神託ログ35「神様の知らない言葉」
村を。
出る朝。
空は。
驚くほど。
晴れていた。
昨日まで。
地下で。
五十一人の命と。
黒い水と。
白い根を。
相手にしていたのが。
嘘みたいに。
「本当に」
「行くのか」
グレン。
村の入口。
腕を組んでる。
「行きます」
「身体は?」
「大丈夫」
リナ。
隣。
「嘘」
「え?」
「昨日」
「立つ時」
「壁使ってた」
「見てた?」
「見てた」
「大丈夫寄り」
「何それ」
グレン。
ため息。
「一日」
「休めばいいだろ」
「それも」
「考えたんですけど」
村。
振り返る。
地下。
白い根。
人々。
まだ。
全員が。
完全に。
元通りに。
なったわけじゃない。
でも。
フィリアが。
生命反応を。
確認してる。
黒い水は。
古い施設の。
隔離槽へ。
今のところ。
流れてる。
根も。
持ち直した。
そして。
俺たちが。
ここにいても。
古い施設の。
正体は。
分からない。
「北方大神殿に」
「行きます」
「根を切れ」
「って教えた奴を」
「探すのか」
「それも」
「他には?」
「昨日の施設」
「職業」
「俺のこと」
一拍。
「聞きたいこと」
「増えすぎたんで」
グレン。
少し。
笑う。
「神様が」
「七人もいるのにな」
「ほんとですよ」
【戦神ガルド】
『悪かったな!』
「聞こえてないから」
「怒っても意味ないぞ」
グレン。
「何だ?」
「神様が」
「怒ってます」
「七人のうち?」
「一番うるさいのが」
『誰がうるさい!』
「今の人」
グレン。
笑う。
少し。
だけ。
◇ ◇ ◇
エナ。
歩けるまで。
戻った。
ミアも。
双子も。
村長だけは。
まだ。
白い根の。
助けを。
借りてる。
出発前。
地下へ。
会いに。
行った。
「北へ」
「行ってきます」
村長。
目。
開ける。
「……神殿か」
「はい」
「やめておけ」
「何で?」
「神の」
「場所だ」
「だからです」
老人。
俺。
見る。
「怖くないのか」
「怖いですよ」
「なら」
「でも」
俺。
白い根。
見る。
「怖いから」
「聞かない」
「ってやった結果」
村長の。
腕。
見る。
根。
巻いてる。
「一回」
「死にかけたじゃないですか」
「…………」
「ごめんなさい」
「言い方悪かった」
「いや」
村長。
首。
少し。
振る。
「その通りだ」
「根を切れ」
「って言った神官」
「名前」
「覚えてます?」
「知らん」
「顔は?」
「もう」
「四十年以上前だ」
「生きてるかな」
「分からん」
「何か」
「覚えてること」
村長。
目。
閉じる。
考える。
「言葉」
「言葉?」
「神官が」
「言っていた」
「何て?」
少し。
間。
「神の根は」
「人を喰う」
「…………」
「だから」
「白い根を見たら」
「切れと」
「神の根」
俺。
繰り返す。
「名前ですか?」
「知らん」
「他には?」
「それだけだ」
白い根。
人を。
喰う。
昨日。
見た。
もの。
逆。
だった。
少なくとも。
俺たちが。
確認した。
範囲では。
根は。
人を。
生かしてた。
「分かりました」
「レン」
「はい」
「神殿に」
「気をつけろ」
「神様じゃなくて?」
「どっちもだ」
「…………」
「覚えときます」
◇ ◇ ◇
北方大神殿まで。
あと。
二日。
本来なら。
村から。
もっと。
かかる。
でも。
グレンが。
古い。
山道。
教えてくれた。
「こっちなら」
「一日くらい縮む」
「危なくない?」
リナ。
地図。
見る。
「普通の道よりは」
「少し」
「少しって?」
「魔物が出る」
「普通の道行こう」
「即決」
「昨日」
「死にかけた人の判断とは」
「思えないくらい慎重」
「学習するんです」
「いいこと」
結局。
普通の。
街道。
選ぶ。
急ぐ。
でも。
急いで。
また。
何か。
見落とす。
方が。
嫌。
「レン」
「何?」
「前だったら」
「近道」
「選んでた?」
「…………」
考える。
「選んでたかも」
「何で?」
「早く」
「答え欲しかったから」
「今は?」
