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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
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32/71

神託ログ32 殺したら、死ぬ

穴。


地面の。


下。



人が。


一人。



通れる。



くらい。



暗い。



その奥から。



「たすけて」



声。



聞こえる。



一人。



じゃない。



重なってる。



「おかあさん」



「ここ」



「さむい」



「たすけて」



グレン。



短剣。



握る。



「妻だ」



声。



震えてる。



「間違いない」



「グレンさん」



「行く」



「待って」



「妻がいるんだぞ!」



「分かってる」



俺。



穴。



見る。



「だから」


「そのまま入るのは危ない」



「でも!」



「中に」


「何がいるか分からない」



「根も」


「根虫も」


「村の人がどうなってるかも」



「分からないまま」


「全員で入ったら」



一拍。



「助ける人まで」


「いなくなる」



グレン。



歯。



食いしばる。



納得。



できない。



当然。



俺だって。



家族の。



声。



聞こえてたら。



待てるか。



分からない。



「リナ」



「うん」



「入口」


「見てくれる?」



「任せて」



「グレンさん」



「…………」



「ここにいて」



「嫌だ」



即答。



「ですよね」



「俺も行く」



「怪我してる」



「歩ける」



「戦える?」



「…………」



答え。



ない。



「中で」


「奥さん見つけた時」


「走らないって」


「約束できる?」



グレン。



俺。



睨む。



「できない」



「正直だな……」



「なら」


リナ。



言う。



「私が止める」



「え?」



「走ったら」


「捕まえる」



「…………」



グレン。



リナ。



見る。



腰の。



剣。



見る。



「俺より」


「強いか?」



「たぶん」



「そこは」


「絶対って言っとけよ」



俺。



思わず。



突っ込む。



リナ。



「じゃあ絶対」



「今変えたじゃん」



少し。



空気。



緩む。



ほんの。



少し。



それで。



いい。



怖いまま。



入るより。



少し。



呼吸。



できる。



「行こう」



俺。



木剣。



握る。



「ゆっくり」



穴へ。



足。



入れる。



◇ ◇ ◇



土。



湿ってる。



狭い。



最初は。



身体。



屈める。



くらい。



でも。



数歩。



進むと。



広がる。



「これ」



リナ。



壁。



見る。



「掘った穴じゃない」



「分かる?」



「たぶん」



「またたぶん」



「土の削れ方が」


「変」



壁。



白い。



根。



何本も。



走ってる。



細い。



糸。



みたいな。



もの。



太い。



腕。



くらい。



もの。



全部。



奥へ。



続いてる。



「植物の根が」


「穴作った?」



【知識神ノア】


『可能性はあります』



「自然に?」



『この規模は』


『一般的ではありません』



「ですよね」



足元。



気をつける。



根。



踏まない。



「レン」



リナ。



「何?」



「そこ」



止まる。



土。



上。



細い。



虫。



一本。



白い。



根虫。



動いてる。



「…………」



グレン。



短剣。



抜く。



「待って」



俺。



手。



出す。



「でも」



「襲ってない」



根虫。



俺たち。



無視。



壁。



這う。



小さな。



隙間。



入る。



「追う?」



リナ。



「いや」



「何で?」



「今は」


「人」



「うん」



目的。



忘れない。



全部。



調べたい。



でも。



今。



村人。



探す。



◇ ◇ ◇



「たすけて」



声。



近い。



グレン。



呼吸。



速くなる。



「エナ!」



「グレンさん!」



「エナ!」



叫ぶ。



返事。



ない。



代わりに。



「たすけて」



同じ。



声。



「エナ!」



また。



「たすけて」



同じ。



高さ。



同じ。



間。



同じ。



「…………」



俺。



止まる。



「グレンさん」



「何だ!」



「今の」


「奥さんの声?」



「ああ!」



「本当に?」



「何言って」



「もう一回」


「聞いて」



静か。



少し。



待つ。



「たすけて」



「…………」



また。



同じ。



