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スライムスレイヤー ~イシノチカラ~  作者: 亜形
第七章 進化と万能編

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第159話 上書き

 残り1体となった両腕のないサソリ。サソリは尖った尻尾で何度もバンを刺そうとしていてバンは防戦一方だ。バンの援護に回ったトウマはサソリの足を1本、1本確実に切断していく。


「よし! 段々動きが鈍くなって来たぞ」


 不意にサソリの尻尾の攻撃が止まるとサソリはバンに向けて尻尾から毒を放った。避けようと思えば避けられたはずだが何故かバンは避けなかった。バンの後方にはサソリを倒した後まだ立ち上がっていないセキトモとロッカがいたからだ。


「二人とも大丈夫ですか? 毒は浴びてませんよね?」

「バン、私たちを庇ったの?」

「まさか、僕たちがここにいたせいで毒を浴びたのか?」


 サソリの足を斬り落としていたトウマを見てセキトモが叫ぶ。


「トウマ、サソリの核はおそらく頭胸部と腹部の付け根あたりだ。

 そこを狙うんだ!」

「腹を見せてないんだからこっからじゃ無理ですよ!」


 さっきのサソリは炎熱剣で深く切り裂いたからたまたま力が核に届いたって事か。

 剣で上から刺しても分厚い背甲だし下側までは力が届くか分からない。

 いや、そもそも剣が刺さるかどうかもあやしいな。

 横からだとまだ動かしてる足が邪魔だし、やっぱ正面に回るしかないか?


 すると、バンがサソリの頭ごと斬り裂きながら僅かにサソリをかち上げた。それが左腕にも力が入らなくなってきていたバンの精一杯だった。


「今です!」


 迷っている暇はない、行けっ!


 トウマはサソリの下に潜り込んで腹側から剣を突き刺した。


「もう一回、炎熱剣だ!」


 サソリに突き刺した剣から炎が溢れ出る。


「熱っ!」


 トウマはサソリに潰されている形だが剣を突き刺したままの状態で仰向けに寝転び、両足で必死にサソリを支えた。サソリが霧散していく・・・。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・。

 消えてくれて助かった~、重いし、熱いし」

「トウマ、よくやった!」


 これで5体すべての巨大なサソリを倒し切った。サソリ討伐成功だ!


 サソリとの戦いを終えると、スレーム・ガングの元にローザとモスバルがやって来た。ローザはすぐさま癒しのロッドでバンの右腕を治し始めた。


「ありがとうございます、ローザさん」

「凄い戦いを目にしましたわ。今でもまだ信じられませんが」


 一人元気なロッカは魔石とタグを回収して来て今は治療中のバンを心配そうに見ている。


「バン、解毒ポーションはもう飲んだの?」

「これを飲むのはもう少し待たせて下さい。他にサソリの毒を浴びた方は?」

「トウマが浴びたみたい。まだ大丈夫そうだけど」


 サソリに吹き飛ばされていたイズハは骨が折れているわけではなく色々な箇所の打撲で済んでいたようだ。サソリが衝突した際に踏ん張らずに吹き飛ばされたのが功を奏した形だろう。打撲箇所が多いイズハにはポーションを飲ませてある。


「申し訳ないっす。気絶していたなんて」

「痛みが我慢の限界を超えたんだろうな。この程度で済んでて良かったよ」


 疲弊して座っているトウマの元にモスバルがやって来た。


「少し火傷があるみたいだな。このポーションを使ってくれ」

「有難うございます。ちょっとだけヒリヒリしてました。

 自業自得なんですけどね、はは」


「ところでトウマ君がサソリ相手に使っていたあれは炎熱剣だよな?

