神託ログ12 神様七人、会議をすると何も決まらない
朝。
目が覚めた。
神託は。
来ていない。
「…………」
昨日も。
最初はこんな感じだった。
油断してはいけない。
俺は。
静かに起き上がる。
顔を洗う。
残った金を確認する。
荷物をまとめる。
「よし」
まだ。
来ない。
もしかして。
今日は。
本当に休み?
異世界に来てから。
神様たちの育成が始まって。
走った。
魔力を探した。
働いた。
鍛冶場へ行った。
人を助けた。
勉強した。
店番もした。
毎日。
濃い。
そろそろ。
何もしない一日があっても。
罰は当たらないと思う。
「今日は……」
何しよう。
まず。
朝飯。
そのあと。
仕事を探す。
できれば。
昨日の店へ行って。
また雇ってもらえないか聞く。
金を貯めて。
門番への借金。
銅貨三枚を返す。
余裕ができたら。
宿。
さすがに。
いつまでも。
屋根付きの休憩所で寝るのは。
つらい。
「完璧だな」
誰にも。
振り回されない。
自分で決めた。
普通の一日。
その第一歩を。
踏み出した瞬間。
――ピコン。
【創世神エリオス】
『レン』
「…………」
来た。
『起きているか』
「今寝た」
『そうか』
「嘘だよ!」
通じなかった。
いや。
通じた上で。
流されたのかもしれない。
『今日は』
嫌な予感。
『七柱で話をしたい』
「七柱で?」
『ああ』
「俺も?」
少し。
間。
『もちろんだ』
「…………」
怪しい。
ものすごく。
怪しい。
◇ ◇ ◇
街の広場。
人通りの少ない。
端のベンチ。
俺は。
そこに座っていた。
「で?」
返事。
なし。
「エリオス?」
『少し待ってくれ』
「何を?」
『全員を呼んでいる』
全員。
七柱。
嫌な予感しかしない。
一柱ずつでも。
濃い。
それが。
七柱。
同時。
『来たぞ!』
ガルド。
一柱目。
『おはよう、レン!』
セレナ。
二柱目。
『朝から騒ぐな』
メルク。
三柱目。
『…………』
ヴォルグ。
四柱目。
『おはようございます、レンさん』
フィリア。
五柱目。
『開始予定時刻を二分超過しています』
ノア。
六柱目。
そして。
『揃ったな』
エリオス。
七柱目。
「…………」
揃った。
うるさい予感が。
完成した。
『では』
エリオスが。
話を始める。
『第一回』
『レン育成方針会議を――』
「待って」
『何だ』
「第一回?」
『ああ』
「前にも会議してなかった?」
沈黙。
【戦神ガルド】
『したな!』
【魔法神セレナ】
『したわね』
【商神メルク】
『した』
【生命神フィリア】
『しましたね』
【知識神ノア】
『正確には、育成開始時に方針協議を行っています』
【鍛冶神ヴォルグ】
『…………』
「じゃあ第二回じゃん」
少し。
沈黙。
【創世神エリオス】
『第二回』
「直すんだ」
『レン育成方針会議を始める』
「はい」
こうして。
第二回。
神様七人による。
俺の育成会議が。
始まった。
◇ ◇ ◇
『まず俺からだ!』
ガルド。
早い。
『レンは身体が弱い!』
「いきなり悪口?」
『事実だ!』
「もうちょっと言い方ない?」
『だから鍛える!』
「無視された」
『走れ!』
「嫌だ」
『なぜだ!?』
「今日は会議だろ」
『走りながらでも会議はできる!』
「できるか!」
『できる!』
『できません』
ノア。
即否定。
『運動中は呼吸および周辺状況への注意が必要です。七柱同時との会話は集中を――』
『細けえ!』
『必要な情報です』
『レン! 走れ!』
「嫌だ!」
開始。
一分。
もう。
まとまらない。
『そもそも』
セレナが。
割り込む。
『今優先すべきは魔力よ』
「来た」
『魔力3なんだから』
「まだ言う!?」
『事実でしょ』
『身体が先だ!』
『魔法よ!』
『身体だ!』
『魔法!』
『身体!』
「小学生?」
『どちらも必要です』
ノア。
