
「顔も」
「知らない」
「じゃあ」
「でも」
男。
俺。
見る。
「来ることは」
「知ってた」
背中。
冷える。
◇ ◇ ◇
「レン」
リナ。
小さい。
声。
「何て言ってる?」
そうだ。
二人。
日本語。
分からない。
「俺が」
「日本人かって」
「ニホンジン?」
「俺の世界の」
「国の人間」
アリア。
男。
見る。
「彼も?」
「たぶん」
「本人に聞け」
男。
日本語。
俺。
止まる。
「こっちの言葉」
「分かるんですか?」
「分かる」
男。
今度。
この世界の。
言葉。
使う。
リナ。
目。
見開く。
「喋れるの!?」
「二百年」
「いたからな」
「…………」
アリア。
「二百年?」
男。
少し。
笑う。
「正確には」
「二百年ずっと」
「起きてたわけじゃない」
「あなたは」
アリア。
一歩。
前。
「試験対象〇〇一ですか」
男。
笑み。
消える。
「その呼び方」
「まだ残ってたのか」
「では」
「そう呼ばれてた」
「名前は?」
男。
黙る。
長い。
間。
「…………忘れた」
「え?」
リナ。
「名前を?」
「自分の?」
「ああ」
「そんなこと」
男。
こめかみ。
押さえる。
「長く寝すぎた」
「それだけじゃない」
「何が?」
「抜けてる」
頭。
指。
さす。
「記憶が」
「ところどころ」
「名前も」
「その一つ」
アリア。
「では」
「何と呼べば?」
「〇〇一以外なら」
「何でもいい」
「難しい」
リナ。
「名前ない人」
「二人目」
「俺はレンあるから!」
「職業の話」
「紛らわしい!」
男。
少し。
笑う。
「その感じ」
「何です?」
「安心した」
「何が」
「ちゃんと」
「俺とは違う」
「…………」
◇ ◇ ◇
俺。
台。
近づく。
一歩。
男。
顔。
よく。
見る。
知らない。
本当に。
知らない。
日本で。
会った。
記憶。
ない。
「あなた」
「いつ日本から?」
「分からない」
「何年前?」
「こっちに来たのは」
「二百年以上前」
「日本では?」
「覚えてない」
「時代」
「それも」
「曖昧だ」
「スマホ」
男。
眉。
動く。
「知ってる」
「電車」
「知ってる」
「コンビニ」
「知ってる」
「爪切り」
「知ってる」
「109」
男。
止まる。
「…………」
「知ってる?」
「どこで」
「それを見た」
反応。
した。
「拾得物」
「爪切りに」
「109って」
「まだ」
「あったのか」
「あなたの?」
男。
目。
閉じる。
「たぶん」
「たぶん?」
「自信がない」
「でも」
「見覚えは?」
「あった気がする」
曖昧。
全部。
でも。
嘘。
ついてる。
感じ。
しない。
「109」
「何の数字?」
男。
長く。
考える。
「…………好きだった」
「数字が?」
「ああ」
「何で?」
「それが」
「思い出せない」
「…………」
俺も。
109。
偶然。
また。
増えた。
だけ。
まだ。
繋げるな。
◇ ◇ ◇
「壁」
俺。
指す。
『次に来る俺へ。』
「これ」
「あなたが書いた?」
男。
見る。
「……ああ」
「何で」
「次に来る俺って?」
「俺と」
「同じ奴が」
「来ると思ったから」
「根拠は?」
「記録」
「何の?」
「俺より」
「前」
部屋。
静か。
なる。
「いたの?」
「日本人が?」
「日本人かは」
「分からない」
男。
ゆっくり。
身体。
起こそうと。
する。
腕。
震える。
「無理しないで」
「二百年ぶりに」
「起きた人間へ」
「最初に言うことが」
「それか」
「普通でしょ」
「普通か」
少し。
笑う。
「忘れてた」
リナ。
台。
横。
椅子。
持ってくる。
「背中」
「何?」
「起きるなら」
「これ使って」
「ありがとう」
「狩剣士だから」
「それ関係ある?」
「ない」
自分で。
言った。
成長。
してる。
◇ ◇ ◇
男。
身体。
起こす。
壁。
寄りかかる。
「俺より前に」
「記録があった」
「どんな?」
「分類できない人間」
「職業が?」
「ああ」
「表示は?」
「覚えてない」
「なし?」
男。
俺。
見る。
「お前」
「なしなのか」
「はい」
「…………」
顔。
変わる。
「そうか」
「あなたも?」
「ああ」
「無職じゃなく?」
「違う」
「なし?」
「最後はな」
「最後?」
「最初は」
「いろいろ出た」
心臓。
鳴る。
「剣士」
男。
指。
一本。
「魔術師」
