神託ログ11 商神、客より神々の方が邪魔だった
前書き
いつも『神々は無職を選んだ』を読んでくださり、本当にありがとうございます!
ここまでレンと七柱の神々を見守ってくださっている皆さんに、心から感謝しています。
この作品を、もっと笑えて、もっとワクワクして、時には心に残るような――そんな皆さんに愛される作品にしていきたいと思っています。
まだまだ物語は始まったばかり。
これからも「次も読みたい!」と思ってもらえるように、展開やキャラクター、一つひとつのやり取りまで、もっと面白さを追求していきます!
面白いと思っていただけたら、高評価などで応援していただけると、とても励みになります!
これからもレンと七柱の神々を、よろしくお願いします!
昨日。
知識神ノアに教わったことは。
思ったより単純だった。
知っていることと。
決めることは違う。
正解がないこともある。
そして。
分からないなら。
分からないと言えばいい。
「……よし」
朝。
俺は残り少ない所持金を確認して。
立ち上がった。
今日の担当は――。
――ピコン。
【商神メルク】
『市場へ来い』
「またメルク?」
『不満か』
「いや、前やったじゃん」
『一度荷物を運んだ程度で商売を理解したつもりか?』
「思ってません」
『なら来い』
「はい」
商神。
強い。
前回。
俺はメルクに。
価値について教わった。
荷物を運び。
掃除をして。
銅貨を二枚稼いだ。
一枚は。
食事に消えた。
そして今。
残っている金も。
かなり心細い。
「……働くか」
何より。
門番への借金。
銅貨三枚。
まだ一枚も。
返せていない。
◇ ◇ ◇
市場へ着くと。
朝から。
人で溢れていた。
野菜。
果物。
肉。
魚。
布。
雑貨。
屋台。
客を呼ぶ声。
値段を交渉する声。
荷車の音。
前に来た時より。
ずっと。
騒がしく感じる。
『前の店へ行け』
「荷運びしたところ?」
『ああ』
果物を扱う店。
前回。
荷運びを手伝った。
あの店だ。
店主も。
俺を覚えていた。
「おお、兄ちゃん」
「おはようございます」
「また仕事探しか?」
「はい」
「ちょうどいい」
店主が。
店の奥を指す。
木箱。
籠。
果物。
大量。
「今日は荷物じゃない」
「何するんですか?」
「店番」
「…………」
「できるか?」
「やったことないです」
『レン』
メルク。
「何?」
『やれ』
「軽いな!」
店主が。
怪訝そうに見る。
「どうした?」
「いや、何でもないです」
危ない。
神様との会話。
外から見れば。
完全に独り言だ。
「やります」
「よし」
店主が。
笑った。
「昼まで頼む」
「はい!」
こうして。
異世界生活。
初。
接客業が始まった。
◇ ◇ ◇
「まず」
店主が。
並べられた果物を指す。
「こっちが一個銅貨二枚」
「はい」
「こっちは三つで銅貨一枚」
「はい」
「こっちは傷あり。一山で銅貨二枚」
「はい」
「これは熟してるから今日中に売りたい。二つで銅貨一枚」
「待って」
情報量。
多い。
「もう一回お願いします」
店主は。
笑った。
「覚えろ」
「厳しい!」
『商売は待たん』
「メルクまで!」
何度か。
値段を確認する。
ようやく。
頭に入った。
「よし」
客を待つ。
すぐに。
女性が一人。
店へ来た。
「これ、いくら?」
来た。
初客。
指しているのは。
赤い果物。
「銅貨二枚です!」
女性が。
一個。
手に取る。
「高いねえ」
「え?」
開始。
三秒。
想定外。
「昨日は一枚だったよ?」
「え?」
店主を見る。
いない。
奥で。
荷物を整理している。
「メルク!」
『何だ』
「昨日一枚だったって」
『客がそう言っているな』
「どうすればいい?」
『お前が店番だ』
「助けろよ!」
女性が。
俺を見ている。
「どうするの?」
「えっと……」
焦る。
値下げ?
でも。
勝手に。
値段を変えていいのか?