「早く欲しい」
「同じじゃん」
「でも」
俺。
道。
先。
見る。
「答えより」
「ちゃんと辿り着く方が」
「大事」
リナ。
少し。
笑う。
「成長したね」
「上からだな」
「狩剣士だから」
「それ万能じゃないからね?」
◇ ◇ ◇
昼。
街道。
歩く。
ガルド。
『走らんのか?』
「走らない」
『身体作りになるぞ!』
「旅の途中です」
『走れば早く着く!』
「疲れる!」
『休めばいい!』
「それなら」
「歩く!」
リナ。
「誰と喧嘩してるの?」
「ガルド」
「ああ」
納得。
早い。
「ガルドって」
「どんな神様?」
「走れって言う神様」
『戦神だ!』
「戦神らしい」
「どこが?」
「走らせるところ」
『お前ら!』
少し。
笑う。
でも。
歩きながら。
考えてる。
北方大神殿。
そこに。
何が。
ある。
古い。
記録。
職業。
俺を。
選んだ。
何か。
七柱以前の。
施設。
そして。
根を。
切れと。
教えた。
神官。
全部。
一つ。
なのか。
別々。
なのか。
まだ。
分からない。
だから。
繋げない。
まだ。
◇ ◇ ◇
夕方。
小さな。
宿場町。
着く。
今日は。
ここ。
泊まる。
宿。
取る。
一階。
食堂。
人。
多い。
旅人。
商人。
冒険者。
神官。
「神官いる」
リナ。
小声。
白い。
服。
首。
銀色の。
飾り。
一人。
食事。
してる。
「北方大神殿の人かな」
「聞く?」
「…………」
少し。
迷う。
「聞く」
情報。
欲しい。
でも。
聞き方。
大事。
俺。
神官。
近づく。
「すみません」
「はい」
男。
三十代。
くらい。
柔らかい。
顔。
「北方大神殿の」
「神官さんですか?」
「ええ」
「よかった」
「何か?」
「明日」
「向かう予定で」
「参拝ですか?」
「たぶん」
「質問です」
「質問?」
「古い記録を」
「見たいんです」
神官。
少し。
目。
細める。
「どのような?」
「職業について」
一瞬。
間。
「職業」
「はい」
「それと」
「古い神具」
神官。
表情。
変わらない。
でも。
手。
止まった。
スプーン。
少し。
浮いたまま。
「古い神具とは?」
「分かりません」
「…………」
「分からないから」
「聞きに行きます」
神官。
俺。
見る。
「名前を」
「伺っても?」
「レンです」
一拍。
「レン・アルヴェイン」
神官。
目。
ほんの。
少し。
開く。
「…………」
「知ってます?」
「いえ」
早い。
返事。
「そうですか」
「ええ」
嘘。
か。
分からない。
決めつけない。
「北方大神殿」
「古い記録」
「見られます?」
「一般の方が」
「閲覧できる範囲は」
「限られます」
「じゃあ」
「誰に聞けば?」
「記録官へ」
「名前は?」
「アリア」
「アリアさん」
「アリア・クロウ」
「ありがとうございます」
神官。
また。
食事。
戻る。
俺。
離れる。
数歩。
「レン」
リナ。
「うん」
「今の人」
「レンの名前」
「知ってた顔した」
「やっぱり?」
「たぶん」
「またたぶん」
「でも」
「今回は結構たぶん」
「何%?」
「八十」
「高いな」
後ろ。
振り返らない。
◇ ◇ ◇
部屋。
戻る。
ベッド。
二つ。
「同じ部屋なんだ」
リナ。
「空き」
「ここしかなかったから」
「別にいいけど」
「俺」
「床で寝る?」
「何で?」
「一応」
「ベッド二つあるよ」
「そうですね」
「変なの」
「俺が?」
「うん」
「理不尽」
荷物。
置く。
「アリア・クロウ」
ノア。
呼ぶ。
『はい』
「知ってる?」
『北方大神殿の』
『記録管理官に』
『同名の人物がいます』
「どんな人?」
『年齢』
『二十九』
「若い」
『記録管理官としては』
『優秀です』
「会えば」
「教えてくれる?」
『分かりません』
「ですよね」
リナ。
ベッド。
座る。
「レン」
「何?」
「もし」
「教えてくれなかったら?」
「聞く」
「それでも?」
「別の人に聞く」
「それでも?」
「…………」
考える。
「勝手に」
