表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MYST REMNANT  作者: 笹上パン工房
―BLACK BOX編―
62/63

第56話「残響」

雨が止んだ路上でソーマが両手を広げ自己紹介をするが…急に現れて、この人はいったい何を言っているんだろう、と慎之介は思うばかりである。


「そ、それでその…IDMのNo.3さんが僕に何か御用ですか?

 あまり反社会的勢力とは関わるな、と

 身内からは言われているんですが…。」


警戒しながらも言葉を選ぶ慎之介の言葉に、ソーマは笑って返す。


「ははは、それはその通りだ。

 むしろ、積極的に反社会的勢力と関われという親御さんがいたら

 その子育てを疑ってしまうよ、私は」


まったく邪気を感じないソーマのそぶりではあるが…それが逆に慎之介の警戒心をさらに強めた。

何か、この人物には得体のしれない恐ろしさがある…そう感じ取ったからだ。

それを敏感に感じ取ったのか、ソーマの隣にいた井上が慎之介に対して詳細に説明する。


まず、今回の騒ぎはIDM幹部の『金豪』という男が引き起こしたこと。

計画は察知していたが、当初は黙認していた。だが、その部下マイカがあまりにも民間に危害を加えすぎた。

さすがにこれは見過ごせぬとソーマより直々に中止命令を出したこと。

そしてその中で、マイカと霧神慎之介が激突していることが判明したこと…。


「ここまで言えば察しが付くと思うが、実は私もIDMの幹部の一人でね。

 もっとも戦闘能力はないし、最近は好んで反社会的行為を行ってもいないけど。

 あまり君に素性を知られたくはなかったが…まあ、やむをえまい」


バツが悪そうに頭を掻きながら、井上がそう言う。

そしてソーマが前に出て、呆然としている慎之介にさらに伝えた。


「霧神慎之介君。

 まず初めに言っておくが、君や友人に危害を加えるつもりはない。

 それを宣言したうえで、君に一つ尋ねたいことがある。

 …どうだね、私の配下になるつもりはないか?」


その言葉に、やっぱりおかしい人なのかこの人…と慎之介は考えつつも言葉に詰まる。

さらにソーマは大きく両手を広げ、自己陶酔するように目を瞑りながら、さらに尊大に言った。


「この場で言うのも唐突だが…私は精神的、肉体的に強者を探している。

 途中からだが…君の闘いは見させてもらった。

 粗削りながらも天才的で、とても見事なものだった。

 君ならば間違いなく…」


「…ちょっと待ってくれよ。

 保護者に何の断りもなく未成年を反社に誘うのは

 やめてくれねえかな」


ソーマの言葉の途中で、それを打ち切るようにまた背後から新たな人物の声がする。

慎之介がその声の方向を見ると…そこには、ようやく救援に駆け付けた大輔が立っていた。


――その声に気づき、振り向いたソーマが大輔を確認して不敵に笑う。


「やあ、君は仲村大輔君だね。君のことは良く知っているよ。

 …まあ無駄だと思うが、せっかくだから君にも聞いておこう。

 私の配下に…」


「断る」


ソーマの言葉に冷たくそう返すと、大輔は慎之介に近づき容態を確認する。

次いで倒れている遼と蘭丸を。

そして…全員生きていることを確認して、安心したようにほっと息をつく。

そして最後に気絶しているマイカをちらりと見た後、慎之介に問いかけた。


「悪いな、終わった後に来ちまった。

 ところであれはお前が倒したのか?それともあの反社たちか?」


「ええ、僕と蘭丸さんで…不意打ちとかいろいろやりましたけど」


「そうか、それでも大したもんだ。

 マイカ・ハートリーって言えば名の知れた結構な大物だぜ。

 それを16歳の子供が倒すなんざ、とんでもない大金星だ」


大輔は笑顔で慎之介にそう言うが…。

またソーマたちに振り返り、険しい表情で言葉を向ける。


「…お前らが救援したってんなら少しは気も使ってやるが

 そうじゃねえなら話は別だ。

 いずれにせよ慎之介《うちの子》は反社にはれねえよ。

 とっとと帰れ」


敵意や怒気を含めて大輔はそう言うが…ソーマは軽くいなすように両肩をすくめて首を横に振る。