「もう一回」



「たすけて」



同じ。



声。



同じ。



速さ。



同じ。



息遣い。



「これ」



リナ。



顔。



険しく。



「喋ってるんじゃない」



「たぶん」



グレン。



「じゃあ何だ」



ノア。



『音声記録に』


『近い可能性があります』



「記録?」



『何らかの方法で』


『過去の音を保存し』


『再生している』



「根が?」



『断定できません』



グレン。



「そんな」



「でも」


俺。



言う。



「奥さんが」


「今」


「助けてって言ってるとは」


「限らない」



「…………」



残酷。



かもしれない。



でも。



必要。



希望。



だけで。



決めたら。



危ない。



逆も。



同じ。



声が。



偽物。



だからって。



死んでる。



とも。



限らない。



「フィリア」



【生命神フィリア】


『はい』



「人」


「まだ感じる?」



『はい』



「生きてる?」



『生きています』



「何人?」



『ここからでは』


『正確には分かりません』



「近づいてる?」



『はい』



「なら行く」



グレン。



顔。



上げる。



「生きてる」



俺。



言う。



「少なくとも」


「誰かは」



グレン。



短剣。



握る。



でも。



今度は。



走らない。



◇ ◇ ◇



さらに。



奥。



空気。



冷たい。



匂い。



土。



湿気。



それと。



少し。



甘い。



「何の匂い?」



リナ。



「花?」



俺も。



嗅ぐ。



覚え。



ある。



紫の。



花。



近く。



少し。



似てる。



「ノア」



『匂いだけでは』


『判別できません』



「ですよね」



進む。



壁。



白い。



根。



増える。



その間。



紫。



小さな。



もの。



見える。



「花?」



地下。



なのに。



咲いてる。



紫の。



花。



光。



ない。



はず。



なのに。



「同じだ」



リナ。



「畑の?」



「うん」



葉。



裏。



白い。



筋。



三本。



薬師に。



教わった。



特徴。



「ムラサキネムリ」



グレン。



「そんな名前なのか」



「街の薬師が」


「そう呼んでた」



「この村じゃ?」



「名前なんて」


「知らなかった」



「山にある」


「紫の花」



同じ。



ものでも。



場所。



違えば。



名前。



違う。



意味も。



違う。



毒。



薬。



根虫の。



餌。



一つの。



名前だけじゃ。



足りない。



「触らないで」



俺。



言う。



「何が起きるか」


「まだ分からない」



◇ ◇ ◇



少し。



先。



穴。



急に。



広がる。



「…………」



リナ。



息。



止める。



俺も。



止まる。



広い。



空洞。



その。



中心。



白い。



根。



大量。



絡み合ってる。



太い。



幹。



みたいな。



もの。



地面から。



天井へ。



伸びる。



「木?」



「地下に?」



グレン。



前。



出る。



「…………エナ」



声。



震える。



白い。



根。



その間。



人。



いる。



一人。



二人。



三人。



違う。



もっと。



「人……」



壁。



沿い。



何十人。



眠ってる。



座ってる。



横に。



なってる。



根。



身体。



巻いてる。



腕。



脚。



腰。



胸。



「…………」



怖い。



見た目。



完全に。



捕まってる。



「エナ!」



グレン。



走る。



「待って!」



リナ。



腕。



掴む。



「離せ!」



「約束!」



「妻が!」



「あそこ」



グレン。



指。



さす。



女性。



三十代。



白い。



根。



身体。



包んでる。



「エナ!」



動かない。



「フィリア!」



『生きています』



「状態は?」



少し。



間。



『弱っています』



グレン。



「切る!」



短剣。



振り上げる。



俺。



掴む。



「待って!」



「何でだ!」



「フィリア!」



『待ってください!』



声。



強い。



珍しい。



「何?」



『根を切らないでください』



「理由!」



『確認します』



「早く!」



『この根から』


『人々へ』


『何かが流れています』



「何か?」



『水分』


『生命維持に必要な成分』


『それだけではありません』



「何?」



『毒性反応を』


『外へ移しているように見えます』



「…………」



「外へ?」



『はい』



俺。



