神託ログ16 七柱寄れば、西へ行く
朝。
目を覚まして。
最初に浮かんだのは。
やっぱり。
あの一文字だった。
【西】
「…………」
寝れば。
少しくらい。
どうでもよくなると思っていた。
ならなかった。
むしろ。
昨日より。
気になっている。
名前のない神託。
一度目は。
何も書かれていなかった。
二度目。
表示された。
たった一文字。
西。
その西では。
獣が減っている。
鳥も。
寄りつかない。
馬が。
森へ入るのを嫌がった。
夜の森から。
音が減っている。
そして。
西から来た荷車の。
妙な破損。
一つ一つなら。
偶然。
そう言える。
全部を。
繋げていいのかは。
分からない。
でも。
「……気になる」
口に出した瞬間。
――ピコン。
【戦神ガルド】
『だろうな』
「聞いてた?」
『聞こえた』
「独り言に入ってくるのやめて」
『で』
少し。
間。
『行きたいか?』
「…………」
昨日なら。
行かない。
そう答えた。
実際。
行かなかった。
危険だから。
分からないから。
弱いから。
それは。
今も変わっていない。
「行きたい」
正直に。
答える。
『そうか』
「止めないの?」
『俺一人なら止める』
「一人なら?」
『お前が一人なら、だ』
「…………」
意味を。
考える。
その時。
別の神託。
【創世神エリオス】
『レン』
「エリオス」
『七柱で話した』
嫌な予感。
「また会議したの?」
『ああ』
「俺抜きで?」
沈黙。
【戦神ガルド】
『今回は緊急会議だ!』
「言い訳が雑!」
【商神メルク】
『お前が寝ていた』
「起こせよ!」
【生命神フィリア】
『休息の方が大切です』
「フィリアに言われると怒れない!」
【魔法神セレナ】
『結構揉めたのよ?』
「でしょうね」
【鍛冶神ヴォルグ】
『長かった』
【知識神ノア】
『一時間四十七分です』
「本当に長いな!」
朝から。
七柱。
全員。
揃った。
「それで?」
少し。
緊張する。
エリオス。
『西へ行く』
「…………」
「え?」
聞き間違えた?
「昨日、行くなって言ったよな?」
『言った』
「ガルドも」
『言ったな!』
「フィリアも」
『はい』
「全員止めたよな?」
【魔法神セレナ】
『昨日はね』
「一晩で何があった?」
ノア。
『状況そのものに、重大な変化は確認されていません』
「じゃあ何で?」
『情報が不足しているからだ』
エリオス。
「…………」
昨日と。
逆。
分からないから。
行かない。
それが。
今日は。
分からないから。
行く。
「それ大丈夫?」
【商神メルク】
『大丈夫とは言っていない』
「怖いこと言うな」
『安全が確認できていない以上、大丈夫とは言えん』
「じゃあ」
『だから準備する』
メルク。
『情報を集め』
『危険を想定し』
『引き返す条件を決める』
『その上で行く』
「…………」
なるほど。
行く。
行かない。
それだけじゃない。
行くなら。
どう行くか。
【戦神ガルド】
『お前一人なら反対だ!』
「うん」
『だが、俺たちが見てる』
【魔法神セレナ】
『魔力の異常は私が確認する』
【生命神フィリア】
『生命反応は私が』
【鍛冶神ヴォルグ】
『装備は確認する』
【商神メルク】
『物資と帰還時間』
【知識神ノア】
『地形、既知情報、退避経路を共有します』
六柱。
そして。
エリオス。
「エリオスは?」
少し。
間。
『全体を見る』
「またそれかよ!」
セレナ。
『昨日より具体的になってないわね』
『余計なことを言うな』
思わず。
笑った。
でも。
すぐ。
少しだけ。
真面目になる。
「……本当に行くんだな」
『ああ』
西。
あの神託が。
示した方角。
「分かった」
俺は。
立ち上がる。
「行こう」
誰かに。
命令されたからじゃない。
俺も。
知りたい。
何が。
あるのか。
◇ ◇ ◇
準備。
これが。
思ったより。
長かった。
「水」
【商神メルク】
『もう一本』
「重い」
『死ぬより軽い』
「強い」
「パン」
『足りん』
「昨日もらった干し肉」
『持て』
「果物」
『傷みやすい。不要だ』
「はい」
次。
ヴォルグ。
『木剣』
「ある」
『見せろ』
「見えるの?」
『神託越しでも状態はある程度分かる』
腰から。
木剣を外す。