二本。
「商人」
三本。
「鍛冶」
四本。
「神官」
五本。
「出て」
俺。
言う。
「消えた?」
男。
俺。
見る。
「お前もか」
「はい」
「石」
「割れた?」
「割れました」
男。
頭。
抱える。
「……最悪だ」
「何が?」
「似すぎてる」
◇ ◇ ◇
アリア。
紙。
出す。
記録。
始める。
「質問しても?」
「好きにしろ」
「試験対象〇〇一」
男。
顔。
しかめる。
「その番号」
「やめてくれ」
「では」
「仮の呼称が必要です」
「好きに」
リナ。
「イチ」
「却下」
「早い」
「〇〇一から」
「離れてない」
俺。
男。
見る。
「名前」
「本当に」
「何も出ない?」
「出ない」
「日本の名前」
「たぶん」
「あった」
「そりゃあるでしょ」
「名字も?」
「…………」
男。
目。
閉じる。
「一文字だけ」
「何?」
「カ」
「カ?」
「それしか」
「出ない」
「カから始まる?」
「それも分からない」
「名前に入ってた?」
「たぶん」
リナ。
「カ」
「呼びづらい」
「カさん」
「もっと嫌だ」
少し。
普通。
会話。
できる。
そのこと。
妙に。
安心。
する。
「じゃあ」
「今は」
「先輩」
男。
「何の?」
「異世界転移」
「嫌な先輩だな」
「俺も嫌です」
「それでいい」
◇ ◇ ◇
「先輩」
「定着させるな」
「質問」
「何だ」
「何で」
「ここで寝てた?」
男。
顔。
変わる。
「…………」
「分からない?」
「覚えてる」
「じゃあ」
「自分で入った」
「何で?」
「止めるため」
「何を?」
男。
床。
見る。
八つ目。
紋章。
「これ」
「八つ目?」
「ああ」
「何なの?」
「知らない」
「…………」
「先輩も?」
「最後まで」
「分からなかった」
「神様?」
「違う」
即答。
「断定できる?」
男。
止まる。
「…………悪い」
「昔の癖だ」
「正確には?」
「俺が知る限り」
「神とは確認できなかった」
「七柱とは?」
「違う」
「それは?」
「確認した」
「どうやって?」
「接続した」
「…………」
リナ。
「レン」
「何?」
「嫌な顔してる」
「俺も」
「したから」
男。
「接続したのか?」
「勝手に」
「向こうから」
「管理者は?」
「断った」
男。
固まる。
「断った?」
「はい」
「本当に?」
「二回聞かれたけど」
「断った」
男。
長い。
長い。
息。
吐く。
「よかった」
「…………」
「本当に」
「よかった」
声。
震える。
◇ ◇ ◇
「あなたは」
「受けた?」
男。
答え。
ない。
壁。
文字。
見る。
『俺は、神様の代役を引き受けて――』
「受けたんですね」
「ああ」
「何が起きた?」
「最初は」
「何も」
「最初は?」
「便利だった」
男。
自嘲。
みたいに。
笑う。
「職業判定」
「神託」
「祝福」
「神具」
「全部」
「見えるようになった」
「見える?」
「仕組みが」
「管理できた?」
「ああ」
「神様の仕事を?」
「そう思ってた」
「違った?」
「違った」
男。
手。
見る。
「神の仕事じゃない」
「じゃあ」
「何?」
「人が」
「神の名前を使って」
「作った仕事だ」
大神官。
顔。
変わる。
「どういう意味だ」
男。
老人。
見る。
「今の神殿」
「職業制度を」
「神が作ったって」
「教えてるか?」
大神官。
「神々の加護によって」
「成立した制度と」
「やっぱりな」
「違うのか」
「半分」
男。
言う。
「神の力は」
「使ってる」
「でも」
「形を作ったのは」
「人間だ」
アリア。
筆。
止まる。
「証拠は?」
「俺が」
「管理者だった」
「それは」
「証言です」
男。
アリア。
見る。
「いいな」
「何がです?」
「昔」
「そうやって」
「聞いてくれる奴」
「いなかった」
アリア。
「証拠は?」
「この下」
「もっと奥に」
「設計記録がある」
「…………」
「残ってればな」
◇ ◇ ◇
「職業制度」
「誰が作った?」
俺。
聞く。
「分からない」
「また」
「名前が」
「残ってなかった」
「二百年前には」
「もうあった?」
「あった」
「完成してた?」
「いや」
「じゃあ」
「あなた」
嫌な。
予感。
「試験された?」
「ああ」
「試験対象〇〇一」
「最初の?」
「記録上は」
「何の試験?」
男。
俺。
見る。
「職業を」
「人間に固定する」
