第160話 権利の取得
スレーム・ガングの元にロガンズの二頭立ての馬車がやって来た。馬車からはローザとモスバルが急いで降りて来ている。
「遅くなり申し訳ありません!」
「良かった。とりあえず、皆無事でいるようだな」
「あれ? ローザ、私たちの馬車来てないじゃない」
「すみません、あなた方の馬が私たちのいうことを全然聞かなくて」
「あ~、そっか。馬次郎に私たちが戻るまであそこで待っててって言った気がするわ。言いつけを守ったのね」
トウマとセキトモはサソリが残した素材、鋏の腕と尻尾を運んでいる。
「バンさん、俺たちの馬車来てないみたいだし、ロガンズの馬車にサソリの素材乗せせて貰ってもいいですかね?」
「そうですね。運んでもらいましょうか」
「さすがに僕たちの馬車までこれ抱えて持って行くのは遠いよな」
「トウマさん、一応その尻尾の毒針には封をしてますが扱いには気をつけて下さいね。毒が漏れ出てくるかもしれません」
「そうだった。気をつけます」
周りを確認していたイズハが戻って来た。
「もう他に残っている素材は無さそうっすよ。その2つだけみたいっす」
「君たち! 何を呑気に素材を運んでいるんだ! で、誰がまだ毒に侵されているんだ? バン様か? トウマ君か? イズハ君か? 急いで都市に戻らないと治療が間に合わなくなるぞ」
「あ~、それもう大丈夫になったから」
「ロッカ、どういう事ですの?」
「バンが治しちゃった」
「「はあ?!!」」
◇◇
待たせていたスレーム・ガングの馬車との合流は早かった。ロガンズの馬車からゴルの重いハンマーを降ろして迎えに来てくれたようでサソリの素材を乗せても皆が余裕で乗ることができたのだ。とりあえず、バンが毒を治した件については黙秘を通している。説明するには抗魔玉の力の解放について触れることになる為、他のメンバーはバンが話したこと以上の事は言わないつもりだ。バンがトウマとイズハの二人とも解毒したのでセキトモが持っていた解毒ポーションが1つ余っている。
「はぁ~、失敗したわ。ローザがこんなしつこいなんて。
解毒ポーションもう1つ持ってたの忘れてた事にしてれば良かったわ」
「今更遅いですわ。どうやってバン様が毒を治したのか私にも教えてください。バン様に聞いても治癒のロッドの力で治したと言われるばかりで何も分からないのです」
「ちゃんと教えてるじゃない。その通りよ、間違ってないわ」
「治癒のロッドの力は私も知っておりますのよ。私は2倍までのようですが例えブースト3倍を使えても効果が飛躍的に上がるだけで毒を治す事は出来ないはずです」
「そう思うんならバンのロッドが特別なんじゃない?」
「バン様の治療は何度も見ていますし、そんなはずはありません。・・・まさかバン様にしかできない特別な力だとでも? いや、でもロッカ」
ローザはずっとこの調子でロッカにまとわりついている。モスバルはあまりにもしつこいローザを見て苦笑いしている。残ってスレーム・ガングの馬車を守っていた3人は興奮気味だ。
「すげーな、本当にあのサソリたちを倒して戻って来たのか。しかもこの短時間で」
「さすがバン様だ。俺はやってくれると思ってたぜ」
「そこはさすがスレーム・ガングって言って下さいよ~」
「ははは、お嬢とモスバルさんが慌てて戻って来て説明もなしでまた馬車で出て行ったときは何かヤバいことが起きてるんじゃないかと思ったぜ」
「そうそう、心配してたんだぜ」
「まあ、全て順調ってわけじゃなかったですからね」
「そうだな、反省点は多々あるけど無事討伐できて良かったよ」
「もっと周りにも気を配っておくべきだったっす」
「イズハとバンは一人でサソリの相手してたんだろ? 十分だよ」
「皆さん、お昼も過ぎていますし、ここで食事を取ってから戻りましょうか?」
「バン様!! お手伝い致します!」
「俺に何でも申し付けて下さい!」
「いや、俺に!」
もはやザイルとパーソンはバンの信者のようだ。
◇◇
