第158話 5体の巨大なサソリ
先行して岩山地帯の山道の中央を進んでいたトウマとセキトモはとうとう巨大なサソリのモンスターと遭遇した。やはりサソリは1体だけのようだ。サソリは二人に気づいた瞬間に眼の色を黄色に変えた。
「気づかれたみたいですね」
「ああ」
《ロッカ、バンさん、俺たちサソリに気づかれたみたいです》
《こっちはまだ気づかれてないわ。
トウマとセキトモはそいつを引きつけながら戦って》
《分かりました。こいつは俺たちで何とかしてみます》
《ロッカ、予定通り私たちは奥にいるサソリたちを仕留めましょう》
《分かってるわ。バン、気をつけるのよ》
《はい。では行きましょう》
「セキトモさん、俺たちはあのサソリに集中しますよ。
予定通り他のサソリにはロッカたちが向かうそうです」
「そうか、分かった。油断するなよ」
「はい!」
甲殻は堅そうだし、巨大な蟻のモンスターに近いかな? 違いは鋏がある腕を2本持っていて長い尻尾の先に針がある毒持ち、腹は地面すれすれか当たってる低さを保っている、下に潜るのは無理か。って全然蟻と違うじゃん!
射程に入ったのだろう。サソリは二人に襲い掛かった。岩を砕けるほどの鋏の振り回しをセキトモが大盾でいなす。
「トウマ、まずはあの邪魔な両腕を落とすぞ!」
「了解!」
奥にいる4体のサソリがこちらに移動し始めて約50m付近まで近づいて来ている。いち早くサソリとの戦闘を開始した二人を横目に左側をロッカとイズハ、右側をバンが通り過ぎて行く。ローザとモスバルは後方に残ったようだ。
「トウマ、そいつは頼んだわよ!」
「分かってます!」
ある程度まで進んだバンはサソリを迎え撃つべくツインロッドの片側に水袋の水をかけた。狙いは一番右側を進むサソリだ。ロッドをクルリと回し、水のロッド側を上にして構える。
「ツインロッド・青」
ロッドの先から真魔玉【青】による能力付与で抗魔玉の力がのった水が溢れ出し始める。ロッドの先を地面に向けると更に勢いが増す。
「水刃・三日月!」
バンのブースト5倍による地を這うような水の飛ぶ斬撃がサソリを真っ二つに切り裂いた。サソリが霧散していく・・・。すぐ隣にいたサソリは足を止めてたじろいでいる。
「よし! 上手くいきました」
バンは珍しく拳を握りしめた。左側を走るロッカとイズハはそれを見ていた。
「相変わらずとんでもない威力っすね?」
「やるわね、バン。今度は私の番よ。
イズハ、離れてたほうがいいわ。私に近づき過ぎてると痺れるわよ」
イズハはすぐさま察してロッカから遠のいた。
双剣を抜いたロッカは柄同士を合わせて結合させると片方を半回転させた。
「双剣合体、真斬丸改!」
ロッカは走りながら一息つくと、次の瞬間サソリに向けて急加速した。サソリの正面で飛び上がって頭へ向けて飛び込む。振り払おうとするサソリの鋏攻撃が追いつけない速度だ。ロッカは目にも止まらぬ速さでコマのように回転した。一撃、半回転で二撃、更に半回転で三撃、もう半回転で四撃。
「電撃の双剣、二連!」
”バリリッ!!!―――"
それは今までとは桁違いの電撃だった。これがロッカの双剣合体、真魔玉【黄】による能力付与での初技である。しかもそれをブースト3倍で試したのだ。電撃を受けたサソリは黒焦げになって霧散していった・・・。すぐ近くにいたもう1体のサソリまでも痺れて動きを止めている。技を放ったロッカも多少痺れたようだ。
「痛たた、この技・・・かなり危ないわね。
自分の技で死ぬとこだったわ。まったく、何て物作ったのよ!」
退避していたイズハは立ち止って噴き出てくる汗を拭った。
「ロッカさん。その技、痺れるどころの話じゃないじゃないっすか」
後方に残りスレーム・ガングの戦いぶりを見ているローザとモスバル。
「これは・・・」
「モスバル、私は夢でも見ているのでしょうか?
奥のほうで迫って来ていたサソリのうち2体があっという間に倒されたように見えました」
「私にもそう見えましたぞ。彼らは一体何をしたんだ?