「…………」
「固定?」
リナ。
「どういうこと?」
男。
少し。
考える。
「今」
「職業は」
「どう扱われてる」
アリア。
「適性」
「祝福」
「技能」
「成長方向などを」
「総合的に示す」
「分類です」
「変わる?」
「極めて稀ですが」
「あるんだな」
「はい」
「昔は」
「もっと曖昧だった」
「職業が?」
「ああ」
「剣を使えば」
「剣が上手くなる」
「薬草を学べば」
「薬に詳しくなる」
「物を作れば」
「手が覚える」
「普通」
俺。
言う。
「そう」
男。
頷く。
「普通だった」
「でも」
床。
見る。
「それだと」
「神の力を」
「効率よく」
「人へ配れなかった」
「だから」
アリア。
「分類した?」
「そう聞いた」
「誰から?」
「…………」
男。
止まる。
「声」
「誰の?」
「分からない」
背中。
寒い。
「どんな声?」
「神託みたいに」
「頭へ直接」
「七柱?」
「違った」
「何で分かる?」
「七柱と」
「話した後だったから」
「七柱」
「いたの?」
「今と同じかは」
「分からない」
「名前」
「覚えてる?」
「…………」
男。
眉。
寄せる。
「ほとんど」
「消えてる」
「一つも?」
「一つだけ」
「誰?」
男。
口。
開く。
「フィリア」
「…………」
俺。
固まる。
「生命神?」
「たぶん」
「たぶん?」
「俺の知ってた」
「フィリアと」
「今のフィリアが」
「同じか」
「確認できない」
七柱。
今。
接続。
切ってる。
聞こえない。
それ。
少し。
怖い。
「二百年前」
「フィリアがいた」
「少なくとも」
「その名前の神は」
「他は?」
「思い出せない」
「エリオス」
「…………知らない」
「ノア」
「知らない」
「ガルド」
「知らない」
「セレナ」
「知らない」
「メルク」
「知らない」
「ヴォルグ」
「知らない」
今の。
七柱。
一柱。
だけ。
二百年前。
同じ。
名前。
「フィリアは」
「何て言ってた?」
男。
目。
閉じる。
「…………」
長い。
間。
「ごめんなさい」
「え?」
「それだけ」
「覚えてる」
「誰に?」
「俺に」
「何で?」
「分からない」
◇ ◇ ◇
「神様」
「戻していい?」
俺。
聞く。
男。
目。
開く。
「やめろ」
強い。
声。
「何で?」
「ここで」
「神と繋ぐな」
「理由」
「声が」
「混ざる」
「混ざる?」
「どの声が」
「誰なのか」
「分からなくなる」
「今も?」
「今は」
「大丈夫」
「昔」
「何があった?」
男。
頭。
押さえる。
「管理者に」
「なってから」
「七柱の声」
「神殿の神託」
「管理機構の通知」
「知らない声」
指。
震える。
「全部」
「頭の中で」
「同じ場所から」
「聞こえるようになった」
「…………」
「最初は」
「区別できた」
「そのうち」
男。
俺。
見る。
「分からなくなった」
「それで」
「何をした?」
「従った」
「誰に?」
「分からない」
その。
答え。
重い。
◇ ◇ ◇
「何を」
「させられた?」
男。
黙る。
「言いたくない?」
「違う」
「思い出せない?」
「一部」
「分かる範囲で」
「職業を」
「固定した」
「誰の?」
「大勢」
「何人?」
「分からない」
「本人の意思は?」
男。
顔。
歪む。
答え。
それで。
分かる。
「聞かなかった?」
「最初は」
「必要だと思った」
「神様のため?」
「世界のため」
「そう」
「言われた」
「誰に?」
「だから」
男。
声。
荒く。
なる。
「分からないんだよ!」
部屋。
響く。
静か。
なる。
男。
俯く。
「……悪い」
「いや」
「俺は」
「神の声だと」
「思った」
「正しいと」
「思った」
「職業があれば」
「人は迷わない」
「向いてることが」
「分かる」
「働ける」
「食える」
「役割が」
「できる」
「世界が」
「回る」
「だから」
拳。
握る。
「固定した」
「それで?」
「うまくいった」
「最初は」
また。
その。
言葉。
「生産は増えた」
「仕事は」
「早くなった」
「人は」
「自分の得意を」
「知った」
「じゃあ」
リナ。
「悪くない?」
男。
リナ。
見る。
「狩剣士か」
リナ。
剣。
見る。
「何で分かるの」
「立ち方」
「職業じゃなく?」
「今は」
「見えない」
「見えない?」
「管理者じゃないから」
男。
少し。
笑う。