「銅貨……一枚で」
『馬鹿』
即。
怒られた。
「じゃあ二枚です!」
女性の眉が上がる。
「どっちなの?」
「二枚です!」
「そう」
女性は。
果物を戻した。
「じゃあいらない」
去っていく。
「…………」
初客。
逃した。
『0点』
「早いわ!」
『むしろマイナスでもいい』
「厳しすぎない!?」
店主が。
奥から。
笑っていた。
「兄ちゃん、向いてねえな」
「まだ一人目です!」
「その調子じゃ昼まで長いぞ」
悔しい。
「何が悪かった?」
メルクへ聞く。
『全部』
「具体的に!」
『まず』
メルクが言う。
『なぜ昨日の値段を確認しなかった』
「今日の値段聞いたから」
『客は昨日の値段を知っていた』
「うん」
『なら、その差に理由がある可能性を考えろ』
「あ」
確かに。
今日。
高くなった理由。
あるのかもしれない。
『次』
「まだある?」
『勝手に値段を変えた』
「それは分かる」
『次』
「まだ!?」
『客がなぜ“高い”と言ったか確認していない』
「高いからじゃないの?」
『それは客の言葉を繰り返しただけだ』
「…………」
『本当に金が足りないのか』
『値下げ交渉なのか』
『昨日との違いを知りたいだけなのか』
『別の商品を探しているのか』
『お前は何も聞いていない』
「…………」
痛い。
確かに。
高い。
そう言われて。
焦って。
すぐ。
値段を下げようとした。
「商売って難しいな」
『人間が相手だからな』
「商神らしいこと言うじゃん」
『俺は商神だ』
「知ってる」
◇ ◇ ◇
二人目。
年配の男性。
「この果物、甘いか?」
来た。
今度こそ。
俺は。
果物を見る。
「甘い……」
知らない。
食べたことがない。
昨日。
ノアに。
教わった。
分からないなら。
分からないと言う。
「すみません。俺、食べたことないので分からないです」
男性が。
一瞬。
止まった。
「店番なのに?」
「今日初めてで」
『正直すぎる』
「え!?」
昨日と言ってること違う!
『嘘をつかないことと、何も調べないことは別だ』
「…………」
正論。
腹立つ。
「ちょっと待ってください!」
店主を呼ぶ。
「これ、甘いですか?」
「そっちは酸味が強い。甘いのなら隣だ」
「ありがとうございます」
男性へ。
隣の果物を示す。
「こっちの方が甘いそうです」
「じゃあ、そっちを二つ」
「はい!」
売れた。
初売上。
「よし!」
『10点』
「低っ!」
『客を待たせた』
「初めてなんだから許して!」
『だが』
「ん?」
『分からないことを、分かったふりしなかった』
少し。
間。
『そこは悪くない』
「……ノアのおかげだな」
【知識神ノア】
『呼びましたか』
「うわ!」
急に来た。
『質問されていませんでしたので、発言を控えていました』
「いたの!?」
『はい』
「いつから?」
『最初から』
「助けてよ!」
『質問されていません』
「そういうとこだぞ!!」
【商神メルク】
『邪魔するな』
【知識神ノア】
『了解しました』
消えた。
「…………」
何だったんだ。
『客だ』
「え?」
振り返る。
三人。
待っていた。
「うわ、ごめんなさい!」
商売。
本当に。
待ってくれない。
◇ ◇ ◇
そこから。
少しずつ。
慣れてきた。
「これいくら?」
「三つで銅貨一枚です」
「こっちは?」
「傷があるので一山二枚です」
「食べられる?」
「はい。見た目が悪いだけだそうです」
「じゃあこっち」
「ありがとうございます!」
別の客。
「甘いやつある?」
「こっちです」
「硬いのがいい」
「じゃあ……」
分からない。