昨日。
転んだ時に。
傷がついた。
「これ大丈夫?」
『表面だけだ』
「折れない?」
『現時点では問題ない』
「現時点」
嫌な言葉。
『道具に絶対を求めるな』
「はい」
次。
フィリア。
『肩』
「大丈夫」
『動かしてください』
「上」
『ゆっくり』
「横」
『痛みは?』
「ほぼない」
『ほぼ、ですね』
「細かい」
『大事です』
次。
ノア。
『本日の目的地は西側森林の入口付近』
「中には?」
『状況を確認してから判断します』
「距離は?」
『通常歩行で――』
説明。
長い。
でも。
今日は。
ちゃんと聞く。
帰る時間。
水の残量。
天候。
街道。
逃げる方向。
もし。
俺が。
怪我をした場合。
もし。
神託が。
途切れた場合。
そこまで。
決める。
「神託が途切れることあるの?」
『通常は考えにくいです』
「通常は?」
『今回の事象が通常ではない可能性を考慮しています』
「…………」
怖い。
でも。
必要。
最後。
ガルド。
『逃げろ』
「え?」
『危ねえと思ったら逃げろ』
「戦えじゃないんだ」
『勝てる相手ならな』
「判断できなかったら?」
『逃げろ』
「格好悪くても?」
『生きて帰れば勝ちだ』
「…………」
『昨日、人を助けられたからって』
ガルド。
少し。
声が低くなる。
『自分を強いと思うな』
「思ってない」
『ならいい』
『今日は』
一拍。
『誰も助けなくていい』
「え?」
『まず、お前が帰ってこい』
昨日。
助けた少年。
その顔が。
一瞬。
浮かんだ。
「……分かった」
答えた。
ただ。
胸のどこかに。
小さな。
引っかかりが。
残った。
◇ ◇ ◇
門。
いつもの兵士。
俺の荷物を見て。
嫌そうな顔をした。
「西か?」
「何で分かった?」
「昨日から気にしてただろ」
「顔に出てた?」
「出てた」
兵士は。
ため息。
「止めても行くか?」
「今日は」
少し。
考える。
「確認だけです」
「それを行くって言うんだよ」
「ですよね」
「森の奥には入るな」
「はい」
「夕方前には戻れ」
「はい」
「変だと思ったら?」
「逃げる」
兵士が。
少し。
驚いた。
「分かってるじゃねえか」
「先生が多いんで」
「先生?」
「七人くらい」
「多すぎるだろ」
「俺もそう思います」
門を。
抜ける。
昨日。
助けた少年の。
赤い木の実は。
置いてきた。
なくしたく。
なかったから。
「行ってきます」
誰に。
言ったのか。
自分でも。
分からない。
◇ ◇ ◇
西へ。
進む。
最初は。
見慣れた。
街道。
荷車。
旅人。
畑。
人の声。
昨日までと。
変わらない。
「普通だな」
【知識神ノア】
『はい』
「逆に怖い」
【魔法神セレナ】
『何よそれ』
「もっと分かりやすく、空が紫とか」
『それは帰った方がいいわね』
「木が全部枯れてるとか」
【生命神フィリア】
『それも帰ります』
「魔物が大量に」
【戦神ガルド】
『逃げろ!』
「全部帰るじゃん」
【商神メルク】
『何を期待している』
「いや」
分かりやすい異常。
それなら。
判断しやすい。
でも。
今は。
何もない。
それが。
妙に。
落ち着かない。
街道から。
西へ。
分かれる道。
昨日。
老人が。
指した方向。
進む。
少しずつ。
人が。
減る。
畑も。
減る。
草。
木。
増える。
「ノア」
『はい』
「ここまでは普通?」
『既知の情報と大きな差異はありません』
「セレナ」
『魔力も普通』
「フィリア」
『生命反応もあります』
「ガルド」
『油断すんな』
「メルク」
『帰りの水を残せ』
「ヴォルグ」
『足元』
「エリオス」
少し。
間。
『進め』
「…………」
七柱。
寄れば。
何とやら。
意見は。
相変わらず。
揃わない。
でも。
進む方向だけは。
同じだった。
◇ ◇ ◇
昼前。
森が。
見えた。
「……あれか」
西の森。
見た目は。
普通。
高い木。
低い木。
草。
葉。
風。
揺れている。
「何も変じゃない」
【知識神ノア】
『視覚上、顕著な異常は確認できません』
近づく。
一歩。
また。
一歩。
「…………」
何だ。
少し。
変。
「ガルド」
『ああ』
「分かる?」
『静かだ』
それ。
鳥。
いない。
いや。
見えないだけ?