白い。



根。



見る。



ところどころ。



黒い。



染み。



ある。



その。



近く。



紫の。



花。



咲いてる。



「毒」


「吸ってる?」



『可能性があります』



グレン。



「嘘だ」



「フィリアは」


「嘘つかない」



「神様なんだろ!」



「神様でも」


「間違う」



フィリア。



何も。



言わない。



「だから」


「確認する」



グレン。



短剣。



下げない。



「妻が」


「捕まってる」



「分かってる」



「こんなの」


「助けてるように見えるか!」



「見えない」



即答。



「俺にも」


「捕まえてるように見える」



「じゃあ!」



「でも」



俺。



エナ。



見る。



呼吸。



してる。



弱い。



でも。



生きてる。



「見た目だけで」


「切れない」



◇ ◇ ◇



「ノア」



『はい』



「この根」


「記録ある?」



『照合しています』



「根虫との関係は?」



『照合中です』



「花は?」



『同様です』



「時間かかる?」



『古い記録が』


『断片的です』



「分かった」



俺。



近づく。



「レン」



リナ。



「近づきすぎないで」



「うん」



人。



一人。



見る。



男。



若い。



腕。



白い。



根。



巻いてる。



皮膚。



下。



何か。



動く。



「根虫」



いる。



「フィリア」



『はい』



「この人の中にも?」



『います』



「何してる?」



『……待ってください』



沈黙。



「フィリア?」



『異常のある箇所へ』


『集まっています』



「異常?」



『毒性反応です』



「根虫が?」



『はい』



「食べてる?」



『分かりません』



でも。



ミア。



思い出す。



根虫。



入って。



胸。



痛み。



楽に。



なった。



花。



近くへ。



動いた。



「根虫も」


「助けてる可能性?」



リナ。



聞く。



「ある」



「…………」



グレン。



「そんな虫が」


「人の中に入るか」



「知らない」



「でも」


「俺たちの常識に」


「合わせて生きてるわけじゃない」



グレン。



黙る。



白い。



根。



動く。



一本。



俺。



向かう。



リナ。



剣。



抜く。



「待って」



根。



止まる。



俺の。



足元。



少し。



横。



通る。



紫の。



花。



触れる。



花。



揺れる。



根。



表面。



黒い。



筋。



少し。



濃く。



なる。



「フィリア」



『毒性反応が』


『根へ移動しています』



「やっぱり」



根。



毒。



吸ってる。



少なくとも。



今。



見えてる。



範囲。



そう。



見える。



「じゃあ」


「何が原因?」



誰も。



答えない。



◇ ◇ ◇



空洞。



奥。



見る。



白い。



根。



全部。



さらに。



奥へ。



続いてる。



太い。



中心。



みたいな。



一本。



その。



根元。



黒い。



「…………」



俺。



近づく。



「レン」



「見て」



リナ。



来る。



白い。



根。



根元。



黒い。



液体。



染み。



出てる。



いや。



根から。



じゃない。



その。



下。



地面。



割れ目。



黒い。



水。



少しずつ。



湧いてる。



「これ」



リナ。



「触らないで」



「分かってる」



匂い。



変。



鉄。



腐った。



草。



混ざった。



ような。



「フィリア」



『強い毒性反応があります』



「原因これ?」



『可能性は高いです』



「ノア」



『周辺地質記録を』


『確認します』



グレン。



後ろ。



来る。



「こんなの」


「知らない」



「前から?」



「ない」



「いつから?」



「分からない」



黒い。



水。



少し。



流れる。



白い。



根。



触れる。



根。



黒く。



なる。



その。



少し。



先。



紫の。



花。



咲く。



根虫。



集まる。



「…………」



一つ。



繋がる。



かもしれない。



黒い。



水。



毒。



根。



吸う。



紫の。



花。



根虫。



人。



「これ」


「全部」


「毒に反応してる?」



ノア。



『仮説としては』


『成立します』



「花が」


「街の近くまで増えたのも?」



『同一原因とは』


『まだ断定できません』



「うん」



断定。



しない。



でも。



ここ。



何か。



起きてる。



◇ ◇ ◇



「エナ」



