↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々は無職を選んだ  作者: 夜凪 灯
第一章 七柱と無職
PR
20/71

神託ログ20 火の用心、無職の用心

朝。


目を覚まして。


最初に。


右手を見る。


「…………」


何も。


起きない。


当たり前。


昨日。


あの炎を。


もう一度。


出せた。


普通の火魔法とは。


明らかに違った。


魔力は。


減らない。


外の魔力も。


ほとんど動かない。


術式も。


確認できない。


燃えるものを。


燃やさない。


そして。


名前のない何かは。


言った。



【お前は】


【燃やしたんじゃない】


【“燃えない”を】


【壊したんだ】



「……意味分かんねえ」


朝になっても。


やっぱり。


意味は分からない。


“燃えない”を壊す。


燃えない。


という状態を。


壊す?


だったら。


燃える?


でも。


草は。


燃えていなかった。


「矛盾してるだろ」


【知識神ノア】


『現時点では、発言の意味を正確に解釈できません』


「おはよう」


『おはようございます』


「ずっといた?」


『はい』


「怖いんだよ」


『何がですか』


「朝起きて独り言言ったら神様が即答する生活」


『慣れてください』


「慣れたくない」


起きる。


身体。


少し。


重い。


昨日。


魔力の練習。


謎の炎の再現。


精神的にも。


疲れた。


「今日は」


何する。


西。


行かない。


炎。


試さない。


魔法。


休む。


「…………」


何もない。


久しぶり。


かもしれない。


【生命神フィリア】


『休んでください』


「出た」


『何がですか?』


「休ませる神」


『生命神です』


「でも」


腹。


鳴る。


「飯は必要」


【商神メルク】


『当然だ』


「商神まで」


『所持金を確認しろ』


「朝から現実」


財布。


見る。


多くはない。


働いた。


でも。


食べた。


必要なものも。


買った。


「……減ったな」


『生きれば減る』


「怖いこと言うな」


『だから稼ぐ』


「今日働くか」


フィリア。


『休むのでは?』


「軽い仕事」


『レンさんの“軽い”は信用できません』


「昨日の件で評価下がりすぎじゃない?」


『自覚してください』


「はい」


そうだ。


今日は。


普通に。


過ごそう。


謎。


ばかり。


追っていても。


腹は。


膨れない。


この世界でも。


生きるには。


金がいる。


「市場行くか」


【商神メルク】


『よし』


「嬉しそうだな」


『当然だ』


今日は。


商神の日。


ということに。


なりそうだった。



◇ ◇ ◇



市場。


相変わらず。


人が多い。


声。


匂い。


荷車。


野菜。


果物。


肉。


布。


道具。


魚。


「魚?」


足が。


止まる。


この街。


海から。


離れている。


はず。


「あるんだ」


【商神メルク】


『川魚だ』


「ああ」


店先。


何匹も。


並んでいる。


焼いた魚。


生の魚。


干したもの。


腹。


また。


鳴る。


「食いてえ」


『買え』


「高そう」


『聞け』


「はい」


店。


近づく。


店主。


大柄な。


おばちゃん。


「兄ちゃん! 魚かい!」


「見るだけでも?」


「見るのはタダ! 買うなら銅貨三枚!」


「高っ」


口から。


出た。


おばちゃん。


眉。


上がる。


「高い?」


「いや」


「今、高いって言ったね?」


「言いました」


「じゃあいくらなら買う?」


「え?」


突然。


交渉。


始まった。


【商神メルク】


『答えろ』


「ちょっと待って」


『待たん』


おばちゃん。


腕組み。


「兄ちゃん」


「はい」


「いくら?」


「…………」


相場。


知らない。


大きさ。


普通?


