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王宮炎上対応係の私、婚約破棄会見を止めたら無口な辺境伯に溺愛されました 〜王太子殿下、その発言は国が燃えます〜  作者: 磯辺
国家規模の情報操作

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ベルクの過去

 焼け残った紙には、独特の匂いがある。


 古い木。


 湿った灰。


 乾ききらない後悔。


 そんな匂いが、臨時広報調査室りんじこうほうちょうさしつ――通称、胃痛同盟の机の上に広がった。


 マルタ記録官が開いた木箱の中には、焼け焦げた記録紙が何枚も重ねられていた。


 端は黒く縮れ、文字の一部は欠けている。


 それでも、王宮記録局の保存魔法が辛うじて本文を留めていた。


 私は、最初の一枚を手に取った。


『リュセ川上流域暴動記録』


 表題だけで、胸の奥が重くなる。


 セーラが横から覗き込んだ。


「字が……読みにくいですね」


「古い記録ですから」


「いえ、古いというか」


 セーラは眉を寄せた。


「この字も暴動です」


 私は一瞬だけ目を閉じた。


「たしかに暴れていますね」


 王宮記録としては、かなり悪筆だった。


 きっと当時の記録官も、火事と騒乱の中で必死に書いたのだろう。


 笑うべきではない。


 笑うべきではないのに、胃が痛すぎると人間はどうでもいいところで息を抜こうとする。


 私は慎重に紙をめくった。


 そこには、リュセ川上流域で起きた混乱の経過が書かれていた。


 最初は、ただの遅延だったらしい。


 川の氾濫で橋が落ち、穀物輸送が止まった。


 王宮は代替輸送の準備を進めていた。


 地方代官は備蓄開放を申請していた。


 神殿施療院は、熱病患者の隔離場所を確保しようとしていた。


 それぞれの行動は、完全ではないが、少なくとも何かをしようとしていた。


 けれど、事実が届くより先に、噂が届いた。


『王宮が麦を隠している』


『領主が川上の村を見捨てた』


『神殿が毒入りの水を配っている』


『リュセ川の病は王都が持ち込んだ』


 ばらばらの噂。


 だが、民衆には一つの物語として届いた。


 王宮は、見捨てた。


 領主は、隠した。


 神殿は、嘘をついた。


 そして、自分たちは殺される。


 私は紙から目を離せなかった。


 マルタ記録官が静かに言う。


「当時の王宮は、正しい情報を出そうとしていました」


「……出そうとしていた、ですか」


「はい。出しました。ですが、届いたのは九日後です」


 九日。


 九日あれば、噂は村を三つ焼ける。


 九日あれば、怒りは家族の名前を失う。


 カイル様が、少しだけ顎を引いた。


 彼は何も言わない。


 その沈黙の横顔を見て、私は北方の雪と古い掲示板を思い出す。


 届くのが、いつも少し遅い。


 老人の言葉が、紙の灰の匂いと重なった。


 私は、次の紙を読んだ。


『王宮初動声明案』


『現在、リュセ川上流域における穀物輸送遅延および病症発生について確認中である。民衆の混乱を避けるため、原因および責任所在についての断定を避け、正式調査完了後に告知する』