グレン。



妻。



前。



しゃがむ。



「聞こえるか」



反応。



ない。



手。



触ろうと。



する。



「触るだけなら?」



俺。



フィリア。



聞く。



『根を動かさなければ』



「大丈夫そう」



「グレンさん」



「うん」



グレン。



エナの。



手。



握る。



「冷たい」



「生きてる」



「…………」



「生きてるよ」



グレン。



顔。



下げる。



「ごめん」



小さく。



言う。



「何が?」



「俺」



短剣。



見る。



「切ろうとした」



「…………」



「全部」


「切れば」


「助けられると思った」



「俺も」


「最初はそう思った」



白い。



根。



見たら。



捕まえてる。



そう。



思う。



普通。



だ。



「でも」



グレン。



「このままでも」


「死ぬかもしれない」



「うん」



「どうする」



答え。



欲しい。



俺も。



欲しい。



神様。



七人。



いる。



知識。



生命。



魔法。



創世。



それでも。



答え。



ない。



「フィリア」



『はい』



「このままなら?」



長い。



間。



『全員を』


『維持できる保証はありません』



「根」


「弱ってる?」



『はい』



「どれくらい?」



『分かりません』



「切ったら?」



『急激に生命反応が低下する』


『可能性があります』



「じゃあ」


「切れない」



『はい』



「黒い水」


「止めたら?」



『改善する可能性があります』



「どうやって?」



『分かりません』



「…………」



また。



分からない。



でも。



一つ。



違う。



何も。



分からない。



じゃない。



根を。



今。



切るのは。



危険。



黒い。



水。



毒。



止める。



価値。



ある。



「じゃあ」


「先に水」



俺。



言う。



リナ。



「止められる?」



「分からない」



「どうやって?」



「それも」


「分からない」



「分からないばっか」



「最近の俺の人生」


「だいたいそれ」



リナ。



少し。



笑う。



「でも」



俺。



黒い。



水。



見る。



「分からないなら」


「調べる」



◇ ◇ ◇



黒い。



水。



出てる。



割れ目。



その。



周り。



土。



避ける。



触らない。



観察。



する。



「地下水?」



ノア。



『可能性があります』



「止めるなら」


「穴塞ぐ?」



ヴォルグ。



『待て』



久しぶり。



声。



「ヴォルグ?」



『塞げば』


『別の場所へ流れる可能性がある』



「そっか」



『水は』


『消えん』



「じゃあ」


「流れ変える?」



『それも』


『先を確認してからだ』



「分かった」



ガルド。



『掘るか?』



「何で嬉しそうなんだよ」



『力仕事だ!』



「今は掘らない」



『そうか……』



露骨に。



残念。



そう。



言えば。



「セレナ」



『何?』



「火で」


「乾かすのは?」



『毒が』


『気化する可能性がある』



「却下」



『賢明ね』



「メルク」



『俺に聞くのか』



「何かない?」



『専門外だ』



「だよな」



『だが』



「何?」



『村に』


『井戸があったな』



「うん」



『水源が』


『同じ可能性は?』



「…………」



止まる。



村。



井戸。



誰も。



いない。



黒い。



水。



地下。



「ノア」



『可能性はあります』



「飲んだ?」



グレン。



見る。



「村の水」


「井戸?」



「ああ」



「最近」


「味変わった?」



グレン。



考える。



「……少し」



「いつ?」



「一月くらい前」



「どんな?」



「苦く」


「なった」



「飲んでた?」



「ああ」



「みんな?」



「たぶん」



胸。



冷える。



「根虫が」


「出たのは三日前?」



「ああ」



「花が増えたのは?」



「一週間くらい」



黒い。



水。



いつから。



分からない。



でも。



井戸。



一月前。



味。



変化。



紫の。



花。



一週間。



根虫。



三日前。



村人。



消失。



その後。



「全部」


「同時じゃない」



俺。



呟く。



リナ。



「何?」



「順番がある」



一月。



水。



一週間。



花。



三日前。



虫。



人。



そして。



今。



根。



弱ってる。



「原因と」


「対処が」


「混ざってる」



ノア。



『その可能性は』


『高いです』



紫の。



花。



原因。



じゃない。



かもしれない。