鮮度。


分からない。


昨日までの。


俺なら。


分からないまま。


適当に。


答えていた。


でも。


メルクに。


教わった。


商品だけを見るな。


価値は。


一つじゃない。


「何で銅貨三枚なんですか?」


おばちゃん。


少し。


笑った。


「ほう」


「今日獲れた?」


「ああ」


「どこで?」


「北の川」


「運ぶのに時間は?」


「朝一番で来た」


「じゃあ新鮮?」


「当然!」


「大きさで値段変わる?」


「変わるね」


「これは?」


「中くらい」


「…………」


よし。


ちょっと。


分かってきた。


「じゃあ」


考える。


「銅貨二枚」


おばちゃん。


即答。


「無理」


「早っ」


「三枚」


「じゃあ二枚半」


「銅貨半分に割る気かい?」


「あ」


ない。


小銭。


単位。


忘れてた。


後ろで。


メルクが。


笑った気がする。


「じゃあ」


「二枚!」


「三枚!」


「二枚!」


「三枚!」


「…………」


交渉に。


なってない。


「二枚と」


何か。


付ける?


いや。


俺。


売るものない。


「今度荷物運ぶとか」


おばちゃん。


笑う。


「魚一匹で働く気かい?」


「駄目?」


「嫌いじゃないけどね」


どうする。


その時。



「それ、昨日からあるやつだよ」



横。



声。



「え?」



振り向く。



女の子。



十六。


十七。


くらい。



短い。



茶色の髪。



動きやすそうな。



服。



腰。



剣。



荷物。



冒険者?



狩人?



女の子は。



魚を。



指差した。



「朝獲れじゃない」



「ちょっと!」



おばちゃん。



声。



大きくなる。



「余計なこと言うんじゃないよ!」



「だって昨日も見たもん」



「…………」



俺は。



魚を見る。



「朝一番で来たって」



おばちゃん。



目。



逸らす。



「店に並べたのは朝一番だよ」



「言葉!!」



騙された!



【商神メルク】


『七点』



「低っ!」



女の子。



俺を見る。



「誰と喋ってるの?」



「……独り言」



「変な人」



初対面で。



刺してくる。



「ありがとう、助かった」



「別に」



女の子。



別の魚を。



指す。



「買うならこっち」



「何で?」



「腹」



「腹?」



「見れば分かるでしょ」



「分からない」



「…………」



女の子。



俺を見る。



「本当に?」



「本当に」



「魚、見たことない?」



「あるよ!」



「じゃあ分かるでしょ」



「分からん!」



俺の世界の。



スーパーの魚は。



値札が。



教えてくれた。



女の子。



ため息。



「こっちは身が張ってる」



魚の。



腹。



指。



「目も濁ってない」



「なるほど」



「こっち」



昨日からの。



魚。



見る。



確かに。



比べると。



違う。



「すげえ」



「普通だけど」



「俺には普通じゃない」



「…………」



女の子。



少し。



首を傾げる。



「どこから来たの?」



「遠いところ」



「どこ?」



「めちゃくちゃ遠い」



「何て国?」



「…………」



困る。



日本。



言っても。



分からない。



「説明が難しい」



「怪しい」



「自覚はある」



おばちゃん。



「で! 買うのかい!」



「新しい方いくら?」



「銅貨四枚!」



「高くなった!」



「新鮮だからね!」



筋は。



通っている。



悔しい。



「三枚」



「四枚」



「三枚」



「四枚」



女の子。



「三枚でいいじゃん」



おばちゃん。



「リナ!」



名前。



判明。



「余計な口を挟むんじゃないよ!」



「昨日の残り売ろうとした罰」



「商売ってのはね!」



【商神メルク】


『面白い』



「メルクは黙ってて」



リナ。



「メルク?」



「あ」



「誰?」



「知り合い」



「どこにいるの?」



「…………遠いところ」



「さっきから遠いところばっかり」



「便利なんだよ、この言葉」



結局。



魚は。



銅貨三枚に。



なった。



俺の。



勝ち?