 噂には聞いていたが初めて見たよ」

「そっか、オドブレイクで会ったときは見せる機会ありませんでしたからね」

「武器の力もあるだろうがその前の二人での戦い方、君たちがこれほど強かったとは恐れ入ったよ」

「へへ、そうですか? そう言って貰えるとなんだか実感湧いてきます。

 俺の周り強い人だらけだから」

「わはは、そうかもな」


「あ、あれ? なんか、手が痺れてきたような・・・」

「まさかトウマ君、毒をもらっているのか? これはいかん」


 トウマに毒の症状が現れ出したようだ。そしてイズハにも。


「イズハ、毒を浴びていたのか?」

「・・・記憶にはないっすけど、あるとすればサソリに衝突されたときかもしれないっす。自分が相手していたサソリの尻尾は斬り落としたっすから」

「・・・まずいな、3人が毒に侵されている。急いで都市に戻らないと」


 3人が毒に侵されている事を聞いたバンはローザとモスバルにこの場所まで馬車を連れて来るように頼んだ。


「任せてくれ」

「モスバル、急ぎますわよ!」

「私も行くわ!」

「ロッカはここに残って下さい」

「何でよ、バン! 私が行ったほうが速いでしょ」

「私たちで行ってきますわ。大丈夫です、まだ時間は十分にあります。

 もうモンスターが襲ってこないとは限りませんわ。バン様の言う通りロッカはここに残って下さい」


 ローザとモスバルは山道を走って行った。


 スレーム・ガングの5人は集まった。まだ誰も解毒ポーションは飲んでいない。


「バン、どういうつもりよ?

 受けたのは麻痺じゃなくていずれ死に至る毒なのよ。

 まさかバンが飲まないつもりなの?

 いくらバンが体力あるっていっても毒に強いわけじゃないでしょ」

「ロッカ、もう少し待ってください。

 トウマさん、イズハさん、まだ我慢できますか?」


 まだ動けるようだが3人とも手足が痺れだして来ているようだ。ローザからの情報では次に起こる症状は痙攣だ。ブルブルと手足が震え出すらしい。やがて身体全体の痙攣が止まらなくなり血を吐き出しこと切れるとのこと。


「俺が飲まなくったっていいですよ!

 少なくとも5時間は死なないんですよね? 都市に着くまで我慢しますから」

「自分もトウマさんと同じ気持ちっす」


「ここは皆が助かる可能性が高くなる方法を考えようよ。

 症状の重い順に解毒ポーションを飲むべきじゃないか?」


「トウマさん、イズハさん、お二人にはご迷惑をおかけしますが痙攣が始まったらまず私に解毒ポーションを飲ませて下さい。少し試したい事があります」

「試したい事?」


「ロッカ、トウマさん、博士から聞いた上書きの話を覚えていますか?」


 それはバンが博士に聞きたい事があると申し出てクルーロ、ロッカ、トウマの4人が同席したときの話だった。


◆◆


「博士、単刀直入に聞きます。上書きとは何の事ですか?」


 クルーロは頭をかいている。


「クルーロ君、話してしまったのか?」

「いや、もうすでにバンは上書きしてたんだ。ダンジョンでそれを見たとき思わず口に出してしまって・・・」


「う~む・・・分かった、バン君の飛ぶ斬撃の話も聞いた事だしいいだろう。ここにトウマ君も呼んだという事はトウマ君にも資格があるという事だな?」

「稀にしか出せないみたいだけどね」


 博士の話は抗魔玉の力の解放の更に上の段階の話だった。


 まず真魔玉による能力付与。それ自体は武器に込められた製作者のイメージが反映されている力。ブーストはそれをさらに強化した感じだ。通常はブーストの倍率によって威力が上がるのだが、ブースト3倍以上を出せる者はその武器に込められた製作者のイメージを自分独自のイメージに上書きして付与する能力自体を書き換える事が出来るという。クルーロが同じ武器で色々な種類の技を出していたのはその上書きによるものだったのだ。


「それじゃあ、バンさんの炎リングや飛ぶ斬撃も?」

「そう、本来ならそんな炎や水は出せないはずなんだ。もうビックリさ」

「バンが編み出した技と思ってたから気にも止めていなかったわ」

「編み出した技か、そうとも取れるな」


 そして武器の形状すらイメージの湧きやすい形にしているだけとの事。それをぶち壊しているのがクルーロのヴェアリアスロッド。只の尖がったロッドだ。能力を上書きできるのなら固定概念のイメージが湧かない形状の武器がいいと。それはクルーロにしか上手く扱えないという話と合致している。


「但し、上書きをするには製作者のイメージを越える意志を込めないと力は発現しないんだ。バン君がそれほどの意志を込められるようになっているとは思ってもいなかったよ」


◆◆


 話を終えたバンは癒しのロッドを取り出した。


「バン、まさかここで癒しのロッドを上書きするっていうの?」


「武器に付与する能力を上書きするには製作者のイメージを越える意志が必要です。できる保証はありませんが実際に毒を受けて治る過程を自らの身体で体験する。これが一番強くイメージが湧くと思いませんか? 今の状況の私ならあるいは」


「分かりました。そういう事ならここはバンさんにかけてみましょう!

 失敗しても急いで都市に戻ればいいだけの話です」

「自分もそれで問題ないっす」


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