根虫。



原因。



じゃない。



かもしれない。



白い。



根。



原因。



じゃない。



かもしれない。



全部。



何かに。



反応して。



出てきた。



可能性。



ある。



「じゃあ」



リナ。



黒い。



水。



見る。



「これが」


「最初?」



「分からない」



俺。



首。



振る。



「これも」


「何かの結果かもしれない」



「…………」



決めつけない。



難しい。



何か。



一つ。



悪者に。



できたら。



楽。



そいつ。



倒して。



終わり。



でも。



たぶん。



現実。



そんな。



簡単じゃない。



◇ ◇ ◇



奥。



さらに。



調べる。



黒い。



水。



出る。



割れ目。



壁。



続く。



「向こう」


「空洞ある?」



リナ。



耳。



当てる。



「水の音」



「行けそう?」



「人は無理」



狭い。



根。



一本。



通る。



くらい。



「根は」


「向こうへ行ってる」



白い。



太い。



根。



割れ目。



中。



伸びてる。



その。



表面。



黒い。



「毒の方へ」


「伸びてる?」



フィリア。



『そう見えます』



「逃げてるんじゃなくて?」



『はい』



「何で」



誰も。



答えない。



根。



毒。



方向。



伸びる。



吸う。



人。



繋ぐ。



生命。



維持。



してる。



「こいつ」


俺。



呟く。



「自分が」


「壊れながら」


「止めてる?」



フィリア。



静か。



『……その可能性があります』



グレン。



白い。



根。



見る。



顔。



変わる。



敵。



見る。



顔。



じゃない。



でも。



味方。



見る。



顔でも。



ない。



分からない。



顔。



それで。



いい。



◇ ◇ ◇



突然。



空洞。



揺れる。



「っ!」



土。



落ちる。



「何!?」



リナ。



剣。



抜く。



白い。



根。



一斉に。



震える。



人々。



身体。



少し。



動く。



「フィリア!」



『生命反応が』


『低下しています!』



「何で!?」



『根です!』



「根?」



『弱っています!』



黒い。



水。



流れ。



増える。



「まずい!」



白い。



根。



黒。



広がる。



紫の。



花。



数本。



萎れる。



根虫。



一斉に。



動く。



人々の。



身体。



中。



「レン!」



リナ。



叫ぶ。



「どうする!?」



どうする。



俺。



知るか。



分からない。



でも。



考える。



根。



弱る。



人。



弱る。



なら。



根を。



助ける。



黒い。



水。



止める。



でも。



方法。



ない。



「セレナ!」



『火は危険!』



「分かってる!」



「ヴォルグ!」



『塞ぐな!』



「分かってる!」



「フィリア!」



『全員を同時には治せません!』



「分かってる!」



声。



荒く。



なる。



何も。



できない。



目の前。



五十人。



近い。



人。



いる。



全員。



生きてる。



でも。



弱る。



「誰から」



俺。



呟く。



「え?」



リナ。



「誰から助ける」



フィリア。



沈黙。



「フィリア」



『…………』



「一番」


「危ない人」



『複数います』



「何人?」



『五人』



「治せる?」



『全員は』


『難しいです』



「何人?」



『今の私が』


『レンさんを介して』


『安全に干渉できる範囲なら』



少し。



間。



『二人』



「…………」



二人。



五人。



「残り三人は?」



誰も。



答えない。



胸。



冷える。



選ぶ。



誰を。



助ける。



「レン」



リナ。



声。



小さい。



「早く」



分かってる。



早く。



決めないと。



全員。



悪くなる。



「フィリア」



「一番」


「助かる可能性が高い二人」



言いかけて。



止まる。



それで。



いい?



助かりやすい。



二人。



助ける。



重い。



三人。



諦める。



逆。



重い。



二人。



優先。



助かりやすい。



三人。



悪化。



どっち。



正解。



「くそ」



俺。



頭。



抱える。



選べ。



選べ。



早く。



選べ。



「レン!」



グレン。



叫ぶ。



「妻を!」



「…………」



エナ。



見る。



危険な。



五人に。



入ってる?