たぶん。



半分くらい。



リナの。



勝ち。



◇ ◇ ◇



市場の端。


焼いてもらった。


魚。


食べる。


「うま」


塩。


だけ。


でも。


うまい。


「銅貨三枚の価値あるな」


【商神メルク】


『買う前に判断しろ』


「食わなきゃ分からないだろ」


『次からは分かる』


「なるほど」


一回。


経験した。


それも。


価値。


魚を。


食べながら。


財布。


見る。


「……働かないと」


現実。


戻るの。


早い。


「無職?」


声。


横。


「え?」


リナ。


さっきの。


女の子。


何か。


串焼き。


持っている。


「何で?」


「今、働かないとって」


「仕事してない日もあるだろ」


「服」


「服?」


「旅人っぽくない」


「…………」


鋭い。


「冒険者でもない」


「何で分かる?」


「装備」


腰。


見る。


木剣。


今は。


ひびがあるから。


布で。


巻いてある。


「木剣だし」


「悪かったな」


「悪いとは言ってない」


「顔が言ってた」


リナ。


俺の。


隣へ。


座る。


勝手に。


「それに」


串。


一口。


「見たことある」


「俺を?」


「うん」


「どこで?」


「噂」


嫌な。


予感。


「何の?」


「西の森」


魚。


止まる。


「…………」


「無職の人が」


リナ。


普通に。


言う。


「西で変なのに襲われたって」


「待って」


「何でそれ広まってんの!?」


「知らない」


「俺、誰にも話してないぞ!」


【商神メルク】


『人の口は早い』


「早すぎるだろ!」


昨日。


だぞ。


いや。


門番には。


森へ行くことは。


言った。


帰ってきた時。


俺。


かなり。


疲れていた。


見られた?


それだけで?


「変なのって何?」


リナ。


聞く。


「…………」


言う?


影のない。


三人。


人間じゃない。


かもしれない。


神託を。


切られた。


謎の炎。


いや。


全部は。


無理。


「旅人」


「旅人?」


「三人」


「強かった?」


「たぶん」


「戦った?」


「逃げた」


リナ。


少し。


驚く。


「逃げたんだ」


「悪い?」


「ううん」


首。


振る。


「生きてるし」


「…………」


ガルドと。


同じ。


生きて帰れば。


勝ち。


「でも」


リナ。


俺の。


木剣を見る。


「それ」


「ひび?」


「うん」


「戦ったんじゃん」


「ちょっとだけ」


「勝った?」


「全然」


「じゃあやっぱ逃げたんだ」


「確認すんな!」


リナ。


笑う。


初めて。


少し。


年相応に。


見えた。



◇ ◇ ◇



「リナは?」


俺から。


聞く。


「何してる人?」


「私?」


「剣あるし」


「狩り」


「狩人?」


「ちょっと違う」


リナ。


胸を。


張る。



「狩剣士」



「かりけんし?」


「知らない?」


「知らない」


「本当にどこから来たの?」


「遠いところ」


「またそれ」


「便利だから」


リナ。


串を。


食べ終える。


「森とか山で」


「魔物とか獣を狩る」


「剣で?」


「剣で」


「弓じゃなく?」


「剣」


「近くない?」


「近いよ」


「怖くない?」


「怖いよ」


即答。


「怖いんだ」


「そりゃね」


「でもやる?」


「仕事だから」


「…………」


「狩剣士だから」


さらっと。


言った。


それが。


自分の名前を。


言うくらい。


自然に。


「狩剣士だから」


俺は。


繰り返す。


「うん」


「それって天職?」


「そうだけど」


「何歳で?」


「十八」


「…………」


「何?」


「いや」


俺と。


そんなに。


変わらないと思ったけど。


十八以上。


なのか。


「十八?」


「十九」


「年上だった」


「何歳だと思ったの?」


「十六」


「…………」


リナの。


目が。


細くなる。


「ごめんなさい」


「別に」


絶対。


怒ってる。


【商神メルク】


『減点』


「何の!?」


「また独り言」


「癖なんだ」


「変な人」


「二回目!」


リナ。


立ち上がる。


「じゃ」


「もう行く?」


「仕事」


「狩り?」


「今日は違う」


「何?」


「荷物運び」


「狩剣士なのに?」


言った瞬間。


リナ。


止まる。


「…………」


俺も。


止まる。


何か。


変なこと。


言った?