それに前でサソリと交戦しているトウマ君やセキトモ君の戦いぶり、あれは上級者といっても過言ではありません。まさか彼らがこれほど強かったとは」
まだ痺れが残っているロッカが崖際に一時退避したのを確認したイズハはもう1体の痺れているサソリに向かって行った。
「今ならまだいけそうっす。
自分もこのサソリで試させて貰うっすよ」
イズハはサソリの一番危険な毒を持つ尻尾を切断するつもりだ。尻尾側に回ると腕から伸ばした糸を尻尾の関節部分に通してクナイを腕に装着した。そして腕を空中へ向けて構えると腕に装着している新しい刺突剛糸の機能を使ってクナイを飛ばした。クナイの飛ぶ勢いで繋がっている糸が引っ張られる。ピンと糸が張りつめた瞬間、見事にサソリの尻尾は切断された。そしてどこにも刺さっていないクナイを糸の自動巻き取りで回収する。
「上手くいったっす! 次は両腕っすよ」
それを見ていたロッカ。
「ああいう使い方も考えてたのね。やるじゃない、イズハ」
一方、武器を三刃爪に切り替えたバンはもう1体のサソリと交戦している。すでにサソリの左腕の鋏を斬り落としているようだ。サソリは残り3体。スレーム・ガングの面々は誰一人負傷していない。圧倒的にスレーム・ガング優勢だ。だがそれぞれ交戦している3組の距離が徐々に近づいていることには誰も気づいていなかった。
最初に交錯したのはイズハが相手をしているサソリとバンが相手をしているサソリだった。イズハはサソリの右腕も糸で斬り落として次は左腕を狙っているところだった。
「イズハ、危ない!」
バンが相手をしていたサソリの接近に気づいたロッカが声をかけるもそれは遅かった。イズハはサソリに衝突されて吹き飛ばされた。バンは2体のサソリを同時に相手取ることになった。ロッカは転がったイズハに駆け寄って状態を確かめている。
「バン、イズハは生きてるわ!」
「申し訳ありません! 私が接近に気づいていれば」
「今のは仕方ないわ、サソリに集中して!」
更に間の悪い事にトウマとセキトモに両腕を切断されて後ずさりしていたサソリがバンの所へ突っ込んで来た。バンは紙一重、いや、右腕に負傷を負いながらもそれをかわした。
「しまった!」
「バンさん!」
「だ、大丈夫です!」
今はサソリに集中しろ! こいつらを倒すのが先だ。
「ロッカ!」
トウマは倒れているイズハの近くにいるロッカを見た。それに気づいたロッカは応えるかのようにサソリに向けて走り出した。
「トウマ、動き止めるからこいつにとどめをさして!
電撃の双剣!」
ロッカはバンが相手取っていたサソリに双剣合体を解除したブースト2倍の電撃を食らわせた。サソリが痺れて動きを止めたところにトウマが飛び込む。
「炎熱剣!」
トウマのブースト2倍の斬撃が痺れているサソリを両断した。切り口から炎が噴き出すとサソリは霧散していった・・・。だがトウマは痺れたサソリの悪あがきで放たれた毒を浴びてしまったようだ。トウマが浴びた液体が皮膚に染み込んでいく。
クソっ、毒か、やられた。でもまだ終わったわけじゃない。
残るはイズハが相手をしていた尻尾と右腕のないサソリとトウマとセキトモが相手をしていた両腕のないサソリだ。その2体のサソリに挟まれているセキトモとバン。セキトモは傷ついたバンを庇うように割って入り大盾でサソリの攻撃を防いでいる。
「バン、ゴメン。僕たちが相手してたサソリがこっちに来てしまった」
「いいえ、それよりまずはここを切り抜けましょう。
私もまだ戦えます」
「分かった!」
バンは右腕を負傷していて動かせない状態で一刃のほうの三刃爪を落としている。片腕での応戦だ。バンは両腕のないサソリの尻尾による攻撃を弾いた。
「バン、少しだけそいつの相手お願い!
すぐにトウマが来るわ」
セキトモが相手をしている尻尾のないサソリに背後からロッカが飛び乗った。
「チッ、柔らかそうな所はどこにもないじゃない。もう一回電撃使うしかないか」
「ロッカ、頭へ向かって走れ!」
ロッカはすぐさまセキトモの声に従ってサソリの背を走り出すとセキトモは渾身の力を込めてサソリを下側からかち上げた。ロッカはサソリの頭を踏み台に上空へと飛ぶ。
「そういう事ね!」
上空で振り返ったロッカの目に映ったのはかち上げられたサソリの腹側だ。ロッカはそのまま落下の力を利用してサソリの腹側を上から下まで斬り裂いた。地面に降り立ったロッカの上から覆いかぶさるようにサソリが落ちて来る。
「キャー!」
潰される直前、セキトモが大盾でロッカを守った。サソリが霧散していく・・・。
「もう、潰されるかと思ったじゃない!」




