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神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
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29/71

神託ログ29 焚き火の向こう側

出発の朝。


俺は。


門の前で。


荷物を。


下ろした。



「重い」



【商神メルク】


『当たり前だ』



「まだ」


「何もしてないのに」


「疲れた」



『荷物を増やしたのはお前だ』



「必要って」


「言ったの」


「神様たちだろ」



【生命神フィリア】


『水は必要です』



【知識神ノア】


『保存食も必要です』



【鍛冶神ヴォルグ】


『木剣の手入れ道具もだ』



【魔法神セレナ】


『魔力切れに備えて休息用の――』



「多い!」



朝から。


七柱。


うるさい。



北方大神殿。


徒歩で。


およそ三日。



この街へ。


来てから。



一番。


遠くへ。


行く。



西の森へ。


入った時とは。


違う。



今日は。


調べて。


帰ってくる。


だけじゃない。



道を。


進む。



街を。


離れる。



「レン」



声。



振り向く。



リナ。



来た。



「遅い」



「時間通りだよ」



「俺が早かった」



「じゃあ」


「遅くないじゃん」



「そうとも言う」



「それしか言わない」



リナ。



俺の。


荷物。



見る。



「多くない?」



「神様七人分の心配が入ってる」



「重そう」



「主に心配が重い」



【戦神ガルド】


『俺は荷物を増やしてないぞ!』



「ガルドは」


「走れば何とかなる派だからな」



『そうだ!』



「肯定するなよ」



リナ。



俺を。


見る。



「また喋ってる」



「あ」



そうだった。



もう。


知ってる。



「ガルド」



「戦神」



「朝から元気」



「へえ」



リナ。



何もない。


空間。



見る。



「おはようございます」



ガルド。



沈黙。



「…………」



「何?」



『俺には聞こえるが』


『俺の声はリナには聞こえんのか』



「そうみたい」



『不便だな!』



「今さら!?」



リナ。



「何て?」



「不便だって」



「神様なのに?」



『こいつ!』



「朝から喧嘩すんな」



門。



近づく。



いつもの。


門番。



俺を。


見つける。



「お」



「無職の兄ちゃん」



「…………」



止まる。



「あ」



門番。



顔。



曇る。



「悪い」



「何が?」



「無職」


「じゃなくなったんだったか?」



「噂早すぎない?」



「職業石を壊した奴がいるって」



「壊してない!」



「壊れたんだろ?」



「俺が触った後に!」



「同じじゃないか?」



「違う!」



門番。



笑う。



「で」


「今は何なんだ?」



「…………」



「なし」



「は?」



「職業」


「なし」



「無職?」



「それとは」


「違うらしい」



「何が?」



「俺が知りたい」



門番。



しばらく。



俺を見る。



「まあ」



肩。



すくめる。



「兄ちゃんは兄ちゃんだろ」



「…………」



簡単に。



言うな。



でも。



少し。



嬉しい。



「北へ行く」



「大神殿か?」



「うん」



「三日くらいだな」



「道」


「危ない?」



「街道を外れなきゃ」


「そこまでじゃない」



「そこまで?」



「安全だと言うと」


「お前は油断しそうだからな」



「信用ないな!」



「西に行くなって言ったのに」


「西へ行った奴だからな」



「…………」



何も。



言えない。



門番。



リナ。



見る。



「一緒か?」



「はい」



「なら」


「まだマシだな」



「俺一人だと?」



「心配」



「即答!」



リナ。



笑う。



門番。



俺に。



手。



出す。



「何?」



「忘れてる」



「…………」



銅貨。



三枚。



この世界へ。



来た日。



門を。



入るために。



借りた。



金。



俺。



袋。



開く。



銅貨。



三枚。



出す。



手。



乗せる。



「遅くなりました」



門番。



銅貨。



見る。



「本当に返したな」



「返すって言ったから」



「そうか」



一枚。



二枚。



三枚。



数える。



「これで」


「借りなしだ」



「うん」



少し。



変な。



感じ。



たった。



銅貨三枚。



でも。



この世界で。



最初に。



できた。



借り。



返せた。



「じゃあ」


「行ってきます」



「おう」



門番。



手。



上げる。



「知らない道で」


「分かったふりすんなよ」



「…………」



ヴォルグ。



『いいことを言う』



「神様にも」


「同じこと言われてる」



門番。



「なら聞いとけ」



「はい」



門。



出る。



街。



振り返る。



初めて。


ここへ。



来た時。