「何?」


リナ。


振り返る。


「狩剣士なら、狩りだけすると思ってる?」


「いや」


「今言ったじゃん」


「…………」


言った。


「ごめん」


素直に。


謝る。


リナ。


少し。


意外そう。


「お金いるから」


「うん」


「食べないと死ぬし」


「うん」


「毎日、狩りの仕事があるわけじゃないし」


「うん」


「だから運ぶ」


「…………」


ダリオ。


まだ。


知らない。


でも。


メルクから。


教わった。


価値は。


一つじゃない。


それなのに。


俺。


天職を。


聞いた瞬間。


狩剣士なら。


狩り。


そう。


決めつけた。


「俺」


魚。


見る。


「無職だから」


「うん」


「何?」


「自分で言ったから」


「そこは否定して」


「無職なんでしょ?」


「そうだけど!」


リナ。


笑う。


「なら」


荷物を。


肩へ。


「何でもできるじゃん」


「…………」


「決まってないなら」


リナ。


「できる仕事やればいいでしょ」


そう言って。


歩いていく。


「…………」


何でも。


できる。


無職。


だから。


何もできない。


じゃなく。


決まってない。


から。


何でも。


「……それ」


少し。


好きかもしれない。


【商神メルク】


『五十点』


「急に採点すんな」


『今のは覚えておけ』


「うん」


覚えておく。


リナ。


狩剣士。


でも。


今日は。


荷物を運ぶ。


俺。


無職。


なら。


今日。


何をする?



◇ ◇ ◇



答えは。


すぐ。


見つかった。


市場。


少し。


歩いたところ。


男。


一人。


大量の。


木箱。


「人手?」


聞く。


「ああ?」


「運びます?」


「できるのか?」


「たぶん」


【商神メルク】


『たぶんと言うな』


「できます」


『今変えたな』


「うるさい」


男。


怪訝な顔。


「誰と話してる?」


「自分を励ましてます」


「変な奴だな」


今日。


三回目。


「いくらです?」


「全部で銅貨二枚」


木箱。


六つ。


距離。


そこそこ。


「三枚」


「二枚」


「三枚」


「二枚」


「…………」


魚屋と。


同じ。


「二枚と昼飯」


男。


止まる。


「パンでいいか?」


「いいです」


「よし」


【商神メルク】


『六十点』


「上がった」


『金だけが報酬ではない』


「腹減るしな」


『そういうことだ』


働く。


木箱。


持つ。


重い。


でも。


ガルドに。


教わった。


腰。


足。


腕だけで。


持たない。


「よっ……」


一つ。


二つ。


三つ。


汗。


出る。


普通。


日常。


昨日。


謎の炎を。


出した人間とは。


思えない。


「これでいい」


むしろ。


こういうので。


いい。


俺は。


世界の謎を。


解くためだけに。


生きているわけじゃない。


飯。


食って。


働いて。


笑って。


たまに。


神様に。


怒られて。


それで。


いい。


四つ目。


持ち上げる。



――カァン!



遠く。



金属音。



「…………?」



市場の。



空気が。



変わる。



人。



止まる。



もう一度。



――カァン!



鐘。



「何?」



荷主の男。



顔色。



変わる。



「警鐘だ」



「警鐘?」



――カァン!