耳を。
澄ます。
風。
葉。
自分の。
足音。
「虫は?」
【生命神フィリア】
『生命反応そのものはあります』
「いる?」
『はい』
「じゃあ何で鳴かない?」
『分かりません』
木の根元。
小さな虫。
いる。
葉の裏にも。
いる。
でも。
音が。
少ない。
「鳥は?」
フィリア。
少し。
間。
『近くには、ほとんど感じません』
「…………」
昨日の老人。
本当だった。
【魔法神セレナ】
『魔力は……』
止まる。
「何?」
『変ではない』
「その言い方は変だろ」
『量は普通』
「じゃあ何?」
『流れも、たぶん普通』
「たぶん?」
『だから』
セレナ。
珍しく。
苛立つ。
『変じゃないのよ』
「…………」
『変じゃないのに』
一拍。
『気持ち悪い』
魔法神が。
魔力を見て。
気持ち悪い。
その言葉の方が。
怖い。
「帰る?」
聞く。
誰に。
ではなく。
自分に。
まだ。
森の入口。
ここで。
戻れる。
情報は。
得た。
噂は。
本当だった。
動物が。
少ない。
森が。
静か。
それだけでも。
十分。
「…………」
その時。
――ピコン。
身体が。
固まる。
【――――】
「またか」
三度目。
名前のない。
神託。
【戦神ガルド】
『レン、動くな』
「うん」
【知識神ノア】
『解析を開始します』
【魔法神セレナ】
『周囲に術式反応なし』
【生命神フィリア】
『近隣生命反応に大きな変化なし』
【商神メルク】
『戻る準備をしろ』
【鍛冶神ヴォルグ】
『周囲を見ろ』
見る。
森。
道。
木。
草。
誰も。
いない。
表示。
【――――】
揺れる。
昨日と。
同じ。
文字が。
変わる。
【西へ】
「…………」
昨日は。
【西】
今日は。
【西へ】
一文字。
増えた。
ただ。
それだけ。
なのに。
意味が。
変わる。
方角から。
指示へ。
「誰だよ」
答え。
なし。
「何で俺に送ってる」
なし。
「何がある?」
なし。
神託は。
【西へ】
それだけ。
「ノア」
『送信元、取得不能』
「昨日と同じ?」
『はい』
「七柱の誰でもない?」
『通常権限との一致なし』
「エリオス」
『俺ではない』
「…………」
森の奥。
見る。
西。
行け。
そう。
言っている。
「罠かな」
【商神メルク】
『可能性はある』
「助けを求めてる?」
【生命神フィリア】
『可能性はあります』
「何か見せたい?」
【知識神ノア】
『可能性は否定できません』
「結局」
笑う。
少し。
乾いた笑い。
「何も分かんないな」
誰も。
否定しなかった。
俺は。
一歩。
後ろへ。
下がった。
「今日は戻る」
【戦神ガルド】
『それでいい』
神託の指示に。
従わない。
知らない誰かに。
西へ行けと。
言われたから。
行く。
それは。
自分で。
選んだことにならない。
「帰ろう」
そう。
言った。
その時。
表示が。
変わった。
【西へ】
消える。
次。
【七柱には、言うな】
「…………」
時間が。
止まった。
ように。