「その方が」
「いい」
リナ。
「私は」
「狩剣士」
「ああ」
「それ」
「好き」
「…………」
「だから」
「職業があること」
「全部悪いって」
「言われたら」
「嫌」
男。
長く。
リナ。
見る。
「正しい」
「え?」
「職業が」
「悪いんじゃない」
一拍。
「職業しか」
「見なくなった」
「誰が?」
「俺たちが」
◇ ◇ ◇
「剣士なら」
「剣を持て」
「商人なら」
「商売をしろ」
「治療師なら」
「人を治せ」
「向いてる」
「できる」
「なら」
男。
苦く。
笑う。
「やれ」
「それが」
「いつの間にか」
「やらなきゃいけない」
「になった」
ダリオ。
思い出す。
職業。
詩人。
仕事。
運び屋。
リナ。
狩剣士。
でも。
リナ。
先。
職業。
後。
「拒否した人は?」
俺。
聞く。
「いた」
「どうなった?」
「分類不適合」
「再判定」
「矯正」
「矯正?」
「向いてる職へ」
「寄せる」
「どうやって?」
「神性接続を」
「強くした」
「本人を」
「職業に合わせた?」
「…………ああ」
リナ。
顔。
変わる。
「そんなの」
「分かってる」
男。
「今なら」
「でも」
「当時は」
「正しいと?」
「思った」
◇ ◇ ◇
アリア。
筆。
握る。
「記録には」
「ありません」
「消したからな」
「誰が?」
男。
「俺」
空気。
止まる。
「あなたが?」
「ああ」
「何で」
「後で」
「間違いだと」
「気づいた」
「だから消した?」
「違う」
男。
首。
振る。
「残したら」
「また使われる」
「同じことを」
「誰かが」
「繰り返す」
「だから」
「消した」
アリア。
顔。
固い。
「記録を」
「消すことが」
「どれだけ」
「分かってる」
「分かっていません」
強い。
声。
「記録がなければ」
「後の人間は」
「何が起きたか」
「検証できない」
「間違いを」
「知ることも」
「避けることも」
「できない」
男。
黙る。
アリア。
続ける。
「あなたは」
「同じことを」
「しています」
「何が」
「人のためだと」
「勝手に決めた」
「…………」
「職業を」
「固定した時も」
「記録を」
「消した時も」
「誰かが」
「悪用するかもしれない」
「だから」
「未来の人間には」
「見せない」
一拍。
「あなたが」
「決めた」
男。
何も。
言えない。
俺も。
何も。
言えない。
刺さる。
フィリア。
思い出す。
助けたい。
だから。
本人より。
先に。
決める。
俺も。
やる。
可能性。
ある。
◇ ◇ ◇
「……そうだな」
男。
やっと。
言う。
「俺は」
「最後まで」
「変わらなかった」
「間違いに」
「気づいたのに」
「やり方は」
「同じだった」
アリア。
少し。
目。
伏せる。
「責めたいわけでは」
「ありません」
「いや」
「責めていい」
「でも」
アリア。
「責めることと」
「記録することは」
「別です」
男。
笑う。
「記録官」
「怖いな」
「よく言われます」
「俺も」
「面倒って言われた」
「あなたは」
「別方向です」
「ひどい」
◇ ◇ ◇
「じゃあ」
「何で」
俺。
壁。
見る。
「俺に」
「次に来る俺へ」
「って残した?」
男。
「消したのに?」
「全部」
「消せなかった」
「何で?」
「怖くなった」
「何が」
「俺が」
「全部」
「間違ってる可能性」
「…………」
「記録を残せば」
「また使われるかもしれない」
「消せば」
「同じ失敗を」
「繰り返すかもしれない」
「どっちが」
「正しいか」
「分からなくなった」
「だから」
壁。
指す。
「俺と」
「似た奴が」
「次に来た時だけ」
「辿り着けるようにした」
「どうやって?」
「日本語」
「…………」
「この世界の人間には」
「読めない」
「日本から来た人間なら」
「読める」
「だから」
俺。
言う。
「俺へ?」
「そう」
男。
俺。
見る。
「未来の」
「俺みたいな奴へ」
「俺」
「あなたじゃない」
「ああ」
即答。
「それでいい」
「むしろ」
声。
少し。
柔らかい。
「そうであってくれ」
◇ ◇ ◇
「一個」
「聞きたい」
「何だ」
「俺が」
「ここに来ること」
「本当に」
「知ってた?」
男。
少し。
考える。
「正確には」
「知らなかった」
「…………」
「さっき」
「知ってたって」
「来る可能性を」
「知ってた」