三回。



叫び声。



遠く。



「魔物だ!」



「東門!」



「でかいぞ!」



市場。



一気に。



ざわつく。



「…………」



魔物。



【戦神ガルド】


『レン』



声。



真剣。



『荷物を置け』



「うん」



木箱。



ゆっくり。



地面へ。



「仕事途中」



荷主。



「今はいい!」



「でも」



「死んだら運べんだろ!」



「…………」



今日。



それ。



よく聞くな。



「分かった」



周囲。



人が。



動く。



店。



閉める。



子ども。



抱える。



衛兵。



走る。



「避難は?」



【知識神ノア】


『広場へ誘導が開始されています』



「俺も?」



【戦神ガルド】


『当然だ』



「見に行くのは?」



『駄目だ』



「即答」



『昨日の今日だぞ!』



「分かってる」



本当に。



行く気は。



ない。



戦える。



なんて。



思ってない。



昨日。



三人から。



逃げるだけで。



精一杯。



謎の力が。



出たからって。



強くなったわけじゃない。



俺は。



避難する。



そう。



決めた。



「こっち!」



声。



聞き覚え。



ある。



振り向く。



リナ。



走っている。



腰。



剣。



さっきの。



荷物は。



ない。



「リナ!」



「レン?」



俺の名前。



知ってた?



噂か。



今は。



どうでもいい。



「何が出た?」



「分かんない!」



「え?」



「見たことない!」



リナ。



顔。



さっきと。



全然。



違う。



真剣。



「大きい」



「どれくらい?」



「家より」



「…………」



帰ろ。



絶対。



戦わない。



「リナも避難?」



「私は行く」



「どこへ」



「東門」



「何で!?」



リナ。



腰の。



剣を。



叩く。



「狩剣士だから」



また。



その言葉。



「待って」



「何?」



「家より大きいんだろ?」



「うん」



「怖くない?」



「怖い」



「なら」



「でも」



リナ。



俺を見る。



「それでも行く」



「仕事だから?」



「それもある」



「他は?」



少し。



間。



「剣を持ってる人が」



リナ。



「逃げる人と同じ方向に走ったら」



「後ろ」



「誰が見るの?」



「…………」



言葉。



出ない。



格好いい。



そう。



思った。



でも。



同時に。



怖かった。



狩剣士だから。



剣を持っているから。



だから。



行く。



「死ぬなよ」



口から。



出た。



リナ。



少し。



笑う。



「そっちも」



走る。



東門へ。



俺は。



反対。



避難場所へ。



一歩。



進む。



二歩。



三歩。



止まる。



「…………」



東。



見る。



行かない。



戦えない。



足手まとい。



ガルド。



『レン』



「分かってる」



『…………』



「行かないよ」



怖くても。



見る。



でも。



見るために。



危険へ。



飛び込む必要はない。



「俺にできること」



周囲。



見る。



避難。



人。



混乱。



泣く。



子ども。



荷物。



動けない。



老人。



「……あるじゃん」



走る。



東じゃない。



広場。



「こっちです!」



声。



出す。



「広場!」



老人の。



荷物。



持つ。



「それ置いて!」



「でもこれは――」



「命より大事なら持つ! 違うなら置く!」



【商神メルク】


『言い方は雑だが正しい』



「今採点いらない!」



子ども。



泣いている。



母親。



見失った?



「お母さんは?」



「あっち……!」



フィリア。



『レンさん、右です』



見る。



人混み。



女性。



子どもの。



名前。



叫んでる。



「いた!」



連れていく。



母。



抱きしめる。



「ありがとうございます!」



「広場へ!」



また。



走る。



戦わない。



でも。



何もしない。



でもない。



俺に。



できること。



ある。



無職。



だから。



役目が。



ない。



なら。



今。



必要なことを。



やればいい。



◇ ◇ ◇



避難。


少し。


落ち着く。



――ドンッ!



遠く。



地面。



揺れる。



「…………」



東。



煙。



上がる。



【戦神ガルド】


『でけえな』



「見える?」



『少し』



「リナは?」



返事。



すぐには。



来ない。



「ガルド」



『生きてる』



息。



吐く。



「分かる?」



フィリア。



『生命反応は確認できます』



「怪我」



『ここからでは詳細までは』



「…………」



行く?



駄目。



今。



俺が。



行って。



何ができる。



火魔法。



小さい。



木剣。



ひび。



謎の炎。



使い方。



分からない。



「…………」



待つ。



それも。



選択。



でも。



待つの。



こんなに。



きついんだな。



――ドンッ!