 私は息を止めた。


 カイル様の手が、手袋の縫い目に触れる。


 強くは握らない。


 ただ、触れる。


 それだけで、その場の温度が下がった気がした。


「混乱を避けるため」


 私の口から、低く言葉が漏れた。


 マルタ記録官は頷く。


「この文面は、暴動前日に作成されました」


「出されたんですか」


「いいえ。差し戻されています」


「理由は?」


 マルタ記録官は別の紙を置いた。


 余白に、当時の上官と思われる赤字が入っている。


『不安を煽る恐れあり。王都公式確認まで保留』


 保留。


 また、その言葉。


 答えなかったのではない。


 答えようとして、保留した。


 その間に、噂が答えになった。


 私は紙の端を押さえた。


【火種:回答保留】


【火種:噂による空白補完】


【火種:王宮不信の固定】


【火種:地方暴動】


【火種:情報遅延による死者】


【火種:ベルクの原点】


 火種は見える。


 でも、真実は見えない。


 誰がどれほど悪かったのか。


 どの判断が、どの死につながったのか。


 その全部を、私の能力は教えてくれない。


 火種感知は、裁判官ではない。


 私は、それを時々忘れそうになる。


 マルタ記録官は、箱の底から一枚の手紙を取り出した。


 子どもの字。


 丸くて、ところどころ滲んでいる。


 宛名には、たしかにこう書かれていた。


『ベルク兄様へ』


 部屋の誰も、すぐには声を出さなかった。


 マルタ記録官が言う。


「ベルク様の妹君、リーナ様の手紙です」


 リーナ。


 名前があった。


 ベルク様の過去に、分類番号ではなく名前があった。


 私は、手紙を読んだ。


『ベルク兄様へ。


 王都は遠いです。


 お母様は、兄様は王都でえらい人のそばにいるから、きっと川のことも知っていると言いました。


 村では、王宮が麦をしまっていると言う人がいます。


 神殿の水は飲んではいけないと言う人もいます。


 でも、神殿のミナ先生は、そんなことはないと言いました。


 どちらが本当ですか。


 兄様なら、知っていますか。


 返事をください。


 リーナ』


 そこから下は、黒く焼けて読めない。


 私は手紙を置いた。


 置いたつもりだった。


 指が離れなかった。


 セーラが小さく鼻をすすった。


 先輩は胃薬の瓶を開けて、そのまま閉めた。


 エレオノーラ様は扇を開かない。


 カイル様は、手袋の縫い目から手を離した。


 それだけだった。


 マルタ記録官が続ける。


「この手紙は、王宮へ届きました。ですが、ベルク様のもとへ渡されたのは、暴動後です」


「……なぜ」


「当時、地方からの私信は検閲されていました。噂を広げる文言が含まれるとして、配送保留にされたのです」


 配送保留。


 また、保留。


 保留という言葉は、便利だ。


 捨てたわけではない。


 握り潰したわけではない。


 ただ、待たせた。


 でも、待っている間に人は死ぬ。


 私は喉の奥が詰まった。


「ベルク様のご家族は」


 聞くべきではないかもしれない。


 でも、聞かなければならなかった。


 マルタ記録官は少し目を伏せた。


「母君と妹君は、暴動の夜に亡くなっています。家が焼かれたのではありません。神殿施療院へ避難していたところを、群衆に襲われました」


 神殿施療院。


 そこはきっと、本来なら守る場所だった。


 でも噂では、毒の水を配る場所になっていた。


 人は、怖いものを壊す。


 壊せば安心できると、思ってしまう。


 その瞬間だけは。


「ベルク様は当時、王宮の下級文書官でした」


 マルタ記録官は言った。


「家族の手紙を、暴動後に受け取ったそうです」


 私は、思わずベルク様の顔を思い浮かべた。


 完璧な礼儀。


 冷たい微笑み。


 有効。


 均衡。


 物語。


 民には秩序ある物語が必要。


 民は三つ以上覚えられない。


 あの人の言葉が、少しだけ違って聞こえた。


 少しだけだ。


 許すほどではない。


 でも、切り捨てるには重くなった。


 それが嫌だった。