銅貨三枚すら。


持ってなかった。



今。



借金。



返して。



自分で。



行き先。



決めて。



街を。



出る。



「行こ」



リナ。



言う。



「うん」



北へ。



歩き出す。



◇ ◇ ◇



最初の。


二時間。



平和。



「…………」



「…………」



「…………」



「ねえ」



リナ。



「何?」



「何か喋って」



「リナが喋れよ」



「レンが誘った旅でしょ」



「ついてくるって言ったのリナだろ」



「じゃあ」


「神様の話」



「どの?」



「七人いるんでしょ?」



「いる」



「一番強いの誰?」



「難しいな」



【戦神ガルド】


『俺だ!』



【魔法神セレナ】


『何を基準にしてるのよ』



【戦神ガルド】


『戦神だぞ!』



【魔法神セレナ】


『だから何』



「今」


「二人が喧嘩始めた」



「誰と誰?」



「戦神と魔法神」



「どっちが強い?」



「聞くな」


「長くなる」



【魔法神セレナ】


『当然、条件によるわ』



【戦神ガルド】


『正面からなら俺だ!』



【魔法神セレナ】


『正面から戦う理由は?』



【戦神ガルド】


『逃げるのか!?』



【魔法神セレナ】


『戦術と言って』



「もう長い!」



リナ。



笑う。



「楽しそう」



「うるさいよ」



「でも」


「嫌じゃないんでしょ?」



「…………」



答え。



少し。



遅れる。



「まあ」



リナ。



「素直じゃない」



「七人同時に喋られてみろ」



「ちょっと羨ましいけど」



「一日貸そうか?」



「できるの?」



「できない」



「じゃあ言わないで」



道。



続く。



畑。



減る。



木々。



増える。



街道。



でも。



人。



通る。



荷馬車。



商人。



旅人。



北へ。



南へ。



世界。



広い。



当たり前。



だけど。



街の中に。



いた時より。



それを。



感じる。



◇ ◇ ◇



昼。



道沿い。



大きな。



木。



影。



休憩。



パン。



干し肉。



水。



「固い」



パン。



噛む。



「保存食だから」



リナ。



平然。



食べる。



「歯」


「強いな」



「普通」



「俺」


「この世界来てから」


「普通って言葉に」


「傷つけられてる気がする」



「変なの」



「それも聞き飽きた」



遠く。



車輪。



音。



荷馬車。



一台。



近づいて。



くる。



御者。



男。



一人。



年。



四十くらい。



荷台。



木箱。



袋。



いっぱい。



「おーい」



男。



手。



上げる。



「北へ行くのか?」



「はい」



「どこまで?」



「北方大神殿」



「おお」



男。



笑う。



「なら途中まで」


「同じだ」



荷馬車。



止まる。



「俺はダリオ」



「レンです」



「リナ」



「旅か?」



「そんな感じ」



「そんな感じって何だ」



俺も。



分からない。



「大神殿に」


「調べもの」



「なるほどな」



ダリオ。



荷台。



指す。



「乗るか?」



「え?」



「次の宿場までなら」


「運んでやる」



「いいの?」



「その代わり」



笑う。



「坂で押せ」



「有料だった!」



【商神メルク】


『妥当な取引だ』



「メルクが妥当って」



「神様?」



リナ。



聞く。



「商神」



ダリオ。



眉。



上げる。



「神様がどうした?」



「こっちの話です」



「変な奴だな」



「最近」


「全員に言われる」



荷台。



乗る。



歩くより。



楽。



「文明!」



「馬車だぞ」



「俺には文明」



ダリオ。



笑う。



馬。



進む。



◇ ◇ ◇



「二人は」


ダリオ。



聞く。



「何の職だ?」



来た。



俺。



少し。



身構える。



リナ。



普通に。



「狩剣士」



「おお」



「若いのに」


「立派だな」



「ありがとうございます」



「兄ちゃんは?」



「…………」



「なし」



ダリオ。



「何が?」



「職業」



「職業が?」



「なし」



「無職か?」



「違うらしい」



「難しいな」



「俺もそう思う」



ダリオ。



しばらく。



俺。



見る。



「まあ」


「働けるならいいだろ」



「…………」



また。



簡単に。



言う。



「ダリオさんは?」



「俺?」



胸。



張る。



「詩人だ」



「…………」



荷台。



見る。



木箱。



袋。



縄。



大量。



「詩人?」



「ああ」



「これ全部?」



「荷物」



「何で?」



「運ぶから」



「詩人が?」



「そうだ」



「…………」



頭。



追いつかない。



「詩」


「運んでる?」



「違う」



「じゃあ」


「何を?」



「小麦」


「布」


「酒」


「乾物」


「あと鍋」



「完全に運送屋じゃん!」



ダリオ。