感じた。
誰も。
喋らない。
「……もう」
俺は。
小さく。
息を吐く。
「見られてるけどな」
【戦神ガルド】
『全部見えてるぞ』
「だよな」
【魔法神セレナ】
『送り主、馬鹿なの?』
「セレナ」
『だってそうでしょ!』
少しだけ。
緊張が。
緩む。
でも。
笑えない。
七柱には。
言うな。
つまり。
送り主は。
七柱を。
意識している。
俺が。
七柱と。
繋がっていることを。
知っている。
そして。
俺だけに。
何かを。
伝えようとしている。
「ノア」
『はい』
「これ」
喉が。
少し。
乾く。
「俺のこと、知ってる奴だよな」
ノア。
すぐには。
答えない。
『少なくとも』
『レンが七柱から神託を受けていることを認識している可能性は高いです』
「…………」
【七柱には、言うな】
文字が。
消える。
何も。
残らない。
「帰る」
今度は。
迷わなかった。
◇ ◇ ◇
森から。
離れる。
来た道を。
戻る。
誰も。
しばらく。
喋らなかった。
珍しい。
七柱もいるのに。
静か。
「なあ」
俺から。
口を開く。
「何で七柱には言うな、なんだろ」
【戦神ガルド】
『知らん』
【商神メルク】
『信用するな』
【生命神フィリア】
『レンさんを、私たちから離したいのかもしれません』
【魔法神セレナ】
『感じ悪い』
【鍛冶神ヴォルグ】
『目的が分からん』
【知識神ノア】
『情報不足です』
「エリオスは?」
返事。
なし。
「エリオス?」
『考えている』
「何を?」
『なぜ』
少し。
間。
『“七柱”と表現したのか』
「…………」
言われて。
気づく。
神々。
でも。
お前たち。
でもない。
七柱。
「七人いるって知ってる」
『ああ』
「それって珍しい?」
『一般の人間が、七柱すべてと同時に神託接続することはない』
「じゃあ」
誰だ。
俺のことを。
どこまで。
知っている?
『レン』
ガルド。
「何?」
『止まれ』
足。
止める。
「何?」
『前』
見る。
道。
何も。
ない。
「何が?」
『下がれ』
「え?」
『一歩』
言われるまま。
一歩。
下がる。
直後。
ミシッ。
音。
頭上。
「――っ!」
太い。
枝。
いや。
枝というより。
小さな幹。
落ちた。
さっきまで。
俺が立っていた場所へ。
ドンッ!!
地面が。
揺れる。
「…………」
声が。
出ない。
あと。
一歩。
前にいたら。
直撃。
していた。
「ガルド」
『大丈夫か』
「……うん」
心臓。
速い。
「何で分かった?」
『音だ』
「音?」
『折れる音がした』
「俺、聞こえなかった」
『慣れだ』
ヴォルグ。
『木が腐っている』
「この木だけ?」
見る。
落ちた部分。
内部。
黒い。
一部。
傷んでいる。
フィリア。
『周辺の樹木すべてが同じ状態ではありません』
「じゃあ偶然?」
ノア。
『可能性はあります』
また。
偶然。
「…………」
【西へ】
【七柱には、言うな】
その直後。
落ちた木。
関係。
ある?
ない?