『ただし、現在のレンの身体能力と魔力値を比較した場合――』
『数字だけで決めるな』
メルク。
『レンに必要なのは稼ぐ力だ』
「メルク」
『このままでは宿にも泊まれん』
「それはそう」
『飯も安定しない』
「それもそう」
『借金もある』
「それは言わなくていい!」
『銅貨三枚』
「具体的に言うな!」
『なら働け』
『待ってください』
フィリア。
『休息も必要です』
「フィリア……!」
味方。
いた。
『レンさんは、この数日ほとんど休んでいません』
「そう!」
『今日は一日、身体を休めるべきです』
「それ!」
『反対だ!』
ガルド。
「お前は黙れ!」
『身体は動かした方が回復する場合もある!』
『程度によります』
ノア。
『軽度の運動は――』
『なら走れるな!』
『そういう意味ではありません』
「ノア頑張れ!」
『魔力訓練なら座ったままできるわ』
セレナ。
「入ってくんな!」
『身体への負担も少ないし』
『魔力操作は精神疲労を伴います』
フィリア。
『なら軽くでいいじゃない』
『軽くで終わるのか?』
メルク。
沈黙。
『…………終わるわよ』
「今の間何!?」
七柱。
会議。
開始。
三分。
何も。
決まっていない。
◇ ◇ ◇
『道具を持たせろ』
突然。
ヴォルグ。
全員が。
少し静かになった。
珍しく。
自分から。
入ってきた。
『レンには』
『道具を扱う経験が足りん』
「まあ、それはそうかも」
『刃物』
『工具』
『防具』
『野営道具』
『全部だ』
「多いな」
『知らないまま使えば死ぬ』
『それは賛成です』
フィリア。
『怪我の予防にもなります』
『だが』
メルク。
『道具を買う金がない』
「俺を挟んで現実殴るのやめて」
『なら稼げ』
『働く時間があるなら鍛えろ!』
ガルド。
『鍛えても今日の食費は出ない』
メルク。
『強くなれば稼げる!』
『いつだ』
『そのうち!』
『却下だ』
「メルク強い」
『魔法を使えるようになれば仕事の幅も広がるわ』
セレナ。
『それも習得時期が不明だ』
メルク。
『できるわよ!』
『いつだ』
『…………』
『いつだ』
『うるさいわね!』
「商神が現実で全員殴ってる」
『当然だ』
メルク。
『生きるには金が要る』
『金だけでは生きられません』
フィリア。
『金がなければ飯も宿もない』
『でも、身体を壊したら働けません』
『その通りです』
ノア。
『現在の議論を整理します』
「お」
ようやく。
まともに。
進みそう。
『戦神ガルドは身体能力向上』
『魔法神セレナは魔力訓練』
『商神メルクは経済基盤の確立』
『鍛冶神ヴォルグは道具知識』
『生命神フィリアは休息および健康管理』
「うん」
『私は知識の補完』
「うん」
『創世神エリオスは――』
止まる。
全員。
少し。
静かになった。
「そういえば」
俺も。
気づいた。
「エリオスは何したいの?」
『…………』
エリオス。
沈黙。
「みんな一応あるじゃん」
身体。
魔法。
金。
道具。
命。
知識。
「創世神は?」
『全体を見ている』
「便利な言葉だな」
『…………』
「具体的には?」
少し。
長い。
沈黙。
【創世神エリオス】
『全体だ』
「逃げたな?」
『逃げてはいない』
「じゃあ具体的に」
『…………』
『全体の』
「うん」
『均衡を』
「うん」
『見る』
「言い換えただけ!!」
セレナが。
笑う。
『エリオス、こういうの苦手なのよ』
『余計なことを言うな』
『だって本当じゃない』
『俺には役割がある』
「何?」
『…………』
また。
止まる。
「言えない?」
その瞬間。
ほんの少し。
空気が変わった。
『今は』
エリオスが。
答える。
『そう思ってくれて構わない』
「…………」
さっきまでの。
騒がしさが。
一瞬。
消えた。
何だ。
今の。
言えない。
ではなく。
今は。
そう思ってくれて構わない。
何か。
ある?