「忍び込む?」
リナ。
「犯罪」
「ですよね」
「神殿で捕まったら」
「面倒そう」
「七柱」
「助けてくれるかな」
メルク。
『自業自得だ』
「一柱」
「助けてくれなさそう」
「誰?」
「商神」
「妥当」
◇ ◇ ◇
夜。
眠れない。
昨日。
寝てない。
身体。
疲れてる。
なのに。
頭。
動く。
「レン」
リナ。
隣の。
ベッド。
「起きてる?」
「起きてる」
「やっぱり」
「リナも?」
「うん」
暗い。
天井。
見る。
「怖い?」
リナ。
聞く。
「大神殿?」
「うん」
「怖い」
「何が?」
「全部」
「雑」
「じゃあ」
少し。
考える。
「答えが」
「あること」
リナ。
黙る。
「ない方じゃなくて?」
「ないのも嫌」
「でも」
俺。
目。
閉じる。
「もし」
「俺が何なのか」
「書いてあったら」
「うん」
「それが」
「嫌な答えだったら」
「例えば?」
「知らない」
「神様が」
「間違えて連れてきたとか」
「俺が」
「本当は」
「人間じゃないとか」
「誰かの」
「代わりとか」
「…………」
口。
出して。
自分で。
怖く。
なる。
「レン」
「何?」
「それで」
「レンじゃなくなる?」
「…………」
昨日。
俺が。
言った。
こと。
思い出す。
職業。
なし。
でも。
俺まで。
なくなる。
わけじゃない。
「ならない」
「と思う」
「じゃあ」
「大丈夫じゃない?」
「簡単に言うな」
「狩剣士だから」
「関係ない」
暗い。
部屋。
少し。
笑う。
「リナは?」
「何?」
「もし」
「狩剣士じゃなかったら」
長い。
沈黙。
前。
聞いた。
時。
嫌そう。
だった。
「…………分からない」
「うん」
「でも」
「うん」
「前より」
「ちょっとだけ」
「考えられる」
「何を?」
「狩剣士じゃなくても」
「私が消えるわけじゃない」
「…………」
「レン見てたら」
「そう思った」
「俺」
「なしだけどね」
「参考として」
「特殊すぎる」
「ひどい」
でも。
少し。
嬉しい。
◇ ◇ ◇
翌朝。
宿。
出る。
昨日の。
神官。
いない。
「先に」
「出た?」
リナ。
「かも」
「大神殿に?」
「たぶん」
嫌な。
予感。
でも。
行く。
街道。
北。
向かう。
昼。
山。
見える。
その。
中腹。
白い。
建物。
大きい。
「見えた」
北方大神殿。
思ったより。
でかい。
町。
一つ。
入りそう。
「神殿って」
「こんな大きいの?」
リナ。
「北方大神殿は」
「古いから」
「来たことある?」
「一回だけ」
「何しに?」
「職業の」
「祝福」
「…………」
「狩剣士になった時?」
「うん」
初めて。
聞いた。
「どんな感じ?」
「覚えてない」
「何歳?」
「十二」
「小さい」
「レンは?」
「俺」
「職業ないから」
「そうだった」
「忘れないで」
◇ ◇ ◇
夕方。
大神殿。
門。
着く。
白い。
石。
高い。
柱。
人。
多い。
参拝者。
神官。
旅人。
子ども。
商人。
入口。
巨大。
扉。
その。
上。
七つ。
紋章。
「七柱」
「うん」
ガルド。
戦。
セレナ。
魔法。
メルク。
商。
ヴォルグ。
鍛冶。
フィリア。
生命。
ノア。
知識。
エリオス。
創世。
全部。
ある。
「普通」
俺。
呟く。
リナ。
「何が?」
「七柱の」
「神殿なんだなって」
「当たり前じゃない?」
「うん」
でも。
地下。
施設。
七柱。
以前。
ここ。
古い。
記録。
本当に。
普通。
なのか。
門。
入る。
神官。
一人。
近づく。
「参拝ですか?」
「記録官の」
「アリア・クロウさんに」
「会いたいです」
「お名前を」
「レン・アルヴェイン」
神官。
止まる。
ほんの。
一瞬。
また。
「少々」
「お待ちください」
「知ってる?」
聞く。
神官。
「何をでしょう」
「俺の名前」
「…………」
「今」
「止まりましたよね」
リナ。
横。
小さく。
「レン」
「分かってる」
決めつけない。
でも。
聞く。
神官。
少し。
困った。
顔。