もう一度。



揺れる。



人。



悲鳴。



衛兵。



走る。



一人。



叫ぶ。



「前衛が押されてる!」



「増援!」



「冒険者を集めろ!」



「…………」



拳。



握る。



ガルド。



『行くな』



「まだ何も言ってない」



『顔に出てる』



「神様まで俺の顔読むようになった?」



『お前は分かりやすい!』



「…………」



行きたい。



リナ。



さっき。



会ったばかり。



口悪い。



魚屋で。



助けられた。



十九歳。



狩剣士。



仕事だから。



行った。



「死んでほしくない」



フィリア。



『はい』



「でも」



助けたい。



助けられる。



同じじゃない。



「俺じゃ無理だ」



言う。



悔しい。



でも。



言う。



「今の俺じゃ」



その時。



人。



走ってくる。



東から。



血。



腕。



怪我。



「誰か!」



「治療できる奴!」



俺。



動く。



「こっち!」



戦えない。



なら。



戦わなくていい。



今。



できること。



やる。



◇ ◇ ◇



どれくらい。



経った。



分からない。



怪我人。



運ぶ。



水。



渡す。



布。



押さえる。



治療できる人へ。



繋ぐ。



俺は。



治せない。



でも。



運べる。



声を。



かけられる。



道を。



空けられる。



「次!」



気づけば。



汗だく。



その時。



東門。



歓声。



「…………?」



一人。



走ってくる。



「退いたぞ!」



「魔物が退いた!」



広場。



空気。



変わる。



「倒した?」



「いや!」



「森へ逃げた!」



「追うな!」



声。



重なる。



俺は。



立ったまま。



動けない。



「リナ」



フィリア。



『生命反応、あります』



「…………」



膝。



力。



抜けそう。



「よかった」



本当に。



それだけ。



◇ ◇ ◇



しばらくして。



東から。



人が。



戻ってくる。



衛兵。



冒険者。



怪我人。



そして。



リナ。



「…………」



いた。



服。



汚れている。



頬。



血。



剣。



持ってる。



歩いてる。



「リナ!」



走る。



「生きてる!」



「見れば分かるでしょ」



「怪我!」



「これ?」



頬。



触る。



「かすっただけ」



「他は?」



「ない」



「本当?」



「何でそんな心配するの」



「死ぬなって言ったから」



「…………」



リナ。



少し。



笑う。



「守ったよ」



「よかった」



本当に。



よかった。



「魔物は?」



「逃げた」



「何だった?」



リナ。



表情。



少し。



変わる。



「分かんない」



「見たことない?」



「うん」



「どんな?」



「でかい」



「それは聞いた」



「硬い」



「それもありそう」



「あと」



リナ。



少し。



考える。



「変だった」



「何が?」



「最初から」



東。



見る。



「傷ついてた」



「…………」



「誰かと戦ったあと?」



「たぶん」



「どんな傷?」



リナ。



自分の。



脇腹あたり。



指す。



「ここ」



「大きく」



手。



横へ。



「抉られてた」



「魔物同士?」



「かも」



「剣?」



「違うと思う」



「じゃあ爪?」



「分かんない」



また。



分からない。



「でも」



リナ。



俺を見る。



「変だった」



「何が?」



「傷が」



一度。



言葉。



止まる。



「大きすぎる」



「…………」



「私たちが戦った時には」



「もう弱ってた」



「それでも」



リナ。



剣を。



握る。



「全然勝てなかった」



背中。



少し。



冷える。



家より。



大きな。



魔物。



それを。



あそこまで。



傷つけた。



何か。



「どこから来た?」



「東」



「西じゃない?」



「東」



少し。



安心。



した。



自分に。



気づく。



何でも。



西へ。



繋げようとしてる。



駄目だ。



決めつけるな。



「そっか」



リナ。



俺を。



見る。



「何?」



「いや」



「変な人」



「今日四回目くらい!」



「数えてるの?」



「傷つくからな!」



リナ。



笑う。



その笑顔。



見て。



少し。



肩の力が。



抜けた。



◇ ◇ ◇



夕方。



市場。



途中だった。