分からない。
「今日は」
俺は。
息を整える。
「本当に帰ろう」
今度は。
全員。
同意した。
◇ ◇ ◇
街まで。
あと少し。
森から。
かなり離れた。
人の姿も。
増えてきた。
ようやく。
少し。
肩の力が抜ける。
「疲れた……」
【生命神フィリア】
『今日は早く休んでください』
「そうする」
【商神メルク】
『水』
「まだある」
【鍛冶神ヴォルグ】
『木剣』
「無事」
【魔法神セレナ】
『魔力の乱れはなし』
【知識神ノア】
『本日取得した情報を整理します』
「今日はやめて」
『必要です』
「明日」
『忘却の可能性があります』
「ノア」
『はい』
「明日」
『……了解しました』
勝った。
そんな。
どうでもいいことに。
少し。
安心した。
「すみません」
声。
振り返る。
三人。
旅人。
男が二人。
女が一人。
荷物。
旅装。
普通。
見たところ。
何も。
変じゃない。
「街は、こちらで合っていますか?」
「はい」
俺は。
門の方を。
指す。
「この道をまっすぐです」
「ありがとうございます」
「初めてですか?」
「ええ」
女が。
笑う。
「西から来たので」
「…………」
西。
反応してしまう。
「西?」
「はい」
男の一人が。
答える。
「森を越えてきました」
「森」
「何か?」
「いや」
三人。
普通。
怪我も。
ない。
疲れては。
いるけど。
旅人なら。
そんなもの。
「森、何か変じゃなかったですか?」
三人が。
顔を。
見合わせる。
「変?」
「静かだったり」
「…………」
男が。
首を傾げる。
「そうでしたか?」
女も。
「特には」
「動物とか」
「見ましたよ」
「鳥も?」
「ええ」
「…………」
おかしい。
俺たちが。
行った森。
鳥が。
ほとんど。
いなかった。
でも。
この三人は。
見た。
場所が。
違う?
広い森。
なら。
あり得る。
「すみません」
俺は。
笑う。
「変なこと聞きました」
「いえ」
三人が。
俺の横を。
通り過ぎる。
街へ。
向かう。
その時。
違和感。
何だ。
俺は。
三人の。
背中を見る。
普通。
服。
荷物。
歩き方。
何も。
変じゃない。
でも。
何か。
「…………」
【知識神ノア】
『レン』
「何?」
『どうしました』
「分からない」
『何が』
「何か」
言葉に。
できない。
「変な気がする」
【戦神ガルド】
『追うな』
「分かってる」
三人は。
遠ざかる。
夕日。
長く。
影が。
伸びている。
街道。
俺の影。
木の影。
草の影。
三人。
「…………?」
目を。
細める。
遠い。
よく。
見えない。
「ノア」
『はい』
「今の三人」
『はい』
「何か分かる?」
『外見情報のみでは、一般的な旅人との有意差を確認できません』
「そっか」
なら。
気のせい。
かもしれない。
今日。
変なことが。
多すぎた。
神経質に。
なっているだけ。
「帰ろう」
街へ。
向き直る。
――ピコン。
足が。
止まる。
また。
神託。
「……もう勘弁してくれ」
見る。
【――――】
名前。
なし。
でも。
今回は。
すぐに。
文字が。
浮かんだ。
【違う】
「…………」
何が?
「何が違う」
返事。
【あれは】
文字。
止まる。
【人間じゃない】
背筋が。
冷えた。
振り返る。
三人。
まだ。
見える。
街へ。
向かって。
歩いている。
「ノア」
『確認できません』
「ガルド」
『見た目じゃ分からん』
「フィリア」
返事が。
少し。
遅い。
『……生命反応は』
「ある?」
『あります』
「じゃあ人間じゃん」
『いいえ』
フィリア。
『人間であることと』
『生命反応があることは』
『同じではありません』
「…………」
三人。
遠ざかる。
俺は。
目を。
凝らす。
夕日。
街道。
影。
「……あ」
今度は。
見えた。
俺の影は。
長く。
地面へ。
伸びている。
道端の木も。
同じ。
なのに。
三人の足元。
「影が……」
ない。
一人も。
ない。
「何だよ、あれ」
誰も。
答えない。
その時。
先頭を歩いていた男が。
止まった。
「…………」
ゆっくり。
振り返る。
距離。
かなり。
離れている。
顔なんて。
ほとんど。
見えない。
それでも。
なぜか。
分かった。
こっちを。
見ている。
俺を。
見ている。
――ピコン。
【――――】
【気づいた】
「…………」
男が。
こちらへ。
顔を向けたまま。
何秒か。
止まっている。
そして。
また。
前を向いた。
何事も。
なかったように。
三人は。
街へ。
歩いていく。
【戦神ガルド】
『レン』
「うん」
『走れ』
今度は。
迷わなかった。
街へ。
ではなく。
三人から。
距離を取るように。
別の道へ。
走った。
◇ ◇ ◇
夜。
俺は。
いつもの場所で。
膝を抱えていた。
街には。
戻った。
門番にも。
会った。
三人の旅人について。
話そうか。
迷った。
でも。
やめた。
何を。
言えばいい?