「誰から?」
男。
顔。
曇る。
「声」
また。
それ。
「何て?」
「管理者を」
「降りる時」
男。
ゆっくり。
言う。
「言われた」
『次が来る』
「それだけ?」
「いや」
男。
俺。
見る。
『お前と同じ場所から』
一拍。
『お前とは違う者が』
「…………」
「だから」
「日本人だと思った?」
「ああ」
「声の主は?」
「分からない」
「八つ目?」
「可能性はある」
「確認は?」
「できなかった」
「じゃあ」
俺。
言う。
「俺が来たのも」
「そいつが選んだ?」
「分からない」
「育成対象に」
「したのも?」
「分からない」
「109も?」
「分からない」
「何も」
「分からない」
男。
少し。
笑う。
「でも」
「何?」
「お前」
俺。
指す。
「昔の俺より」
「ちゃんと」
「分からないって」
「言えるな」
「最近」
「鍛えられました」
「誰に?」
「七柱とか」
「仲間とか」
リナ。
「私も入ってる?」
「入ってる」
「よし」
◇ ◇ ◇
男。
急に。
咳。
する。
「大丈夫?」
近づく。
「来るな」
「何で」
「身体が」
「まだ」
咳。
続く。
赤。
ない。
でも。
苦しそう。
「神様」
「呼ぶ?」
「やめろ」
「フィリアなら」
「ここでは」
「やめろ」
「でも」
「頼む」
強い。
目。
「まだ」
「繋ぐな」
止まる。
「理由」
「一つ」
「確認したい」
「何?」
男。
部屋。
奥。
見る。
暗い。
壁。
何も。
ない。
「声が」
「聞こえない」
「今?」
「ああ」
「それが?」
「俺が」
「眠ってる間」
「ずっと」
「聞こえてた」
「何の声?」
男。
顔。
青い。
「知らない声」
「何て?」
「名前を」
「呼んでた」
「あなたの?」
「違う」
「誰?」
男。
俺。
見る。
「レン」
「…………」
俺。
固まる。
「俺?」
「ああ」
「二百年前から?」
「分からない」
「いつから?」
「眠ってた」
「時間なんか」
「分からない」
「でも」
男。
耳。
押さえる。
「何度も」
「何度も」
「レン」
「レン」
「レン」
「って」
背中。
冷える。
「起きてからは?」
「聞こえない」
「七柱」
「切ったから?」
「可能性はある」
「じゃあ」
リナ。
「繋いだら」
「また聞こえる?」
男。
「たぶん」
俺。
考える。
聞きたい。
怖い。
でも。
聞く。
必要。
ある。
「先輩」
「だから」
「定着させるな」
「七柱」
「戻していい?」
男。
長く。
俺。
見る。
「一つだけ」
「約束しろ」
「何?」
「声が」
「何を言っても」
「神だと」
「決めるな」
「うん」
「正しいとも」
「決めるな」
「うん」
「俺の言葉も」
「信じるな」
「それは」
男。
「俺も」
「間違える」
「記憶も」
「欠けてる」
「だから」
「証拠を見ろ」
「自分で考えろ」
「選べ」
「…………」
「分かった」
「なら」
「繋げ」
◇ ◇ ◇
目。
閉じる。
七柱。
呼ぶ。
「戻ってきて」
最初。
何も。
ない。
少し。
して。
遠く。
声。
『――レン?』
フィリア。
「フィリア?」
『レンさん!』
一気に。
七つ。
気配。
戻る。
ガルド。
『遅えぞ!』
セレナ。
『何があったの!?』
メルク。
『状況を説明しろ』
ヴォルグ。
『無事か』
ノア。
『接続を確認しました』
エリオス。
『レン』
「みんな」
「待って」
うるさい。
でも。
少し。
安心。
「一人ずつ」
リナ。
「何て?」
「一斉に喋ってる」
「神様だね」
「そうだね」
男。
七柱。
見えない。
でも。
何か。
感じた。
みたいに。
目。
細く。
する。
「フィリア」
俺。
呼ぶ。
『はい』
「ここに」
「人がいる」
『生命反応を』
『確認しています』
「状態」
『非常に弱いです』
男。
身体。
固まる。
「先輩」
「……声」
「何?」
「聞こえた」
「誰の?」
男。
耳。
押さえる。
「違う」
「七柱じゃない?」
「違う!」
立とうと。
する。
でも。
足。
力。
入らない。
「来る」
「何が」
「声が」
「何て?」
男。
俺。
見る。
恐怖。
顔。
初めて。
はっきり。
出る。
「逃げろ」
その瞬間。
俺の。
頭。
奥。
音。
する。
声。
じゃない。
最初。
ノイズ。
みたいな。
もの。
その中。
一つ。
言葉。
浮く。
『――レン』
「…………」
七柱。
誰も。