都市にサソリが迫って来ていた事もあり緊張感が漂っていたのだろう。スレーム・ガングとロガンズがギルドでサソリ討伐を終えた事を報告をするとギルド内が大喜びの展開となった。どうやら観測者からの報告がまだなされていなかったようだ。
「観測者いなかったんですかね?」
「僕たちが馬車だったから追い越しちゃったのかも」
「そっか、山道に馬を隠せる所なんてないですもんね」
【巨大サソリ5体討伐依頼 難易度B】
討伐報酬 700万エーペル(元は300万)
【モンスター素材報酬】
サソリの鋏の腕 1個 15万エーペル。
サソリの尻尾(毒針付き) 1個 30万エーペル。
【魔石換金報酬】
魔石・大 5個 50万エーペル
合計 795万エーペル。サソリが5体で毒持ちということも判明したので報酬は随分上乗せされたようだ。クエストに同行してもらったロガンズには御礼として200万を渡し、分け前は一人100万ずつにして残りはパーティー管理費に回す。
「我々がこんなに貰って大丈夫なのか?」
「そうですわ。私たちはサソリを倒したわけじゃありませんのよ」
「いいから受け取って。道中にポーションは使ったでしょ? それにローザにはバンの治療もしてもらっているし、あんた達と一緒じゃなきゃ達成できなかったわ」
「うーむ、分かった。そう受け取って貰えているのなら遠慮なく頂いておこう」
その後は打ち上げで近くの酒場に行く予定だったのだが、スレーム・ガングのメンバーにはギルドからの呼び出しがあり一同はギルド受付嬢の案内で2階の一部に設置されている特別室に招かれた。特別室にはギルドマスターがいるとのこと。
「おお、君たちがスレーム・ガングか。まだ残っててくれて良かったよ。今回は本当に助かった。礼を言わせてくれ」
「どういたしまして、礼ならいいわ。私たちここに用はないんだけど」
ロッカは面倒くさそうだ。
「ははは、それは悪かった。手短に済ますから許してくれ」
「仕方ないわね」
ギルドマスターは資料を確認している。
「ふむ、直近はメルクベルの護衛依頼を受けていて。ほう、なるほど。東大陸のアーマグラスまでしか遡れないが幅広くクエストをこなしているようだ。偶然倒せたという訳では無さそうだな」
へえ~、教えてないのにそんな事まで分かるんだ。確認している資料はスレーム・ガングのクエスト達成履歴ってところかな?
「では、説明させてもらうとするか。ここラギアサタでは難易度Bのクエストを達成したパーティーだけに難易度A以上のクエストを受けられる権利があるんだ。まあ、他の地域はどうか知らんが身の程をわきまえずに難易度の高いクエストに挑戦するバカが多かったもんでな。数年前からこの方法に変えたんだ。下では難易度Bまでしか依頼書は貼ってなかっただろ?」
「そう言われてみれば難易度Aは貼ってなかったよな?」
「俺は難易度A以上は全部終わってるのかと思ってましたよ」
「まあ、実際、難易度Aのクエストは有力パーティーが挑んでいるから今は無いと言ってもいいかもしれないな。郊外クエストばかりなので結果が分かるのはもう少し先だろう。ちなみに難易度Sに該当するクエストは現状出ていない」
「な~んだ。つまんないわね」
「ロッカ、難易度A以上は私たちだけでは手に負えませんよ。
私たちとの相性というものもありますし情報もなしでは危険過ぎます」
「分かってるわよ」
「なくて良かった~」
「わはは!」
「オホン、という訳で君たちを呼び出したのは難易度Aに挑戦する権利を取得した事を知らせる為だ。もし君たちが難易度A以上に挑む気があるのなら受付に申し出るといいだろう。クエストがあれば依頼書を出すのでそこで改めて検討して貰うという形だな。ギルド側から打診する場合もある。もちろん明らかに無謀だと私が判断した場合は許可しない。話は以上だ」
ホッ、ラギアサタでの難易度Aに挑戦する権利を貰えたってだけの話か。急に呼び出されたから何か依頼されるのかと内心ハラハラしてたよ。ホントなくて良かった~。