「店主さん!」
聞く。
覚える。
次。
また同じことを聞かれたら。
今度は。
答えられる。
少しずつ。
知っていることが。
増えていく。
でも。
しばらくすると。
別の問題が起きた。
客が。
来なくなった。
隣の店には。
人がいる。
向かいにも。
いる。
でも。
俺の店。
少ない。
「何で?」
『考えろ』
「場所?」
『違う』
「値段?」
『大きな差はない』
「商品?」
『品質に問題はない』
「じゃあ何?」
『それを考えろ』
また。
答えをくれない。
店を見る。
果物。
並んでいる。
値段。
書いてある。
俺。
立っている。
「…………」
隣を見る。
「安いよー!」
店員が。
声を出している。
「朝採れだ! 甘いぞ!」
向かい。
別の店。
「今日の煮込みにどうだい!」
客へ。
話しかけている。
俺。
「…………」
立っているだけ。
「これか?」
『何がだ』
「呼び込み」
『やってみろ』
息を吸う。
「い、いらっしゃいませー!」
小さい。
誰も。
見ない。
「……無理」
『なぜだ』
「恥ずかしい」
『昨日、神相手に一人で大声を出していただろう』
「ヴォルグのせいだよ!」
『あれよりは簡単だ』
確かに。
あれを。
市場の真ん中で。
やったと思えば。
「いらっしゃいませー!」
今度は。
少し大きく。
一人。
こちらを見る。
「果物どうですかー!」
二人。
止まる。
お。
来る。
「甘いのあります!」
女性が。
近づいてくる。
「どれ?」
「これです!」
売れた。
「……なるほど」
『何がだ』
「客が来なかったんじゃなくて」
『ああ』
「俺が、来る理由を作ってなかった?」
メルクから。
少し。
間。
『30点』
「上がった!」
嬉しい。
基準が。
完全に。
メルクに支配され始めている。
◇ ◇ ◇
昼前。
小さな女の子が。
店の前で。
ずっと。
果物を見ていた。
十歳くらい。
だろうか。
手には。
銅貨一枚。
「どうした?」
声をかける。
女の子は。
一番大きな赤い果物を指した。
「これ……」
「うん」
「一枚じゃ買えない?」
値段。
銅貨二枚。
「……買えない」
女の子が。
少し。
俯く。
「お母さんにあげたいの」
「お母さん?」
「今日、誕生日」
困った。
俺の頭に。
一瞬。
選択肢が浮かぶ。
一枚で。
売ってあげる。
でも。
さっき。
勝手に値段を変えて。
怒られた。
「メルク」
『何だ』
「どうする?」
『お前が決めろ』
「出た」
『店番はお前だ』
「でも俺の店じゃない」
『だからこそ、勝手な値下げはできん』
「じゃあ無理じゃん」
『そう言ったか?』
「…………」
言ってない。
見る。
店。
果物。
値段。
一枚で買えるもの。
ある。
でも。
女の子が見ているのは。
赤い果物。
「何でこれがいいの?」
女の子に聞く。
「お母さん、これ好きだから」
「そっか」
傷ありの商品を見る。
同じ種類。
少し。
小さい。
形も悪い。
三つで。
銅貨一枚。
「こっちは?」
女の子が。
見る。
「同じ?」
「味は……」
言いかけて。
止まる。
「店主さん!」
「何だ?」
「傷ありって、味違います?」
「変わらんよ」
「だって」
女の子が。
傷のある果物を見る。
「三つ買えるの?」
「一枚で」
少し。
考えて。
笑った。
「じゃあ、こっち!」
銅貨。
一枚。
受け取る。
果物を。
三つ。
袋へ。
「ありがとう!」
女の子は。
走っていった。
俺は。
その背中を見る。
『レン』
「ん?」
『今、何を売った』
「果物」
『0点』
「何で!?」
上がったと思ったのに!