大笑い。



「そうだぞ」



「詩人は!?」



「職業」



「運送は!?」



「仕事」



「…………」



「違うの?」



「違うだろ」



当然。



みたいに。



言う。



俺。



リナ。



見る。



リナ。



「何?」



「リナ」


「狩剣士で」


「狩りしてるじゃん」



「するよ」



「同じじゃん」



「荷物運びもするよ」



「…………」



そうだった。



「お前」


ダリオ。



笑う。



「職業と仕事」


「同じだと思ってたのか?」



「ちょっと」



「都会育ちか?」



「もっと遠いです」



「そうか」



説明。



面倒。



◇ ◇ ◇



「俺はな」



ダリオ。



手綱。



握りながら。



話す。



「十八の時」


「職業判定で」


「詩人って出た」



「嬉しかった?」



「泣いた」



「嬉しくて?」



「嫌で」



「そっち!?」



「親父が運送屋だった」



「ああ」



「俺も」


「馬車に乗るつもりだった」



「なのに詩人」



「そう」



「詩」


「好きじゃなかった?」



「嫌いじゃない」



「才能は?」



「あるらしい」



「らしい?」



「言葉が」


「浮かびやすい」



「韻とか」


「節回しとか」


「覚えるのも早い」



「すごいじゃん」



「でも」



ダリオ。



前。



見る。



「それで飯が食えるかは」


「別だ」



「…………」



「最初は」


「職業に従おうとした」



「詩人として?」



「ああ」



「酒場で歌った」



「祭りで詩を読んだ」



「旅芸人にも混ぜてもらった」



「どうだった?」



「腹減った」



「現実!」



リナ。



笑う。



ダリオも。



笑う。



「才能があるのと」


「それだけで食えるのは」


「違う」



メルク。



『その通りだ』



「商神が」


「めっちゃ頷いてる」



「神様と話せるのか?」



ダリオ。



「まあ」



「変わった詩人だな」



「俺は詩人じゃない!」



「なしだったな」



「そう!」



もう。



何が。



普通なのか。



分からない。



「それで」


「運送に戻った?」



「ああ」



「職業」


「関係なく?」



「関係ないこともない」



「え?」



「詩人は」


「言葉を覚えるのが得意だ」



「うん」



「土地の名前」


「客の名前」


「注文」


「道」


「言い回し」



「覚えるの早い」



「なるほど」



「旅先で」


「人と話すのも苦じゃない」



「それ」


「運送に便利だな」



「だろ?」



職業。



詩人。



仕事。



運送。



全然。



違う。



でも。



完全に。



無関係でも。



ない。



「職業って」


「何なんだろ」



俺。



呟く。



ダリオ。



「急にでかい話するな」



「最近」


「そればっか考えてて」



「若いな」



「年齢」


「そんな変わらないと思う」



「俺四十三」



「全然違った」



「兄ちゃんいくつだ」



「…………」



この世界の。



身体。



年齢。



どう。



答える。



「二十前後」



「雑だな!」



◇ ◇ ◇



しばらく。



馬車。



揺れる。



ダリオ。



鼻歌。



歌う。



「それ」


「自分で作った?」



「昔な」



「詩人じゃん」



「職業は詩人だって」


「言ったろ」



「今も作るの?」



「たまに」



「仕事には?」



「しない」



「何で?」



「好きだから」



「…………」



「好きだから」


「仕事にしない?」



「変か?」



「ちょっと」



「金にすると」


「客が入る」



「うん」



「期限が入る」



「うん」



「売れるかどうかが入る」



「うん」



「俺は」


「詩まで」


「それに追われたくない」



「…………」



メルク。



珍しく。



何も。



言わない。



「でも」


ダリオ。



笑う。



「金にして」


「続けられる奴もいる」



「どっちが正しい?」



「知らん」



「即答」



「人によるだろ」



「…………」



また。



それ。



一つの。



正解。



ない。



「職業に合った仕事」


「しなくてもいい?」



「いいだろ」



「神様から」


「もらったものでも?」



「俺は」


ダリオ。



肩。



すくめる。



「神様に」


「詩人になれって」


「直接言われたことないぞ」



「…………」



それ。



昨日。



知った。



職業は。



神様が。



一人ずつ。



与えてる。



わけじゃない。



「職業って」


ダリオ。



続ける。



「便利だぞ」



「便利?」



「ああ」



「得意なこと」


「教えてくれる」



「覚えやすいこと」


「分かる」



「仕事探す時も」


「説明しやすい」



「でも」



少し。



間。



「それだけだ」



「それだけ?」



「職業が」


「今日の晩飯まで」


「用意してくれるわけじゃない」



「…………」



現実。



強い。



「詩人でも」


「荷物運ぶ」



「ああ」



「狩剣士でも」


「荷物運ぶ」



リナ。



「運ぶよ」