影のない。
人間じゃない旅人が。
街に入りました。
証拠。
なし。
正体。
不明。
目的。
不明。
今どこにいるかも。
分からない。
「……怖」
ようやく。
声に出た。
昨日までは。
西が。
気になっていた。
今日は。
少し。
違う。
怖い。
でも。
それ以上に。
知りたい。
あの三人は。
何だったのか。
名前のない神託は。
誰なのか。
なぜ。
俺を。
西へ。
呼ぶのか。
そして。
なぜ。
七柱には。
言うなと。
言ったのか。
「なあ」
七柱へ。
聞く。
「明日」
少し。
間。
「どうする?」
返事は。
すぐには。
来なかった。
昨日までなら。
誰かが。
先に。
決めていた。
走れ。
魔法。
働け。
休め。
学べ。
でも。
今日は。
違った。
【創世神エリオス】
『レンは』
『どうしたい』
「…………」
俺は。
少し。
考える。
怖い。
行きたくない。
でも。
このまま。
何も知らない方が。
もっと。
気持ち悪い。
「知りたい」
正直に。
答えた。
「ただ」
「今度は」
一度。
息を吸う。
「知ってることを隠さないでくれ」
沈黙。
フィリア。
ノア。
エリオス。
誰からも。
すぐには。
返事が。
来なかった。
それだけで。
胸の奥に。
小さな。
疑いが。
残った。
やがて。
エリオス。
『分かった』
短い。
答え。
俺は。
それ以上。
聞かなかった。
聞けなかった。
その夜。
眠りに落ちる。
ほんの少し前。
――ピコン。
目を。
開ける。
「……また?」
【――――】
もう。
驚かない。
そう。
思っていた。
次の表示を。
見るまでは。
【ようやく】
「…………」
【二人きりだな】
俺は。
身体を。
起こした。
「二人きり?」
七柱は。
いる。
繋がっている。
はず。
「ガルド?」
返事。
なし。
「セレナ?」
なし。
「メルク」
なし。
「ヴォルグ」
なし。
「フィリア」
なし。
「ノア」
なし。
「エリオス!」
何も。
返ってこない。
心臓が。
速くなる。
「お前」
表示を。
睨む。
「何した」
返事。
【何も】
「嘘つけ」
【ただ】
【少しだけ】
【静かにしてもらった】
「…………」
背筋が。
冷える。
七柱との。
神託。
切られた?
【安心しろ】
「できるか」
【危害を加えるつもりはない】
「誰だ」
止まる。
長い。
沈黙。
そして。
文字。
【初めまして】
「…………」
【レン】
息が。
止まった。
俺は。
まだ。
こいつに。
名前を。
教えていない。
「何で」
声が。
震える。
「俺の名前を知ってる」
返事は。
すぐには。
来なかった。
やがて。
たった一言。
表示された。
【知っている】
「何を」
文字が。
揺れる。
【お前を】
そこで。
神託は。
途切れた。
直後。
――ピコン。
【戦神ガルド】
『レン!!』
「ガルド!」
【生命神フィリア】
『無事ですか!?』
【魔法神セレナ】
『今、接続が――』
【知識神ノア】
『七柱すべての神託接続に、一時的な遮断を確認しました』
一斉に。
戻ってくる。
うるさい。
いつもなら。
そう思う。
でも。
今は。
そのうるささが。
少しだけ。
ありがたかった。
「……大丈夫」
俺は。
息を吐く。
「でも」
最後に。
残った文字を。
思い出す。
初めまして。
レン。
知っている。
お前を。
「明日」
俺は。
七柱へ。
言った。
「西へ行こう」
誰も。
すぐには。
反対しなかった。
七柱。
寄れば。
文殊の知恵。
そんな言葉が。
元の世界には。
あった。
でも。
この世界では。
七柱寄っても。
答えは。
出ない。
だから。
確かめに行く。
自分の目で。
西に。
何がいるのか。
俺を知っている。
何かが。
何者なのか。