『もう一度考えろ』
「果物三つ」
『違う』
「…………」
メルク。
こういう時。
絶対。
答えを言わない。
考える。
女の子。
銅貨一枚。
母親。
誕生日。
欲しかったもの。
「……プレゼント?」
『近い』
「母親に喜んでもらうためのもの?」
『そうだ』
メルクが。
言う。
『客は、商品そのものが欲しいとは限らん』
「え?」
『腹を満たしたい』
『誰かを喜ばせたい』
『楽をしたい』
『時間を節約したい』
『見栄を張りたい』
『安心したい』
『理由は様々だ』
市場を見る。
果物。
服。
肉。
道具。
全部。
物を売っている。
でも。
買う人には。
その先がある。
『商品だけを見るな』
『客を見ろ』
「…………」
昨日。
フィリアにも。
似たことを言われた。
傷だけを見るな。
その人を見ろ。
「神様たちって、意外と同じこと言うな」
『一緒にするな』
「そこ否定するんだ」
『俺は商売の話をしている』
「はいはい」
でも。
面白い。
違う神から。
違うことを教わっているはずなのに。
少しずつ。
繋がっていく。
◇ ◇ ◇
昼。
店主が。
戻ってきた。
「どうだった?」
「……大変でした」
「売上は?」
数える。
店主が。
確認する。
「悪くない」
「本当ですか?」
「ああ」
少し。
嬉しい。
「じゃあ」
店主が。
銅貨を。
二枚。
俺へ渡した。
「今日の分」
「二枚?」
「不満か?」
「いや!」
昨日と。
同じ。
でも。
今日は。
意味が違う。
荷物を運んで。
二枚。
店番をして。
二枚。
「仕事って、いろいろあるんだな」
『当然だ』
メルク。
「体力なくてもできる仕事ある?」
『ある』
「魔法使えなくても?」
『ある』
「天職が無職でも?」
少し。
間。
『仕事はできたな』
手の中。
銅貨二枚。
答えは。
そこにあった。
◇ ◇ ◇
「よし」
俺は。
市場を出る。
「どこへ行く」
『門』
メルクに。
先に言われた。
「分かってる」
借金。
銅貨三枚。
今。
手元に。
昨日から残っていた分と。
今日稼いだ分。
少なくとも。
返せるだけの金がある。
ただ。
全部返したら。
また。
食事に困る。
「……一枚だけ返す」
『なぜだ』
「全部返したら、今日の飯がなくなる」
『正解』
「お」
『40点』
「満点いくつ?」
『100』
「遠いな!」
門へ向かう。
あの。
最初に。
銅貨三枚を。
立て替えてくれた兵士。
今日も。
いた。
「すみません」
「ん?」
俺を見て。
少し。
考える。
「ああ。無職の兄ちゃん」
「その覚え方やめてください」
兵士が。
笑う。
「仕事見つかったか?」
「少しだけ」
銅貨を。
一枚。
出す。
「これ」
兵士は。
銅貨を見る。
「何だ?」
「返します」
「三枚だったぞ」
「分かってます」
「なら貯めてからでいい」
「でも」
兵士は。
受け取らない。
昨日と。
同じ。
「まず自分で立て」
「…………」
「食う金はあるのか?」
「あります」
「今夜は?」
「……たぶん」
「たぶんじゃ駄目だ」
また。
返される。
「でも借金ですよね?」
「そうだ」
「なら」
「逃げる気あるか?」
「ないです」
「ならいい」
「良くないでしょ」
「俺がいいと言ってる」
強い。
「それに」
兵士が。
俺を見る。
「返しに来た」
「はい」
「それで十分だ」
「……?」
「逃げる奴は、ここに来ねえ」
昨日。
メルクが言った。
信用。
目に見えない。
価値。
「じゃあ」
俺は。
少し考える。
「次、ちゃんと稼いだら返します」
「ああ」
「絶対」
「分かった分かった」
軽い。
でも。
俺にとっては。
結構。
大事な約束だった。
◇ ◇ ◇
門から。
市場へ戻る途中。
メルクが。
突然聞いた。
『レン』
「何?」
『あの兵士は、なぜ金を受け取らなかった』
「俺が困るから?」
『それだけか』
また。
それだけか。
「……信用してくれた?」
『そうだろうな』
「でも」
少し。
不思議だった。
「信用って、金にならないよな」
『なる』
「え?」
即答。
『場合によっては』
「どうやって?」
『例えば』
メルクが。
説明する。
『お前が店を持ったとする』
「いきなり?」
『想像しろ』
「はい」
『同じ商品を扱う店が二つある』
『片方は安い』
『だが、嘘をつく』
『もう片方は少し高い』
『だが、約束を守る』
「……俺なら後者かな」
『なぜだ』
「安心だから」
『それが価値だ』
「…………」
『客が明日も来る理由になる』
その言葉。
妙に。
残った。