「お待ちください」
去る。
「逃げた」
リナ。
「たぶん」
「八十?」
「九十」
「上がった」
◇ ◇ ◇
待つ。
十分。
二十分。
長い。
「遅い」
「うん」
三十分。
やっと。
来る。
女性。
黒い。
髪。
肩。
くらい。
眼鏡。
細い。
身体。
大量の。
紙。
抱えてる。
「レン・アルヴェイン?」
「はい」
「アリア・クロウ」
「記録官です」
「よろしくお願いします」
アリア。
俺。
上から。
下。
見る。
「あなたが」
「…………」
「何です?」
「いえ」
「その反応」
「今日三回目なんですけど」
アリア。
少し。
眉。
動く。
「こちらへ」
案内。
される。
神殿。
奥。
廊下。
長い。
壁。
古い。
絵。
文字。
「アリアさん」
「何ですか」
「俺のこと」
「知ってます?」
「名前は」
「どこで?」
「記録で」
「何の記録?」
「…………」
歩き。
止まる。
アリア。
振り返る。
「あなた」
「質問が多いですね」
「最近」
「分からないこと多いんで」
「神々に」
「聞けばいいのでは?」
「聞きました」
「答えは?」
「分からない」
「って」
アリア。
目。
細く。
なる。
「七柱が?」
「はい」
「全員?」
「はい」
アリア。
何か。
考える。
「なるほど」
「何が?」
「こちらです」
答えない。
部屋。
入る。
机。
椅子。
棚。
紙。
多い。
「座って」
俺。
リナ。
座る。
アリア。
向かい。
「何を」
「知りたいのですか」
「全部」
「帰ってください」
「早い!」
リナ。
笑う。
アリア。
真顔。
「具体的に」
「はい」
俺。
息。
吸う。
「職業」
一つ。
「職業石」
二つ。
「俺が」
「この世界に来た理由」
三つ。
「七柱が」
「俺を選んでないなら」
「誰が選んだのか」
四つ。
「七柱より前の」
「管理施設」
アリア。
顔。
変わる。
「それと」
最後。
「白い根を」
「切れっていう」
「神の教え」
沈黙。
部屋。
静か。
アリア。
俺。
見る。
「あなた」
声。
低い。
「どこで」
「それを知りました?」
「村」
「どこの」
「南西の」
「小さい村」
「名前は?」
「先に」
「俺の質問」
アリア。
眉。
寄る。
「取引の」
「つもりですか?」
「違います」
「じゃあ」
「俺」
少し。
考える。
「一方的に」
「全部話すの」
「最近やめたんで」
リナ。
小さく。
「成長」
「ありがとう」
アリア。
ため息。
「分かりました」
机。
引き出し。
鍵。
出す。
「ついてきて」
「どこへ?」
「記録庫」
「見せてくれる?」
「一部だけ」
「十分」
◇ ◇ ◇
地下。
降りる。
階段。
長い。
「地下」
「最近多くない?」
リナ。
「俺も思った」
アリア。
「静かに」
「はい」
下。
扉。
三つ。
アリア。
鍵。
開ける。
中。
紙。
本。
石板。
大量。
古い。
匂い。
「ここは」
「一般記録庫ではありません」
「何の?」
「廃棄されなかった」
「古記録」
「廃棄?」
「現行制度と」
「整合しないもの」
「…………」
嫌な。
言い方。
「間違った記録?」
「そう判断されたもの」
「誰に?」
アリア。
俺。
見る。
「神殿に」
「神様じゃなくて?」
「…………」
答えない。
棚。
奥。
進む。
「レン」
リナ。
小声。
「うん」
「ここ」
「嫌な感じ」
「俺も」
神様。
七人。
静か。
「ガルド」
『いる』
「セレナ」
『いるわ』
「みんな?」
フィリア。
『はい』
安心。
少し。
する。
アリア。
一冊。
古い。
本。
出す。
「これです」
机。
置く。
表紙。
文字。
読めない。
「ノア」
『見ています』
アリア。
本。
開く。
紙。
黄ばんでる。
文字。
古い。
「これは」
「約二百年前の」
「記録です」
「二百年」
胸。
引っかかる。
「何の?」
「職業制度の」
「初期運用記録」
「…………」
リナ。
俺。
見る。
「職業って」
「二百年前から?」
「今の形式は」
アリア。
ページ。
めくる。
「それ以前にも」