「フィリア」



『入っています』



グレン。



俺の。



顔。



見る。



答え。



聞こえない。



でも。



分かった。



「頼む」



「…………」



「妻を」


「助けてくれ」



他にも。



いる。



誰かの。



妻。



夫。



子。



親。



五十人。



全員。



誰か。



選ぶ。



なんて。



できない。



でも。



選ばない。



も。



選択。



だ。



何もしなければ。



死ぬ。



「…………」



その時。



木剣。



手。



震える。



何で。



木剣。



握ってる。



こんな時。



剣。



何に。



使う。



敵。



いない。



倒す。



相手。



いない。



壊す。



「…………」



壊す。



俺。



黒い。



水。



見る。



白い。



根。



見る。



割れ目。



見る。



変な。



火。



思い出す。



“燃えない”を。



壊した。



あの。



力。



「…………」



セレナ。



『レン』



「分かってる」



『何を壊すか』


『分からない力よ』



「分かってる」



『使えば』


『根を壊す可能性もある』



「分かってる!」



使えない。



こんな。



ところで。



試せない。



人。



五十人。



繋がってる。



失敗。



したら。



全員。



「レンさん」



フィリア。



『選んでください』



「…………」



苦しい。



優しい。



フィリアが。



言う。



選べ。



あの日。



言ってた。



全部。



救おうとする人に。



ならないで。



全部。



救えない。



なら。



選ぶ。



しか。



ない。



俺。



目。



閉じる。



「…………」



違う。



本当に?



本当に。



今。



選ぶしか。



ない?