反応。
しない。
「今」
「誰か呼んだ?」
ガルド。
『俺じゃねえ』
セレナ。
『私も』
フィリア。
『違います』
ノア。
『発話していません』
男。
俺。
顔。
見て。
分かった。
らしい。
「聞こえたな」
「うん」
『――レン』
もう一度。
今度。
近い。
「誰」
返事。
ない。
『――やっと』
背中。
冷える。
『――繋がった』
「誰だ」
七柱。
ざわつく。
エリオス。
『何が聞こえる』
「知らない声」
『内容は』
「俺の名前」
男。
首。
振る。
「返事するな」
でも。
遅い。
俺。
もう。
誰だ。
って。
聞いた。
『――次の』
声。
笑う。
感情。
ある。
のか。
分からない。
『――管理者』
「違う」
即答。
『――まだ』
「ずっと違う」
『――そうか』
声。
妙に。
穏やか。
『――それなら』
一拍。
『――今回は』
『――少し違う』
「何が」
『――お前は』
ノイズ。
強く。
なる。
『――拒否した』
「管理者?」
『――そうだ』
「お前が」
「渡した?」
長い。
間。
『――違う』
「じゃあ誰」
『――それを』
声。
遠く。
なる。
『――知るために』
『――ここまで』
『――来たのだろう』
「答えろ」
『――答えは』
一瞬。
声。
途切れる。
次。
男。
横。
壁。
光る。
日本語。
じゃない。
この世界の。
文字。
【神性接続】
【再確認】
【七柱】
七つ。
表示。
その下。
【未登録】
一つ。
「八つ目」
男。
震える。
『――神ではない』
声。
俺だけ。
聞こえる。
「じゃあ」
喉。
鳴る。
「お前は何だ」
返事。
すぐ。
来ない。
そして。
『――私にも』
一拍。
『――名前はない』
「…………」
【未登録】
表示。
揺れる。
『――神々は』
声。
続く。
『――私を知らない』
「何で」
『――知らないように』
ノイズ。
強く。
なる。
『――したからだ』
「誰が?」
返事。
ない。
代わり。
別の。
声。
混じる。
子ども。
みたいな。
女。
みたいな。
老人。
みたいな。
いくつも。
重なる。
『レン』
『レン』
『レン』
『レン』
「っ……!」
頭。
押さえる。
「レン!」
リナ。
肩。
掴む。
「切って!」
「何を!?」
「神様との接続!」
「分かった!」
俺。
七柱。
叫ぶ。
「一回切る!」
フィリア。
『レンさん!』
エリオス。
『待て!』
「何!?」
『その声』
「何?」
エリオス。
今まで。
聞いたこと。
ない。
声。
震えてる。
『私にも』
一拍。
『聞こえた』
「…………」
部屋。
止まる。
「今まで」
「聞こえなかったんじゃ?」
『ああ』
「何て?」
エリオス。
長い。
沈黙。
『名前を』
「誰の?」
『私の』
「…………」
『エリオス』
声。
さらに。
低く。
なる。
『と』
男。
顔。
真っ青。
「切れ」
「今すぐ」
「接続を切れ!」
俺。
七柱。
接続。
切る。
世界。
静か。
なる。
知らない。
声も。
消える。
荒い。
息。
だけ。
残る。
◇ ◇ ◇
「エリオスにも」
「聞こえた」
俺。
言う。
男。
「何て」
「エリオスの名前」
男。
目。
閉じる。
「まずい」
「何が?」
「声が」
「神に届いた」
「今まで」
「届かなかった?」
「少なくとも」
「俺の時は」
「何で今?」
男。
俺。
見る。
「お前が」
「橋になった」
「…………」
さっき。
生命維持。
再起動。
した時。
エリオス。
言った。
橋。
機構。
七柱。
俺。
「俺が」
「繋いだ?」
「可能性はある」
「じゃあ」
「俺のせい」
「決めるな」
男。
即答。
「さっき」
「自分で言ってただろ」
「…………」
そう。
だった。
「まず」
「調べろ」
「うん」
「でも」
男。
床。
見る。
「時間がない」
「何で?」
「俺が」
「起きたから」
「どういう」
突然。
部屋。
揺れる。
小さい。
地震。
じゃない。
壁。
奥。
何か。
動く。
アリア。
「何です?」
男。
台。
横。
透明な。
管。
見る。
光。
消えてる。
「生命維持が」
「終わった」
「さっき」
「自律運転に」
「俺のじゃない」
「え?」
男。
俺。
見る。
「この部屋の」
「俺を生かしてた方だ」
壁。
奥。
音。
する。
ゴン。
重い。
何か。
外れる。
「何が起きる?」
「保管が」
「終わる」
「何の?」