そして軽く笑みを浮かべながら、やれやれというように言葉を返した。


「そうさせてもらおう。今日は挨拶に来ただけだからね。

 まあ、そのついでに勧誘もさせてもらったが。

 …この道を往くならば、いずれまた会うこともあるだろう。

 その時にまた話をしようじゃないか」


そう言うとソーマは振り返り、井上に後を任せてその場を去っていく。

その後ろ姿を見て…慎之介は変わらず、得体のしれない恐怖と…。

――どこか説明のつかない、かすかな懐かしさのようなものを感じ取っていた。


――――――――――


遠くから救急車のサイレンが近づいてくる中、残された井上が大輔と慎之介に説明をする。


まず、金豪の薬物売買取引ルートは凍結…いや、完全に消滅したこと。

独断で薬物売買を強行しようとした白崎川はすでに切り捨てられ、過去の汚職の情報を警察やマスコミに売られていること。

それには『IDMやB(ブラインド・)W(ウォッチメイカー) 社を追求しない』という条件も含まれていること。

また少なくともこの件に関してはIDMも関与せず、慎之介や蘭丸といった関係者に報復や追跡も一切行わないこと。

証拠のためいったんマイカは警察に引き渡すが、いずれハートリー兄弟はIDMで処分すること…。


それを聞いた大輔が呆れながら言う。


「IDMやBW社は完全に逃げ切ったってわけか。まったくやることが上手いぜ。

 しかし、井上さん。あんたには恩があるが…。

 こういう立場で会いたくはなかったな」


「それは私も同じさ。しかし、上司には逆らえないよ。

 普通の会社と違って辞めるわけにもいかないからね。

 まったく、若かりし頃の自分にもっと就職先を考えろと言いたいよ。

 …おっと、これは聞かなかったことにしてくれたまえ」


遼と蘭丸、そして遠方で倒れている警察官二人に応急処置をしながら、井上が笑って言葉を返す。

警察官は意識もなく聞こえていないようだが…聞こえていたら面倒なことになるだろうなと心配する慎之介。

まあ、医師である井上がその辺の判断を間違うことはないだろうが…。


救急車のサイレンは近くなってくる。おそらく、もうすぐそこまで来ているのだろう。

それを察知した井上が、誰にも聞こえないうちに慎之介と大輔に言葉を掛けた。


「今のうちに二人に言っておこう。

 …ガイゼンは、まだ生きている。それも完全復活したようだ。

 そして今度は格闘家ではなく、直接IDMの人間を狙ってきている。

 それを話しておこうと思ってね」


「…やっぱりな。今日の囮の取引もガイゼン狙いなんだろ?」


「金豪の計画なので詳細は知らないが、そのはずだ。

 政治家の私邸、会員制高級クラブ、K区の巨大倉庫密集地域。

 ガイゼンにも伝わるよう、それとなくこの三か所の噂を流した」


得心がいったように大輔がうなずく。

薬物売買取引はどうでもよくただIDMの人間を殺したいガイゼンなら、私人所有の倉庫は絶好の舞台だろうし、そこを選ぶだろう。

そこで武器を持ったIDMの組織員が返り討ちにする、という作戦だ。

そんな大輔を見て、井上がまた声をかける。


「君たちが我々の味方になるとは思えないし、そう望むつもりもない。

 つまり我々と君たちの関係は今のところ『敵の敵』だ。

 積極的に君たちに関与するつもりはない。

 だから、君達もできるだけ邪魔はしないでほしい」


そう言って、井上は到着した救急隊員に状況を説明する。

狂った元ボクサーの不審者が民間人や警察官に暴行を働き、駆け付けた世界的格闘家の仲村大輔がそれを制圧した…と。

これは、慎之介達とうまく口裏を合わせた結果だ。


蘭丸や遼、警察官たちは続々と到着する救急車で運ばれていく。

また同時に駆けつけた警察の事情聴取に、大輔が応じる。

比較的軽傷で病院に行く必要のなかった慎之介もそれに伴い答えた。


その中で、慎之介はガイゼン生存の報が頭から離れず…過去に見たその羅刹の如き強さと怖さを思い出し、また恐怖で震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