「役割や適性を示す」
「祝福はありました」
「でも」
「今の職業制度は」
「約二百年前に」
「大きく整備された」
「誰が?」
アリア。
止まる。
「そこが」
「問題なんです」
「分からない?」
「記録では」
「七柱の神託により」
「整備されたことになっている」
「なっている?」
「はい」
「七柱」
俺。
呼ぶ。
「知ってる?」
沈黙。
ノア。
最初。
答える。
『制度の整備は』
『知っています』
「二百年前?」
『はい』
「この記録」
「知ってる?」
『内容によります』
アリア。
ページ。
一つ。
開く。
「ここ」
指。
置く。
古い。
文字。
並ぶ。
「読めない」
「古語です」
ノア。
『読めます』
「何て?」
アリア。
先に。
言う。
「職業分類」
「試験対象」
次。
「番号」
「零零一」
「〇〇一?」
「はい」
「最初の人?」
「おそらく」
アリア。
次。
行。
指。
「ここからが」
「問題です」
「何?」
アリア。
読む。
「職業分類」
一拍。
「失敗」
「…………」
「表示名称」
次。
「なし」
空気。
止まる。
リナ。
俺。
見る。
俺。
何も。
言えない。
【職業:なし】
職業石。
あの日。
表示。
同じ。
「この人」
「誰?」
アリア。
「分かりません」
「名前は?」
「記録に」
「残っていません」
「その後は?」
「次のページ」
めくる。
何も。
ない。
「ない?」
「切り取られています」
「誰が?」
「分かりません」
「いつ?」
「分かりません」
「神殿が?」
「分かりません」
アリア。
俺。
見る。
「だから」
「廃棄対象になった」
「何で?」
「不完全だから」
「不完全なら」
「調べるんじゃないの?」
「普通は」
「じゃあ何で」
「神殿が」
「この記録を」
「残したくなかった可能性がある」
リナ。
「アリアさん」
「神官だよね?」
「記録官です」
「神殿の人」
「はい」
「そんなこと」
「言っていいの?」
「よくないでしょうね」
「じゃあ何で?」
アリア。
俺。
見る。
「あなたが」
「同じ表示を出したからです」
「…………」
「知ってたんだ」
「はい」
「俺の名前」
「職業院から」
「報告が来ています」
「だから」
「宿の神官も?」
「おそらく」
「何で隠す?」
「混乱を」
「避けるため」
「便利な言葉」
アリア。
少し。
笑う。
「私も」
「そう思います」
◇ ◇ ◇
「ノア」
俺。
呼ぶ。
「この記録」
「知ってた?」
長い。
沈黙。
『いいえ』
「エリオス」
『私も』
『この文書は知らない』
「二百年前」
「職業制度」
「整備した?」
『関与した』
「七柱で?」
『そうだ』
「試験対象〇〇一」
『知らない』
「…………」
アリア。
顔。
変わる。
「今」
「神々と話しています?」
「はい」
「何と?」
「この記録」
「知らないって」
アリア。
目。
細く。
なる。
「七柱が?」
「全員」
「…………」
「アリアさん」
「はい」
「これ」
「七柱の記録じゃない」
「その可能性を」
「私は疑っています」
「じゃあ」
「誰の?」
「それを」
「調べていました」
「何か分かった?」
アリア。
別の。
紙。
出す。
「これ」
古い。
紙。
文字。
違う。
「何語?」
「分かりません」
「古語じゃない?」
「違います」
「ノア」
『…………』
「ノア?」
『読めません』
「え?」
知識神。
読めない。
アリア。
「やはり」
「何が?」
「この文字を」
「七柱は」
「読めない」
「知ってた?」
「推測していました」
「何で?」
アリア。
紙。
指。
さす。
「二百年前の」
「記録の間に」
「何度も出てくる」
「なのに」
「翻訳記録が」
「一つもない」
「人間は?」
「読める人」
「いない?」
「私の知る限り」
「いません」
紙。
見る。
文字。
並ぶ。
四角。
曲線。
記号。
みたい。
でも。
どこか。
「…………」
胸。
ざわつく。
何で。
「レン?」
リナ。
「何?」
「顔」
「何」
「変」