男。
答える。
「記録」
壁。
一部。
開く。
暗い。
奥。
棚。
大量。
紙。
石板。
透明な。
板。
そして。
中央。
一つ。
大きな。
箱。
「全部」
男。
息。
吐く。
「俺が」
「消せなかったものだ」
アリア。
目。
変わる。
記録官。
完全に。
目。
変わる。
「見ていい?」
「好きにしろ」
「触れても?」
「危険なものもある」
「先に言ってください」
「今言った」
俺。
「それ」
「アリアさんのやつ」
リナ。
「似てきたね」
嫌。
◇ ◇ ◇
アリア。
棚。
見る。
一つ。
石板。
止まる。
「これ」
「何?」
「年代」
「読める?」
「刻印があります」
指。
示す。
「二百三年前」
「職業制度より前?」
「現在の制度確立より」
「前です」
石板。
文字。
読む。
『個体能力観測記録』
『分類名――未設定』
『性質――』
そこ。
欠けてる。
「性質?」
俺。
聞く。
男。
反応。
する。
「それ」
「残ってたのか」
「知ってる?」
「ああ」
「何?」
男。
俺。
見る。
「職業が」
「できる前の」
「人の見方だ」
「…………」
「職業じゃない?」
「違う」
「じゃあ」
「その人が」
「何をしてきたか」
「何を望むか」
「何が得意か」
「身体が」
「どう育ったか」
「そういうものを」
一拍。
「まとめて」
「性質と呼んでた」
胸。
ざわつく。
俺の。
異常な火。
木剣。
身体。
魔法。
職業。
なし。
「職業と」
「何が違う?」
「性質は」
「名前じゃない」
「…………」
「剣士」
「魔術師」
「商人」
「そうやって」
「人を箱へ」
「入れない」
「その人が」
「今」
「どういう人間か」
「それだけ」
リナ。
自分の。
剣。
見る。
「じゃあ」
「私なら?」
男。
「知らない」
「見れば分かる?」
「昔なら」
「今は?」
「管理者じゃない」
「そっか」
少し。
残念そう。
「でも」
男。
言う。
「狩剣士じゃなくても」
「お前が剣を」
「大事にしてるのは」
「見れば分かる」
リナ。
少し。
笑う。
「それでいい」
◇ ◇ ◇
アリア。
次。
記録。
取る。
「これは」
石板。
古い。
『性質観測』
『対象――』
名前。
消えてる。
その下。
『破壊』
俺。
止まる。
「何?」
アリア。
「性質」
読む。
『境界破砕』
『接続破砕』
『分類破砕』
『対象個体は』
『固定された規則への干渉性を示す』
「…………」
男。
俺。
見る。
「お前」
「何?」
「火」
「何で知ってる?」
「さっき」
「黒い接続」
「切っただろ」
「見てた?」
「半分」
「寝ながら」
「器用」
「褒めるな」
男。
石板。
見る。
顔。
変わる。
「違う」
「何が?」
「これ」
「俺じゃない」
「え?」
「この記録」
「俺のじゃない」
「じゃあ誰?」
「分からない」
アリア。
年代。
確認。
「二百五年前」
「あなたより前?」
「ああ」
「同じ力の人」
「いた?」
男。
首。
振る。
「知らない」
「でも」
俺。
石板。
見る。
固定された。
規則への。
干渉。
壊す。
俺。
ブレイカー。
まだ。
誰も。
その名前。
知らない。
なのに。
似てる。
「ノア」
呼びそうに。
なる。
止める。
今。
切ってる。
神様。
いない。
自分で。
見る。
「持っていこう」
アリア。
「許可は?」
大神官。
俺たち。
見る。
「記録庫へ」
「移す」
「全部?」
「まず」
「安全を確認したものだけだ」
アリア。
「承知しました」
◇ ◇ ◇
その時。
箱。
中央。
音。
する。
カチ。
「何?」
男。
顔。
変わる。
「触るな」
誰も。
触ってない。
箱。
勝手に。
開く。
中。
紙。
一枚。
だけ。
「…………」
日本語。
俺。
近づく。
「読む?」
リナ。
「うん」
紙。
新しい。
いや。
古い。
でも。
文字。
はっきり。
してる。
『次に来る俺へ。』
また。
同じ。
その下。
『もし、神々がこの部屋まで来たなら。』
『失敗だ。』
「…………」
次。
『もし、人間だけでここまで来たなら。』
『まだ間に合う。』
リナ。
「何て?」
伝える。
大神官。
眉。
寄せる。
「何に」
「間に合う」
「続き」
見る。
『最初の記録を探せ。』
『職業ではなく、名前でもなく。』
『最初に与えられたものを。』
「最初に」
「与えられたもの?」