誰が。



決めた。



二人しか。



助けられない。



それは。



フィリアが。



直接。



助けるなら。



だ。



「フィリア」



『はい』



「治さないで」



『……え?』



リナ。



「レン?」



グレン。



「何言ってる!」



「待って」



「妻が死ぬ!」



「待って!」



俺。



叫ぶ。



「まだ」


「一個」


「試してない!」



「何だ!」



根。



人。



毒。



生命。



全部。



繋がってる。



一人ずつ。



治す。



んじゃない。



根。



全部。



支えてる。



なら。



「根を」


「助ける」



フィリア。



『レンさん』



「人じゃなくて」


「この根」



「治せる?」



沈黙。



「フィリア!」



『……生命体です』



「治せる?」



『可能性はあります』



「やって」



『ですが』



「根が」


「人を生かしてるなら」



息。



吸う。



「根を助ければ」


「全員に届くかもしれない」



「違ったら?」



リナ。



聞く。



「失敗する」



「…………」



「全員」


「危なくなるかもしれない」



「それでも?」



怖い。



死ぬほど。



怖い。



でも。



二人。



選ぶ。



前に。



まだ。



手。



ある。



なら。



「やる」



俺。



言う。



「俺が」


「決める」



フィリア。



長い。



沈黙。



『分かりました』



◇ ◇ ◇



白い。



根。



触れる。



冷たい。



少し。



震えてる。



「フィリア」



『始めます』



淡い。



光。



俺の。



手。



広がる。



根。



中。



流れる。



「っ」



何か。



入ってくる。



感覚。



痛い。



違う。



重い。



五十人。



生命。



根。



毒。



全部。



絡む。



「レン!」



「大丈夫!」



本当は。



大丈夫。



じゃない。



でも。



離せない。



根。



光。



走る。



一本。



二本。



十本。



人々。



繋がる。



白い。



根。



黒い。



部分。



少し。



薄く。



なる。



「フィリア!」



『効いています!』



「続けて!」



『ですが』


『毒が流入し続けています!』



「あと少し!」



『レンさんの身体が』



「いいから!」



『よくありません!』



「…………」



フィリア。



怒った。



「じゃあ」


「あと十秒!」



『五秒です!』



「短い!」



『三秒にしますよ!』



「五秒!」



『五』



「交渉成立!」



メルク。



『今それを言うな』



こんな。



時に。



ちょっと。



笑いそう。



なる。



『四』



光。



広がる。



『三』



根。



震え。



弱く。



なる。



『二』



人々。



呼吸。



少し。



深く。



なる。



『一』



「離す!」



手。



離す。



その瞬間。



膝。



崩れる。



「レン!」



リナ。



支える。



「大丈夫?」



「全然」


「大丈夫」



「顔真っ白」



「じゃあ」


「ちょっと大丈夫」



「どっち」



息。



整える。



「フィリア」



『生命反応』


『安定しました』



「全員?」



長い。



間。



『はい』



「…………」



力。



抜ける。



「よかった」



でも。



終わって。



ない。



毒。



止まって。



ない。



根。



治した。



だけ。



時間。



買った。



だけ。



◇ ◇ ◇



グレン。



エナ。



手。



握る。



「エナ」



指。



少し。



動く。



「……グレン」



小さい。



声。



「エナ!」



「うるさい……」



「…………」



グレン。



泣く。



「うるさいって」


「言われた」



「よかったですね」



「よかった」



泣きながら。



笑う。



他の。



人。



まだ。



眠ってる。



でも。



呼吸。



さっきより。



安定。



してる。



「レン」



リナ。



隣。



座る。



「全部」


「助けたね」



「まだ」



俺。



首。



振る。



「助かってない」



「でも」


「選ばなかった」



「…………」



「二人」



選ばなかった。



でも。



それが。



正解。



だったか。



まだ。



分からない。



根が。



治せた。



偶然。



条件。



揃った。



だけ。



次も。



同じ。



できる。



保証。



ない。



「フィリア」



『はい』



「さっき」


「選べって」


「言ったよね」



『……はい』



「間違ってた?」



沈黙。



『いいえ』



「じゃあ俺が」


「正しかった?」



さらに。



沈黙。



『それも』


『まだ分かりません』



「…………」



「そっか」



それで。



いい。



選択。



正解。



後から。



決まる。



ことも。



ある。



今。



できる。



こと。



やった。



それだけ。



◇ ◇ ◇



少し。



休む。



ノア。



声。



『レン』



「何?」



『古い記録の』


『照合が完了しました』



「根?」



『はい』



「何だった?」



『名称は』


『地域によって異なります』



「役割は?」



『地下水に含まれる』


『有害成分を吸収し』


『周辺の生態系へ』


『拡散することを防ぐ』


「…………」



「やっぱり」


「毒を吸う?」



『はい』



「人を」


「繋ぐことは?」



『通常の記録には』


『ありません』



「じゃあ異常?」



『はい』



「根虫は?」



『同じ環境で』


『確認される共生生物です』



「共生」



『根が吸収した成分を』


『分解する役割があると』


『記録されています』



「人の中に入るのは?」



『記録にありません』



「紫の花」



『根虫の餌』


『同時に』


『土壌中の特定成分を』


『吸収します』



「…………」



一つ。



一つ。



敵。



だと。



思った。



花。



虫。



根。



でも。



全部。



毒。



何とか。



しようと。



してる。



「何で」


「人まで繋いだ?」



『推測ですが』



「うん」



『毒に侵された人間を』


『自身の保護対象として』


『取り込んだ可能性があります』



「保護」



グレン。



白い。



根。



見る。



「こいつが」


「村の人を?」



『断定はできません』



「でも」


「可能性はある」



『はい』



「じゃあ」


「声は?」



『根が』


『接触した人間の音声を』


『何らかの形で記録した』


『可能性があります』



「助けて」


「って声」



「本当に」


「昔言った?」



グレン。



エナ。



見る。