『話を戻します』
ノア。
空気を。
切り替えるように。
淡々と告げた。
『現時点で、六種類の優先事項が提示されています』
「六種類」
『はい』
『すべてを同時に最大効率で実施することは困難です』
「だよな」
『したがって、優先順位を決定する必要があります』
「ようやく会議っぽくなってきた」
『では投票だ!』
ガルド。
「待て」
『身体強化に一票!』
「自分に入れんな!」
『魔法に一票』
セレナ。
『金だ』
メルク。
『道具』
ヴォルグ。
『休息です』
フィリア。
『知識』
ノア。
「…………」
綺麗。
見事に。
全員。
自分。
「エリオス」
『何だ』
「助けて」
『全体』
「役に立たねえ!!」
◇ ◇ ◇
十分後。
何も。
決まっていない。
『だから走ればいい!』
『だから魔法よ!』
『働け』
『道具だ』
『休ませてください』
『まず必要知識の整理を』
『全体を――』
「うるさーーーーい!!」
周囲の人が。
見る。
「あ」
まずい。
俺は。
一人で。
ベンチに座っている。
外から見れば。
突然。
虚空に向かって叫んだ男。
「……すみません」
近くにいた老人が。
そっと。
距離を取った。
「神様と話してるだけです」
さらに。
距離を取られた。
「逆効果か」
『レン』
ノア。
『今の説明では、相手が警戒する可能性が――』
「分かってる!」
もう。
疲れた。
「一回全員黙って」
神託。
静かになる。
「…………」
久しぶりの。
静寂。
最高。
「そもそもさ」
俺は。
息を吐いた。
「これ、何を決める会議なの?」
『育成方針だ!』
ガルド。
「それが広すぎるんだよ」
『では、より具体化する必要があります』
ノア。
「そう」
立ち上がる。
少し。
歩く。
頭を整理する。
「ガルド」
『おう!』
「俺を強くしたい」
『そうだ!』
「セレナ」
『魔法を使えるようにしたいわ』
「メルク」
『一人で食えるようにする』
「ヴォルグ」
『道具で死なせん』
「フィリア」
『生きていてほしいです』
「ノア」
『判断に必要な知識を与えます』
「エリオス」
少し。
間。
『……見届ける』
「それだけ?」
『今はな』
また。
今は。
「…………」
気になる。
でも。
今は。
置いておく。
昨日。
ノアに。
教わった。
知らないことと。
決めることは。
別。
全部分かるまで。
何も決めない。
それじゃ。
進めない。
「じゃあさ」
俺は。
六柱。
いや。
七柱へ。
言った。
「全部必要じゃん」
沈黙。
『だから全部やればいい!』
ガルド。
「一日に全部詰め込むな」
『む』
「前みたいに担当を回すのはいいと思う」
『ああ』
「でも」
少し。
考える。
「毎日、神様がやりたいことを俺がやるだけだと」
何か。
違う。
「俺、多分」
言葉を。
探す。
「神様の言うことを聞くのが上手くなるだけだ」
誰も。
すぐには。
答えなかった。
「ガルドに走れって言われたら走る」
「セレナに魔力って言われたら魔力」
「メルクに働けって言われたら働く」
「ヴォルグに見ろって言われたら見る」
「フィリアに人を見ろって言われたら見る」
「ノアに考えろって言われたら考える」
一つ一つ。
間違ってはいない。
むしろ。
全部。
役に立った。
「でも」
俺は。
自分の手を見る。
「いつか」
「誰にも聞けない時が来たら?」
沈黙。
昨日。
ルカが。
転んだ時。
フィリアは。
すぐ答えをくれなかった。
ノアも。
正解をくれなかった。
ヴォルグも。
まず自分で見ろと言った。
「だから」
「教えてほしい」
「でも」
「決める練習もしたい」
風が。
広場を抜ける。
神様たちから。
しばらく。
何も来ない。
最初に。
口を開いたのは。
意外にも。
ガルドだった。
『いいじゃねえか』
「ガルド?」
『俺は賛成だ』
『自分で決めて』
『失敗したら』
一拍。
『次に生かせ』
「雑じゃない?」
『生きてりゃな!』
「最後怖いわ!」
『だから死なないために鍛えるんだ!』
「結局そこかよ!」
セレナ。
『私も賛成』
『魔法だって、言われた通りに使うだけじゃ意味ないもの』
メルク。
『商売で毎回答えを聞く暇などない』
ヴォルグ。
『道具も同じだ』
フィリア。
少し。
間。
『……はい』
その返事だけ。
ほんの少し。
遅かった。
『ただ』
フィリアが。
続ける。
『危険な時は、止めます』
「うん」
『レンさんが、自分で決めたことでも』
「…………」
優しい。
でも。
その言葉には。
少しだけ。
引っかかるものがあった。
自分で決める。
でも。
危険なら。
神様が止める。
どこまでが。
危険?
誰が。
決める?