「元から?」
「そうじゃない」
紙。
見る。
知ってる。
気が。
する。
でも。
読めない。
「アリアさん」
「はい」
「これ」
「向き」
「合ってる?」
「向き?」
紙。
上下。
見る。
「記録上は」
「この向きです」
「ちょっと」
「回していい?」
「触らずに」
「はい」
アリア。
紙。
九十度。
回す。
違う。
さらに。
九十度。
「…………」
「レン?」
文字。
一つ。
目。
止まる。
知ってる。
いや。
違う。
この世界。
来る前。
見た。
形。
「これ」
指。
さす。
「何です?」
「文字」
「それは分かります」
「違う」
喉。
乾く。
「俺」
「これ」
声。
出ない。
もう一度。
「読める」
部屋。
静か。
なる。
アリア。
「何と?」
俺。
紙。
見る。
一文字。
その。
形。
「神」
「…………」
リナ。
「神?」
「うん」
「次は?」
隣。
文字。
見る。
「……様」
「神様?」
「うん」
アリア。
立ち上がる。
「待ってください」
「何?」
「本当に」
「読める?」
「全部じゃない」
「でも」
「これ」
指。
動かす。
「神様」
次。
「に」
次。
「…………」
手。
止まる。
「何?」
リナ。
俺。
息。
飲む。
「聞く」
「…………」
「神様に」
「聞く」
文章。
続く。
次。
文字。
「な」
「…………」
「何?」
「神様に」
「聞くな」
沈黙。
七柱。
誰も。
声。
出さない。
アリア。
「続き」
俺。
読む。
ゆっくり。
昔。
使ってた。
言葉。
俺の。
世界の。
文字。
日本語。
「神様に」
「聞くな」
次。
「名」
次。
「前」
「名前」
次。
「を」
次。
「…………」
「何?」
「与えるな」
リナ。
息。
止まる。
「続き」
アリア。
声。
震えてる。
俺。
読む。
「職を」
「与えるな」
次。
「神に」
「繋ぐな」
次。
「もし」
文字。
一部。
掠れてる。
読めない。
でも。
最後。
見える。
「…………」
俺。
止まる。
「レン」
「最後」
「何て?」
俺。
読む。
「もし」
一拍。
「彼が」
次。
「目を」
次。
「覚ましたら」
そして。
最後。
「逃げろ」
誰も。
喋らない。
紙。
一枚。
そこに。
俺の。
世界の。
言葉。
二百年前。
この世界。
神様。
七柱。
誰も。
読めない。
言葉。
「アリアさん」
「……はい」
「これ」
「どこで?」
「この神殿です」
「どこにあった?」
「職業制度」
「初期記録の」
「中」
「誰が書いた?」
「分かりません」
「いつ?」
「約二百年前」
二百年前。
俺。
生まれて。
ない。
当然。
この世界にも。
いない。
なのに。
俺が。
読める。
言葉。
ある。
「ノア」
『はい』
声。
いつもより。
遅い。
「本当に」
「読めない?」
『はい』
「エリオス」
『私もだ』
「セレナ」
『分からない』
「ガルド」
『知らん』
「メルク」
『読めない』
「ヴォルグ」
『同じだ』
「フィリア」
『……はい』
七柱。
全員。
知らない。
俺だけ。
読める。
アリア。
俺。
見る。
「レン」
初めて。
名前。
呼び捨て。
「あなた」
「何者なんですか」
「…………」
俺が。
聞きたい。
紙。
見る。
もう一度。
読む。
神様に聞くな。
名前を与えるな。
職を与えるな。
神に繋ぐな。
もし彼が目を覚ましたら。
逃げろ。
その下。
小さな。
文字。
ある。
さっき。
気づかなかった。
「まだある」
「何て?」
掠れてる。
でも。
読める。
短い。
一文。
「…………」
心臓。
速い。
「レン?」
「これ」
声。
震える。
「何?」
読む。
『次に来る俺へ。』
一瞬。
意味。
分からない。
いや。
分かる。
分かるから。
怖い。
次に。
来る。
俺。
二百年前。
誰か。
日本語。
書いた。
誰か。
俺と。
同じ。
場所から。
来た。
可能性。
そして。
そいつは。
知ってた。
次が。
来る。
ことを。
俺は。
紙から。
目を。
離せなかった。