「無職でも」


「店番できた」



「できたんだろ?」



「うん」



「じゃあ」



ダリオ。



前。



向いたまま。



言う。



「職と仕事が違う奴なんて」


「いくらでもいる」



「…………」



その言葉。



残る。



◇ ◇ ◇



午後。



道。



上り。



「よし」



ダリオ。



馬車。



止める。



「約束だ」



「来たか」



坂。



長い。



「これ」


「押すの?」



「押す」



「荷物」


「重いよね?」



「重い」



「馬」


「いるよね?」



「いる」



「俺」


「必要?」



「馬を楽させろ」



「はい」



後ろ。



回る。



リナも。



「私もやる」



「狩剣士なのに?」



「殴るよ」



「すみません」



二人。



押す。



「せーの!」



重い。



「うおおお……!」



【戦神ガルド】


『腰を使え!』



「知ってる!」



【鍛冶神ヴォルグ】


『左へ寄っている』



「分かってる!」



【商神メルク】


『運送補助としては――』



「採点すんな!」



ダリオ。



前で。



笑ってる。



「兄ちゃん」


「本当に賑やかだな!」



「俺だけじゃない!」



坂。



半分。



汗。



出る。



「リナ」


「平気?」



「平気」



「狩剣士」


「強いな」



「レン」


「弱いね」



「知ってる!」



でも。



前より。



押せる。



最初。



ガルドに。



走らされた。



日。



あの時。



筋力。



8。



今。



数字。



どう。



なってる。



知らない。



でも。



身体。



前より。



動く。



「あと少し!」



ダリオ。



「うおおおお!」



坂。



上。



着く。



俺。



その場。



座る。



「死ぬ」



フィリア。



『死にません』



「比喩!」



リナ。



息。



少し。



上がってる。



でも。



笑ってる。



ダリオ。



水。



渡す。



「ほら」



「ありがとう」



飲む。



うまい。



「これで」


「運賃分?」



「十分だ」



「仕事?」



「取引だな」



メルク。



『契約成立だ』



「商神が」


「喜んでる」



ダリオ。



「いい神様じゃないか」



「金の話になると」


「急に元気になる」



『聞こえているぞ』



「知ってる」



◇ ◇ ◇



夕方。



小さな。



宿場。



着く。



家。



数軒。



宿。



食堂。



厩。



「今日は」


ダリオ。



「俺もここだ」



「大神殿まで?」


「俺は」


「明日途中で東へ曲がる」



「じゃあ」


「一緒は明日の途中まで」



「ああ」



宿。



部屋。



安い。



二人。



別。



「金」


「足りる?」



リナ。



聞く。



「たぶん」



「たぶん?」



「メルクに」


「管理されてる」



【商神メルク】


『当然だ』



「大丈夫らしい」



食堂。



三人。



座る。



スープ。



パン。



少し。



肉。



「うまい」



「働いた後だからな」



ダリオ。



酒。



飲む。



「詩人って」


俺。



聞く。



「酒飲むと」


「詩作りたくなる?」



「偏見だぞ」



「ごめん」



「なる」



「なるんかい!」



リナ。



吹き出す。



ダリオ。



少し。



酔う。



「一個」


「聞くか?」



「詩?」



「ああ」



「ぜひ」



ダリオ。



咳払い。



する。



目。



閉じる。



少し。



静か。



なる。



「――道は」


「足の下にある」



「――名は」


「背中にある」



「――どちらを見て歩くかは」


「旅人が決める」



「…………」



「終わり」



「短っ」



「悪いか」



「いや」



少し。



考える。



「好き」



「そうか」



ダリオ。



嬉しそう。



酒。



飲む。



「昔」


「作った?」



「ああ」



「覚えてるんだ」



「自分のだからな」



「他の人も?」



「さあな」



「有名?」



「全然」



笑う。



「俺が作った詩なんて」


「誰も覚えてなかったよ」



「…………」



少し。



寂しい。



言葉。



でも。



ダリオ。



笑ってる。



「でもな」



コップ。



置く。



「俺が運んだ物は」


「ちゃんと誰かの役に立つ」



「…………」



「小麦を運べば」


「パンになる」



「薬を運べば」


「誰かが治る」



「鍋を運べば」


「飯を作れる」



「布を運べば」


「服になる」



「詩人なのに?」



「ああ」



「詩人なのに」


「荷物を運んでる」



少し。



笑う。



「悪くないぞ」



「…………」



職業。



詩人。



仕事。



運送。



どっちが。



本当の。



ダリオ。



たぶん。



どっちも。



そう。



思った。



◇ ◇ ◇



夜。



宿。



小さい。



部屋。



ベッド。



一つ。



俺。



横。



なる。