アリア。
「続きは?」
最後。
一行。
『それを、神々は知らない。』
部屋。
静か。
なる。
男。
紙。
見る。
「俺」
「こんなの」
「書いたか?」
「え?」
「覚えてない?」
「違う」
男。
首。
振る。
「字が」
「俺のじゃない」
「…………」
「じゃあ」
「誰が?」
答え。
ない。
日本語。
書ける。
誰か。
先輩。
以外。
いる。
あるいは。
いた。
「最初の記録」
俺。
呟く。
アリア。
棚。
見る。
「年代順に」
「探します」
「どれくらい?」
「全部」
「何枚?」
「数えたくありません」
「手伝う」
「当然です」
「厳しい」
◇ ◇ ◇
探す。
石板。
紙。
板。
古い。
もの。
順。
一時間。
二時間。
男。
途中。
何度も。
休む。
リナ。
水。
渡す。
大神官。
黙って。
記録。
運ぶ。
俺。
読む。
読めない。
日本語。
探す。
「これ」
アリア。
声。
変わる。
一枚。
石板。
ほとんど。
黒い。
「年代」
「現行暦では」
「換算できません」
「何で?」
「古すぎます」
「内容」
アリア。
読む。
『観測対象』
次。
『名称』
空白。
『職業』
項目。
ない。
代わり。
『性質』
「…………」
「読むよ」
アリア。
『性質』
『未固定』
『成長により変化』
『経験により変化』
『意思により変化』
『環境により変化』
「職業より」
「自由」
リナ。
「そう見える」
男。
小さく。
言う。
「これが」
「最初?」
アリア。
「まだ下があります」
石板。
裏。
見る。
文字。
一行。
『観測目的』
『神性を人へ与えるためではない』
次。
『人を理解するため』
「…………」
胸。
変。
なる。
人を。
分類。
する。
ため。
じゃない。
人を。
理解。
する。
ため。
最初。
そう。
だった。
「じゃあ」
俺。
「何で」
「職業になった?」
男。
答えない。
知らない。
たぶん。
その時。
石板。
さらに。
薄く。
光る。
魔力。
ない。
神様。
いない。
なのに。
文字。
浮く。
【観測対象を検出】
「…………」
「俺?」
次。
【性質観測】
【実行しますか】
【YES/NO】
リナ。
「また選択肢」
「最近」
「多いな」
男。
「やめろ」
即答。
「何で?」
「それ」
「古すぎる」
「危険?」
「分からない」
「じゃあ」
俺。
手。
引く。
「やらない」
男。
少し。
驚く。
「何?」
「いや」
「もっと」
「触る奴だと」
「みんな」
「俺を何だと思ってる?」
リナ。
「触る人」
「否定できない」
でも。
石板。
勝手に。
表示。
変わる。
【拒否を確認】
次。
【性質観測】
【保留】
「ちゃんと」
「待ってくれる」
その下。
一行。
出る。
【対象個体】
【レン・アルヴェイン】
次。
【既知性質との】
【部分一致を確認】
「…………」
男。
立つ。
「何と?」
アリア。
読む。
【照合記録】
【一件】
心臓。
鳴る。
次。
【記録名称】
文字。
欠ける。
でも。
最後。
一部。
出る。
【――壊す者】
「壊す者」
リナ。
俺。
見る。
男。
顔。
青い。
「その記録」
「知ってる?」
「違う」
「じゃあ何?」
男。
震える。
指。
石板。
指す。
「それ」
「俺が」
「管理者になる前に」
「聞いた言葉だ」
「誰から?」
男。
答える。
「知らない声」
背中。
冷える。
「何て言われた?」
男。
唇。
乾く。
「次は」
一拍。
「壊す者を」
「選ぶ」
「…………」
「次?」
「そう言った」
俺。
石板。
見る。
【――壊す者】
職業。
じゃない。
名前。
でもない。
性質。
なのか。
まだ。
分からない。
でも。
知らない声。
俺が。
来る。
ずっと。
前から。
何かを。
知ってた。
その時。
切った。
はずの。
七柱との。
接続。
向こう側。
ほんの。
一瞬。
声。
する。
『――レン』
エリオス。
だった。
でも。
いつもの。
声。
じゃない。
遠い。
焦ってる。
『――聞こえるか』
「エリオス?」
『――そこから』
ノイズ。
混じる。
『――出ろ』
「何で?」
『――今すぐ』
次。
別の。
声。
重なる。
知らない。
声。
『――遅い』
部屋。
奥。
暗闇。
八つ目の。
紋章。
一つ。
浮かぶ。
『――見つけた』
男。
叫ぶ。
「走れ!」
床。
大きく。
揺れた。