聞こうとして。
やめた。
まだ。
今じゃない。
『合理的です』
ノア。
『ただし、自身で判断するためには、最低限の情報が必要です』
「それは頼む」
『はい』
最後。
エリオス。
『……異論はない』
「じゃあ決まり?」
『待て』
メルク。
「何?」
『具体的に何が決まった』
「…………」
全員。
黙った。
「えっと」
ガルド。
『レンが決める!』
セレナ。
『みんなで教える!』
フィリア。
『危険なら止める』
ノア。
『情報を提供する』
ヴォルグ。
『見る』
メルク。
『それは方針であって予定ではない』
「…………」
確かに。
「じゃあ明日は?」
沈黙。
【戦神ガルド】
『走る!』
【魔法神セレナ】
『魔法!』
【商神メルク】
『働く』
【鍛冶神ヴォルグ】
『道具』
【生命神フィリア】
『休息です』
【知識神ノア】
『学習を推奨します』
「何も決まってねえ!!」
◇ ◇ ◇
結局。
会議は。
昼まで続いた。
その間。
決まったこと。
育成は続ける。
七柱が。
それぞれ教える。
俺自身も。
何をするか考える。
危険な場合は。
神々が止めることがある。
以上。
「……これ、二時間かける必要あった?」
『必要だ!』
ガルド。
『必要だったわ』
セレナ。
『時間効率は悪い』
メルク。
『長い』
ヴォルグ。
『でも、大事なお話でした』
フィリア。
『議論時間は二時間十四分三十七秒です』
ノア。
『意味はあった』
エリオス。
「見事に感想バラバラだな」
疲れた。
腹も減った。
「終わり?」
『ああ』
エリオス。
「本当に?」
『今日のところは』
「よし!」
立ち上がる。
自由。
午後。
まだ。
残っている。
「じゃあ仕事探してくる」
『待て!』
ガルド。
「嫌だ!」
『少しくらい走れ!』
「嫌だ!」
『レン! 昨日魔力触ってないでしょ!』
セレナ。
「明日!」
『市場なら付き合うぞ』
メルク。
「昨日行った!」
『鍛冶場』
ヴォルグ。
「一昨日行った!」
『無理しないでくださいね』
フィリア。
「フィリアだけ優しい!」
『本日の議論内容を復習しますか』
ノア。
「しない!」
走る。
神託が。
次々来る。
『レン!』
『待ちなさい!』
『話を聞け』
『…………』
『転ばないでください!』
『走行中の神託確認は危険です』
「うるさーーーーい!!」
また。
通行人が。
避けていった。
◇ ◇ ◇
午後。
俺は。
街の外れまで。
来ていた。
結局。
市場へ向かう途中。
仕事を探しながら。
歩いていたら。
そのまま。
街を一周してしまった。
「……疲れた」
会議だけで。
一日分。
疲れた気がする。
石壁の近く。
腰を下ろす。
ここから。
街の門が見える。
その向こう。
街道。
さらに先。
丘。
森。
今まで。
ほとんど。
街の中で過ごしてきた。
「外か」
異世界。
そう考えると。
今さら。
少し。
変な感じがする。
俺が知っているのは。
この街の。
ほんの一部。
外には。
何があるんだろう。
『興味があるか』
エリオス。
「起きてたの?」
『寝てはいない』
「神様って寝る?」
『必要ではない』
「便利だな」
街の外を見る。
「外って危ない?」
『場所による』
「ノアみたいな答え」
『事実だ』
「魔物もいる?」
『いる』
「盗賊とか?」
『いる』
「怖」
『だから』
来た。
ガルド。
『鍛えろ!』
「何で聞いてんの!?」
『聞こえた!』
「盗み聞きじゃん!」
『神だ!』
「答えになってない!」
セレナまで。
『外なら魔法の練習もしやすいわよ』
メルク。
『街道を見れば、物流も分かる』
ヴォルグ。
『野外で道具がどう使われるかも見られる』
フィリア。
『危険です』
ノア。
『街の外で得られる情報は多いです』
「…………」
また。
始まった。
でも。
今度は。
少し。
違った。
さっきまでは。
全員。
別々のことを。
言っていた。
なのに。
今。
全員の話が。
一つの場所へ。
向いている。
「外に出る?」
沈黙。
『いいな!』
ガルド。
『賛成!』
セレナ。
『近場ならな』
メルク。
『道具を持て』
ヴォルグ。
『無理はしないでください』
フィリア。
『事前に周辺情報を共有します』
ノア。
そして。
エリオス。
『なら』
少し。
間。
『明日』
『初めて』
『街の外へ出てみるか』
俺は。
もう一度。
門の向こうを見る。
街道は。
遠くへ続いている。
その先は。
見えない。
「……行く」
今