「その後、ベルク様は地方広報記録の整理に関わるようになりました」


 マルタ記録官は、別の束を出した。


 若い字で書かれた整理票。


 整っている。


 怖いほど整っている。


『恐怖要因:飢餓、病、見捨てられ不安』


『噂拡散経路:井戸端、神殿前、商人宿、移動説教師』


『沈静化に有効な語句:備蓄開放、王宮確認済み、神殿立会、責任調査中』


『危険語句:毒、隠蔽、見捨てた、王都は知っていた』


 私は背筋が冷えた。


 これは、第七十一話で見た計画の原型だ。


 でも、まだ今ほど冷たくない。


 項目の端に、人名が残っている。


『ミナ施療師を前面に出す。信頼あり』


『リーナの手紙に「返事」を求める表現。民衆に共通する不安か』


 リーナ。


 妹の名前。


 ベルク様は、最初から人の名前を消していたわけではない。


 むしろ、名前から始まっている。


 それが、いつの間にか分類になった。


 人名が、恐怖要因になった。


 手紙が、民意傾向になった。


 リディア・ノートンは、何をしているのだろう。


 私は、ふと自分の机の上を見た。


 水晶掲示板の投稿分類。


 地方別不満一覧。


 火種別対応方針。


 私も、名前を表にしている。


 守るために。


 届かせるために。


 燃やさないために。


 その境界は、どこにあるのだろう。


 赤鉛筆が、やけに重く見えた。


 エレオノーラ様が静かに言った。


「リディア」


「はい」


「今、あちら側へ寄りかけていますわ」


 私は息を呑んだ。


 否定したかった。


 けれど、できなかった。


「……少し」


「少しで済んでいるうちに、戻っていらっしゃい」


 私は、赤鉛筆を握り直した。


「はい」


 カイル様が低く言った。


「同じではない」


 短い。


 でも、その一言は、まっすぐ落ちた。


 私は彼を見る。


 カイル様は、こちらを見ていなかった。


 焼けた記録を見ている。


「お前は、火を隠さない」


 胸の奥が、少し痛くなった。


 第六十六話の一文が戻ってくる。


 火を隠さない。


 だから信じる。


 私は、その信頼に甘えてはいけないと思った。


 信頼は、免罪符ではない。


 足場だ。


 踏み外せば落ちる。


 マルタ記録官は、最後の記録を出した。


 そこには、ベルク様本人の筆跡と思われる一文があった。


 整った、美しい字。


『民は真実に耐えられない』


 私は、その一文を見た。


 それだけなら、冷酷な断定に見える。


 でも、その下に小さくもう一文がある。


『少なくとも、遅れて届く真実には耐えられない』


 私は唇を結んだ。


 正しい。


 違う。


 どちらも言えない。


 遅れて届く真実は、人を救わないことがある。


 でも、だからといって、誰かが先回りして都合のいい物語を与えていい理由にはならない。


 私は言った。


「理解はします」


 声が少し震えた。


「でも、同意はしません」


 マルタ記録官が、ほんの少し頷いた。


「そのために、お持ちしました」


「どうして今、これを?」


 マルタ記録官は木箱に手を置いた。


「ベルク様を止めるには、あの方が何を恐れているか知らねばなりません」


「恐れている?」


「ええ」


 彼女は静かに言った。


「ベルク様は、民を侮っているのではありません。恐れているのです」


 私は何も言えなかった。


 恐れている。


 その言葉は、冷たい広報文より鋭かった。


 ベルク様は、民を信じていない。


 同時に、民に殺された記憶から逃げられていない。


 だから、先に物語を与える。


 怒りが形になる前に、恐怖に名前をつける。


 混乱を避けるため。


 秩序を守るため。


 二度と、九日遅れの真実で誰かを失わないため。


 その結果、彼は今、国中の声を分類し、順番に流し、怒りの向きを決めている。


 救うための手段が、支配になった。


 紙の上に、火種が浮かぶ。


【火種:ベルクへの同情】


【火種:統制正当化】


【火種:リディア判断鈍化】


【火種:カイルの過去との接続】


【火種:民衆不信の継承】