「明日も来る理由」
『一度売れば終わりではない』
『また来たいと思われる』
『また頼みたいと思われる』
『また任せてもいいと思われる』
『それも商売だ』
俺は。
朝。
店へ来た時のことを思い出した。
店主は。
俺を覚えていた。
前回。
荷物を運んだ。
掃除もした。
だから。
今日。
店番を任された。
「……俺も?」
『何がだ』
「前にちゃんと働いたから、今日も仕事もらえた?」
『そうだ』
「じゃあ」
昨日の。
銅貨二枚。
あれだけが。
報酬じゃなかった。
今日。
もう一度。
仕事を任されたこと。
それ自体が。
前回。
作った価値。
「何か」
少し。
嬉しい。
「商売って、金だけじゃないんだな」
『今さらか』
「商神が言うと説得力ある」
『金は重要だ』
「そこは否定しないんだ」
『当然だ』
メルクらしい。
『綺麗事だけでは腹は膨れん』
「はい」
『だが』
少し。
間。
『金だけ見ていても、商売は続かん』
「…………」
『人を見る』
『何を求めているかを見る』
『そして』
『明日も来る理由を作れ』
俺は。
市場を見る。
昨日までとは。
少し違って見えた。
物を売る人。
買う人。
運ぶ人。
作る人。
誰かの。
必要なものが。
別の誰かへ。
渡っていく。
その間を。
金が。
動いている。
「……面白いな」
『そうだろう』
「メルク、ちょっと嬉しそう?」
『気のせいだ』
「絶対嬉しいじゃん」
『50点』
「点数で誤魔化した!」
◇ ◇ ◇
その時だった。
市場の向こうから。
声が聞こえた。
「レン!」
振り返る。
朝。
店に来た。
あの女の子。
その隣に。
女性がいる。
母親。
だろう。
女の子が。
こちらへ走ってくる。
「お兄ちゃん!」
「どうした?」
「お母さん、喜んだ!」
女性も。
こちらへ来る。
手には。
あの。
傷のある果物。
「この子から聞きました」
「え?」
「予算に合わせて選んでくれたって」
「いや、俺は」
「ありがとうございました」
頭を。
下げられる。
「見た目は悪いけど」
女性が。
笑う。
「味はすごく美味しかったです」
女の子も。
笑っている。
「また買いに行く!」
「……うん」
二人は。
市場の中へ。
歩いていった。
俺は。
その背中を見る。
『レン』
「何?」
『今、何が起きた』
「…………」
今日は。
分かった。
「また来る理由ができた」
少し。
間。
【商神メルク】
『80点』
「おお!」
今日。
最高点。
「あと20点は?」
『調子に乗るな』
「厳しい!」
でも。
悪くない。
◇ ◇ ◇
夕方。
神々の。
共有領域。
そこに。
珍しく。
複数の神が集まっていた。
【商神メルク】
『今日の報告だ』
【戦神ガルド】
『レンは働いてたんだろ?』
【商神メルク】
『ああ』
【魔法神セレナ】
『魔力の練習は?』
『していない』
『ちょっとくらいさせてもよかったじゃない』
『今日は商売の日だ』
【鍛冶神ヴォルグ】
『道具は』
『使っていない』
『そうか』
【生命神フィリア】
『食事はしましたか?』
『した』
『ちゃんと?』
『した』
【知識神ノア】
『摂取量の記録はありますか』
『お前ら』
メルクの。
文字が。
止まる。
『今日の担当は俺だ』
沈黙。
【戦神ガルド】
『で、何点だった?』
『…………』
【魔法神セレナ】
『私も気になる』
【生命神フィリア】
『私もです』
【知識神ノア】
『評価基準の共有を希望します』
【鍛冶神ヴォルグ】
『何を学んだ』
メルクは。
しばらく。
黙っていた。
そして。
【商神メルク】
『お前らの方が客より邪魔だ』
【戦神ガルド】
『客じゃねえし!』
【魔法神セレナ】
『神だし!』
【知識神ノア】
『その指摘は正確です』
【生命神フィリア】
『ふふ』
【鍛冶神ヴォルグ】
『で、何点だ』
『お前まで聞くな』
そこへ。
最後の一柱。
創世神エリオスが。
静かに現れた。
【創世神エリオス】
『ちょうどいい』
全員。
少し。
静かになる。
『一度』
『レンの育成について』
『七柱で話し合いたい』
沈黙。
【戦神ガルド】
『いいな!』
【魔法神セレナ】
『賛成!』
【商神メルク】
『嫌な予感しかしない』
【鍛冶神ヴォルグ】
『同感だ』
【生命神フィリア】
『必要だと思います』
【知識神ノア】
『議題を整理します』
メルクは。
すでに。
面倒そうだった。
【創世神エリオス】
『では、明日』
【七柱育成会議】
【開催】
そのことを。
当の育成対象であるレンは。
まだ。
知らなかった。