荷物運び。



戻る。



荷主。



俺を見る。



「あ」



「戻ったか」



「すみません」



「何が?」



「仕事途中で」



「警鐘鳴ってたんだぞ」



「でも」



男。



残りの。



木箱を見る。



「三つ運んだな」



「はい」



銅貨。



一枚。



渡される。



「半分」



「…………」



「パンも持ってけ」



「いいんですか?」



「避難の手伝いしてただろ」



「見てた?」



「見てた奴から聞いた」



受け取る。



銅貨。



一枚。



パン。



一つ。



【商神メルク】


『今日の報酬だ』



「半分しか仕事してない」



『半分の仕事に対する金だ』



「パンは?」



『別の価値だろう』



「…………」



避難。



手伝った。



それで。



誰かが。



見ていた。



価値。



一つじゃない。



本当に。



少しずつ。



分かってきた。



「ありがとう」



男に。



頭。



下げる。



パン。



かじる。



うまい。



朝。



魚。



食べた。



昼。



働いた。



魔物。



来た。



人を。



助けた。



リナ。



生きてた。



忙しい。



一日。



だった。



でも。



何か。



少しだけ。



自分の中で。



変わった。



無職。



それは。



役目が。



ないことじゃない。



役目が。



決まってない。



なら。



その時。



必要なことを。



自分で。



選べる。



「悪くないな」



【商神メルク】


『何がだ』



「無職」



沈黙。



『そうか』



それだけ。



メルクは。



言った。



◇ ◇ ◇



夜。



寝る前。



剣を。



振る。



音。



近く。



見る。



リナ。



少し離れた場所で。



一人。



素振り。



している。



「まだやるの?」



「何が?」



「今日戦っただろ」



「だから」



「だから?」



「もっと強くならないと」



剣。



振る。



「怖かった?」



止まる。



「怖かったよ」



「逃げたかった?」



「うん」



「じゃあ何で」



聞いてから。



答え。



分かる。



リナ。



剣を。



構える。



「狩剣士だから」



また。



その言葉。



今日。



三回目。



「それ」



「何?」



「好きなんだな」



「何が?」



「狩剣士」



リナ。



少し。



考える。



「うん」



「なりたかった?」



「小さい頃から」



「へえ」



「父さんも狩剣士だったから」



「お父さんも?」



「うん」



剣。



握る。



「だから」



リナ。



少し。



笑う。



「これが私」



「…………」



狩剣士。



それが。



仕事。



役目。



そして。



自分。



俺には。



ない。



無職。



でも。



不思議と。



羨ましいだけでは。



なかった。



「俺は」



「何?」



「まだ分かんないな」



「何が?」



「俺が何なのか」



リナ。



眉。



寄せる。



「レンでしょ」



「…………」



「いや」



思わず。



笑う。



「そうなんだけど」



「じゃあ何?」



「何でもない」



レン。



それだけ。



今は。



それで。



いいのかもしれない。



リナ。



剣を。



振る。



俺は。



少し。



離れて。



見る。



狩剣士。



だから。



剣を。



振る。



無職。



だから。



何を。



する?



答えは。



まだ。



ない。



でも。



自分で。



選べる。



それだけは。



少し。



好きになってきた。



その時。



――カチ。



小さな。



音。



リナの。



剣。



ではない。



俺の。



腰。



ひびの入った。



木剣。



「…………?」



手に。



取る。



ひび。



昨日より。



少し。



広がっている。



「やば」



【鍛冶神ヴォルグ】


『だから使うなと言った』



「使ってない!」



『明日持ってこい』



「はい」



木剣。



見る。



傷。



ひび。



何度も。



一緒に。



走った。



戦った。



逃げた。



「まだ」



捨てる気は。



ない。



壊れたら。



終わりじゃない。



明日。



直せるか。



見てもらう。



そう。



決めた。



遠く。



リナが。



まだ。



剣を。



振っている。



俺は。



木剣を。



そっと。



布で。



包んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。