【火種:正しい物語への誘惑】


 私は、反射的に赤鉛筆で一つだけ丸をつけた。


 正しい物語への誘惑。


 嫌な火種だった。


 私は、その誘惑を知っている。


 燃えない文。


 誰も傷つけないように見える文。


 責任を曖昧にしながら、安心だけを渡す文。


 前世で、何度も書いた。


 今世でも、書きかけた。


 だからこそ、ベルク様の手が完全な他人には見えない。


 それが、怖い。


 その時、扉の外で足音が止まった。


 誰も声を上げない。


 けれど、部屋の空気だけが変わる。


 丁寧すぎる気配。


 私は、息を整えた。


 扉が叩かれる。


 入室を許す前に、声がした。


「興味深い記録をお読みですね」


 ベルク・アインハルト様だった。


 扉が開く。


 彼はいつも通り、完璧な礼をした。


 焼けた記録紙の匂いが漂う部屋で、その礼儀だけが異様に綺麗だった。


「マルタ記録官。古い箱を開けましたか」


「はい、ベルク様」


 マルタ記録官は怯えなかった。


「記録は、保全されるべきものですから」


「その通りです」


 ベルク様は微笑んだ。


 その微笑みに怒りはない。


 悲しみもない。


 何もないように見える。


 それが一番怖かった。


 彼は机の上の手紙に目を落とした。


『ベルク兄様へ』


 妹の手紙。


 ベルク様は、ほんの一瞬だけ、瞬きをした。


 それだけだった。


「懐かしいものです」


 声は穏やかだった。


 私は言った。


「あなたは、この記録を隠していたのですか」


「いいえ」


「では、なぜ表に出さなかったのです」


「出しても有効ではないからです」


 有効。


 また、その言葉。


 ベルク様は私を見た。


「リディア・ノートン様。あなたは今、私に同情しかけましたね」


 私は答えなかった。


 沈黙は肯定にも否定にもなる。


 だから危険だ。


 でも、ここで嘘をつくのも違う。


 ベルク様は微笑みを深めた。


「ご安心ください。同情は不要です。私は悲劇の被害者として裁かれたいわけではありません」


「では、何を望んでいるのですか」


「理解です」


 彼は、焼けた記録紙に指を触れなかった。


「真実は、遅い。複雑で、醜く、責任の所在を曖昧にします」


「噂は違います。速く、美しく、敵を一人にしてくれる」


 その声は静かだった。


「民は、速い物語を選びます」


 カイル様が一歩前へ出た。


「選ばせたのは誰だ」


 短い問い。


 ベルク様はカイル様を見た。


「選ぶ前に整える者がいなければ、彼らは石を持ちます」


「石を持つ理由を消せ」


「それには時間がかかります」


「なら急げ」


「急いだ結果が、リュセ川です」


 カイル様の目が冷えた。


 私は、慌てて間に入った。


「ベルク様」


「はい」


「あなたの過去は、あなたの方法を正当化しません」


「正当化ではありません。前提です」


 彼は穏やかに言った。


「私は、民を憎んでいません」


 その一文は、嘘ではないように聞こえた。


「だからこそ、民を暴徒にしないための物語が必要だと考えています」


「それは、民を信じていないということです」


「信じるとは、相手が何をしても耐えることではありません」


 私は言葉に詰まった。


 悔しい。


 ベルク様の言葉は、いつも痛いところに置かれる。


 綺麗に。


 正確に。


 逃げ道を塞ぐように。


「あなたは、よく似ています」


 ベルク様が言った。


「私に、ですか」


「ええ」


 胃が嫌な音を立てた気がした。


「あなたは、火種を見ます。人々がどこで燃えるかを知っている。誰の言葉が、誰を傷つけるかを知っている。あなたほど、私の計画に適した人材はいません」


 部屋が静まる。


 セーラが息を呑む音がした。


 エレオノーラ様の扇が、かすかに閉じる。


 カイル様は動かない。


 ベルク様は、まるで会議日程を告げるように言った。


「私に協力しませんか、リディア・ノートン様」


 その言葉に、火種が浮かんだ。


【火種:ベルクとの協力】


【火種:情報統制完成】


【火種:炎上予防の誘惑】