「たぶん」



声。



震える。



「倒れた時」


「言ったんだと思う」



根。



それを。



覚えた。



意味。



分からず。



繰り返した。



助けて。



助けて。



それが。



人を。



呼んだ。



のか。



ただ。



記録。



しただけ。



なのか。



分からない。



◇ ◇ ◇



「問題は」



俺。



黒い。



水。



見る。



「これ」



毒。



流れ。



まだ。



続く。



根。



また。



吸う。



また。



弱る。



治しても。



同じ。



「元を」


「止めないと」



リナ。



「壁の向こう?」



「たぶん」



狭い。



割れ目。



根。



向こうへ。



伸びてる。



人。



通れない。



「壊す?」



リナ。



聞く。



壁。



壊す。



その。



言葉。



胸。



引っかかる。



俺の。



力。



壊す。



でも。



何を。



壊す。



「普通に」


「掘れない?」



ヴォルグ。



『時間がかかる』



「どれくらい?」



『道具なしなら』


『数時間では済まん』



「根」


「もつ?」



フィリア。



『保証できません』



「…………」



時間。



ない。



壁。



向こう。



原因。



あるかも。



しれない。



でも。



壊し方。



間違えたら。



毒。



一気に。



流れる。



かも。



「俺の火」



セレナ。



『やめなさい』



即答。



「まだ何も言ってない」



『言う顔だった』



「顔見えないだろ」



『分かるのよ』



「でも」



『制御できない力を』


『五十人の命の横で』


『試す気?』



「…………」



何も。



言えない。



正しい。



「じゃあ」


「どうする」



誰も。



答えない。



俺。



壁。



見る。



白い。



根。



黒い。



水。



その時。



――ミシ。



音。



壁。



「…………」



リナ。



立つ。



「今の」



――ミシ。



亀裂。



広がる。



「離れて!」



全員。



下がる。



壁。



一部。



崩れる。



土。



石。



落ちる。



穴。



開く。



向こう。



空間。



ある。



「…………」



黒い。



水。



そこから。



流れてる。



でも。



それだけ。



じゃない。



壁。



向こう。



何か。



ある。



大きな。



黒い。



塊。



いや。



「これ」



リナ。



息。



呑む。



人工物。



石。



積まれてる。



古い。



壁。



その。



中央。



金属。



扉。



みたいな。



もの。



半分。



土。



埋まってる。



黒い。



水。



扉の。



隙間。



染み出してる。



「自然じゃ」


「ない」



俺。



近づかない。



でも。



見る。



金属。



表面。



文字。



ある。



読めない。



この世界の。



文字。



違う。



「ノア」



『解析します』



「読める?」



沈黙。



長い。



「ノア?」



『……一部』



「何て?」



ノア。



声。



いつもより。



遅い。



『古い』


『管理施設の』


『表示です』



「管理施設?」



『はい』



「何の?」



『判別中です』



その時。



黒い。



水。



一滴。



落ちる。



白い。



根。



触れる。



根。



また。



黒く。



染まる。



時間。



ない。



「入れる?」



リナ。



扉。



見る。



「開けば」



「開ける?」



「分からない」



「壊す?」



また。



その。



言葉。



俺。



木剣。



握る。



壊す。



俺の。



力。



でも。



まだ。



使わない。



「まず」


「開ける方法探す」



「なかったら?」



リナ。



聞く。



「その時」


「考える」



グレン。



「間に合わなかったら?」



胸。



痛い。



でも。



答える。



「その時も」


「俺が決める」



正解。



知らない。



神様も。



知らない。



でも。



選ぶ。



しか。



ない。



扉。



近づく。



その時。



ノア。



声。



『レン』



「何?」



『表示の一部を』


『読み取れました』



「何て?」



少し。



間。



『警告です』



「内容は?」



ノア。



読む。



『汚染濃度』


『許容値を超過』



「…………」



『隔離機構』


『破損』



リナ。



俺。



見る。



そして。



最後。



ノア。



声。



止まる。



「まだある?」



『はい』



「何?」



長い。



沈黙。



『管理者権限』



「うん」



『応答なし』



「…………」



神様。



管理。



職業。



管理。



古い。



施設。



二百年前より。



前から。



存在する。



仕組み。



俺。



金属の。



扉。



見る。



北方大神殿へ。



行く。



途中。



偶然。



入った。



村。



その。



地下。



そこに。



誰かが。



管理していた。



もの。



ある。



「ノア」



「これ」



喉。



乾く。



「七柱が」


「作ったもの?」



返事。



ない。



「ノア」



『…………違います』



「じゃあ」


「誰が?」



沈黙。



そして。



エリオス。



初めて。



声。



出す。



『レン』



低い。



声。



『その扉から』


『離れろ』



「…………」



「何で?」



『今すぐだ』



「理由」



『レン!』



「理由を言って!」



沈黙。



俺。



動かない。



もう。



言われたから。



だけで。



動く。



つもり。



ない。



エリオス。



息。



吐くような。



間。



そして。



言った。



『その施設は』



一拍。



『我々が』


『管理を引き継ぐ以前のものだ』



「…………」



北方大神殿に。



あると。



思ってた。



過去。



それが。



今。



目の前に。



ある。



金属の。



扉。



向こう。



黒い。



水。



五十人。



近い。



命。



俺は。



木剣を。



握る。



壊すか。



開けるか。



戻るか。



助けるか。



どれが。



正しい。



まだ。



分からない。



ただ。



一つだけ。



分かる。



殺したら。



死ぬ。



根も。



人も。



選択も。



壊した後には。



戻せない。



だから。



俺は。



まだ。



剣を。



振らなかった。

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