「メルク」



『何だ』



「今日の話」



『ダリオか』



「うん」



「商神的に」


「どう?」



『何がだ』



「詩人なのに」


「運送してる」



『稼げている』



「そこ?」



『仕事として成立している』



「そこなの?」



『重要だ』



「まあ」


「そうだけど」



少し。



笑う。



「職業と仕事」


「違っていいんだな」



『当然だ』



「メルクも」


「当然って言うんだ」



『職業は』


『価値の一部だ』



「一部」



『商人という職を持っていても』


『信用されない者はいる』



「うん」



『無職でも』


少し。



間。



『仕事を任される者もいる』



「…………」



俺。



だ。



果物屋。



荷物。



避難。



「じゃあ」


「職業なしでも?」



メルク。



すぐには。



答えない。



『レン』



「うん」



『今日』


『馬車を押したな』



「押した」



『借金を返した』



「返した」



『道中の取引を成立させた』



「うん」



『なら』


一拍。



『今日のお前に』


『職業が必要だったか?』



「…………」



必要。



なかった。



俺は。



今日。



歩いた。



荷物。



運んだ。



金。



返した。



人と。



話した。



笑った。



「いらなかった」



『そういうことだ』



「でも」


「職業が」


「いらないってことじゃない?」



『当然だ』



「リナには」


「狩剣士が大事」



『ああ』



「ダリオにも」


「詩人の力」


「役立ってる」



『ああ』



「じゃあ」


「何なんだろ」



『自分で考えろ』



「神様みんな」


「最後それで逃げるよな!」



メルク。



笑った。



気が。



した。



◇ ◇ ◇



眠る前。



今日。



聞いた。



詩。



思い出す。



道は。



足の下。



名は。



背中。



どちらを。



見て。



歩くか。



旅人が。



決める。



俺の。



背中。



何が。



ある。



無職。



なし。



第109代育成対象。



レン・アルヴェイン。



いろんな。



名前。



貼られてる。



でも。



今。



俺の。



足の下。



北へ。



続く。



道。



ある。



それを。



選んだのは。



俺。



「…………」



目。



閉じる。



職業。



なくても。



仕事。



できる。



職業と。



仕事は。



同じじゃない。



なら。



職業と。



俺も。



同じじゃない。



当たり前。



みたいな。



こと。



なのに。



今まで。



分かってなかった。



◇ ◇ ◇



翌朝。



ダリオの。



馬車。



また。



乗せてもらう。



「昨日の詩」


「結構好きだった」



俺。



言う。



ダリオ。



「そうか?」



「うん」



「なら」


「覚えとけ」



「覚えとく」



馬車。



進む。



北へ。



空。



晴れてる。



道。



二つに。



分かれる。



まだ。



遠く。



小さく。



見える。



標識。



ダリオ。



「あそこを越えたら」


「俺は東だ」



「じゃあ」


「そろそろ別れる?」



「ああ」



少し。



寂しい。



たった。



一日。



なのに。



旅って。



こういう。



出会い。



増えるのかも。



しれない。



「レン」



リナ。



隣。



「何?」



「あの標識」



指。



さす。



見る。



北方大神殿。



矢印。



左。



「左だな」



「うん」



でも。



ダリオ。



手綱。



少し。



引く。



馬車。



速度。



落ちる。



「どうした?」



ダリオ。



標識。



見る。



眉。



寄せる。



「…………」



「何?」



「いや」



馬車。



止まる。



ダリオ。



降りる。



標識。



近づく。



根元。



見る。



「これ」



「うん」



「最近」


「動かされてるな」



「…………」



リナ。



顔。



変わる。



俺も。



荷台。



降りる。



標識。



北方大神殿。



左。



でも。



根元。



土。



新しい。



草。



倒れてる。



「何で」


「動かす?」



「知らん」



ダリオ。



周り。



見る。



道。



左。



右。



どっちも。



続いてる。



「昔」


「どっちだった?」



ダリオ。



答える。



「左だ」



「じゃあ」


「合ってる?」



「ああ」



少し。



間。



「少なくとも」



ダリオ。



低い。



声。



「前はな」



風。



吹く。



標識。



小さく。



軋む。



北方大神殿。



左。



正しい。



はず。



なのに。



誰かが。



最近。



この標識を。



動かした。



その事実だけが。



妙に。



引っかかった。

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