【火種:リディアの自己否定】


【火種:仲間からの不信】


【火種:国家規模の沈黙】


 私は、すぐに拒絶しようとした。


 するべきだった。


 でも、声が出るまでに、一拍遅れた。


 その一拍を、ベルク様は見逃さなかった。


「あなたなら、私より優しくできます」


 優しく。


 最悪の褒め言葉だった。


「あなたなら、私より民に近い言葉で、混乱を防げる」


「あなたなら、火を見つける前に消せる」


「あなたなら、誰も燃えない国を作れる」


 誰も燃えない国。


 それは、ひどく魅力的な言葉だった。


 嘘だ。


 わかっている。


 でも、一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 そんな国が作れるならと思ってしまった。


 カイル様が、低く言う。


「リディア」


 短い声。


 呼ばれただけ。


 それで、私は息を吸えた。


 ベルク様は微笑んでいる。


 マルタ記録官は、焼けた手紙を見ている。


 エレオノーラ様は何も言わない。


 セーラは、私を見ている。


 私は、赤鉛筆を握った。


 手が震えていた。


 でも、離さなかった。


「……返事は」


 私は言った。


「後日、正式に」


 セーラが目を見開く。


 カイル様の表情が動かない。


 エレオノーラ様だけが、ほんの少しだけ目を細めた。


 ベルク様は、満足げに頷いた。


「よろしい。考える時間は必要です」


「ええ」


 私は唇を噛みそうになり、やめた。


「私は、考えます」


 そして、あなたの誘いのどこが一番危険なのかを見つける。


 そう言いたかった。


 けれど、言わなかった。


 今はまだ、こちらの火種も見せすぎてはいけない。


 ベルク様は優雅に礼をした。


「では、お待ちしております。あなたが、国を燃やさない選択をすることを」


 彼が去った後も、部屋には焼けた紙の匂いが残った。


 私は、ようやく息を吐く。


 カイル様が言った。


「なぜ、すぐ断らなかった」


 責める声ではない。


 でも、刺さった。


 私は正直に答えた。


「一瞬、魅力的だと思ったからです」


 セーラが小さく「リディアさん」と呼んだ。


 私は笑えなかった。


「誰も燃えない国なんて言われたら、炎上対応係は一瞬くらい揺れます」


 エレオノーラ様が扇を開いた。


「一瞬で戻ってくれば上出来ですわ」


「戻れたでしょうか」


「まだ途中ですわね」


 容赦がない。


 ありがたい。


 カイル様は、私を見ていた。


 しばらくして、短く言った。


「なら、待つ」


 私は少しだけ目を伏せた。


「ありがとうございます」


「逃げるな」


「逃げません」


 言ってから、自分の声が思ったより小さいことに気づいた。


 焼けた手紙。


 九日遅れの真実。


 民は真実に耐えられない。


 誰も燃えない国。


 ベルク様の言葉は、毒のように残っている。


 でも、毒の成分がわかれば、解毒剤も作れる。


 たぶん。


 できれば。


 胃薬とは違う種類の薬が必要だ。


 私は、机の上に新しい紙を置いた。


 表題を書く。


『ベルク・アインハルト協力要請への対応案』


 その下に、一行だけ書いた。


『誘惑を、無視しない』


 無視すれば、負ける。


 自分の中にあるベルク様と似た部分を見ないふりすれば、いつか同じ言葉を書く。


 混乱を避けるため。


 有効な認識を整えるため。


 国を燃やさないため。


 私は、その言葉をいつか選んでしまうかもしれない。


 だから、見なければならない。


 火元を見る。


 他人の火元だけではなく、自分の中の火元も。


 焼けた手紙の上で、保存魔法の光がかすかに揺れた。


 それは炎ではない。


 けれど、火に見えた。


 ベルク様の過去は、彼を許す理由にはならない。


 ただ。


 彼を倒すためには、彼の痛みまで見なければならない。


 それが、思ったよりずっと苦しいだけだった。

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